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異世界
試験
しおりを挟む「待ってくれ!これの何が足りないんだ!」
「では、もう一度説明いたします。革は一枚革で5メートル四方の物である事。血や肉の処理などは現地で早急に済ませておく事。変色、傷、汚れがない事。それには当然このような焦げ跡も含まれます。そして…」
「説明などはもういい!こんな小さな焦げ跡なら鞄ぐらい上手いこと避けてつくれるだろ!」
大声で叫ぶ男に他の職員達が怯え震えている中、リンリンさんは淡々とした態度を保ち続ける。
その態度が彼らのプライドを悉くへし折っていくのだから、周りはヒヤヒヤしている。
「では、貴方が作ってみれば宜しいのでは?傷汚れがあっても作れるのでしょう?」
「お、俺は冒険者だ!出来るわけないだろう!」
「そうですか。それではお引き取り下さい」
取り付く島もない。
「そろそろ避けてくれないかしら。リンリン、次は私達のを確認して貰えるかしら?」
「…残念ですが此方も基準値には達してないですね」
「なっ!」
「5メートルの四方のお約束ですが、これは4メートル98しかありません」
「…その、少しぐらいいいでしょ?」
「いいえ。ルールはルールなので」
「良い加減にしなさいよ!アンタ達売る気がないのね!!!」
「こらこら、ユシテル。今回は声を荒げないって約束しただろ?」
まだ文句を言い続けている女性を仲間達がずるずると引きずって行く。
「ねぇ、リンリンさん。そろそろ良いんじゃない…かな…?」
「ん?わざとケチをつけて彼らを追い返す事をですか?」
「うん、そうです」
「でも、これはギルマスの指示なので私にはどうすることも出来ません。【金色の獅子】が帰ってくるまで我慢してください」
今、私はギルドの職員達に混ざって陰からこっそり彼らの審査をしている。ただ、審査と言っても良いのか分からないくらい私の意見は取り入れられていない。
正直言って、販売についてはフリマアプリでの経験しかない。だから、彼らに任せるのが一番だと思っていた。
少し難しい条件をつけて為人を見るという話しだったけど、為人云々の前に中々話しが進んでいない。
「ねぇ、ちょっとそこの君。相談したい事があるんだけど」
「は、はい!何でしょうか!」
ギルド職員だと思われてるんだ…どうしよう…私、ギルドの事は何にも知らないのに…。
「君はこの依頼の依頼主見たことある?」
「え?」
彼が見せてきたのはマリーゴールド工房で出した依頼書だった。
「…そっか、君も見た事ないんだね。君で最後だったんだけどなぁ~。やっぱりリンリンちゃんから聞き出すしかないのか~」
余りに突然の事で驚いてただ言葉に詰まっていただけなのだが、何も知らないと勘違いしてくれたようで、直ぐに依頼書を下げる。
「ごめんね、お仕事中に」
「い、いえ…」
とても陽気な感じの声色で質問されたのに何故かそれがとても怖く感じて、背筋が凍るような感覚になる。
そして、対して申し訳なく思ってもいなさそうにサラリと謝った男は、そのままヒラヒラと手を後ろ手に振りながら去っていった。
不思議に思いながらも私は再び揉めているリンリンさんの受付に視線を向ける。
今はそんな事よりもノアから聞いたダンジョンの問題の方が私の中では優先事項。
この話しを知っているのは私とマリーちゃん、マーサちゃんの三人だけで、誰から聞いたのか話せない以上、他の人に解決方法の相談も出来ない。
ノアはダンジョンの攻略さえ進めば問題はないと言っていた。
多分、森林ダンジョンは【金色の獅子】のお陰で取り敢えず力を削げたと思う。問題は未だに成長を続けている煉獄ダンジョンと深海ダンジョンだ。
その二つは未だに成長を続けているし、森林ダンジョンもこのまま何もしなければ、魔素を吸収してまた成長を始める。
早く攻略に行って欲しい、という思いからつい焦りが出てしまう。
「リザさん、そろそろ執務室に…」
「あ、はい。行ってきます」
もどかしい思いを抱えたまま、私はジンクスさんの待つ執務室に向かった。
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