59 / 244
異世界
王宮の罠(3)
しおりを挟むゴミでも見るような視線。
そんな目で見られた事なんてない。
地面に這いつくばって惨めだし、それにあんなにされたのに遠くからチラチラと視線を向けるだけで未だに誰も手を差し伸べてはくれない。
「ちょっと良いかしら。お化粧室はどこ?」
「…彼方の角を曲がった所です」
「ありがとう」
どうしてこんな事になっているのか全く分からない。思い当たる点すらない。
兎に角、こんな乱れた状態で会場にいる訳にはいかない。これでも私は【社交界の華】常に美しくなければならない。
多分、まだ私が【社交界の華】だと言う話しが回りきっていないのよ。だから気付いていないだけで、分かった途端に皆んな頭を下げにくるわ。
あの、ハウングとか言う令息も。
乱れた髪とドレスを直して、何度も何度も姿見で確認し直して、部屋を出る。
私は【社交界の華】だもの。少しの粗があってもいけない。常に完璧でなければならないの。
「どこに行ってたの!大人しくしてなさいと言ったはずよ!」
「お、お化粧室へ…行っておりました。少し乱れてしまったので…」
「い、良いから…謝りに行くわよ!」
「えっ!?」
謝る?一体誰に?
寧ろ私が謝ってほしいくらいなのに…。だってわざと転ばされたのよ?私を嘲笑ったのよ?助けてもくれなかったのよ?
私が誰に何を謝るの?
「…ハウマール伯爵様…大変申し訳ありませんでした。娘にはしっかりと言って聞かせますので、何卒…ご容赦くださいませ」
「…ふん。まぁ、まだ10代の若い娘だ。見逃してやらんこともないが…」
「な、何なりと…私に出来ることならば、何なりと…お申し付け下さい」
何故このデブ親父にお母様が謝っているのか…。
ん…?さっきのハウングとか言う令息…?もしかして、何か言い付けたの?私が被害者なのに…??
「お母様、私この人に…!」
「いいから、貴方も謝りなさい!!」
「お、お母様…?」
「早く!!!」
「も、申し訳ありませんでした…」
何でこの私が頭を下げなきゃならないの…?どうして…?私は【社交界の華】なのに…。
「まぁ、良いだろ。こんな出来の悪い娘なら中々良い縁談もないだろう。慈悲を賭けてやらんでもない…」
「…っ!」
ニヤニヤと嫌らしい目つきをデブ狸みたいなおっさん伯爵とやらに向けられる。ぞわぞわと鳥肌が立つ。
「そ、それは…娘を嫁にと言うことでしょうか…?」
「そうだ。嬉しかろう」
なるほど、ハウングとか言う令息は私に一目惚れしてたのか。だけど照れ屋であの場では何も言えなくて…。
仕方がないわね。
性格には難があるけど顔はまあまあだし、伯爵家なら家格的にも【社交界の華】である私に釣り合う。問題ないわ。
「父上…本気ですか?」
「私の慈悲深さに呆れておるのだろう。だが、この娘が結婚出来るとは思えん」
「しかし、こんな出来の悪く、評判も最悪、しかも持参金もない娘を我が家紋に迎えるなんて…」
「息子よ。分かってくれ…。5年前にロナに先立たれてどれだけ寂しい思いをしているか…。お前も立派になってそろそろと考えていたのだよ」
…何の話しをしてるのかしら。
伯爵夫人が亡くなって伯爵が寂しい?私の気持ちを分かってくれ?そろそろって何?
「今回は私も目を瞑りましょう…父上がそれでお幸せなら…」
「この子は若い頃のロナにそっくりだ」
「良かったな。慈悲深い父上のお陰で民草に混ざらずに済むのだ。感謝しろ」
まさか…まさかよね?
「お母様…?」
「伯爵様、本当にありがとうございます!!この御恩は一生忘れません!!」
何言ってるの?私が…【社交界の華】である私が、この狸と?
ありえない、何かの間違えよ…。
お母様は私があんないやらしそうな狸親父の元に行くのを止めてくれないの?
「どうして…?どうして私がこんな目に遭わないといけないの…?」
心の声が思わず漏れ出していた。
2
お気に入りに追加
884
あなたにおすすめの小説
イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)
こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位!
死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。
閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話
2作目になります。
まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。
「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」
スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます
銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。
死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。
そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。
そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。
※10万文字が超えそうなので、長編にしました。
祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活
空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。
最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。
――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に……
どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。
顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。
魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。
こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す――
※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
異世界で家族と新たな生活?!〜ドラゴンの無敵執事も加わり、ニューライフを楽しみます〜
藤*鳳
ファンタジー
楽しく親子4人で生活していたある日、交通事故にあい命を落とした...はずなんだけど...??
神様の御好意により新たな世界で新たな人生を歩むことに!!!
冒険あり、魔法あり、魔物や獣人、エルフ、ドワーフなどの多種多様な人達がいる世界で親子4人とその親子を護り生活する世界最強のドラゴン達とのお話です。
異世界でフローライフを 〜誤って召喚されたんだけど!〜
はくまい
ファンタジー
ひょんなことから異世界へと転生した少女、江西奏は、全く知らない場所で目が覚めた。
目の前には小さなお家と、周囲には森が広がっている。
家の中には一通の手紙。そこにはこの世界を救ってほしいということが書かれていた。
この世界は十人の魔女によって支配されていて、奏は最後に召喚されたのだが、宛先に奏の名前ではなく、別の人の名前が書かれていて……。
「人違いじゃないかー!」
……奏の叫びももう神には届かない。
家の外、柵の向こう側では聞いたこともないような獣の叫ぶ声も響く世界。
戻る手だてもないまま、奏はこの家の中で使えそうなものを探していく。
植物に愛された奏の異世界新生活が、始まろうとしていた。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる