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異世界

依頼任務

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 鬱蒼と草木が行手を阻む険しく深い森の中。この辺を歩くのは久しぶりだ。
 長らく最深を潜ってきた俺らが久方ぶりに浅い場所にきたのはとある依頼任務を受ける為。

「リーダー。マジでやんのかよ」

「リーダー、ガラットの言う通りすっよ。鞄が金貨200枚なんてぼったくりもいいところじゃないすか!」

「お前ら、あれがぼったくりに見えるのか?」

 この二人は全く話しにならない。

「リーダー、俺は反対しねぇーよ。あんなの見せられちゃ、誰だって欲しくなる」

「ディロウも見てたろ?他の術師達も登録して行ったんだ。その場で術師に頼んでるやつも居たぜ?」

「あれこそ、ぼったくりだ」

「何処がだよ!金貨50枚だろ?4分の1だ!流石の俺もそんくらいわかるぜリーダー!」

 どう見ても【金色の獅子】達が持っていた革鞄は質が違った。その辺で手に入れた革鞄に【付与】を施しただけのものにはとても見えない。
 他の術師達の腕がどうこうの前に恐らくそもそもの作り方が違うと思う。これは冒険者としてやってきた長年の勘がそう言ってる。

「確かに、アイツらがダンジョンの真ん中で焚き火を始めた時は流石の俺も驚いたさ。しかもコッチにまでいい匂い飛ばしてきてよ…」

「俺もダンジョンの中であったかいもの食えるなんて羨ましいとは思ったっすよ?」

「お前らは見なかったのか?奴らが持って帰ってきたヒュドラの大きさを」

「…」

 あれには本当に驚いた。いや、大きさではない。【紅の空】もヒュドラには何度か挑んだことがあるから大きいのは知っていた。
 あれを持ち帰る事が出来るのが凄いんだ。

「これまでだってあっただろ。持って帰りたいけど置いていった素材や武器が。あの鞄さえ手に入れば今後それら全部持って帰れる」

「一度の冒険での報酬が増える上に、快適な冒険が出来る」

「…仕方がねぇ、やるか」

「やるしかないっすね」




ーーーーーー



 とある宿屋の一室。
 小綺麗に片付けられたその部屋は冒険者の部屋だとは思えない程に上品で可愛らしく飾り付けられている。
 そこに集まるのは五人の男女。

「ユシテル、パーティーの積み立てでも金貨200枚は流石に無いだろ?」

「そうね、折半でも一人40枚。持ってる人は?」

「折半するのか?俺は反対だね」

「レイ、どうしてかしら?あの鞄は皆んなで使うものよ?」

「俺が必要性を感じてないからだ」

 ユシテルはんー、と顎に手をおいで考えているフリをする。

 まさか反対されるとは思ってなかった。確かに値段を聞いた時は流石に驚きはしたが、見せられた現物は紛れもなく一流、プロの仕事だった。
 それに私達はAランクを取ったプロだ。本物を持たずして何になる?偽物を持って鼻で笑われるなんてごめんよ。

「ユシテル、僕は賛成かな。あの鞄は他の術師には作れないと思う。僕は皆んなより術について詳しいでしょ?信じてくれないかな?」

「あれと他の術師が作った物にどれほどの差があるって言うんだジャム。俺は鞄を買うことを反対しているわけじゃない。同じ金貨200枚なら他の術師に四個作らせてそれぞれ持つ方が賢くないか、と言ってるんだ」

「正直言うと分からないんだ」

「それじゃあ、話しにならない」

「あ、ごめん。違うんだ…」

 慌てるジャムを落ち着かせるようにセーナが背中をさする。

「ジャム落ち着いて…」

「ねえちゃん…」

「はぁ、くだらねぇ」

「いいから、ジャムの話しちゃんと聞きなよ」

「ウルセェよ。マル」

 レイに胸ぐらを掴まれてもニコニコと楽しげな笑顔を見せるマルセル。レイは苛立ちを隠さない。

「レイごめんね。僕の言い方が悪かったんだ。あのね、あの鞄…他の術師か作った鞄の四つ分なんて余裕なんだよ。多分十個でも足りないと思う」

「…じゃあ、なんだ?あの金貨200枚のピカピカ鞄は金貨500枚以上はくだらないって事か?」

「と言うか、他のがそれほどの価値がないって事」

「…ハッ。まさか、何の冗談だ…?」

 普段ならオドオドと言いたい事も言えずに、姉のセーナや自分に頼りきりのジャーシムが断言する。

「いいわね、レイ。多数決よ、鞄代は折半。一人40枚。あの【金色の獅子】がクリアしたんだもの。ヒュドラなんてボコボコよ!私達も鞄を手に入れて50階層を攻略すれば直ぐに元なんて取れるわ」

「ユシテル、その前に依頼任務達成しなきゃ」

「そ、そうね」

「オーダーがかなり細かい。この依頼人アンティークボアの弱点ちゃんと分かってんのかよ…」

 多少の文句は仕方がないわ。確かにオーダーが細かすぎる。

 とにかく奴らが王都に呼ばれているうちに、他のパーティーよりも早く50階層を突破しなきゃいけないわ。












 

 


 

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