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異世界
処遇
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「し、失礼します…」
「あ!貴方は…あの時の…」
フィオデナルドさんの呼びかけで部屋に入って来たのは私達と共に捉えられていたひ弱そうな若い青年。
彼は青褪めた顔でどうしたらいいか分からないとオドオドとしている。
「彼はそのご夫妻の御子息の嫁に仕えていた下郎です」
「そ、その節はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした!!!」
「は、はぁ…」
どうして彼が謝るのか全く分からない。
しかも、夫妻に仕えていたのではなく嫁いできた嫁に仕えていたのなら余計に理解できない。
「ご夫妻と嫁はあまり上手くいっていないらしい。彼は謹慎を言い渡された娘を助ける為に、その嫁に送り出されたんだそうだ」
「その…何と言いますか…若奥様は性格が少しアレ…でして…。お優しい大奥様とはソリが合ってなかったんです」
青年が言うには、夫妻に謹慎を言い渡された娘の代わりにハンカチを作った工房、もしくは製作者を探してくるようにとその若奥様に命令されていた。
今は虚言癖のレッテルを貼られているが、それさえ成功すれば、夫妻に何を言われようとも製作者さえ見つけてれば、社交界に返り咲く事が出来る、そう思ってのことだった。
だが、彼に与えられた情報はハンカチに入っていた花の刺繍と大奥様が言った4、5歳の少女と言うワードだけ。
ただ、彼は中々に優秀だったようでそれだけの情報で見事マリーちゃんを探し当てた。
そして、彼はマリーちゃんが何らかの情報を持っていると思い近づいた。
「お二人を誘拐した男達は我が家のお嬢様と敵対する御令嬢の護衛…いや、従者、だったかな…?…そ、それで僕がその子に声を掛けたから……ごめんなさい」
彼がマリーちゃんに声を掛けたのを誘拐犯達は勝手にマリーちゃんが製作者を知っている、もしくは製作者の知り合い、又はそれに類する存在なのだと思い込み、横槍を入れてきたのだと言う。
確かに、彼はあの二人とはタイプが違いすぎるし、初めっから弱々しい印象の彼が彼らの仲間だとは思っていなかった。
「巻き込むつもりは無かったんです…。だけど、僕が一週間寝る間も惜しんでやっと掴んだ情報が、その子が付けてた髪飾りに同じ刺繍が施されてるってだけだったんです…。あの…僕はどうなるんでしょうか…?」
情けない声を上げる青年は今にも泣き出しそうな顔をしている。
如何やら、彼は私が製作者とは知らないらしい。マリーちゃんに行き着いたのは偶然だったようだ。
それにしても彼は相当に目が良いのだろう。マリーちゃんがつけているリボンは白で、派手にならないようにマリーゴールドの刺繍も同じく白の糸で施した。
とても綺麗な糸なので、確かに光に当たるとキラキラ光ってはいるが、それで同じ刺繍だと分かったのは本当に凄い。
「そうですね。君の処遇はわかりませんが、あの家がどう言う状況かは分かりますよ。家の意向に逆らった若奥様は実家に帰されて謹慎中、御子息様とは近くご離婚されるそうですよ。それからご令嬢は虚言を吐いた事でもう社交界では上手くはやっていけないでしょうね」
「あ゛~、こんな事なら我慢せずにあんな人の召使いなんて辞めておけば良かったです…」
彼の口からは後悔の言葉しか出てこない。その後も、僕が皆んなよりほんの少し要領が良かったばかりに…とか、皆んなわざと若奥様に気に入られないようにしてたのか…?などとぶつぶつと青褪めた顔で呟いついた。
その後は。
「ご迷惑をおかけして本当にすみませんでした…」
「ほら、早く乗れ!」
「はいぃぃぃ…」
彼の処遇については元々ご夫妻にお任せすることで話しが付いていたようでその後彼はお迎えの馬車に乗せられてお屋敷へ送られていった。
「明後日には貴族達も帰りますので、リザさんはそれまでもう少しお休みになられてください」
「は、はい…」
明後日には…?ってどう言う意味なんだろう??フィオデナルドさんが青年を乗せた馬車を見送りながら言い切った言葉に違和感を感じたが、チラリと見た彼の目が全く笑っていなかったので返事を返す事しか出来なかった。
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