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異世界

予感の的中(3)

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ーーードンッ!!!!!

「と、突然…なんなんだ!」

 何度も繰り返される体当たりの様な衝撃で壁がミシミシと悲鳴を上げる。時折、恐ろしい猛獣の様な息遣いが聞こえて来て、マリーは震える身体を抑えられない。

「ん…、ここは?」

「リザおねえちゃん!大丈夫!?」

「ま、マリーちゃん?ここ何処…、痛ッ!えっ?これ、何の音?」

「わかんないの…」

 得体のしれない大きな音によってやっと梨沙が意識を取り戻したのは良かったが、このままでは逃げることもできない。
 何故なら、この謎の体当たりが繰り返されているのは唯一の逃げ道だった小窓に面した壁だからだ。

「そっか、変な男達に絡まれて…私気を失ってたのか…」

「リザおねえちゃん!」

 マリーもさっきまで頼もしく見えていたが、やはりまだ幼い。抱きつき甘える様な仕草に少し和むが、やはり体当たりの音で現実に引き戻される。

ーーードンッ!!!!!

「リザおねえちゃん、パパがすぐに助けにくるの。でも、このままじゃ…その前に壁が」

「マリーちゃんのお父さん?」

ーーードンッ!!!!!

「そう!パパに言われてたの!何かあった時は、おちついてから、あいてが何をのぞんでるのかを聞いて、パパに聞けば分かるって言うの。それから、じょうほうを小出しにするのよ!」

「そう、よく頑張ったね。ありがとう、マリーちゃん」

「だいじょぶよ!ママと約束したの!リザおねえちゃんを守るって!」

 マリーがどうしてあんなに大人しかったのか、そして急に話し出した理由と、どうして急に冷静になったのか。
 それはただ両親の言いつけ通りに行動して、約束を守るためだったようだ。

ーーードンッ!!!!!

 しかし、呑気に話している暇はない。

「二人とも!ゆっくり話している暇はありませんよ!」

「あの人は?」

「わかんないの。でも、たぶん…なかまじゃないの」

「説明は後です!この状況をどうにか…」

ーーードンッ!!!!!!

 だが、男の訴えも虚しく残念ながら一足遅かったようだ。
 壁に入っていた亀裂が大きな音を立てて崩れ落ちる。

「…キャ…スパ……リ…グ……」

 壁に入っていた亀裂が大きな音を立てて崩れ落ちると、まだ手足を縛られてる男が震えながらそう呟いた。

 ゆっくりと中に入ってきた闇に溶け込むような黒い体躯に梨沙は見覚えがあった。
 金色に光る鋭い眼光が此方を捉える。

「もしかして…あの時の…?」

「猫さん?」

「違ったら…」

 死ぬ。その続く言葉を飲み込む。
 ここは何としてもマリーだけでも助けないといけない、と梨沙はマリーを隠す様に前に立つ。怖くて足が震えている。

「こ、この前の子なの?」

「…」

「ね、猫さん…だよね…?」

 鋭い眼光が一度も逸される事なく、そのまま真っ直ぐと近づいてくる。そして、その顔がこの前と同じく鼻息が当たるくらいに近づくと伏せて、リザの足に頬を擦り寄せる。
 一気に力が抜けてしまいその場にへたり込む。キャスパリーグはそのまま大人しく寄り添う様に寝そべった。

「や、やっぱり…あの時キャスパリーグだったのね…」

「よかったぁ…」

「貴方…助けに来たの?」

「…」

 相変わらず鳴くこともなくただひたすらに此方に視線を合わせてくる。
 でも、なんだがその視線が頷いている様な、肯定している様な気がして理沙はキャスパリーグの頭を撫でる。

「ありがとうね」

「猫さん、ありがとう」

 伝わってなくても良い。偶然だったとしても助けてくれたのは間違いない。
 何よりもう一度会えたのかとても嬉しかった。それはマリーも同じだった様で、小さな手でお礼を言いながら背中を撫でていた。




「それで、ここ何処なのかな?」

「猫さんがいるってことはこの前のもりなんじゃない?」

「そうだよね。見た感じ森なのは間違いないし…。どうやって戻ろうか?」

 キャスパリーグがぶち開けた壁から外へと出てみる。キャスパリーグは泡を吹いて倒れている男を咥えて運ぶのを手伝ってくれる。
 周辺はこの小屋を建てるために少し切り出したのか、しっかりと空が見える。
 でも、正確な位置までは分からない。

 すると、今度は男をその場に下ろして二人の前に綺麗に手を揃えて座る。

「え?乗って良いの?」

「…」

「リザおねえちゃん、猫さんとお話し出来るの?」

「いや、そう言うわけじゃないんだけど…何となくそう言ってる気がするの」

 本当に何となくそう感じる。
 言葉では表現しにくいのだが、多分話していると言うよりも感情が伝わってくる、そんな感覚。

「猫さん、まちまでいける?」

「…行ける、みたい」

「リザおねえちゃん!つれてってもらおう!」

「…お願い出来る?」

「…」

「ありがとう」

 無言の訴え。
 でも、初めより伝わってくる感覚がどんどんハッキリしていっている気がする。

「…」

「私は大丈夫だから、マリーちゃんをお願いね」

「なんて言ったの?」

「私も乗って良いよって」

 梨沙はキャスパリーグの背にマリーを乗せて横を歩く。少し残念そうにするキャスパリーグに微笑みを返す。

 暫く歩くと、キャスパリーグが突然動きを止める。辺りを探ると、少し先の方から人々の争う声が聞こえてきた。

「娘が攫われたんだぞ!」

「攫われたって、もう少し街を探してから…」

「アイツらが言ったんだ!早くしないと獣に娘達が食われるって!街の外に決まってる!」

「…パパだ!」

 どうやら慌てた様子の男が一人。門の所で守衛の人三人に止められている。

「ここまでありがとう」

「ありがとう!猫さん!」

「…」

「…ごめんね。でも、貴方を連れて行ったら…」

「…」

「猫さん…一緒にいきたいの?」

 悲しそうに首を垂れるキャスパリーグにマリーも悲しげな、惜しむような声をかける。

「そうは言っても流石に連れていくわけには…」

「リザおねえちゃんの言うことなら聞くのに…だめなの?」

「だって、この子討伐対象なんでしょ?」

「…うん、でも…」

 流石にキャスパリーグをこのまま街へ連れて行くことは出来ない。皆んなが驚くのは勿論だが、下手したら本当に討伐されてしまう。そもそも、意思疎通出来るなんて信じて貰えるわけがない。







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