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異世界
牽制
しおりを挟む「言いたい事はわかった。確かにこの鞄があれば停滞している攻略が進むのは明らかだ」
「攻略が進むと何か良いことが…?」
「リザさん。その鞄に使われている革もダンジョンに出てくる魔物の素材です。もし攻略が進めば、新たな魔物が出てくるようになりこれまで出て来たことのない素材が手に入るようになります」
「新しい素材…」
(ゴムとかも魔物素材だったし、もしかしたら、ワイヤーとかも…)
そんな期待が大きく膨らむ。
正直何を作っていても楽しい。鞄を作るのもとても楽しかった。でも、やはり一番心が躍るのはアクセサリーを作っている時だ。
ワイヤーのどこを曲げたり、捻ったりしたらどうなるのか、ビーズの通し方で花になったり宝石みたいになったり、一番自由なハンドメイドだと思っている。
「そうなるとリザさんのアクセサリーの幅が広がるだけじゃありません。この世界に住む全ての者たちのありとあらゆる生活が向上します」
「もう、32年になるか…。最後に上級ダンジョンの階層クリアがあったのは…。あの時の発展は目まぐるしかった」
「ガラスが作れるようになりましたからね」
「そんなに難しいことなんですね…」
遠い目をする三人に私は苦笑いで言う。
「でもな、フィオデナルド。そこまでの品ならお金に余裕のある伯爵以上は買うということになるが…?」
「はい。そこで一つご相談です」
「相談…?」
そして、フィオデナルドは全ての問題を一気に解決する最も簡単に正解を導き出した。
「お客さんをリザさんが選べば良いんです」
「どういう事ですか?」
「まず、その素晴らしい革鞄の一つをお譲り頂きたい。勿論、金貨200枚出します。ただ、ここにあのお花の刺繍を入れて欲しいのです」
「フィオデナルドさんにはお世話になってますから、そんなことなら幾らでもやりますし、鞄代は別にタダでも…」
「それはやめとけリザさん。もし、フィオデナルドがその鞄をタダで手にしたと噂になればどうなる。金の動きは大金である程足が付きやすいものなんだ」
「…はい」
「それでどうするのでしょう?」
「ジンクスにはこの鞄の特許を出してもらいたい」
「あぁ、それはそうつもりだったしな」
「そして、私はこの鞄の凄さをダンジョンで見せつけてきます。攻略出来たら尚よしですね」
「見せつける?」
フィオデナルドはとあるツテを使ってこの鞄を手に入れたと触れ回り、攻略組のA級冒険者達みんなの前で使う。
そして、これまでは極力荷物を減らすために嵩張らず軽い干し肉や黒パンにしていたが、重たい水なども不自由なく持っていけるのでスープやチーズなども持参できるようになる。
食事だけじゃない。武器や防具、着替えもテントや毛布、薪なども持ち運べるようになる。
この鞄のお陰でダンジョン攻略がとても楽になった、と見せつける。
「そしたら、攻略組のAランク冒険者みんな欲しがるでしょうね」
「狙いはそれだけじゃありません。野蛮で下賎な冒険者の流行を伯爵以上の階級の貴族たちが流行にする事はありません」
「…なるほどな」
貴族達の流行が平民階級でも流行る、と言う事は良くあるが、流行を生み出す側の貴族達が平民階級で流行ったものを流行にする事はない。それが冒険者なら尚更。
「じゃあ、フィオデナルドさん。私の鞄…売れるんですか?」
「えぇ。絶対に売れます」
「ただ、そうなると五個じゃ足りないな」
「そうですね。概算ですが、現在フローネに常駐しているAランクパーティーは全部で4。その内の一つが【金色の獅子】なので残り3。各パーティーが一つづつでももう一つは必要かと。それに噂を聞きつけて他の国にいるAランクパーティーも欲しがるでしょう」
「なら、この五個で大丈夫です。初めに言いましたよね?売る相手はリザさんが選ぶって」
「それに、似たものが出てくるって…」
「えぇ。でも、Aランクの冒険者にもなるとかなり目が肥えてますからね。それは心配ありません。偽物を買うのはAランク以下の冒険者達でしょう。なので偽物は貴族達の“流行”を牽制するために他でどんどん作って貰いましょう。特許があればその偽物を作った《付与術師》から著作料を徴収できますし」
大量に物を作らずともお金は入ってくるし、貴族は牽制出来るし、一石二鳥な作戦だ。
当然私も不出来な物を売るつもりはない。それで良いのなら寧ろ願ったり叶ったりかもしれない。
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