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異世界

思い出

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「お祖母様、お祖父様、私のお土産は何処かしら!?」

 扉を開けてすぐに胸に飛び込んで来た孫娘を抱き止める。
 自身の可愛さを十分に理解している彼女は持ち前の可愛らしい顔で笑顔を振りまいて出迎えてくれている。
 現金なのは間違いないが、分かっていてもやはり孫娘は可愛い。

「はいはい、レミーちゃん今出しますからね…」

 控えていた従者はこの展開を予見していたようにお土産のお菓子を差し出す。

「またお菓子…?」

「レミーは甘い物が好きじゃないか」

「でも、いつもお菓子ばかり。私、この前ジェーンにお祖母様にネックレスを買ってもらったって自慢されたのよ!」

 頬を膨らませて友人に自慢され、その宝石がどれだけ綺麗で美しくて羨ましかったのか、そのマウントがどれだけ屈辱的だったのかを二人に力説してみせる。

「私、悔しかったのよ?お祖母様、お祖父様!私、ジェーンにだけは負けたくないの!ネックレスでいいわ!ジェーンのよりも良いものを頂戴!」

「わ、分かったわ…。レミーちゃん明日買いに行きましょ?」

「ダメよ!午後にウチでお茶会を開くの!きっとジェーンはまたあのネックレスをつけてくるのわ!お祖母様は私がジェーンなんかに負けていいの!?」

 結婚適齢期を間近に控えたこの年頃の貴族の娘達にとって勝ち負けはとても大切だ。それが直接的に婚姻を左右する事もある。
 着飾る事で美しさを競うのは勿論、家の力や財力、そしてそれらを購入できるツテを持っているという家紋の力を見せつける事ができる。

「うちは男爵家でジェーンの子爵家に家格では勝てないけど、私は彼女より美しいわ。絶対にジェーンより良い旦那様を捕まえなきゃ行けないの!」

「レミー。午後に…ってもう時間がないわ。お客様をお待たせする方が家を酷く言われてしまうわ。今日は諦めるしか…」

「…嫌よ。ジェーンのあの勝ち誇った顔……。ねぇ、あなた。それ何?出しなさい」

 控えていた従者達が荷物を片付けているのを見てレミーは手を止めさせる。

「ハンカチかしら?とても素敵だわ…!これならあの宝石よりもみんな注目するわ!これ貰うわね!」

「…レミーちゃん、ごめんなさい。このハンカチはとても大切なものなの」

「レミー。これは私達の結婚記念日のお祝いとしてプレゼントして貰ったものなんだ」

「貰ったものなのね!なら、これは私に頂戴!お祖母様はその人にまた新しい物を貰えば良いわ!」

 可愛い孫娘のお願いだが、流石にこのお願いだけは聞いてあげられなかった。
 二人はこのハンカチは二度と手に入らない物なのだと理解していた。そして、社交の場に晒す気もなかった。

「レミー、それは出来ないのだよ。その方のご厚意でお祝いしてくれただけなんだ」

「じゃあ、お金を払って作らせれば良いじゃない。もっと質の良い布とか与えれば喜んでやるわ!とにかくこれは私に頂戴!」

 余りの我儘に流石の二人も呆れてしまう。

「何を騒いでるのかしら」

「お母様!見て頂戴!とても素敵なハンカチなの!これがあればジェーンを見返せるわ!でも、お祖母様がくれないのよ」

「お義母様、私に似てレミーは美しい娘です。この子なら家格を上げるために良家との縁談を沢山頂けますわ。このハンカチはそんなレミーにこそ似合うと思いませんの?」

 美しくないお義母様にはそのハンカチは似合わない、と貴族らしい物言いで責め立てられる。
 彼女は自身が子爵家の出であることをカサに二人に散々な物言いを繰り返していて、毎年記念日には自宅でゆっくりと二人の時間を楽しんでいたのだが、彼女が来てからは折角の記念日を幸せに迎える為にと外に出ていたのだった。

「…セシリアさん。確かにあなたの言う通りこのハンカチはレミーにとても似合うと思うわ…でも、御免なさいね。これだけはどうしても譲れないの」

「私のお願い聞いてくれないの…?」

「まぁ、なんて意地汚い人なのかしら」

「…御免なさいね」

 これだけ詰めても譲らない義母に二人は苛立ちを隠さない。それでも最後まで譲る事はなかった。











 
 

 
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