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異世界
感想
しおりを挟むはぐれのワイバーンの襲撃があったと言う話しが落ち着いてきた頃。私は商業ギルドにいた。
「なるほど…」
あれから更に鞄やポプリ、ベルトなど色んなものを制作し続けて、何となくだが《付与》の法則性が見えてきた。
こうなれば良いなぁ、のように頭の中で考えた事や感じた事が直接的に《付与》の内容に関係しているという事と丈夫さや見た目にこだわるとより良い効果の《付与》が着くと言う事。
例えばポプリ。
フローラルな薫りで癒された、と梨沙が感じて作った初めの数本は《状態異常無効》が付与され、その後は鼻が効かなくなってきた、と思っていたら《解毒》の効果になっていた。
マーサから借りた本によると《状態異常無効》の方がいいものらしい。確かに、解毒だけではなく、麻痺や火傷などの全ての状態異常を無効にしてくれるものだと言われれば納得だった。
しかし、これらが冒険者に売れるかどうかと言う話になれば自信がない。
こればかりはやはりプロに見てもらうのが一番だと言うことで商業ギルドに来ていたのだ。
初めに見せたのはジンクスさん。
ハンカチとドイリー、ポプリを見せてみた。そして漏れ出した言葉が、冒頭のアレだ。
「率直な感想を言うと、こんな物にこんな大層な《付与》をしてどうするんだ?と思った」
「どういう事ですか?」
「ハンカチには常に清潔に保つことが出来る《クリーン》か、様々な汚れを落とすことが出来る《クリア》が付与されてるし、このドイリーとか言うのには《防水》、こっちのポプリとやらには《解毒》か《状態異常無効》だ。商品の用途に効果が合っているから人気になるだろう。ただ、リザさんが望む冒険者用にはなりにくいかもしれない」
「…そうですか」
そもそも殆どの冒険者はハンカチを持つ持たないの前に清潔とは無縁。【金色の獅子】や【紅の空】みたいに身綺麗な冒険者などは特別で殆どの冒険者は身体を拭くお湯さえケチるらしい。
確かに、宿屋で見かける冒険者皆んなが綺麗な訳ではない。
それで言うと《防水》が付いているドイリーは小さ過ぎて使い道もないし、ポプリの《解毒》と《状態異常無効》は需要はあるが熟成していない現段階ではお風呂に入れて使用しないと効果が発動しないので使い勝手が悪いそう。
「物は良いんだ。使いたい奴は沢山いる。だが、客層を絞って冒険者に…ってなると需要が少ないな。店に並べても他のやつが買っていくだろうよ」
「…そうなんですね」
それでは意味がない。
出来れば冒険者達のみに需要があって、それ以外の人が興味を持たないものが良い。
その上で使い心地の良さとデザイン性の高さを求めるとなかなかに難しい。
「貴族に関しては商会も出来たんだ。そんなに気にしなくて良いんだがな…」
「…用心に越したことはないです」
「…こんな事を聞くのもなんだが…昔貴族と何かあったのか…?」
「…いえ、何もありません」
今まで生きてきた日本という場所には階級と言うものはなかった。ただ、私はそんな階級がないはずの日本で階級の違いを理解し、受け止めてきた。
施設育ち。それだけで人から受ける視線は別物だった。その上で私は捨て子だった。
まるでドラマの様な話しだが、それが私の現実だった。
施設に来る子は私のような捨て子は少なく、どちらかと言えば両親と死別し、親戚もいない子だったり、片親になり経済的に親から引き離された子だったり、虐待などによって一次隔離された子だった。
彼らは自分の親を知っていて、知っているからこそその死を悲しんだり、いつか向かいに来る親を思ったり、暴力を受けずに済む施設よりも親といる事を望んだりする。
でも、私は無だった。
どちらがどうだ、と言う話しではない。
彼らは親という存在を知っているからこその苦しみがあるのだろう。
では、それすらない私は何に何を求めて何を何処にどうぶつければ良いのだろうか。
本当の意味での虚無感。あったものが無くなったからではない。あるはずのものが元々手の中にはなかった。
私はその意味を知っている。
確かに施設の人たちは精一杯の愛情をくれたのだと思う。でも、それは私にとっては“親切”や“仕事”であって親から貰える無償の愛ではない。
本当に施設の職員の人達には誠心誠意育ててくれたことを今でも感謝している。感謝はしているが、血も涙もない事を言うようで申し訳ないのだが現実、そうなのだから他に何も言いようがない。
とにかく、そんな環境で生活して来た私にとって自分と自分以外では住む世界が違うと常々感じていた。
それがこの世界の階級と意味合いは違うのだと分かっていても感じるものは同じだった。
それにどの世界でも理不尽なことは沢山ある。施設育ちだからと変に気遣わられたり、逆に敬遠されたりすることは日常茶飯事。
現に旦那の両親はそう言う人だった。
此方がいくら普通に生きていても彼らにとって私は惨めな存在で下賎な存在で忌避する存在なのだ。
それら全て受け入れ、受け止めてくれたのが旦那だと思っていた。だから、文句も言わずにほんの少しの楽しみを糧に旦那を支えて来たつもりだった。なのに死を目の前に言われた言葉が私を心配する言葉ではなく、お金を心配する言葉だった。
全て身を持って経験してきた。
だから分かる。
分かるから貴族と関わる事を必要以上に避けてしまう。
せっかく誰も自分の過去を知らない世界に来たのだから、もう無駄に消耗するだけの人生は送りたくない。
それが素直な思いだった。
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