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異世界
内見
しおりを挟むその日は色んなことがありすぎて、流石に疲れた私はあのまま深い眠りについた。
翌日になってみると、あの時もしかしたら死んでいたのかもしれない、と言う恐怖が今更ながらにどっと押し寄せた。
だからか、あの時助けてくれたキャスパリーグに会いたい、という気持ちが強くなっていた。
ただ、あの時のキャスパリーグに会いたいと実際に森へ行って出会っても見分ける自信がない。
それにただ森に行った所で出会える保証はないし、寧ろ危険な目に遭う可能性の方が高い。
だからと言って誰かにキャスパリーグのことを話すこともできない。マリーちゃんの言う通りもしかしたら討伐隊を組まれてしまうかもしれないからだ。
「美味しくなかったかい?」
「へ?」
朝食を取りながらそんな事を考えていると、フランさんの冗談混じりの声が聞こえて来て思わず変な声を出してしまった。
「何か考え事かい?」
「…はい」
「マリーも昨日の夜からそんな状態でね…。初めはワイバーンが怖かったのだと思って様子を見てたんだけどねぇ。如何やら違うようなんだよ」
「その…」
「言えない事なんだろう?あのおしゃべりなマリーがあそこまで頑なに話さないんだから私も諦めたさ」
「悪いことではないはずです…」
危険なことだけど…、とは決して言えなかった。幼いマリーちゃんでさえキャスパリーグの事を思って母親であるフランさんに話さなかったのに私が言うわけにはいかない。
「まぁ、事情は何であれ。私は二人のことを信じてるから余計なことは言わないよ。ただ…」
「話せるようになったら必ず…」
「ありがとう、リザ。マリーをお願いね」
そう言うとフランさんは少し寂しそうな表情を見せながらも、私の頭をくしゃくしゃと撫でた。
朝食後は昨日、マリーちゃんの突撃を受けて話しの途中で帰ってしまった謝罪をと私は商業ギルドに向かった。
「ルーペリオさん、昨日はすみませんでした」
「いえいえ、ご心配なさらず。私もまだ終えていない準備や素材の手配もありましたのでそちらを進めておりました」
「そうでしたか。ありがとうございます」
気遣いの出来る紳士なルーペリオさんはそう言うが、仕事の途中であのような形で抜け出すのは良くないのはいくら社会経験のない私でもよく分かっている。
なので、反省の意味を込めて素直にお礼を伝えたかった。
「リザ様。本日のご予定はお決まりでしたか?」
「いえ、特には」
「お時間あれば作業部屋の内見は如何ですか?」
「昨日はその話しの途中でしたね」
「はい。ご予算などを考慮して私の方で先に選考させて頂きました。宜しければ今からでもご案内させて頂きます」
「はい、宜しくお願いします」
と、言うことで今日の予定は作業部屋となる場所の内見になった。
「こ、この部屋が本当に大銀貨1枚なんですか…?」
「はい。この部屋の持ち主の方は元Aランクの冒険者の方で各地に部屋を持っていらっいます。今は引退されてここは使っていないからと貸し出しているそうです」
「いや、ならもっと高いはずじゃあ…?1日大銀貨1枚の間違いとか…」
良く考えなくても分かる。ここはそんな値段で借りられるような場所ではない。
周りは閑静な住宅街で治安も良さそうだし、お隣との感覚も遠いいため騒音などの問題もなさそう。市場までの距離間もちょうど良く住みたい人はたくさんいる事だろう。
「それが借りるには条件がありまして、なかなか住み手が見つからなかったようです」
「条件、ですか…?」
「はい。住んでは欲しくない、と言う難しい条件です」
「この家には住むな、と…」
それは中々な条件だ。格安で好立地、家財道具も揃っていて今直ぐにでも住み始められそうなのにその条件を飲む人は中々いない。
「家主は相当変わった方なのですね…」
「そのようです」
困惑のする私にルーペリオさんはクスクスとお上品に笑ってみせる。
そんな人と付き合っていくのは大変そうで敬遠したい所だが、ここまで好条件の物件もないだろう。
そもそもそんな条件で借りる人なんて私ぐらいかもしれない。
「こ、ここにします」
「かしこまりました。お手続きは私の方で済ませておきますので」
「宜しくお願いします」
そんなこんなで私は転移前に家族で住んでいた2LDKのマンションよりも広い部屋を月1万円で手に入れたのだった。
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