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異世界

不思議な出会い

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「…ウッ!」

 相変わらず視界は悪いが、何かに後ろ髪を引っ張られているのは痛みのおかげでよく分かる。

「え、猫…いや……黒、ヒョウ……?」

 振り返ると目の前には黒く、大きな動物が私の髪を咥えて引っ張っていた。

「…キャスパリーグ…」

「キャスパリーグ…?」

「リザおねえちゃん!逃げて!」

「逃げてって言われても…!」

 マリーちゃんが逃げようと腕を引っ張り、慌てている姿をみればあれがどれだけ危険な動物なのかは明らかだ。
 しかし、髪の毛を咥えられている。私だって後ろにヒョウがいたのだ、それはもう既に必死で逃げようと試みていた。
 だが、どれだけ痛みに耐えて引っ張って見ても全くびくともしなかったのだ。

「マリーちゃんだけでも逃げて!」

「ごめんなさい…こわくてあしが…」

 私を掴む手すら大きく震えているのに一人で逃げろと言うのは小さな女の子には無理な話しか。
 漸く砂埃が晴れてきて、周りの様子が見えて来た。周りに人影はまったくない。

「リ、リザおねえちゃん…」

 そして、気付く。もし、キャスパリーグに髪を咥えられていなかったら自分達が如何なっていたのかを。
 地面は深くまで抉れていて湿った土が顔を出していて、森林ダンジョンの反対側は視界いっぱい森だった筈なのに木々がそこら中に倒れていて見晴らしが良くなっている。

「…」

「助けてくれたの?」

「…」

 言葉が通じる訳はないのだが、この状況では聞かざるを得なかった。
 状況判断が出来たところでキャスパリーグはやっと私を解放したが、何もすることなくただひたすらに私達を見つめている。

「キャスパリーグはとても強い魔物なんだよ…」

「うん…」

 ただ、もう私達には逃げると言う選択肢はない。むしろ背中を向けて逃げ出せば一思いに殺されるのではと身体を震わせていた。

「こっちに…ち、近づいて来る…如何したら良いの…?」

「リザおねえちゃん…こわいよ…」

「だ、大丈夫よ。大丈夫…だから…」

 キャスパリーグが近づいて来ても私達は何もする事が出来ずただひたすらに硬直したまま立ち続ける。
 そして、顔に息がかかるほどキャスパリーグが近づいて私は思わず思いっきり目を瞑る。

ーーーゴロロロロロロロ…

「へっ?」

「リザおねえちゃん…」

 キャスパリーグが目の前に伏せって喉を鳴らしながら私の足に顔を擦り寄せている。
 何が起こっているのかよく分からなかった。ただただ愛らしい猫のように喉を鳴らし、頬を擦り寄せるだけ。

「もしかしてこの子、リザおねえちゃんに懐いてるの?」

「わ、分かんない!」

「なでなでしてみる…?」

「そんな…こ、怖くてできないよ…!」

 何故かお互い小声で話している。
 取り敢えず襲われないのは良いが、だからと言って何をしたら良いのかも分からない。

「じゃあ…マリーなでなでしていい?」

「えっ…でも…」

「こんにちは…ねこさん。私マリー。なでなでしていい?」

 キャスパリーグは無言で私を一瞥したが、その後ゆっくりと頭をマリーの前に置き、目を閉じた。

「触っていいって事だよね…?」

「ねこさん、助けてくれてありがとう」

 マリーが頭を撫でると、キャスパリーグはまた立ち上がり何処かへと走り去っていった。

「良かった。無事そうだな」

「フラットさん、実は今…」

「おじちゃんたち勝ったの?もう帰れる?」

「あぁ、大丈夫だ。はぐれのワイバーンが出たんだ。馬車はあの状態だから、少し狭いが他の馬車に相乗りすることになるが問題ない」

 如何やら馬車を襲って来たのはワイバーンという魔物だったらしい。

「リザおねえちゃん、キャスパリーグのことは言っちゃだめよ!とうばつたいを組まれちゃう!」

「で、でも…危険な魔物なんじゃ…」

「あの子は助けてくれたもん!」

 確かにそうなのだが、危険な魔物には違いないはずだ。ただ、何となく討伐隊を組まれてしまうと聞いていい気はしなかった。









 




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