26 / 244
異世界
不思議な出会い
しおりを挟む「…ウッ!」
相変わらず視界は悪いが、何かに後ろ髪を引っ張られているのは痛みのおかげでよく分かる。
「え、猫…いや……黒、ヒョウ……?」
振り返ると目の前には黒く、大きな動物が私の髪を咥えて引っ張っていた。
「…キャスパリーグ…」
「キャスパリーグ…?」
「リザおねえちゃん!逃げて!」
「逃げてって言われても…!」
マリーちゃんが逃げようと腕を引っ張り、慌てている姿をみればあれがどれだけ危険な動物なのかは明らかだ。
しかし、髪の毛を咥えられている。私だって後ろにヒョウがいたのだ、それはもう既に必死で逃げようと試みていた。
だが、どれだけ痛みに耐えて引っ張って見ても全くびくともしなかったのだ。
「マリーちゃんだけでも逃げて!」
「ごめんなさい…こわくてあしが…」
私を掴む手すら大きく震えているのに一人で逃げろと言うのは小さな女の子には無理な話しか。
漸く砂埃が晴れてきて、周りの様子が見えて来た。周りに人影はまったくない。
「リ、リザおねえちゃん…」
そして、気付く。もし、キャスパリーグに髪を咥えられていなかったら自分達が如何なっていたのかを。
地面は深くまで抉れていて湿った土が顔を出していて、森林ダンジョンの反対側は視界いっぱい森だった筈なのに木々がそこら中に倒れていて見晴らしが良くなっている。
「…」
「助けてくれたの?」
「…」
言葉が通じる訳はないのだが、この状況では聞かざるを得なかった。
状況判断が出来たところでキャスパリーグはやっと私を解放したが、何もすることなくただひたすらに私達を見つめている。
「キャスパリーグはとても強い魔物なんだよ…」
「うん…」
ただ、もう私達には逃げると言う選択肢はない。むしろ背中を向けて逃げ出せば一思いに殺されるのではと身体を震わせていた。
「こっちに…ち、近づいて来る…如何したら良いの…?」
「リザおねえちゃん…こわいよ…」
「だ、大丈夫よ。大丈夫…だから…」
キャスパリーグが近づいて来ても私達は何もする事が出来ずただひたすらに硬直したまま立ち続ける。
そして、顔に息がかかるほどキャスパリーグが近づいて私は思わず思いっきり目を瞑る。
ーーーゴロロロロロロロ…
「へっ?」
「リザおねえちゃん…」
キャスパリーグが目の前に伏せって喉を鳴らしながら私の足に顔を擦り寄せている。
何が起こっているのかよく分からなかった。ただただ愛らしい猫のように喉を鳴らし、頬を擦り寄せるだけ。
「もしかしてこの子、リザおねえちゃんに懐いてるの?」
「わ、分かんない!」
「なでなでしてみる…?」
「そんな…こ、怖くてできないよ…!」
何故かお互い小声で話している。
取り敢えず襲われないのは良いが、だからと言って何をしたら良いのかも分からない。
「じゃあ…マリーなでなでしていい?」
「えっ…でも…」
「こんにちは…ねこさん。私マリー。なでなでしていい?」
キャスパリーグは無言で私を一瞥したが、その後ゆっくりと頭をマリーの前に置き、目を閉じた。
「触っていいって事だよね…?」
「ねこさん、助けてくれてありがとう」
マリーが頭を撫でると、キャスパリーグはまた立ち上がり何処かへと走り去っていった。
「良かった。無事そうだな」
「フラットさん、実は今…」
「おじちゃんたち勝ったの?もう帰れる?」
「あぁ、大丈夫だ。はぐれのワイバーンが出たんだ。馬車はあの状態だから、少し狭いが他の馬車に相乗りすることになるが問題ない」
如何やら馬車を襲って来たのはワイバーンという魔物だったらしい。
「リザおねえちゃん、キャスパリーグのことは言っちゃだめよ!とうばつたいを組まれちゃう!」
「で、でも…危険な魔物なんじゃ…」
「あの子は助けてくれたもん!」
確かにそうなのだが、危険な魔物には違いないはずだ。ただ、何となく討伐隊を組まれてしまうと聞いていい気はしなかった。
9
お気に入りに追加
883
あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。気長に待っててください。月2くらいで更新したいとは思ってます。

【本編完結済み/後日譚連載中】巻き込まれた事なかれ主義のパシリくんは争いを避けて生きていく ~生産系加護で今度こそ楽しく生きるのさ~
みやま たつむ
ファンタジー
【本編完結しました(812話)/後日譚を書くために連載中にしています。ご承知おきください】
事故死したところを別の世界に連れてかれた陽キャグループと、巻き込まれて事故死した事なかれ主義の静人。
神様から強力な加護をもらって魔物をちぎっては投げ~、ちぎっては投げ~―――なんて事をせずに、勢いで作ってしまったホムンクルスにお店を開かせて面倒な事を押し付けて自由に生きる事にした。
作った魔道具はどんな使われ方をしているのか知らないまま「のんびり気ままに好きなように生きるんだ」と魔物なんてほっといて好き勝手生きていきたい静人の物語。
「まあ、そんな平穏な生活は転移した時点で無理じゃけどな」と最高神は思うのだが―――。
※「小説家になろう」と「カクヨム」で同時掲載しております。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…
まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。
しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。
選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。
選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。
貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…?
☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

異世界でお取り寄せ生活
マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。
突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。
貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。
意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。
貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!?
そんな感じの話です。
のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。
※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

隠密スキルでコレクター道まっしぐら
たまき 藍
ファンタジー
没落寸前の貴族に生まれた少女は、世にも珍しい”見抜く眼”を持っていた。
その希少性から隠し、閉じ込められて5つまで育つが、いよいよ家計が苦しくなり、人買いに売られてしまう。
しかし道中、隊商は強力な魔物に襲われ壊滅。少女だけが生き残った。
奇しくも自由を手にした少女は、姿を隠すため、魔物はびこる森へと駆け出した。
これはそんな彼女が森に入って10年後、サバイバル生活の中で隠密スキルを極め、立派な素材コレクターに成長してからのお話。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?
歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。
それから数十年が経ち、気づけば38歳。
のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。
しかしーー
「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」
突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。
これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。
※書籍化のため更新をストップします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる