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異世界
初めての作品
しおりを挟む今日、マーサちゃんのお店でゲットしたのは五色七本の糸のロットをよく使う黒と白の糸を多めに。それから、レース編み用に、お店にあった一番小さな鉤針、糸を切る用と布や革を切る用の鋏を各一本づつ、しなやかで扱いやすく価格も良心的なハックボアのなめし革、革の裏地にも使いやすいようにシンプルな黒の布と気に入った藍色の糸と同色の藍色の布と使い勝手の良い白い布を一反づつ、魔獣の革でも使えるニードルスピアの縫い針セット。セットなだけあって中には親切に指抜きやまち針、穴を開ける用の錐まで裁縫に必要なものは十分過ぎるほど揃っていた。
全て合わせて締めて大銀貨8枚。予算のギリギリまで使い果たしてしまった。
今後どうなるかも分からないが、それでも初期投資としては仕方のない額と今は思っておこう。決して後悔はしていない。
そして今はその素材を使って異世界第一作品目を作ろうと準備をしていたところだ。
有り難い事に、フランさんのご厚意で部屋でも作業がしやすい様に、と机としても使える丁度良いサイズの作業台と椅子を用意して貰った。
私は早速そこに腰掛けて今日の戦利品を並べつつ、どんな風に作ろうかと思案していたのだ。
作るものは買い物をしながら考えていた。
手始めに作れそうなのは、革の鞄やハンカチや鍋敷きなどの小物など。
本当ならどんな物に需要があるのか、などもっと街を見て歩いて市場調査をしたかったのだが、それよりも今は何か作りたい。
見たことも聞いたこともない動物や魔物から作られた布や革、針の使い心地や仕上がりが私を何よりもワクワクさせた。
「…やっぱ、ハンカチからかなぁ」
綺麗な発色に一目惚れして購入した“オルダースパイダーの育み糸”の黒と藍色、それに合わせて用意したしっとりとした質感の綺麗な藍色の布。
「簡単なレース編みを周りにあしらって上品な感じにしてみよう」
レース編みは編み方にも寄るが慣れてくればそれ程時間はかからない。
私はもう慣れたものでハンカチの周りにあしらう程度なら20分も有れば出来る。
ハンカチにするために一度周りを縫い合わせる。個人的にはハンカチはタオル地の方が好きだが、マーサの店で見た限りではタオル地はなさそうだった。
でも、この世界には貴族がいるのでハンカチがないと言うことはないはず。
縫い合わせが終わった生地にレース編みでエジングを施していく。
誰でも使いやすいように上品であまり派手ではないものを意識して編んでいく。
「刺繍も入れてみようかな…」
ふと、マリーちゃんと金色の獅子のみんなの顔が思い浮かぶ。マリーちゃんが声をかけてくれたから、金色の獅子の皆んなと出会う事が出来て、私は異世界に来て三日目にしてもう好きなハンドメイドを始められている。
「マリーちゃん、金色、獅子…ライオン…ひまわり?…いや、マリーゴールド…出来るかな?」
自分でも顔が綻んでいるのが分かる。こんなに楽しい気持ちになったのはいつぶりだろうか。
どんなに作っても、それが仕事になって、義務になってもずっと楽しかったハンドメイド。でも、今はその時よりも更に楽しい。
いつもなら掃除に洗濯、料理…時間にも制限があったのに、今はそれすらない。時間が許す限りいつまでも作っていられる。
「ハンカチもう一枚作っちゃおう。白地の方が普段使いにいいよね。ついでに、ドイリーも何個か買ってみようかな」
どんどん溢れてくる作品案と止まらない創作意欲。
道具や素材が違うからこそ、出来ることが限られているからこそ、今ある物で自分がどれだけ出来るのか、と。新しい事に挑戦している様な感覚に私はいつの間にか時間が経つのも忘れるくらいに熱中していた。
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