お嬢様は特別だ 〜乙女ゲームの悪役令嬢ミリアーナは何者か

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尊敬する主人の愛する君〜sideクレマン

主人の宝物の貴方

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 私が成すことはただ一つ。
 闇に生きるのは私の役目であって殿下の役目ではない。ミリアーナ様も殿下が私にお命じになられると思い、殿下にご相談したのに。

 判断を誤ってしまった。
 いや、ミリアーナ様とご一緒出来ると私は浮かれていたのだ。
 私は私の役割を理解していたはずなのに。
 私はいまだに貴方への未練を捨てきれていない。そして貴方は消さずとも良いという。
 敬愛する主人すら知らない貴方を…その秘密を貴方と共有しようと。

 この誘惑には抗えない。
 私は貴方の感受性が豊かで純粋で優しい所を好きになったのに、今では貴族らしく清濁合わせ持つ貴方に惹かれているとは。

「クレマン…だめよ。殿下に全てをお任せになっては。ね?」

「はい」

「殿下は太陽で、貴方が月でしょ?私は星に過ぎないわ」

「その通りでございます」

 私は貴方を塵芥と同じ星とは思わない。
 貴方は他の貴族とは違う。全く違う。

 殿下が太陽ならば、貴方は宇宙なのだ。そして、私が月。
 殿下が白ならば、貴方はグレーで、そして、私は黒なのだ。

 全く違う。
 だが、貴方がそう仰っるのならばそうだと口に出そう。それが私の意に反していたとしても、心からそうだと言おう。

「では、ミリアーナ様。また明日、お会いできることを楽しみしております」

「はい、私こそお会い出来るのを楽しみにしておりますわ」

 貴方の自由は私が守ります。


 ミリアーナ様をご邸宅へお送りした後、私は王子の執務室へ足を伸ばす。
 お一人で諸々の手続きを終わらせていた王子は私が入ってくるなり、お気に入りのマントを羽織り出かけの支度をする。

「クレマン、子爵家に行ってくる」

「畏まりました。コチラで手配しておきます」

「……うむ」

 いつも冷静でとても常識的で理性的でお優しい王子。なのにミリアーナ様の事となると少しお頭が弱くなる。何とも可愛らしい方だ。
 何の手配も無しに子爵家へ赴いても王子であろうと追い返されるのが関の山。相手は下級貴族の子爵といえど貴族だ。王族が暴政を行えないようにする為に貴族側にもそれなりの権利がある。
 私の言葉に少し冷静になれたのか、再びマントに手をかけてソファーに身体を預ける。

「では、少し席を外します」

「頼んだ」

 ミリアーナ様の言う通り王子は光、太陽、白を体現する人だ。彼ら相手に真正面から罪を裁こうとされている。
 だが、相手は狡猾な奴らだ。残念ながら手を出してきた子爵家はただの手駒だろう。
 その証拠にミリアーナ様のお家、フォントリーナ家が子爵家相手に手を出せていない。彼らが手を出せない相手…伯爵家以上の家なのだろう。

「準備をしておいて正解だったな…」

「その通りですね」

「コルアック、他の者たちにもすぐ動くように伝えてくれ」

「畏まりました」

 王子の執務室から出た私は、直ぐに部下たちに様々指示を与える。コイツらを動かしたんだ、方々への根回しは滞りないはずだ。
 いつ何があっても大丈夫な様にその辺の準備は予めしておいた。徹底的に敵と思われる者たちの動きを止める。
 私は必要ならば多少の犠牲も厭わないし、牢に繋いでも構わないし、罪が足りないなら作る、そう言う人間だ。
 まぁ、今回の相手は叩けば叩くだけ埃が出てくるような奴だ。特に題材には困らないだろう。
 だが、今回は王子のメンツがある。
 私の手柄になるような事だけは避けなければならない。出来るならば、せめてフォントリーナには王子の手柄としておきたい。

「明日の朝、殿下と出かける。準備をしておけ」

「畏まりました」

 今日は眠れそうにないな。




ーー
ーーー
ーーーー
ーーーーー




 諸々の準備を整えて、王子と共に子爵家へ向かう。
 これから向かうコモンド子爵家は現在のディーセル侯爵家の外戚筋の一族で、殿下の婚約者候補だったご令嬢のアリール様から見て再従姉妹に当たる家だ。
 殿下もそれを知っているから今回ミリアーナ様からご相談を受けた時にご自身でどうにかすると手を挙げたのだろう。

「…で、殿下ならびに宰相閣下の御子息様…我が家にお越し頂きました事、心より嬉しく思います」

「うむ、時間もない事だ。話しは知らせた通りだ。調べ終わったのだろうな」

「も、勿論でございます」

 相手は子爵家だ。
 地方に領地を持つ子爵家ならば、地方視察などで邸宅に泊まることもあるが、王都に居を構える子爵家に王族が訪れる事などない。
 勿論、今のように王子自ら赴いても罪を詳らかにする事も本来ならある訳が無い。
 貴族に対する裁きは王座の間で、家宅捜索は騎士団が執り行うことだからだ。
 だから、これは異例なことではあるが、王子の計らいで大ごとにしない、と言う意味なのだと彼らは思ったことだろう。

「それで調査の結果は?」

「は、はい!コチラに…!」

 王子は渡された資料を見ると、そのまま私に押し付けるように渡す。顔には出ていないが、相当キレているようだ。
 内容はおおよそコチラの予想通り。
 娘が勝手にしたことで、数人の使用人も協力をしていたが当主は預かり知らない事だった、のような内容だ。
 良くもそう舐めてくれたものだと私は一つ咳払いをする。
 その咳払いの意図も分からないような当主だ、奴らに使い捨てにされても致しかなが無い。救う価値もない。

「…なるほど、昨夜通達したのに良く此処まで調べたな。ご苦労だった。では、其方の娘は窃盗罪と脅迫罪、それからこれは盗賊にフォントリーナ家の娘を襲わせた証拠…殺人罪もあるのを認めると言うことで良いな」

「…い、いえ、まさか!……そ、その…そうです!娘は使用人に誑かされただけで実行犯はその使用人なのです!」

「しかし、ここにはそのような事は書いていないが?」

「そ、それは、書き忘れたのです。殿下が仰られた通り昨夜通達されたばかりでしたので…」

 あまりに分かりきった手ではあるが、一応それらしく唆したらしい使用人も連れてきた。
 だが、それは全く関係のない事だと気づいていないのが更に滑稽だった。

「では、追加でその使用人には教唆の罪と貴殿には調書偽造の罪を言い渡す」

「な、なにを!何を仰いますか!貴族の罪は…!」

「あぁ、事前通達だ。これから城へ向かう」

「わ、私どもは名前を貸しただけだ!何もしていないんだ!」

「ほう、誰に名前を貸したのだ?」

「……それは…」

 侯爵家も良くこんな口の軽い奴に仕事をさせた物だ…。いや、こんな事をしようと思う時点でその程度の奴らだという事なのだろう。

 


 
 
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