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婚約者になる為に〜sideフルーライト
私の残酷なお姫様
しおりを挟むミリーは今では誰もが知る“特別”なお嬢様だ。
ミリーが“特別”だと知られる事になったのはミリーの二歳の誕生日の時。
その時、誕生日パーティーに参加していた誰もが思った事だろう。
———あぁ、“特別”と言うのはこう言う存在の事を示していたのか
とね。
そして、そうなることは必然で、我々が彼女に惹かれてしまうのも当然のこと。
彼女はそう言う“特別”であり、“特別”ある彼女もまたそう言う存在であると分かっているのだ。
だから、全て仕方がない事なのだ。
彼女にどんなにこけ下されようとも、ズタズタに傷つけられようとも、ボロボロになって打ち捨てられようとも、そして、彼女が何者で、何を言って、何をしていても俺らは彼女を愛することから抗うことなど出来ないし、彼女が振り向かないと分かっても追いかけずにはいられないのだ。
俺はきっと死ぬまで追いかけるのだろうな。
そんな“特別”なお嬢様であるミリーは意外にも幸せで愛の溢れる素敵な結婚に憧れる可愛らしい女の子だった。
あれは彼女の十二歳の誕生日の日だった。俺を含めて彼女に惚れている者は多くいたが、家族の牽制が途轍もなく、また彼女自身とても貴族然とした女の子だったので、そう言う事に興味がないと思われていた。
そんな折に彼女は父親ウィルフォードに突然こう言った。
———ねぇ、お父様。わたくしの婚約者様はいつ決まるのでしょうか?
この時、これは神が与えた我々への祝福に思った。そして、それからは言うまでもなく、婚約者に立候補する者が殺到した。当然ながら、そこに俺も名を連ねた。
俺には既に婚約者候補がいたし、父には反対されるかと思ったが、何故か全く反対されることもなく、寧ろ強く応援される事になった。
それからと言うもの俺は王族だと言うのに、いまだに彼女の婚約者候補という事になっている。
そして、俺は王族であるからタイムリミットがある。卒業するまでに振り向いてもらう事が出来なかったら恐らく俺はアンジュを王妃として迎える事になるだろう。
アンジュはそれら全て分かった上で今は補佐としてそばに居てくれている。
その事で一度アンジュと話し合ったのだが、彼女は元々結婚はあまりしたいと思っておらず、女ながら文官になりたいという夢を持っているのだと言う。
ただ、アンジュはミリーのみを認めているそうで、彼女以外が王妃になるくらいなら自分が王妃を仕事としてこなす、と冷たくも優しい返事をくれた。
なので、ミリーとの関係がうまく行かなかった場合、私は王妃にアンジュを迎える。
こんな私の我儘に付き合ってくれる彼女には感謝しかない。
「今日の仕事はこのくらいにしておこう」
「はい、…ライト様」
ミリーはチュチュと三人か、二人きりの時だけ約束通り、律儀に『ライト』と呼んでくれる。
だけど、やっぱり彼女は立派な淑女だから人前ではそうしてはくれない。だから、どうしても名前で呼ばれるクレマンやフィールに嫉妬をするし、チュチュを紹介した事で少し距離感が我々よりも近いエルセフィロルには対抗心から嫌な態度を取ってしまうこともある。
全く情けない話である。
「ミリー、君を家まで送り届けさせては貰えないだろうか?」
「…ありがとうございます…」
ミリーはそっと可愛らしくキョロキョロと周囲を確認している。
「…ライト様」
「あぁ、とても嬉しいよ」
こんな些細な彼女の気遣いが嬉しい。
不意に淑女の顔を消して見せる少女らしい顔が好きだ。
こちらの好意に気づいて見せる少し照れた笑顔が俺を掴んで離さない。
俺の心の中は常にミリーでいっぱいで可愛いミリーを見れるなんて嬉しい、幸せだ、と心臓が叫んでいる。
そして、そんな可愛いミリーをこうして独り占めできる事が俺の煩悩を剥き出しにする。
「ミリー、今日の学校はどうだったかな?」
「本日は、朝から古代語の授業がありまして…」
こちらの好意は困ると控える侍女に視線を向ける君が恨めしい。
敢えて貴族然とした姿で牽制する君の態度に憤りすら覚える。
この業務連絡のような受け答え方が忌々しい。
君が淑女であろうとする度に俺は現実に引き戻されるんだ。
「ミリー、また明日学校でね」
「はい、ライト様。お会いできることを楽しみにしております」
あ、ほら。またこうして君は俺を誘惑する。
俺のことを思うなら、もう希望を持たせないで欲しい。
でも、辞めないでほしい。
俺は本当に我儘だ。
理想と言うならば、
俺は君を守るただ一人になりたい。
君の瞳に映るただ一人になりたい。
君の愛の囁きを聞ける一人になりたい。
我儘な俺を愛してほしい。
本当に我儘だ。
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