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婚約者になる為に〜sideフルーライト
私の愛しいお姫様
しおりを挟む私には婚約者候補が3人いる。
コルピット公爵家のアンジュ。メトン侯爵家のカトレア。ディーセル侯爵家のアリール。
王族である俺にとって後ろ盾を持つ為にも一番良い条件の相手なのは間違いがない。それに三人ともとても気量のいい娘で王族の結婚相手としても申し分ない。
それに幼い頃から遊んでいた為、気心も知れていて、三人とも俺の駄目なところも良いところもよく知ってくれているから変に気負うこともなく自然体でいられる。
きっと彼女らのような相手と結婚するのが私にとって良い未来に繋がると確かに思う。
だが、私はミリアーナと出会ってしまったのだ。
あれは完全な一目惚れと言うやつだった。
幼い頃から一度手をつければ何でもそれなりに出来てしまうからあまり苦労したことはなかった。
そのお陰で“神童”だなんてモテ囃されたものだから、子供ながらにかなり調子に乗っていた。
「父上、見ず知らずの赤ん坊のパーティーに行くくらいならカトレアとピクニックに行った方がマシなのですが」
「…まぁ、とにかく来なさい」
父に無理やり連れて行かれたパーティー。
この昼間の時間帯のパーティーは参加している親達に帯同してその子供たちも参加する事が多い。
しかも今日行くのは伯爵家で、パーティーの主役はたった2歳の少女だと言う。
幼い頃の二歳差はとても大きい。
尚更、教育もまともに受けていない自分よりも馬鹿な奴ばかりが集まっているに違いないと決めつけていた。
だから、これから連れてかれるパーティーも面倒くさいだけだと思っていたのだ。
「…ぷるん」
そして私はそのパーティーでミリーと出会う。
可愛いと言うのは誰もが認める事だろうが、彼女はそれだけの女の子ではなかった。
「ぷるん、やーの?」
「ぷるんはいやなの?、だそうです」
「それくらいは分かる。…ミリアーナ、俺は王族だぞ。礼儀をだな…」
周りから二歳児に何を言っているのだ、と言う視線をもらう。でも、私は王族だ。2歳の時から王族としてのマナーを求められた。なまじ出来てしまうから、それはエスカレートしていったのだ。
それが息苦しかった。させられる事がではない。 求められる事が自分の出来る事よりも上になっていって出来なくなってしまった時、周りがどう思うのか…それが怖かったのだ。
だから、これは八つ当たりだったのかもしれない。
「ごんしゃい、ごっしゃい」
「ミリアーナ様…」
「な、何だよ…」
「ミリ、ぶっぶっ。ごんにゃしゃい…、ご…ごん…」
「な、泣くなよ…」
先ほども言ったが、子供の頃の二歳差は大きい。
二歳の女の子が必死に自分のわかる言葉で謝る。それは単純なものではない。二歳上の子供が怒るのだ。怖いに決まっている。
「ご、ごめんな。一緒に遊んでやるから、な?」
「あ、ありあと…ずぴ」
この時だった。俺がミリーと結婚すると決めたのは。あんなに泣きべそかいてでぐちゃぐちゃな顔なのに、笑った顔がこんなにも可愛いんだ。
「……ほら、鼻を…ふんって、ふん、は出来るか?」
「ふんっ!」
「そう、上手だな」
そして、俺が守ってあげるしかないって思ったんだ。
「ぷるん、しゅき」
「…結婚してやってもいいぞ」
「ダメに決まってるだろ!そのガキをこっちに連れてこーい!
「おい!王族!王子だぞ!不敬にするぞ!」
「知らん知らん知らーん!ミリーは誰にも渡さーん!」
遠くで親達が怒っていたけど、俺はこの日伸びきっていた鼻を自ら折ってミリーを守れる男になる為に努力した。
まぁ、本物の“神童”様がいるし、ミリアーナは“特別”だから俺が守るなんて烏滸がましい話なんだろうけど。
「…フルーライト様、…ご相談が御座いますの」
「なんだい?ミリー。僕を頼ってくれるなんて嬉しいな」
彼女と目が合うだけでドキリと高鳴る鼓動。大きな瞳に不釣り合いにも見えるほど小さいその口から聞こえてくる小鳥の囀りのような小さく、でもよく通る優美な声。その声が少し遠慮がちに俺の名を呼ぶ。
「………最近、私の周りで不審な事が続いておりまして…」
「な、何だと!?」
「そ、そんな大層な事ではありませんの!…ただ、最近物がよくなくなっていたり、誰かに見られているような気がしておりまして……ある方にお伺いしたのです。私の物を盗んでいる方を見たと。私怖くて怖くて…!」
大きな瞳からついぞ零れ落ちる大粒の雫。必死に泣かないようにと耐えているその姿に心臓が掴まれたかのように痛む。
なかなか言い出し辛かったのだろう。小刻みに震える肩を思わず抱きしめる。醜聞だろうが何だろうが、泣いている彼女を抱き締めずにはいられなかった。
「…ミリアーナ、落ち着いて。それは誰なのかも聞いたのかい?」
「………ずぴ……はい、聞きました。…ずぴ……コレットが言うには、コモ…ずぴ……ンド子爵家のご令嬢だと」
初めは努めて名前を出さなかったのに、思わず情報提供者の名を出してしまうミリアーナが可愛い。
「分かったよ、ミリー。安心して?全部僕に任せてくれる?」
「はい、ずぴ…フルーライト様」
少しでも落ち着いてもらえるように、安心してもらえるように、信用してもらえるように、しっかりとした口調で、でもゆっくりと落ち着きのあるトーンでその小さな背中にぽんぽんと優しい振動を与える。
「クレマン、少し外す。ミリーを頼むぞ」
「はい、かしこまりました」
一番近くにいて、ずっと彼女のことを支えてあげたいし、寄り添って、あの可愛い声で俺の名を呼ぶのをずっと聞いていたい。
だけど、どれだけ慰めいても元凶がなくならない限り彼女はが安心する事はないだろう。
ミリーはとても強く気高い女性だが、だからと言って怖いものがないわけじゃない。
少しでも早く彼女の不安を消し去ってあげたい。
それは誰の手でも良いわけではない。
近くにいたいけど…良い機会だ。ちょっとした駆け引きをしよう。敢えて少し引いてみるのだ。
もしかしたら、君は突然離れていく俺が気になり出すかもしれない。
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