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婚約者になる為に〜sideフルーライト
私の可愛いお姫様
しおりを挟む「フルーライト様!」
「…おはよう、コレット嬢」
「はい!コレットです!」
君か…という言葉を飲み込んで、何にも考えていなさそうな笑顔を向けてくる彼女への溜め息も飲み込んで、俺は何とか口を開く。
学年が違うからミリーと会いたいと思っても、そうそう会えるものじゃない。だから彼女に当たるべきではないと分かっていても、彼女がミリーと話したと聞くたびに羨ましくて仕方がないのだ。
「ミリアーナ様にお伺いしたのですが、フルーライト様は昔、ミリアーナ様に“ぷるん”と呼ばれていたそうですね!」
「…あぁ、そんな事もあったな」
本来王族である私と下級貴族が会話をする機会なんてほとんどないに等しい。ましてや、下級貴族の令嬢ともなれば、尚のこと。もし仮に正式な挨拶を交わしたとしてもその後も挨拶程度が基本で、こうして普通に日常会話を交わす事など死ぬまでないのが普通だろう。
だが、私はこうして男爵令嬢であるコレットと話すのには訳がある。それは彼女が私の愛するミリアーナと友人となったからだ。
「“ぷるん”だなんて可愛すぎますね!」
「…確か、あればミリアーナの誕生日の時だったか。彼女が食べ物の“ぷるん”を作った時にそう名付けられたのだ」
「そうだったのですね!その時、実はミリアーナ様はフルーっていうつもりだったそうですよ。あぁ、その時のミリアーナ様もきっとお可愛かったのでしょうね」
「そうだったのか…。勿論、あの時の彼女は本当に可愛いかった」
それに彼女がするのはいつもミリアーナの話しばかり。周りからはきっとたわいも無い話をしているように見えるだろうがどちらかと言えば、私の惚気話を聞いてもらっているようなものだったりする。
このコレット・オクレールという女生徒はいつも会うたび私の溢れんばかりのミリーへの気持ちの聞いてくれる。
「前に殿下が仰っていたミリアーナ様がお花畑にいた時の話ですが…」
「うん?そんな話したかな?」
「はい!あれは確か…」
だが、だからこそ嫉妬してしまうのだ。彼女のするミリーの話しはいつもいつも俺の知らないものばかり。聞き逃さまいと思いながらも、話しを聞く度にミリーがそこまで心を許しているのだと説き伏せられているような気分になり悔しくて堪らない。
だから、こうして時々自分の方がミリーを知っていると言い聞かせるようにミリーとの思い出話しを語ってしまう。
何故だろう、同じ女性でもチュチュアンナ嬢ならそこまで気にならないのに。
…それは多分、チュチュアンナ嬢は私と同じ立場だからなのだろうな。
コレット嬢は最近ミリーと仲良くなったと言うのにどうしても我々よりも仲が良く見えるのだ。
「殿下」
「クレマン、どうした」
「可及の要件で先生がいらっしゃっております。生徒会室にお急ぎください」
「あぁ、わかった」
そして、そういう時はクレマンは早々に会話を切り上げるようとしている。
「…すまんな」
「いえ、それが私の仕事なので」
俺がついミリーの話だと思うと周りの視線など気にせずに聞いてしまうからクレマンも醜聞にならない範囲での会話に留まらせる。
「お前も聞いていただろ?ミリーはいつの時でも可愛らしいのだろうな」
「私にはミリアーナ様の名前をダシにして殿下と会話をしたいだけに見えますが」
「…確かに、ミリーの話しを出されると無碍には出来ないが…」
ミリーの友人だから今の所は私の方から直接文句を言う気はないが、俺は王族。立場がどう考えても違う。だから、不敬が過ぎるのでないか、と言うクレマンの気持ちもよく分かる。
クレマンが苦言を呈するのは彼女の行動が可笑しいからでもある。王子である俺からすれば彼女の家が裕福であることなど納められている税を見ればすぐに分かることだし、彼女の作り出した“チョコレート”は貴族達にも大人気のお菓子だ。知らぬ訳がない。
それ程裕福な家の令嬢が何故かまともに教育を受けていないフリをしたり、なのに突然完璧な作法を見せたり、何がしたいのかさっぱりわからない時は確かにある。
クレマンが言うには輿入れ先を探すためにわざとしているのではと言う。
彼はいつも辛辣なのだ。
ただ、彼女は下級貴族でありながらミリーと仲が良いから、その恩恵として周りから一目置かれるようになったらしい。
それから他の者達は口を揃えて言っていた。あぁ言うのを天真爛漫と言うのだと。ミリアーナとは真逆の人物だと。
皆んながそう言うのならばクレマンの言葉も一理あるのかもしれない。
だが、俺からすれば彼女はミリアーナに似ていると思う。
ミリーは貴族としてこうしなければ、というのが強いが、中身はとても天真爛漫で幸せな結婚に憧れる可愛い女の子なのだ。
「不思議なんですよね…」
「何がだ」
「彼女がミリアーナ様と話している姿を見た者が一人もいないのです。なのにミリアーナ様から聞いたと言う。どうしてあんなに色々と知っているのでしょうか?」
「寮で話してるんじゃないか?」
「寮で…ですか?チュチュやあの家の使用人たちががそんな事させますかね…?」
まだ腑に落ちてないと言わんばかりに疑問で返して来たが、そんな事は知らない。
それから数日だったある日の昼下がり。
その日は午前中は王宮での仕事があったので学校には午後から登校した。
昼過ぎだと言うのに少し肌寒く、ただ着替えに戻る時間も無かった。数日前にミリーがマントの話しをしていたのを思い出して、珍しく学校にマントを羽織って行ったのだ。
昔、ミリーにマント姿を褒められて、私はまた褒めてもらいたくて様々な種類のマントを作らせた事があった。(そのせいで一時期マントたくさん所有する事が流行った)
だけどミリーが褒めてくれたのは結局その一回だけで、このマントが1番のお気に入りになった。
「ライト様、そのマント素敵ですね」
「あぁ、…ありがとう」
やっぱり何故かミリーはこのマントを褒めてくれる。そして、また褒められたくて俺はこの少し草臥れて、丈が少し短いマントを身につける。
これからは学校にも時折身につけていくか。
「…今日はあの女生徒、突撃して来ませんでしたね?」
「ん?確かにそうだな」
確かに言われてみればそうだったかもしれない。
最近はクレマンに会話の途中で呼ばれるから生徒会の人数が足りないのではないか、と手伝えることはないか、と聞いてくる。
勿論人数は足りているし、流石にミリーとの貴重な時間は誰であっても邪魔をされたくないから例え人数が足りていなくてもこれ以上誰かを生徒会に入れる気はない。
「人数は足りていると言っているのだがな」
「全くです」
やっぱりクレマンは辛辣だな。
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