お嬢様は特別だ 〜乙女ゲームの悪役令嬢ミリアーナは何者か

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悪役令嬢のいる世界〜sideコレット

びっくりな悪役令嬢

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 入学式から1週間が経った。
 相変わらずミリアーナは注目の的で当人は全く気にとめていないが、彼女に声をかけてもらいたい令息と令嬢の群れを引き連れながら歩いている。

 その間の私はと言うと特に何もしていない。今日まではゲームでは描かれていない1週間だから。
 この1週間はただの説明文で済まされている。

ーーーヒロインはなかなか学園に馴染めず、友達も出来ないまま一週間が経った…

 ってね。
 そう、だからその説明文通りに私はあえて周りと馴染まずにイベントが始まる今日まで静かに過ごしたの。

 今日起こるイベントは…

 『一人で教室の移動しようとしていたら完全に道に迷ってしまいテンパっているとクラスメイトである公子エルセフィロルを見つけて、これで教室まで行ける!とこっそり後ろをついて行く』

 と言う何とも言えないイベントである。普通の乙女ゲームなら何だそりゃ、と思ってしまうような展開だけど、乙女ゲーム界史上最高難易度を誇る『特別なお嬢様』で起こるイベントは基本的にこんなものばかりだ。

 でもこれが後々になって涙さそういいシーンになっていったりするの。

 公子であるエルセフィロルは幼い頃に迷い込んだ森の中の花畑の真ん中で、これまた偶然ピクニックに来ていたまるで花の妖精のように神秘的な愛らしさを持つミリアーナに一目惚れする。
 物語ではよくある設定だが、幼い頃より頭が良く、要領も良かった彼は『神童』と周りから褒められ続けていたが、それはあくまで彼の周りがそう言っているだけであって本物の『神童』は別にいると言う事をひょんなことから知ってしまう。
 情けなさと悲しみにくれて屋敷を飛び出した彼はその時に迷い込んだ森でミリアーナと出会うのだ。妖精と見紛う程に可愛いらしい彼女を自身の婚約者にすべく動くが尽く潰されて、挙句、彼女の兄が幼心を抉った本物の『神童』であると知り、上には上がいるのだと言うことを更に突きつけられる。

 そのせいで彼は諦め癖がついてしまってどんな事にものめり込めなくなってしまうの。
 しかし、悉く潰されたミリアーナとの婚約だけは彼女が十歳の誕生日に放った一言で一変する。

 “ねぇ、お父様。わたくしの婚約者様はいつ決まるのでしょうか?”

 家族は彼女を結婚させる気は更々なかったが、ミリアーナ本人は政略結婚は当たり前だと思っていて、むしろ結婚に前向き…いや、憧れていたのだ。
 両親の幸せそうな姿を見ていてとても憧れている、何て招待客の前で語ったものだから、その場で婚約の申し込みが殺到。
 当然、両親も兄も本人に結婚するな、とは言えなくなってしまい、父親が“ミリアーナが好きになった人と結婚しなさい”と言ったが為に本人へのアプローチ合戦がスタート。

 そして、公子エルセフィロルは数回、偶然を装って会いにいき、その過程でミリアーナ唯一の親友チュチュを紹介するという大手柄を挙げた事で他のメンバーよりも一歩リードする事に成功したの。

 そんな公子エルセフィロルとのイベントのために私は今、迷子になっているの。そう、私は迷っている。
 勿論、演技だけど。
 確かにこの学院は凄く広いけど、作りは単純で、全て碁盤の目状になっていてとても分かりやすい。

「これを迷うなんてどんだけだよ……って来た来た公子様」

 私はわざとらしく見えない程度に周りをキョロキョロと見て道に迷っているフリをする。
 ゲームでは公子エルセフィロルはヒロインに気付くと踵を返してしまう。

「このまま公子を追いかけるとちゃんと教室の前にたどり着くのよね」

 声をかけてはいけないから、私は大人しく後ろをついて歩くことしか出来ない。
 ただ、これはなかなかに大切なシーンだったりする。何故なら、ヒロインはこの時のお礼としてこっそりと公子と悪役令嬢を引き合わせるのだ。

「あー、早く攻略対象達と話した~い」

 でも、辛抱よ。わたし!
 これから怒涛の辛抱の日々が来るのだから。

 とりあえず無事今日のイベントは終わりね。
 本当に授業受けないといけないのがかなり辛いけど、“ヒロインは田舎の貧乏貴族で勉強にもついていけず、マナーも乏しくて、見窄らしい”こういう細かい設定所を疎かにすれば、ギャフン展開もあり得る。私は絶対にモノにしたいの!そこの設定は変えてはいけないわ。
 
 とにかく、明日からの挨拶イベントは本当に長丁場になるよね。だから、出来ないフリをする為に前世のお陰で分かる算数の時間は明日のイベントのために使いましょう。

「一度おさらいしておきましょうか」

 明日から始まるのは挨拶イベント。
 各キャラクターと2回ずつ一対一の状態で廊下ですれ違う。そこで挨拶をするっていうイベント。

 はーい!ここで問題です!(誰に言ってんだ?)
 このイベントでは攻略対象とすれ違う度に以下の選択肢が現れます。

1、普通に挨拶する
2、頭を下げる
3、壁側に寄る
4、何もしない

 貴方ならどれを選ぶ?
 まぁ、普通なら好感度を上げないといけないのだから1番だと思うでしょ?
 だけどここには沢山の落とし穴があるの。
 それぞれの選択肢の旅に各キャラクターの専用スチルがあるのよ!!!!
 だから、このゲームをやっている全乙女(オトメンも含む)は全部のスチルを制覇する為に失敗するであろう4番の何もしないを選択肢したの。
 かく云う乙女ゲームマスターの私も同じ沼にハマったわ。
 そして…正解が4番なのよ…。

 ねぇ、どう思う?
 初めに1番を選択して神スチルゲットして、『あ、これわざと失敗して全部のスチル回収しなきゃ』って思ってわざわざ一度ロードし直して4番選択し直したら正解だった時のガッカリ感。
 分かる人いるよね?ね?ね?ね?
 しかも、全選択でスチルが出ちゃったもんだからさ、他の組み合わせでももしかしたら隠しスチルあるかも、なんて気づいちゃった時にはもうヤバかった。
 丸2日かけて総当たりラッシュしましたよ本当に。もちろん何もありませんでした。はい。

 あ、因みに私は2番を選択した時のフルーライトのスチルが一番のお気に入りでした!
 あのちょっとびっくりしたような表情をしながらも怒ったような態度を取る、ちょっとお子ちゃまっぽいフルーライト。まじ最高かよ。

 ふーっ。まぁ、今はゲームじゃないからね。普通に4番を選択しますよ。
 そして、全8回の選択を全て4番で通すと9回目の時にミリアーナとすれ違うの。その時に同じ4択の選択肢が出て、これで1番を選択するとミリアーナが少し前のめりに屈んで周りに聞こえないように小声で挨拶を返してくれる。
 それを見た取り巻き攻略対象達がその後から私に挨拶を返してくれるようになるの。
 ここまで来ればただの挨拶だけど少し会話を交わせるようになるから頑張らないとね!






ゲームと違って一度の失敗だって許されないから気を引き締めなくてはね。

 
 
 

 
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