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悪役令嬢のいる世界〜sideコレット
初めての悪役令嬢
しおりを挟むパーティー会場は流石といえば良いのかな。お金持ちになって改築した我が家がすっぽり二軒分は入りそうな程に広い会場。
ここは王都なのにこれだけの土地を使える、流石…王立学院ね。
…おっと。そんな事に思いを馳せている暇はないんだった。だって此処からは今一度慎重にならないといけないから。
私が愛して止まない《特別なお嬢様》は乙女ゲーム界の中でも最高難易度と言われていた。
何故《特別なお嬢様》が高難度なのかと言うと、まず一つ目に攻略対象は政治的な理由や社会地位保全の為だったり、監視だったり…と様々な理由で悪役令嬢のミリアーナの婚約者の座を狙うように親かから言い聞かされているために常に側に侍っているのだが、それ以前に全員初めからミリアーナの美貌にメロメロなのだ。
ゲームの設定上ミリアーナはその美しさで出会った者達を忽ちメロメロにしてしまうし、とても聡明で博識でこの歳で商会長としても活躍していて、彼女のお陰でこの世界の文明レベルが100年は進んだと言われている。
まさに完璧なご令嬢。まさに題名通りの特別なお嬢様。
だけど、その完璧さがミリアーナを悪役と言わしめる理由でもある。
ミリアーナは幼い頃から超絶過保護で優秀な両親と兄、そして使用人達に鉄壁な要塞のごとく守られていたために色恋なんてものさは全く分かっていないし、そういう方に進まないようにコントロールされて来た。
お陰でミリアーナは自身が周りから色んな意味の視線を向けられているのを良く理解していない。当然ながらに完璧な令嬢であろうとするから周りに本心を出すことはなく、仲の良い家族や使用人以外には常に冷たい態度が当たり前になってしまう。
そう、ミリアーナは世の中の全てのものを自身の意思とは関係なく振り回して生きる悪役令嬢なのだ。
これが難易度が高い理由の二つ目。
私もこれで何度やり直しをさせられたことか…。
ミリアーナが言いよってくるフルーライト王子をズタボロにした後、彼を慰める為の選択肢を選ぶ時…。
1、ミリアーナを褒める
2、ミリアーナを侮辱する
3、何も言わずに背中を摩る
4、抱き締める
この選択肢が出てきたら何を選ぶ?
一番初めに思い浮かぶのは4番。此方の愛情も伝わるし、彼を慰める事も出来る。
二番目に思いつくのは2番。ズタボロにされて可哀想な王子を肯定してあげられる。
次に視野に入るのは背中を摩る。寛大な部分を見せて良い女だと思わせる。
そして一番最後にミリアーナを褒める。決してこれも選択肢としては悪くない。悪役を褒める大らか部分を見せれる。
しかし、これはどれを選んでもバットエンドだった。
もう、この展開に入った時点で終わり。
4番の選択肢は他の女と抱き合っていたと醜聞が広まり、2番の選択肢は愛するミリアーナを侮辱したと王子本人に咎められ、3番は王族に勝手に触れたと不敬罪に問われる。
最後の選択肢なんて一番最悪で、ミリアーナを褒めた途端、やっぱりそうだよな…と納得した王子は叶わない恋を抱いたまま誰とも結婚せずに一生を終える。
私はそんな攻略対象達を慰め、励まし、時には涙さそうようなスチルを挟みつつ、ゆっくりと愛情を深めていき、彼らの心を解きほぐしていくことのできる唯一の存在。
だから、振り向いてくれた時には最大級の溺愛とミリアーナからはお祝いまでしてもらえる。
「…絶対にハーレムルートに進んでみせる!その為にはまず…」
ヒロインであるコレットは入学式後の歓迎会で四人の攻略対象とコレットが結ばれる為に色々と手助けてくれるお助けマン的な存在の青年アロイスと出会う。
アロイスはフォントリーナ伯爵家に仕えていて、ミリアーナの護衛をしているジャミール・カルトレインの弟だ。
大変優秀な兄ジャミールに憧れつつ、密かにミリアーナに心を寄せている。
実は私的にはアロイスのミリアーナへの愛が一番好みだった。だって叶わないと分かっていながらもずっと愛し続けたのは結局彼だけなのよ。
他は皆んなコレットに乗り換えてる。
アロイスだけが叶わない恋をずっと心に秘めてたの。…イジらしいじゃない?
因みに言うと、ミリアーナは特別な存在でみんなに愛されてるからどんなバッドエンドでも死んだりはしない。その代わり、ミリアーナは一生独り身でいることとなる。だけどヒロインはバッドエンド=死亡エンドなのよね。
みんなに愛されて?生まれた時から幸せで何一つ不自由ない贅沢な生活を送って来て?紹介立ち上げて誰もの憧れで?その上可愛くて?性格もいい?
私もこんなふうになりたーい!ってゲームをしてた当時は思っていたわ。
アイツは敵!私のハーレムを邪魔する敵なのよ!一度敵と認識してしまえば、ミリアーナはモテモテチートのたらしクソ女で、言動の何もかもが嫌味に見えてくる。
だってそうじゃない?ミリアーナだって所詮は伯爵家の娘。本来なら王族とは身分的に結婚もできない。なのに何?可愛いからって許されてたら警察いらねぇんだよ!それだけ恵まれて来たんだからみんなのミリアーナとして死ぬまで永遠に一人でいればいいのよ!
って思うでしょ?だからね、全部奪ってやるの。全員私のモノにする。
そうとなれば…。
「…いたわね、アロイス」
もう少ししたら、ミリアーナ達が会場に入ってくる。
「…ミリアーナ様だわ!」
「ご、ご挨拶出来るかしら…」
「誰か、ご紹介して下さらないかしら…」
そうそう、これこれ。
そして、誰もがミリアーナ達の登場を喜び、ハエの如く群がる。
アロイスは学生として入学しているが、当然伯爵家に仕えている身なのでミリアーナの護衛も任されている。
だから、遠くから彼らを見て危険なら突入するつもりなのだ。
そう、近くには偉大な兄、ジャミールが控えているから、こうしていつも遠くから見守っているのだ。
「…だから、私は何も分からないふりをして…」
そんな中、一人ミリアーナに群がらないコレットを見つける。
アロイスはそんなコレットが気になり声をかける。
「お前…コレット・オクレールだろ」
「…え?」
ま、まって…セリフが違うわよ!
此処は『お前、お嬢様に群がらないとは何を考えている』でしょ!?
「何故名前を知ってるのか…と戸惑っているようだな」
「…」
その通りよ!
貴方の言う通り凄く驚いているわよ!
や、やっぱり…物語を変えてしまった代償が…!?
「お前、お嬢様に群がらないとは何を考えている」
「あ、いや…私みたいな田舎ものなんかが近づいて良い人じゃないって分かってるし…」
「賢明な判断だな。あのハエどもとは違うようだ」
そう!それそれ!
なんだ…良かった…。やっぱりゲームのまんまだった。ゲームだから、飛ばし飛ばしで内容進むもんね。
いちいちトイレ行ったり、勉強したり、ご飯食べたり、家までの帰り道だったりなんてイベントがない限りそんなシーン出てこないもんね。
……全く驚かせないでよ。
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