温もり

本の虫

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11月

命日 side黎

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血とか暴力的なのでてきます・・・苦手な人はお気を付けください。




ー・-・-・-・-・-・-・-・-





「ここは・・・?」
真っ白・・・?見覚えのない広いだけの場所。
「黎のこころのなか・・・みたいな?」
「!?」
「だれってかおしてるけど・・・れい、だよ。9ねんまえくらいのね。」
そう、たしかに9年前の。叔母さんに殴られてついた傷や痣も見える。
「夢・・・?」
「うん、そう。ゆめだとおもっていい。れいは、黎のにじゅうじんかくのできそこないだから。」
「・・・わかんない。自分の夢なのに。」
「れいは、黎をにがすためにできたんだよ。でも、いちにちげんていのできそこない。もうずっと、がたはきてたんだ。ねえ、黎もれいにたよるのはやめて、もう、おわかれのときなんだよ。」
「誰と別れるの・・・?」
「わかってるくせに。かこにあまえて、みないふり。もうきずつきたくないだなんてただのいいわけ。ほんとはじぶんのせいでおかあさんがしんじゃったってみとめるのがいやなだけなんだ。」
「そんなことない!!!お母さんは病気で死んだんだ。陽ちゃんがそう言って・・・」
「うそつき。そんなのはようちゃんが黎をきずつけないためについてくれてるやさしいうそ。ようちゃんはやさしいからきっとずーーーっと黎のことまもってくれるだろうけど、黎はそれでいいの?おかあさんからもおとうさんからもつらいかこからもにげっぱなしのよわむし。」
「うるさい・・・うるさいうるさいうるさいうるさい!!!!??」
「だまらないよ。ねえ、もうむきあうときだ。にげてちゃやっぱりなにもはじまらないんだよ。こんなこと、はやくおわらせて、しあわせになんなきゃ。」
「え・・・?」
「ずっと、ずっとずっとずっとずっとだいすきだったようちゃんはついに黎とりょうおもいになった。いまは、ひとりでなかなくてもみんながたすけてくれるでしょ?ううん、もとかられいはひとりなんかじゃなかった。ようちゃんは、なんねんもまえから黎のことあいしてくれてた。しゅんくんも、あきらくんも、なおきくんだって。そんなやさしいひとたちにもうそをつきつづけるの?そんなによわいにんげんなわけ?おかあさんがしんだのをいいわけにしてらくにいきていたいだけなんだよ。だってつらいもんね、おもいだすの。だっていたいもんね、なぐられてたきずが。でもさ、かくしてたってにげてたってつらいまんま、いたいまんま。だったらしょうめんからちゃんとむきあって、かいけつするべきだ。いっしゅん、すごくつらいかもしれない。いっしゅん、すごくいたいかもしれない。でも、みんながたすけてくれるよ、ぜったいに。」
「お、もいだす・・・」
「そうだよ、あのひ、なにがあったのか。いまならぜんぶおもいだせるはずだよ。」
「あ、の日・・・」




*****




「黎。この曲を弾いて。」
寒い、寒い朝だった。突然、まだ外は暗いのにお母さんに起こされたのだ。そのままずるずるとピアノの前にまで引きずられて。きっとお母さんはあのころもうおかしかったのだ。
「まま・・・?ねむいよう・・・」
「黙れっっっ!!!いいからおとなしく弾きなさいよっ!!!!!」
「いたいっ・・・!・・・このがくふの、ひけばいいの?ぼく、こんなのひいたことない・・・!」
「ふん。だから?弾けって言ってんでしょ。トルコ行進曲、よ。」
「わかった・・・」
なにがなんだかわかんないけど、逆らっちゃダメだって思ったから、おとなしく楽譜を見た。初見で弾くなんてとてもじゃないけどできないくらい難しい曲だったけど、また殴られたくなかったから、必死で、弾いたのだ。
「・・・あなた今、いくつだっけ?」
弾き終わって、たしかにそんなに上手ではなかったけど、下手くそでもなかったから褒めてほしくて。お母さんのほうを見たら怖い顔をしたお母さんがいて。
「あーいいしゃべらないでイラつくから、6歳だっけ・・・6歳・・・ははっ!たった6歳の?子供が?初見でトルコ行進曲をあっさり弾くわけ?意味わかんない、なんなの、気持ち悪いのよ!!!!あんたなんて!!!!」
それからお母さんはなにかをわめきながら、僕のことを縛り付けて殴って。・・・手と顔は絶対に殴られなかったけど。それで、包丁を出して。僕は、切られるって思ったから、大声で叫んで、でもうるさいって殴られて、お母さんは包丁を、包丁で、ほうちょうで・・・?


「ああああああああああああああああああああああああああああっっっっっっ!!!!!!!???」


叫び声が。自分の腕を、手首を、切りつけて。目の前が真っ赤になって。左手で右手を切った後、血まみれの手で包丁を右手に持ち替えて。左手の手首も切って。鉄のにおいが部屋中に広がって気持ち悪くなって僕は吐いた。お母さんは、お母さんは。


「ははっ!!!ははははははははっっっっ!!!!!もうこれじゃピアノ弾けない、黎とも比べられないわ、あははは、血が、血が出てる、痛い、いたいいたいいたいいたいいたいああああああああああああ!!!!!??」


部屋にある楽譜を本棚から引っ張り出して、痛いいたいって言いながら引き裂いて、そのあと、突然気が狂ったようにピアノをめちゃくちゃに弾いた。曲になんてなってなくて、音が気持ち悪いだけだった。真っ白な鍵盤が真っ赤になって、ピアノの音もどんどん濁って。うるさくって。僕は気持ち悪くて怖くて叫んで叫んで。
そしたらお母さんが。今までで一番大きい音を、自分の手を鍵盤にたたきつけて出して。そして椅子から滑り落ちた。血まみれの床に血まみれのお母さんが。


「ままっっ!!!!まま!!!!!どうしたの!!!!???ままあああああああああああ!!!!!!!」


のどが破れるぐらいの大声で叫んだ。ここは防音だから、今思えば外に音は全然聞こえてなっかったんだろう。でも、誰でもいいから来てほしかった。助けてほしかった。この部屋から出してほしくて、泣き叫んだら。


「れいっっっっ!!!!!!」


お母さんは電気つけなくて、外からの微かな明かりしかなかったから。ドアが開いて光がさして。まぶしくて、うれしくて、つらくて、痛くて、なにがなんだかわかんなくて、そのまま意識を失ったのだ。





*****




「おもいだした?」
「うん。お母さんは、自殺したんだね僕の前で。」
「そうだよ。このあとはおぼえてるでしょ?きおくなくして、いろんなおとなにといつめられたけどわかんなくて、たおれてにゅういんした。そのときに黎をまもるためにうまれたのがれいだよ。」
「そう、なんだ・・・。それで、何の用なの・・・?」
「もうれいはつかれた。きえたい。それにれいのそんざいは黎にもすとれすだしね。だから、黎にぼくをけしてほしいんだ。黎なりのほうほうでいい。かことわかれて。わすれろ、なんていわないけど。けつべつしてよ。ふっきれて。あたらしいみちをすすんでほしいんだ。いまも黎は6さいのあのころからにげだせてないから。」
「・・・わかった。僕は、君と別れるよ。もう、甘えない。」
「うん、そのいきだ。きたいしてるよ。じゃ、もどんなよ。れいがかわりをするひつようはもうないだろ?」
「・・・今まで、ありがとう。ばいばい、またね。」
「ばいばい。もう、またね、はないよ・・・ぜったいにね。」


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