23 / 30
1st
023 いちばん甘いこと
しおりを挟む
あいつ(俺)×ぼく 雰囲気r-15 社会人CP 甘いもの、嫌がること、察すること、好きな
「ザラザラざらめ……」
つぶやいて、ぼくはそのカステラの下の薄い紙をゆっくり、あまりカステラの底がいっしょにこそげていかないように注意して剥がした。
それからひとくち、ふたくちと口に入れた。底に何粒かざらめが敷いてあるやつで、それを噛み砕く。
あいつは甘いものが嫌いだ。
甘いものを食べたあとのキスを嫌がる。
だから、意図的にぼくは甘いものを食べるときがある。喧嘩したときとか。
今日はキスをしたくないととびきり甘そうなケーキを買って帰ったりする。
だからもうあいつも、甘いものを、そういう合図というかぼくからのしたくないサインだと思っている節がある。
それは、正しい日もあれば、正しくない日もある。意図して、合図として機能させてる日もあるが、そうじゃない日もある。
今日はそうじゃない日だ。
たんにカステラが食べたかった。
この店のやつを。
今日が最後だったから。寄ることができてよかったポップアップショップ。
なのに、あいつは何を勘違いしたのか、ぼくが買ってきたカステラの箱を取り出したらちょっとシュンとした顔になった。
外では冷静沈着できりっとして、たぶん職場では人をまあまあ威圧しているだろういかつさの背丈の、あいつが、一瞬で落ちこんだ様子の、肩を落とした大型犬みたいになって、目をそらして自分の部屋に行くのを、ぼくはキッチンでカステラの箱をぺりぺり開けながら見送った。
ちがうのに、とカステラを味わい終えて、明日の分として残した何切れかを箱にしまう。
ドアをノックする。
顔を出す。険しく眉を寄せた、探る表情だ。
「コーヒーは?」
ぼくは言った。
まだ何か考えるように、こちらを睨んだまま、黙っている。
しょうがない奴、とぼくは手をつかみ、指を絡めた。
ぐぃっと部屋から引きずり出した。
コーヒーを淹れる姿を見ていた。
こいつの好きなコーヒーの、芳醇な匂い。
ブラックで飲んでいる。
ぼくには想像もできない味。ぼくはミルクも砂糖もたっぷり入れる。
じっと見つめると、まだほんのわずかに疑っている目で見下ろしてくる。
ぼくの今の機嫌を推し測っている。
まだ、そこにカステラの箱があるからかもしれない。
ためいきをついて、ぼくはマグカップを持つ大きな手に、手を伸ばして添えて少しこちらに寄せて、身を乗り出してブラックをひとくちだけもらう。苦い。
そうしてやっと、わかったらしく、大型犬の落ちこんだ目つきが活気を取り戻す。
しかし……甘いものじゃなくて、甘いものを買ってきたぼくの表情と様子と空気で、判断してほしい。
それを、やや鈍くて、ぼくについては冷静に察そうとしないこいつに言うのは酷だけど……。
◇◇◇
風呂上がりに、乾かすまえにぼくの髪に長い指をむぎゅと差し入れてくるのが気持ち良い。
よくわからないけど、こいつはそうするのが好きみたい。
無造作な指。
こんなことされて、気持ち良いのは、こいつ限定。
ベッドでゆるくキスした後、これからは甘いものではない、言葉でちゃんと訊くこと、と言いつけると、なんとなく釈然としない顔でいちおうといったかんじで「わかった」と言う。
抱っこさせて、その首元にぼくは顔をくっつける。
鎖骨さえ太いような骨を感じる肌がふれる。
ここが落ち着くのだとくっついていると、頭ごと掴み直されて、離されて、抱きしめられる。
今日はまだ何かさびしがっている、とぼくは抱きしめ返した。すると
「……俺にとっては、おまえとの、……いちばん甘いからな」
ぼそっといきなり、しごく真面目なトーンでささやくから、ぼくはまばたいた。
だから、身体を押して離れて、「ん、んなこと、ない」と変なふうに答えてしまった。
ぼくの反応に「……?」と首を傾げる様子で、腕がぼくをあらためて捕まえる。
そして、甘いものと言うみたいに首筋を噛まれて、力が抜ける。
もういちど、「そんなことはない」と言い渡したいのに、言えなくなってしまった。
「ザラザラざらめ……」
つぶやいて、ぼくはそのカステラの下の薄い紙をゆっくり、あまりカステラの底がいっしょにこそげていかないように注意して剥がした。
それからひとくち、ふたくちと口に入れた。底に何粒かざらめが敷いてあるやつで、それを噛み砕く。
あいつは甘いものが嫌いだ。
甘いものを食べたあとのキスを嫌がる。
だから、意図的にぼくは甘いものを食べるときがある。喧嘩したときとか。
今日はキスをしたくないととびきり甘そうなケーキを買って帰ったりする。
だからもうあいつも、甘いものを、そういう合図というかぼくからのしたくないサインだと思っている節がある。
それは、正しい日もあれば、正しくない日もある。意図して、合図として機能させてる日もあるが、そうじゃない日もある。
今日はそうじゃない日だ。
たんにカステラが食べたかった。
この店のやつを。
今日が最後だったから。寄ることができてよかったポップアップショップ。
なのに、あいつは何を勘違いしたのか、ぼくが買ってきたカステラの箱を取り出したらちょっとシュンとした顔になった。
外では冷静沈着できりっとして、たぶん職場では人をまあまあ威圧しているだろういかつさの背丈の、あいつが、一瞬で落ちこんだ様子の、肩を落とした大型犬みたいになって、目をそらして自分の部屋に行くのを、ぼくはキッチンでカステラの箱をぺりぺり開けながら見送った。
ちがうのに、とカステラを味わい終えて、明日の分として残した何切れかを箱にしまう。
ドアをノックする。
顔を出す。険しく眉を寄せた、探る表情だ。
「コーヒーは?」
ぼくは言った。
まだ何か考えるように、こちらを睨んだまま、黙っている。
しょうがない奴、とぼくは手をつかみ、指を絡めた。
ぐぃっと部屋から引きずり出した。
コーヒーを淹れる姿を見ていた。
こいつの好きなコーヒーの、芳醇な匂い。
ブラックで飲んでいる。
ぼくには想像もできない味。ぼくはミルクも砂糖もたっぷり入れる。
じっと見つめると、まだほんのわずかに疑っている目で見下ろしてくる。
ぼくの今の機嫌を推し測っている。
まだ、そこにカステラの箱があるからかもしれない。
ためいきをついて、ぼくはマグカップを持つ大きな手に、手を伸ばして添えて少しこちらに寄せて、身を乗り出してブラックをひとくちだけもらう。苦い。
そうしてやっと、わかったらしく、大型犬の落ちこんだ目つきが活気を取り戻す。
しかし……甘いものじゃなくて、甘いものを買ってきたぼくの表情と様子と空気で、判断してほしい。
それを、やや鈍くて、ぼくについては冷静に察そうとしないこいつに言うのは酷だけど……。
◇◇◇
風呂上がりに、乾かすまえにぼくの髪に長い指をむぎゅと差し入れてくるのが気持ち良い。
よくわからないけど、こいつはそうするのが好きみたい。
無造作な指。
こんなことされて、気持ち良いのは、こいつ限定。
ベッドでゆるくキスした後、これからは甘いものではない、言葉でちゃんと訊くこと、と言いつけると、なんとなく釈然としない顔でいちおうといったかんじで「わかった」と言う。
抱っこさせて、その首元にぼくは顔をくっつける。
鎖骨さえ太いような骨を感じる肌がふれる。
ここが落ち着くのだとくっついていると、頭ごと掴み直されて、離されて、抱きしめられる。
今日はまだ何かさびしがっている、とぼくは抱きしめ返した。すると
「……俺にとっては、おまえとの、……いちばん甘いからな」
ぼそっといきなり、しごく真面目なトーンでささやくから、ぼくはまばたいた。
だから、身体を押して離れて、「ん、んなこと、ない」と変なふうに答えてしまった。
ぼくの反応に「……?」と首を傾げる様子で、腕がぼくをあらためて捕まえる。
そして、甘いものと言うみたいに首筋を噛まれて、力が抜ける。
もういちど、「そんなことはない」と言い渡したいのに、言えなくなってしまった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
公開凌辱される話まとめ
たみしげ
BL
BLすけべ小説です。
・性奴隷を飼う街
元敵兵を性奴隷として飼っている街の話です。
・玩具でアナルを焦らされる話
猫じゃらし型の玩具を開発済アナルに挿れられて啼かされる話です。
BLエロ短編集
ねおもの
BL
ただただエロBLを書きます。R18です。
快楽責めや甘々系などがメインでグロ系はありません。
登場人物はみんな学生~20代の予定です。
もし良ければお気に入り登録お願いします。
基本的に1話~2話完結型の短編集です。
リクエストや感想もお待ちしています!
クソザコ乳首アクメの一日
掌
BL
チクニー好きでむっつりなヤンキー系ツン男子くんが、家電を買いに訪れた駅ビルでマッサージ店員や子供や家電相手にとことんクソザコ乳首をクソザコアクメさせられる話。最後のページのみ挿入・ちんぽハメあり。無様エロ枠ですが周りの皆さんは至って和やかで特に尊厳破壊などはありません。フィクションとしてお楽しみください。
pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。
なにかありましたら(web拍手)
http://bit.ly/38kXFb0
Twitter垢・拍手返信はこちらから
https://twitter.com/show1write
保育士だっておしっこするもん!
こじらせた処女
BL
男性保育士さんが漏らしている話。ただただ頭悪い小説です。
保育士の道に進み、とある保育園に勤めている尾北和樹は、新人で戸惑いながらも、やりがいを感じながら仕事をこなしていた。
しかし、男性保育士というものはまだまだ珍しく浸透していない。それでも和樹が通う園にはもう一人、男性保育士がいた。名前は多田木遼、2つ年上。
園児と一緒に用を足すな。ある日の朝礼で受けた注意は、尾北和樹に向けられたものだった。他の女性職員の前で言われて顔を真っ赤にする和樹に、気にしないように、と多田木はいうが、保護者からのクレームだ。信用問題に関わり、同性職員の多田木にも迷惑をかけてしまう、そう思い、その日から3階の隅にある職員トイレを使うようになった。
しかし、尾北は一日中トイレに行かなくても平気な多田木とは違い、3時間に一回行かないと限界を迎えてしまう体質。加えて激務だ。園児と一緒に済ませるから、今までなんとかやってこれたのだ。それからというものの、限界ギリギリで間に合う、なんて危ない状況が何度か見受けられた。
ある日の紅葉が色づく頃、事件は起こる。その日は何かとタイミングが掴めなくて、いつもよりさらに忙しかった。やっとトイレにいける、そう思ったところで、前を押さえた幼児に捕まってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる