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005 先客
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俺×その男 不思議なクラブで初対面、相席するかサイコロで決める
いつも俺が座る席に先客が居た。
ジャラジャラとした飾りをくぐり、いつも座っている席が目に入る。
真紅の球体を上方向へ五分の三くらいくり抜いたような内に紫色のコモコモとしたクッションを敷き詰めたかたちのソファが向かい合うあいだに、低い脚のテーブルが置いてある。
その片方に、先客は優雅に脚を長く組んで、ふんぞり返るように座っていた。
あおいだ顔の目は天井から垂れ下がった煌びやかに光を反射する針のような照明を眺めて、膝の上にのせた手には燻る煙草がある。
こっちの視線を感じたのか、瞳が動いて、向いた。
毒々しい色から移行したような明るい緑色に見える変な髪がゆるゆると波立って、男は口を開いた。
「……ァーに?」
そこは俺の席だ、と言うか、迷った。この店では、べつに席は決まっていない。先着順だ。常連だとしても、すでに席が埋まっていれば、そこは俺の席じゃない。
男は背を起こし、指先にはさんだ煙草を口元に持っていった。そして目を上げ、再度こちらに向け、
「オレがここに座っていることが、ご不満?」
と言い、笑った。
「そんな顔してる。あんた」
くっくっと笑う男の肩が少し上下する。
「一見さんに心がせまいねぇ……」
俺はいつもの席を睨み続けるのをやめ、空席を求めて店内を見やった。が、どうも他に座る気になれない。
「相席するか、これで決めない?」
言うと、男は顔にかかった髪を指で払い、目で、まあ座れよと向かいの席を指す。
俺はしぶしぶ、いちど座った。
男はテーブルの隅の、咲いた花を模した銀の灰皿に煙草を揉み潰して、グレーのタートルネックに羽織った極彩色にテカテカとぬめるような襟のジャケットのポケットから何か取り出した。
白い手のひらからテーブルの黒い天板に硝子の六面体が三色転がった。
赤と青と桃色の六面体には金の点で数が彫ってあるのがわかった。
「順に振って、出た目の合計が多いほうが勝ち。オレが勝ったら相席。あんたが勝ったらオレは席を移る。どう?」
男は不敵に笑って、また背もたれにふんぞり返った。
俺はテーブルのそれらを見つめてから、真正面の男を見て、言った。
「出目の合計が、同じだった場合は?」
すると、男は片目の下瞼をひくつかせて、おもしろいものに出会ったみたいに愉快そうに唇の両の端を持ち上げた。身を起こして、前のめりになる。
「それは……オレの負けかも」
なぜかとても楽しげな声で男は言った。
まっすぐとこっちを向く瞳がキラキラと、ギラギラとして見えた。
何に期待してそんな表情を浮かべるのか、怪訝に思いながら、俺は懐から煙草を取り出した。男はごく自然な動作で灰皿の傍のジッポーを拾って、腕を伸ばして、すっと俺の顔先へ出してくる。
俺が一服するのを、男は待っていた。
それから、俺は頷いた。そして先攻を譲る。
「じゃあ、――勝負」
二つほど太いリングをはめた男の指が赤い六面体をつまみ、手のひらに含み、かすかに揺すって、テーブルに放った。
いつも俺が座る席に先客が居た。
ジャラジャラとした飾りをくぐり、いつも座っている席が目に入る。
真紅の球体を上方向へ五分の三くらいくり抜いたような内に紫色のコモコモとしたクッションを敷き詰めたかたちのソファが向かい合うあいだに、低い脚のテーブルが置いてある。
その片方に、先客は優雅に脚を長く組んで、ふんぞり返るように座っていた。
あおいだ顔の目は天井から垂れ下がった煌びやかに光を反射する針のような照明を眺めて、膝の上にのせた手には燻る煙草がある。
こっちの視線を感じたのか、瞳が動いて、向いた。
毒々しい色から移行したような明るい緑色に見える変な髪がゆるゆると波立って、男は口を開いた。
「……ァーに?」
そこは俺の席だ、と言うか、迷った。この店では、べつに席は決まっていない。先着順だ。常連だとしても、すでに席が埋まっていれば、そこは俺の席じゃない。
男は背を起こし、指先にはさんだ煙草を口元に持っていった。そして目を上げ、再度こちらに向け、
「オレがここに座っていることが、ご不満?」
と言い、笑った。
「そんな顔してる。あんた」
くっくっと笑う男の肩が少し上下する。
「一見さんに心がせまいねぇ……」
俺はいつもの席を睨み続けるのをやめ、空席を求めて店内を見やった。が、どうも他に座る気になれない。
「相席するか、これで決めない?」
言うと、男は顔にかかった髪を指で払い、目で、まあ座れよと向かいの席を指す。
俺はしぶしぶ、いちど座った。
男はテーブルの隅の、咲いた花を模した銀の灰皿に煙草を揉み潰して、グレーのタートルネックに羽織った極彩色にテカテカとぬめるような襟のジャケットのポケットから何か取り出した。
白い手のひらからテーブルの黒い天板に硝子の六面体が三色転がった。
赤と青と桃色の六面体には金の点で数が彫ってあるのがわかった。
「順に振って、出た目の合計が多いほうが勝ち。オレが勝ったら相席。あんたが勝ったらオレは席を移る。どう?」
男は不敵に笑って、また背もたれにふんぞり返った。
俺はテーブルのそれらを見つめてから、真正面の男を見て、言った。
「出目の合計が、同じだった場合は?」
すると、男は片目の下瞼をひくつかせて、おもしろいものに出会ったみたいに愉快そうに唇の両の端を持ち上げた。身を起こして、前のめりになる。
「それは……オレの負けかも」
なぜかとても楽しげな声で男は言った。
まっすぐとこっちを向く瞳がキラキラと、ギラギラとして見えた。
何に期待してそんな表情を浮かべるのか、怪訝に思いながら、俺は懐から煙草を取り出した。男はごく自然な動作で灰皿の傍のジッポーを拾って、腕を伸ばして、すっと俺の顔先へ出してくる。
俺が一服するのを、男は待っていた。
それから、俺は頷いた。そして先攻を譲る。
「じゃあ、――勝負」
二つほど太いリングをはめた男の指が赤い六面体をつまみ、手のひらに含み、かすかに揺すって、テーブルに放った。
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