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マルファーリスとの激戦から数日。
ギルドでの事情説明を行った後、しばらくして帝国側の使者が来て南に新築された城へ招待されることになった。
竜を倒したからという理由らしいが、ちょうど皇帝家の人間に合えるということでその場で承諾した。
旧皇帝の城はマルファーリスの攻撃によって爆破された。すでに木っ端微塵になっているため、新しく建造されたものだ。
俺はついでにモニカの家を返してもらう予定だ。
いや、だった……というほうが正しい。すぐにそれどころではなくなった。
目の前の立派なお城の城門前に俺の対応で出てきたメイドさんから想像すらしていなかった事件を聞かされたのである。
俺の目の前にいる、髪がくるくるのメイドさん。
テンパった様子でそわそわして、こう告げたのだ。
「大変申し訳ありません。フィオ……新皇帝陛下が、逃げ……いえ、お出かけになられましたので、少々お待ちください」
俺は目を点にして聞き返す。
明らかに今逃げたと聞こえた。
「は? 逃げたの?」
「……はい。その、知られたら大変なことになりますから黙っていてくださいね?」
「どういうことだ?」
「実は……」
焦ったメイドに説明を求めると、どうやら新しく皇帝となるフィオナは、戴冠式の前に城を抜け出して逃げたのだという。
なぜに? わからん。この国の皇帝になりたくて、王位を継いだのではないのか?
マルファーリスなんて、そのために城まで爆破したほどなのに。わざわざ逃げるというのはどういうことなんだ?
とりあえず、今日の予定であった武器屋へと向かうことにした。
モニカの装備を手に入れることもだが、もう一つ手に入れたいものがあったのだ。
いつもの眼鏡をかけた店番の子に相談しながら装備を手に入れた。
「モニカ、それでいいか?」
戦士っぽくなったモニカへと問いかける。
「あの……お兄ちゃん、装備は問題ないんですけど、ズボンをスカートにはできませんか?」
俺は即座に理解した
「あ~、なるほど……」
。
ズボン式ではいざというとき技を使うのにパンツが脱げないと言っているのだ。
真面目に考えると「なにそれ……」と思うが今は我慢だ。
しかし、霧影は便利そうで不便な能力だ。
俺は空間の隔離と壁を形成して音漏れを遮断し、こう聞き返した。
「その能力はパンツじゃないとダメか?」
「いえ……そ、その恥ずかしければなんでも……」
モニカはすでに顔を赤く染めていた。
改めて聞くと、俺なにアホなことを会話してるんだ?と思いたくなる。
「いま恥ずかしそうだが使えないのか?」
「いえ……無理ですね。ちょっと足りないかも」
「……そうか」
少し刺激が弱いということなのだろう。
だが、いい加減に戦闘中にパンツを脱いで戦うのはやめてほしい。
一度その事実に気づいてしまうと俺が落ち着かなくなる。
というか、ダンジョン内での数度の戦闘中の時、スカートが揺れるたびに気になって仕方がなかったのだ。精神拘束は効かないが、あれは精神衛生的に良くない。
「と、とにかく別の方法を後で考えよう」
「わかりました。あ、お兄ちゃんの用事を済ませてください」
俺は壁を解除して、店番の子に向き直った。
「実は、探しているものがあって、光を反射する鉱石みたいなものはないか?」
「鉱石ですか? 具体的にどのような形状のものでしょう? 光の性質は? 距離は? 魔法の補助に使うのでしょうか?」
店番の子はいつもながらの細かな質問を並べたあと首をかしげる。
「ああ、扱うのは魔法じゃなくて、空から昇る太陽の光と同じ【光線】だ。その入射角・反射角をこちらで操作できるものが欲しい」
「でしたら、銀硝鉱石がいいかもしれません」
そう言って取り出したのは、すでに部屋の中の明かりを反射している一つの鉱石だった。内部が銀色で表面に透明な光沢がある。
「どうやって使うんだ?」
「そうですね。どの場所から光を入れるかによって光の屈折角が変わるんです。そのため平らな鏡と違って、応用性の高い鉱石と言われています。ちなみに、鏡もこの鉱石から作るんです」
「ふ~ん、なるほどな。じゃあこれを、あるだけくれ」
「……わかりました」
店番の子はこれで何度目になるかもわからない驚きを隠した微妙な顔で承諾した。
一つ金貨10枚もする希少な鉱石をあるだけ買えることが不思議なのだ。
貴族でもそんな馬鹿なことはしない。
俺は、彼女にどう相談に乗ってもらうかを考えた結果、とりあえずここで買い物をして相談を繰り返す……という方針にした。
勝手に相談役に任命したのである。
これなら、ただふらふらっと現れて話をするよりはおかしくはないだろう。
「ちなみに、光でセンサーを作って対策する場合、抜け穴とかあると思うか?」
変な質問をされたと思い、考え込む店番の子。
光のセンサーについては、現代技術なのでこっちの世界用に軽く説明してみた。
「その方法に、その鉱石を使うんですよね……」
「そうだ、全方位にその石を配置して、赤外線や光の種類を利用した索敵、攻撃探知をしたいんだが、理論的に見て魔法の抜け道はないか?」
赤外線についても現代知識のない人に簡単な説明をした。
しばらく考え込む表情をして彼女はこう答えた。
「いま考えついたものだけで、23通りの抜け道がある可能性があります。まず、一番可能性として高いのは、鉱石を光の届く圏外から破壊されることです。次に隠匿系の魔法は視覚を潰すのではなくて光に対して作用するので、光が効かない可能性があります。それと……」
つらつらと、思いつきもしない可能性の状況を挙げて、その方法の脆弱性を説明する。
「……あ、すみません。私の悪い癖で……」
「いや、やっぱり君はすごいよ……」
俺は思わず声に出していた。
この子、わずか数秒の思考で聞いたことのないはずの物理の机上の空論のような手法に対して、その可能性を挙げることができるなど普通は無理だ。少なくとも俺にはできない。
むしろ、変に自分を卑下していることの方が不思議だ。
俺の声に、店番の子はいままで隠していた表情も忘れて、本当に驚いている顔をしていた。
「え……、私がですか? おかしくないのですか?」
本気でそう信じている顔だった。自分で理解していたのだろう。
「ん? ああ、おかしくないはないさ。俺には真似できないよ。いや他の誰にも。それはすごいことだろ?」
「すごい……なんて初めて言われました」
「そうなのか?」
「むしろ学院では馬鹿にされて変なやつ扱いされていましたので……」
その言葉を噛みしめると、ちょっとだけ嬉しそうな表情をした。
俺は今しかないと思った!!
いや、付け込んだとか卑怯とかじゃないはず。
「な、なあ、よかったら俺にいろいろ教えてくれないか? なんというか、ここに来た時だけでいいんだ、相談を受けてくれないだろうか?」
勝手に任命するだけでなく、言質をとっておこうと即座にだ。
店番の子はそのお願いに頷く。
「それは構いませんが、私でいいのですか? 私はどちらかというと、知識偏重なので実践的なアドバイスは……」
「いや、それで構わない。実践の方は一人確保したんだ」
そうだ。実践的な経験のあるあのS級冒険者・クリスティーナに聞けばいいはずだ。
こちらを気に入ってくれたようだし冒険者で探しやすいのも丁度いいから、実践はまた別に横断すればいい。
「それでしたらお引き受けします」
その後、光をつかった敵攻撃の索敵にどうすればいいかを具体的に話し合った。
外部の人間に仕組みを話してしまうリスクはもちろんあるが、それ以上に多少知られてもすきのない布陣を作りたい。
相談していると、もうすっかり夕方になっていた。
「家の所有者確認はどうする?」
「今日はいろいろありましたから明日にしましょう」
だんだんと伸びてしまっている。まあそれもしようがないだろう。
「そうだな。そういえば、税金を払えば戻るのだろうか?」
「……たぶん無理だと思います」
「え? じゃあ……」
「税金を払えなかった土地は、没収されて皇帝の家の所有物となるんです。国への還元ですね。だから、返してもらうためには、いま所有している皇帝家の方に権利を譲ってもらわなくてはいけないんです……」
「そうだったのか……だが大丈夫だ」
モニカの手に俺は手を重ねた。
「いかなる手段をつかっても返してもらうつもりだからな」
しかし、皇帝がいないのではその話も進まない。
俺も探すべきか?
「とりあえず、一度宿に戻っていてくれ。俺は城にもう一度行ってくる」
「わかりました」
そうして俺は城へと向かった。
改めて城に向かうと、城門の内側にいた俺は、いまさっき入ってきた兵士から驚くべき報告を聞くことになった。
「報告します! アルカリス王国に魔王が出現。敵勢力は王国兵と魔物を含めて約15万。全軍が帝国へ向けて進軍しました!!」
門内の兵士たちは動揺する。俺も表情を隠すことなくその報告に驚いた表情を向けた。。
メイドは目が回りそうなくらいにあわあわしだした。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってください。ま、魔王ってどういう……あわわわわ」
そもそも、アルカリス王国はマルファーリスの支配下にあった国だ。
しかし、俺が奴を始末してしまったことで、王がいなくなってしまった。
いやその前に、マルファーリスは皇帝になっていた。すでに国王ではない。
今日この日までの間に何かあったのだ。
息を切らした兵士は、城門の中にいる兵士とくるくる髪のメイドに状況を説明した。
「調査隊の報告によれば、国外防衛を担当する魔法兵団の第一団が緊急的措置で出撃。通常戦力であれば、魔法兵団一個小隊の大砲『炎弾砲撃魔法』で対処できるはずでした……」
ああ、確か街中を砲撃していた炎弾魔法だな。
「しかし、わずか数分で小隊が全滅。その時に計測された予測戦力が、魔法兵団の戦力比を大きく上回っているとの報告がなされました!」
くるくる髪のメイドは、豆鉄砲でも食らった顔になる。
そんなことが起こりうるのかという空気が兵士たちからもわかる。
メイドの隣にいるショートカットの秘書のお姉さんは、頭を抱えながら兵士にこう聞いた。
「どういうことですか? 帝国の戦力を上回るなど、魔物と王国兵だけでそれができるとは思いませんが……」
それに自身でも本当にそんなことが起きているのか? と信じていない顔をしながら兵士は答えた。
「報告によりますと、魔物、王国兵ともに不死体性が確認されました。そして……」
「なっ……、不死体性って。それじゃまるで、王国兵も魔王の支配下にはいったってことじゃないの……」
「そうなります……」
俺は意味がわからずその報告を聞いていた。
すると、メイドさんが教えてくれる。
「あ、ええとですね、魔王は特異な能力を持っていることが多くてですね。それで……」
「ん? それで?」
「魔王の支配下にはいったものは不死を得ることができると言われています。前代の魔王がそうでしたから……」
そういうことかと俺は頷いた。
つまり、その15万の軍が全員、不死の特性を持つと。確かに馬鹿げてるな。
秘書のお姉さんは、そんな馬鹿げた状況に視線を向けて問う。
「で、まだこのふざけた状況以上に何かあるの?」
「それが、数名の『勇者』が魔王の側についている……という監視班からの報告がありました。一個小隊が全滅したのは、この世界で確認されていない未知の魔法を使って、勇者の一人が弓で矢を照射したためと判明しています」
「は?」
そこで俺は変な声が出てしまった。
魔王側に勇者がつくというのは、まあ一般的におかしいと思うが、驚いたのはそこではない。
王国にいる勇者……。
それが誰なのか、わかりきっているからだ。
いや、もしもということもあるが、十中八九、俺と一緒に召喚されたクラスメートたちの誰かだろう。
弓……を使った奴は確かにいた。だが、あんまり記憶にない。
他の奴に興味なかったからな。てっきり全員ダンジョンの中で魔物にやられて死んだか寿命かで死んだと思ったが、勇者が生きているとのことで違ったようだ。
「矢を照射? 何それ? それどういう状況よ?」
秘書の眉間には、深いしわが刻まれていく。
「はあ……自分もよくわからないのですが、数発の矢が地面に直撃した瞬間に、辺りが吹き飛んだとだけ……」
そう言った瞬間、場の空気が凍った。
ただの弓矢が地面にクレーターを作ったのだと言う。
メイドは気絶しそうなほど顔をこわばらせて震えている。
クールそうに見える秘書でさえ頭を押さえてしゃがみこんだ。
「そんな大戦力がこの状況で攻めてきたの……? 一人で小隊を殲滅する者たちの集団が? しかも15万? その上、新皇帝は逃げ出したままの今の状況で……? 頭が痛くなってきたわ……」
その上、戦力的に大きい前皇帝マルファーリスや前々皇帝も死んだようなものだ。
まるで、千載一遇のこのチャンスを狙っていたかのようだった。
秘書は唸りながら何かを小声で呟いていた。
「皇帝がいない今、正式に軍を動かせるものがいない。指揮を取るものがいなければ軍隊はその真価を発揮できない……。その上、フィオナ様は経験が浅い。最高指揮官の騎士タリバもずっと行方不明。皇帝がいなくなって一連の事件が起きたから連合小国の動きも悪くなっている。始まって以来の危機ね……」
たぶん打開案を探しているのだろう。
俺はその状況を横から眺めていた。
というか、俺は魔王……というのを見たことがない。先代とか言っているのだから、魔王は世襲制なのかもしれない。
モニカは見たことがあるらしいが、世界を滅ぼそうとしている……のがこの戦争を起こした理由か?
このタイミングで攻めてくると言うことは帝国が一番の敵だったのだろうか?
う~ん、わからん。
まあ、わからんことは聞けばいいか。
世界を滅ぼそうとしているのであれば、即刻始末するだけだ。
それに魔王の実物を見てみたいしな。グロテスクじゃないといいが……。
あと王国にクラスメートがいるなら、ちょっと言っておきたいこともある。
「あ……」
モニカもそうだが、モキュやディビナもここに置いていくのか?
戦争ってことは、こっちの国内も危なそうだがどうしようか……。
連れていくのはさすがにな……。
魔王がもしマルファーリス並の化け物である場合、危険になるのはモニカたちだ。
だが、置いておくと言うのもそれはそれで……。
よし。本人たちに確認だな。
俺はメイドや秘書たちへ向き直った。
「なあ、俺が何とかしてやるから、新しい皇帝様を探しておいてくれないか?」
俺の言葉にメイドと秘書が同時にこちらへと振り向いた。
「本気で言っているのですか?」
メイドが秘書の意見に追随する。
「そ、そうですよ。15万ですよ? 魔物ですよ? 不死で魔王に加えて勇者もいるんですよ?」
「一応、竜を倒したんだがな……」
「確かに……竜を倒したと言うのが本当であれば、我が国の前皇帝が可能とした封印よりもずっと功績としてすごいのですが……」
どうやら、帝国の皇帝は単独で竜を封印できるレベルだったらしい。
功績の上では元々の皇帝には勝っているらしい。
「まあ、そんな心配してもらわなくてもいい。ちゃんと恩賞もらいうける時まで死なない。それよりも肝心の皇帝を探して欲しいわけだ」
「……仕方ありませんね。わかりました。私の臨時指揮権を使い、いますぐ全兵力を捜索へと回します。監視兵はそのままとさせていただきますが、この人海戦術であれば、いくらフィオナ様でもすぐに見つかるでしょう」
「そうか、頼む……家を返してほしいからな」
ちゃんと何の要求かも伝えておく。
この秘書さんならしっかりしていそうだから、用意しておいてくれそうだと思った。
行くか。
俺はそのまま、宿へと向かった。
二人に王国へついてくるか確認するためだが、モキュはたぶん来たがるだろうな。
宿の中へと入ると、ディビナの姿はなく、かわりにモニカと銀髪の少女がいた。
「ディビナはいないのか? モニカ……この子は誰?」
俺はじっと部屋の中でモニカと椅子に座っておしゃべりをしている子を見つめた。
明るそうな雰囲気のある子だった。
少し豪華そうなドレスを着ていて、銀色の髪を右肩の一点でまとめている。
「ども、こんにちわっス。お邪魔してますよ~」
その子は俺を見て気さくに 挨拶してくる。
いや知らないんだが……。誰だよこの子。
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい。ちょっと早くありませんか?」
「ああ、ちょっと中断しててな……。それよりも大事な話なんだが……」
それで俺が王国へもう一度戻ることを話し、ついて来るかどうかを聞いた。
モニカはその質問に即答した。
「……はい、お兄ちゃんから離れるつもりはありませんので」
「わかった。じゃあ、あとディビナだな」
「あ、その前にこの子もいいです?」
俺は部屋にいる彼女をもう一度見た。
「彼女、フィーて言うんです。どうも家庭環境が辛くて家出したんだそうです。さっきそこで知りあって。お友達になって……。だから……」
モニカは申し訳なさそうに言い淀んでいた。
「その子も連れて行きたいのか?」
「はい……、やっぱり駄目ですか?」
俺は考えて見た。
家出。家庭環境がひどかったのだろう。どの家でもそう言うことはあるようだ。
友達か……。俺にはいなかったなそんな奴。
俺もこの世界で友達ができるのだろうか?
別にモニカの友達を同行させるくらいはかまわないが……。
「家がそんなに嫌なのか? ちょっと危険な場所に行くぞ?」
俺はそのフィーという子に確認した。
「平気っス!」
「なら、いい。準備してくれ」
俺は地下に構築したある場所へと降りた。
そこは能力で人工的に光と水を供給できるようにした地下庭園だった。
ヒマワリのゾーンと野菜のゾーン、そして稲作ゾーンだ。
米食べたくなっちゃったんだよな。で、似たのがあるからって感じで稲も育てることになった。
「あ、コウセイさん。どうしたんですか?」
「ああ、話がある。いまから王国に戻るんだが、ディビナはどうする?」
「もちろんついていきます!」
まあ、そう答えるだろうと思った。
義理堅い子だ、ホントに。
モキュが多分行くから餌係の自分もという考えなのだろう。そのくらいお見通しだ。
俺はモキュを馬小屋から出して、3人のところへと向かった。
モキュは俺を見た時の「キュ~~~」という鳴き声を聞いて、連れていくことを即決した。
ほんのちょっとの時間でこれだから、長期間ここに放置するのは無理だろう。
「よしそろったか。みんなモキュの上に」
俺がモキュの上に乗ると、3人も一緒に乗り込む。
それでもまだ背中があいているのだから、モキュは本当に大きい。
その穏やかな出発に、フィーという子は火種をまいた。
「その方は誰っスか?」
「ん? モニカから紹介されていないのか? ディビナだ」
紹介されて、ディビナも笑顔であいさつする。
「こんにちは。私はモキュちゃんの餌係のディビナです」
そう聞いたフィーの放った一言が原因だった。
「そうっスか。ただの餌係りっスか」
フィーの言った『ただの餌係り』という言葉を聞いたディビナが、笑顔のままひきつり、固まってしまった。
うわごとのように何かを呟いている
「……ただの餌係り……ただの……」
よくわからんが、使命感に燃える餌係りをその程度扱いされたことにショックを受けたのかもしれない。
俺はフォローしてやった。
「大丈夫だディビナ。ただのじゃない、お前は正真正銘の餌係りだ。そのためだけの人材なんだから」
しかし、俺がフォローしてやったのに、反応が変わらなかった。
「……餌のためだけの人材……だけの……」
「あ、悪い、餌だけじゃないな、みんなの食糧係りもあるな……」
ん……? なんでショック受けてるんだ?
まあいい、女心は俺にはわからないから心にしまっておこう。
そんなこんなで王国へと再び飛び立つ。
上空で飛んでいるモキュを追いかけるようにして、東西南北上下の各16方向には銀硝鉱石が飛んでいる。
これは俺の能力で浮遊させているのだが、石に光を通して周囲の1キロ圏内をカバーしている。
これは不意打ちなどの魔法攻撃を探知するためだ。
マップでは攻撃までは映らないからな。
あと、内側3~5メートルにも、もう一周張り巡らせて、空間のゆがみを観測して隠匿系の魔法で接近された場合に俺が察知できるように調整してある。
光の揺らぎの応用だ。
これは店番のミュースという子に考えてもらった方法だ。
光を集めて望遠鏡のように遠くを覗く。
すると、東南東の方角から大軍勢が向かってきているのがわかった。
しかし、混沌としている。
王国兵もそうだが、魔物が人間と一緒に行動しているのが一番奇妙に見えた。
他の3人にも今の状況を見せてやると、かなり驚いていた。
最初は何かの冗談と思っていたようだが……、
「お兄ちゃん、なんですかあれ……え、へへ?」
から笑いをしているモニカ。
モキュは心配そうな声で鳴いていた。あの狂気の集団が怖いのだろうな。
よし、まずは何とかしてやると言った以上、上空から殲滅することにしよう。
そう思った時のことだ。
さっそく光で観測していたサーチに何かが引っかかった。
「来る……」
何かが姿を隠して接近してきている。
動きが早いな。背後か!!
俺は振り向いた。
そして、それを見た瞬間、空間転移でそれを後方500メートルの地上へと移動させた。
地面にそれが落ちた瞬間、大爆発を起こした。
「いまのは……」
確かにあの形状は、前の世界で見たことのある。
ミサイルに似ていた。
「何だったのでしょうあれは?」
「な、なんスか今の魔法? 転移っスか?」
「ん? 魔法じゃないが一応転移ではある……」
あれは、爆薬による兵器ではなく、魔法で形成しているというだけのようだった。
だが、ミサイルの発想ができる者がこの世界にはいないはずだ。
クラスの奴の誰かか。
「どいつがやりやがったんだ……」
見つけたら容赦はしないと思い、王国の城へと向けて慎重に進むことにした。
ギルドでの事情説明を行った後、しばらくして帝国側の使者が来て南に新築された城へ招待されることになった。
竜を倒したからという理由らしいが、ちょうど皇帝家の人間に合えるということでその場で承諾した。
旧皇帝の城はマルファーリスの攻撃によって爆破された。すでに木っ端微塵になっているため、新しく建造されたものだ。
俺はついでにモニカの家を返してもらう予定だ。
いや、だった……というほうが正しい。すぐにそれどころではなくなった。
目の前の立派なお城の城門前に俺の対応で出てきたメイドさんから想像すらしていなかった事件を聞かされたのである。
俺の目の前にいる、髪がくるくるのメイドさん。
テンパった様子でそわそわして、こう告げたのだ。
「大変申し訳ありません。フィオ……新皇帝陛下が、逃げ……いえ、お出かけになられましたので、少々お待ちください」
俺は目を点にして聞き返す。
明らかに今逃げたと聞こえた。
「は? 逃げたの?」
「……はい。その、知られたら大変なことになりますから黙っていてくださいね?」
「どういうことだ?」
「実は……」
焦ったメイドに説明を求めると、どうやら新しく皇帝となるフィオナは、戴冠式の前に城を抜け出して逃げたのだという。
なぜに? わからん。この国の皇帝になりたくて、王位を継いだのではないのか?
マルファーリスなんて、そのために城まで爆破したほどなのに。わざわざ逃げるというのはどういうことなんだ?
とりあえず、今日の予定であった武器屋へと向かうことにした。
モニカの装備を手に入れることもだが、もう一つ手に入れたいものがあったのだ。
いつもの眼鏡をかけた店番の子に相談しながら装備を手に入れた。
「モニカ、それでいいか?」
戦士っぽくなったモニカへと問いかける。
「あの……お兄ちゃん、装備は問題ないんですけど、ズボンをスカートにはできませんか?」
俺は即座に理解した
「あ~、なるほど……」
。
ズボン式ではいざというとき技を使うのにパンツが脱げないと言っているのだ。
真面目に考えると「なにそれ……」と思うが今は我慢だ。
しかし、霧影は便利そうで不便な能力だ。
俺は空間の隔離と壁を形成して音漏れを遮断し、こう聞き返した。
「その能力はパンツじゃないとダメか?」
「いえ……そ、その恥ずかしければなんでも……」
モニカはすでに顔を赤く染めていた。
改めて聞くと、俺なにアホなことを会話してるんだ?と思いたくなる。
「いま恥ずかしそうだが使えないのか?」
「いえ……無理ですね。ちょっと足りないかも」
「……そうか」
少し刺激が弱いということなのだろう。
だが、いい加減に戦闘中にパンツを脱いで戦うのはやめてほしい。
一度その事実に気づいてしまうと俺が落ち着かなくなる。
というか、ダンジョン内での数度の戦闘中の時、スカートが揺れるたびに気になって仕方がなかったのだ。精神拘束は効かないが、あれは精神衛生的に良くない。
「と、とにかく別の方法を後で考えよう」
「わかりました。あ、お兄ちゃんの用事を済ませてください」
俺は壁を解除して、店番の子に向き直った。
「実は、探しているものがあって、光を反射する鉱石みたいなものはないか?」
「鉱石ですか? 具体的にどのような形状のものでしょう? 光の性質は? 距離は? 魔法の補助に使うのでしょうか?」
店番の子はいつもながらの細かな質問を並べたあと首をかしげる。
「ああ、扱うのは魔法じゃなくて、空から昇る太陽の光と同じ【光線】だ。その入射角・反射角をこちらで操作できるものが欲しい」
「でしたら、銀硝鉱石がいいかもしれません」
そう言って取り出したのは、すでに部屋の中の明かりを反射している一つの鉱石だった。内部が銀色で表面に透明な光沢がある。
「どうやって使うんだ?」
「そうですね。どの場所から光を入れるかによって光の屈折角が変わるんです。そのため平らな鏡と違って、応用性の高い鉱石と言われています。ちなみに、鏡もこの鉱石から作るんです」
「ふ~ん、なるほどな。じゃあこれを、あるだけくれ」
「……わかりました」
店番の子はこれで何度目になるかもわからない驚きを隠した微妙な顔で承諾した。
一つ金貨10枚もする希少な鉱石をあるだけ買えることが不思議なのだ。
貴族でもそんな馬鹿なことはしない。
俺は、彼女にどう相談に乗ってもらうかを考えた結果、とりあえずここで買い物をして相談を繰り返す……という方針にした。
勝手に相談役に任命したのである。
これなら、ただふらふらっと現れて話をするよりはおかしくはないだろう。
「ちなみに、光でセンサーを作って対策する場合、抜け穴とかあると思うか?」
変な質問をされたと思い、考え込む店番の子。
光のセンサーについては、現代技術なのでこっちの世界用に軽く説明してみた。
「その方法に、その鉱石を使うんですよね……」
「そうだ、全方位にその石を配置して、赤外線や光の種類を利用した索敵、攻撃探知をしたいんだが、理論的に見て魔法の抜け道はないか?」
赤外線についても現代知識のない人に簡単な説明をした。
しばらく考え込む表情をして彼女はこう答えた。
「いま考えついたものだけで、23通りの抜け道がある可能性があります。まず、一番可能性として高いのは、鉱石を光の届く圏外から破壊されることです。次に隠匿系の魔法は視覚を潰すのではなくて光に対して作用するので、光が効かない可能性があります。それと……」
つらつらと、思いつきもしない可能性の状況を挙げて、その方法の脆弱性を説明する。
「……あ、すみません。私の悪い癖で……」
「いや、やっぱり君はすごいよ……」
俺は思わず声に出していた。
この子、わずか数秒の思考で聞いたことのないはずの物理の机上の空論のような手法に対して、その可能性を挙げることができるなど普通は無理だ。少なくとも俺にはできない。
むしろ、変に自分を卑下していることの方が不思議だ。
俺の声に、店番の子はいままで隠していた表情も忘れて、本当に驚いている顔をしていた。
「え……、私がですか? おかしくないのですか?」
本気でそう信じている顔だった。自分で理解していたのだろう。
「ん? ああ、おかしくないはないさ。俺には真似できないよ。いや他の誰にも。それはすごいことだろ?」
「すごい……なんて初めて言われました」
「そうなのか?」
「むしろ学院では馬鹿にされて変なやつ扱いされていましたので……」
その言葉を噛みしめると、ちょっとだけ嬉しそうな表情をした。
俺は今しかないと思った!!
いや、付け込んだとか卑怯とかじゃないはず。
「な、なあ、よかったら俺にいろいろ教えてくれないか? なんというか、ここに来た時だけでいいんだ、相談を受けてくれないだろうか?」
勝手に任命するだけでなく、言質をとっておこうと即座にだ。
店番の子はそのお願いに頷く。
「それは構いませんが、私でいいのですか? 私はどちらかというと、知識偏重なので実践的なアドバイスは……」
「いや、それで構わない。実践の方は一人確保したんだ」
そうだ。実践的な経験のあるあのS級冒険者・クリスティーナに聞けばいいはずだ。
こちらを気に入ってくれたようだし冒険者で探しやすいのも丁度いいから、実践はまた別に横断すればいい。
「それでしたらお引き受けします」
その後、光をつかった敵攻撃の索敵にどうすればいいかを具体的に話し合った。
外部の人間に仕組みを話してしまうリスクはもちろんあるが、それ以上に多少知られてもすきのない布陣を作りたい。
相談していると、もうすっかり夕方になっていた。
「家の所有者確認はどうする?」
「今日はいろいろありましたから明日にしましょう」
だんだんと伸びてしまっている。まあそれもしようがないだろう。
「そうだな。そういえば、税金を払えば戻るのだろうか?」
「……たぶん無理だと思います」
「え? じゃあ……」
「税金を払えなかった土地は、没収されて皇帝の家の所有物となるんです。国への還元ですね。だから、返してもらうためには、いま所有している皇帝家の方に権利を譲ってもらわなくてはいけないんです……」
「そうだったのか……だが大丈夫だ」
モニカの手に俺は手を重ねた。
「いかなる手段をつかっても返してもらうつもりだからな」
しかし、皇帝がいないのではその話も進まない。
俺も探すべきか?
「とりあえず、一度宿に戻っていてくれ。俺は城にもう一度行ってくる」
「わかりました」
そうして俺は城へと向かった。
改めて城に向かうと、城門の内側にいた俺は、いまさっき入ってきた兵士から驚くべき報告を聞くことになった。
「報告します! アルカリス王国に魔王が出現。敵勢力は王国兵と魔物を含めて約15万。全軍が帝国へ向けて進軍しました!!」
門内の兵士たちは動揺する。俺も表情を隠すことなくその報告に驚いた表情を向けた。。
メイドは目が回りそうなくらいにあわあわしだした。
「ちょ、ちょちょちょっと待ってください。ま、魔王ってどういう……あわわわわ」
そもそも、アルカリス王国はマルファーリスの支配下にあった国だ。
しかし、俺が奴を始末してしまったことで、王がいなくなってしまった。
いやその前に、マルファーリスは皇帝になっていた。すでに国王ではない。
今日この日までの間に何かあったのだ。
息を切らした兵士は、城門の中にいる兵士とくるくる髪のメイドに状況を説明した。
「調査隊の報告によれば、国外防衛を担当する魔法兵団の第一団が緊急的措置で出撃。通常戦力であれば、魔法兵団一個小隊の大砲『炎弾砲撃魔法』で対処できるはずでした……」
ああ、確か街中を砲撃していた炎弾魔法だな。
「しかし、わずか数分で小隊が全滅。その時に計測された予測戦力が、魔法兵団の戦力比を大きく上回っているとの報告がなされました!」
くるくる髪のメイドは、豆鉄砲でも食らった顔になる。
そんなことが起こりうるのかという空気が兵士たちからもわかる。
メイドの隣にいるショートカットの秘書のお姉さんは、頭を抱えながら兵士にこう聞いた。
「どういうことですか? 帝国の戦力を上回るなど、魔物と王国兵だけでそれができるとは思いませんが……」
それに自身でも本当にそんなことが起きているのか? と信じていない顔をしながら兵士は答えた。
「報告によりますと、魔物、王国兵ともに不死体性が確認されました。そして……」
「なっ……、不死体性って。それじゃまるで、王国兵も魔王の支配下にはいったってことじゃないの……」
「そうなります……」
俺は意味がわからずその報告を聞いていた。
すると、メイドさんが教えてくれる。
「あ、ええとですね、魔王は特異な能力を持っていることが多くてですね。それで……」
「ん? それで?」
「魔王の支配下にはいったものは不死を得ることができると言われています。前代の魔王がそうでしたから……」
そういうことかと俺は頷いた。
つまり、その15万の軍が全員、不死の特性を持つと。確かに馬鹿げてるな。
秘書のお姉さんは、そんな馬鹿げた状況に視線を向けて問う。
「で、まだこのふざけた状況以上に何かあるの?」
「それが、数名の『勇者』が魔王の側についている……という監視班からの報告がありました。一個小隊が全滅したのは、この世界で確認されていない未知の魔法を使って、勇者の一人が弓で矢を照射したためと判明しています」
「は?」
そこで俺は変な声が出てしまった。
魔王側に勇者がつくというのは、まあ一般的におかしいと思うが、驚いたのはそこではない。
王国にいる勇者……。
それが誰なのか、わかりきっているからだ。
いや、もしもということもあるが、十中八九、俺と一緒に召喚されたクラスメートたちの誰かだろう。
弓……を使った奴は確かにいた。だが、あんまり記憶にない。
他の奴に興味なかったからな。てっきり全員ダンジョンの中で魔物にやられて死んだか寿命かで死んだと思ったが、勇者が生きているとのことで違ったようだ。
「矢を照射? 何それ? それどういう状況よ?」
秘書の眉間には、深いしわが刻まれていく。
「はあ……自分もよくわからないのですが、数発の矢が地面に直撃した瞬間に、辺りが吹き飛んだとだけ……」
そう言った瞬間、場の空気が凍った。
ただの弓矢が地面にクレーターを作ったのだと言う。
メイドは気絶しそうなほど顔をこわばらせて震えている。
クールそうに見える秘書でさえ頭を押さえてしゃがみこんだ。
「そんな大戦力がこの状況で攻めてきたの……? 一人で小隊を殲滅する者たちの集団が? しかも15万? その上、新皇帝は逃げ出したままの今の状況で……? 頭が痛くなってきたわ……」
その上、戦力的に大きい前皇帝マルファーリスや前々皇帝も死んだようなものだ。
まるで、千載一遇のこのチャンスを狙っていたかのようだった。
秘書は唸りながら何かを小声で呟いていた。
「皇帝がいない今、正式に軍を動かせるものがいない。指揮を取るものがいなければ軍隊はその真価を発揮できない……。その上、フィオナ様は経験が浅い。最高指揮官の騎士タリバもずっと行方不明。皇帝がいなくなって一連の事件が起きたから連合小国の動きも悪くなっている。始まって以来の危機ね……」
たぶん打開案を探しているのだろう。
俺はその状況を横から眺めていた。
というか、俺は魔王……というのを見たことがない。先代とか言っているのだから、魔王は世襲制なのかもしれない。
モニカは見たことがあるらしいが、世界を滅ぼそうとしている……のがこの戦争を起こした理由か?
このタイミングで攻めてくると言うことは帝国が一番の敵だったのだろうか?
う~ん、わからん。
まあ、わからんことは聞けばいいか。
世界を滅ぼそうとしているのであれば、即刻始末するだけだ。
それに魔王の実物を見てみたいしな。グロテスクじゃないといいが……。
あと王国にクラスメートがいるなら、ちょっと言っておきたいこともある。
「あ……」
モニカもそうだが、モキュやディビナもここに置いていくのか?
戦争ってことは、こっちの国内も危なそうだがどうしようか……。
連れていくのはさすがにな……。
魔王がもしマルファーリス並の化け物である場合、危険になるのはモニカたちだ。
だが、置いておくと言うのもそれはそれで……。
よし。本人たちに確認だな。
俺はメイドや秘書たちへ向き直った。
「なあ、俺が何とかしてやるから、新しい皇帝様を探しておいてくれないか?」
俺の言葉にメイドと秘書が同時にこちらへと振り向いた。
「本気で言っているのですか?」
メイドが秘書の意見に追随する。
「そ、そうですよ。15万ですよ? 魔物ですよ? 不死で魔王に加えて勇者もいるんですよ?」
「一応、竜を倒したんだがな……」
「確かに……竜を倒したと言うのが本当であれば、我が国の前皇帝が可能とした封印よりもずっと功績としてすごいのですが……」
どうやら、帝国の皇帝は単独で竜を封印できるレベルだったらしい。
功績の上では元々の皇帝には勝っているらしい。
「まあ、そんな心配してもらわなくてもいい。ちゃんと恩賞もらいうける時まで死なない。それよりも肝心の皇帝を探して欲しいわけだ」
「……仕方ありませんね。わかりました。私の臨時指揮権を使い、いますぐ全兵力を捜索へと回します。監視兵はそのままとさせていただきますが、この人海戦術であれば、いくらフィオナ様でもすぐに見つかるでしょう」
「そうか、頼む……家を返してほしいからな」
ちゃんと何の要求かも伝えておく。
この秘書さんならしっかりしていそうだから、用意しておいてくれそうだと思った。
行くか。
俺はそのまま、宿へと向かった。
二人に王国へついてくるか確認するためだが、モキュはたぶん来たがるだろうな。
宿の中へと入ると、ディビナの姿はなく、かわりにモニカと銀髪の少女がいた。
「ディビナはいないのか? モニカ……この子は誰?」
俺はじっと部屋の中でモニカと椅子に座っておしゃべりをしている子を見つめた。
明るそうな雰囲気のある子だった。
少し豪華そうなドレスを着ていて、銀色の髪を右肩の一点でまとめている。
「ども、こんにちわっス。お邪魔してますよ~」
その子は俺を見て気さくに 挨拶してくる。
いや知らないんだが……。誰だよこの子。
「あ、お兄ちゃんおかえりなさい。ちょっと早くありませんか?」
「ああ、ちょっと中断しててな……。それよりも大事な話なんだが……」
それで俺が王国へもう一度戻ることを話し、ついて来るかどうかを聞いた。
モニカはその質問に即答した。
「……はい、お兄ちゃんから離れるつもりはありませんので」
「わかった。じゃあ、あとディビナだな」
「あ、その前にこの子もいいです?」
俺は部屋にいる彼女をもう一度見た。
「彼女、フィーて言うんです。どうも家庭環境が辛くて家出したんだそうです。さっきそこで知りあって。お友達になって……。だから……」
モニカは申し訳なさそうに言い淀んでいた。
「その子も連れて行きたいのか?」
「はい……、やっぱり駄目ですか?」
俺は考えて見た。
家出。家庭環境がひどかったのだろう。どの家でもそう言うことはあるようだ。
友達か……。俺にはいなかったなそんな奴。
俺もこの世界で友達ができるのだろうか?
別にモニカの友達を同行させるくらいはかまわないが……。
「家がそんなに嫌なのか? ちょっと危険な場所に行くぞ?」
俺はそのフィーという子に確認した。
「平気っス!」
「なら、いい。準備してくれ」
俺は地下に構築したある場所へと降りた。
そこは能力で人工的に光と水を供給できるようにした地下庭園だった。
ヒマワリのゾーンと野菜のゾーン、そして稲作ゾーンだ。
米食べたくなっちゃったんだよな。で、似たのがあるからって感じで稲も育てることになった。
「あ、コウセイさん。どうしたんですか?」
「ああ、話がある。いまから王国に戻るんだが、ディビナはどうする?」
「もちろんついていきます!」
まあ、そう答えるだろうと思った。
義理堅い子だ、ホントに。
モキュが多分行くから餌係の自分もという考えなのだろう。そのくらいお見通しだ。
俺はモキュを馬小屋から出して、3人のところへと向かった。
モキュは俺を見た時の「キュ~~~」という鳴き声を聞いて、連れていくことを即決した。
ほんのちょっとの時間でこれだから、長期間ここに放置するのは無理だろう。
「よしそろったか。みんなモキュの上に」
俺がモキュの上に乗ると、3人も一緒に乗り込む。
それでもまだ背中があいているのだから、モキュは本当に大きい。
その穏やかな出発に、フィーという子は火種をまいた。
「その方は誰っスか?」
「ん? モニカから紹介されていないのか? ディビナだ」
紹介されて、ディビナも笑顔であいさつする。
「こんにちは。私はモキュちゃんの餌係のディビナです」
そう聞いたフィーの放った一言が原因だった。
「そうっスか。ただの餌係りっスか」
フィーの言った『ただの餌係り』という言葉を聞いたディビナが、笑顔のままひきつり、固まってしまった。
うわごとのように何かを呟いている
「……ただの餌係り……ただの……」
よくわからんが、使命感に燃える餌係りをその程度扱いされたことにショックを受けたのかもしれない。
俺はフォローしてやった。
「大丈夫だディビナ。ただのじゃない、お前は正真正銘の餌係りだ。そのためだけの人材なんだから」
しかし、俺がフォローしてやったのに、反応が変わらなかった。
「……餌のためだけの人材……だけの……」
「あ、悪い、餌だけじゃないな、みんなの食糧係りもあるな……」
ん……? なんでショック受けてるんだ?
まあいい、女心は俺にはわからないから心にしまっておこう。
そんなこんなで王国へと再び飛び立つ。
上空で飛んでいるモキュを追いかけるようにして、東西南北上下の各16方向には銀硝鉱石が飛んでいる。
これは俺の能力で浮遊させているのだが、石に光を通して周囲の1キロ圏内をカバーしている。
これは不意打ちなどの魔法攻撃を探知するためだ。
マップでは攻撃までは映らないからな。
あと、内側3~5メートルにも、もう一周張り巡らせて、空間のゆがみを観測して隠匿系の魔法で接近された場合に俺が察知できるように調整してある。
光の揺らぎの応用だ。
これは店番のミュースという子に考えてもらった方法だ。
光を集めて望遠鏡のように遠くを覗く。
すると、東南東の方角から大軍勢が向かってきているのがわかった。
しかし、混沌としている。
王国兵もそうだが、魔物が人間と一緒に行動しているのが一番奇妙に見えた。
他の3人にも今の状況を見せてやると、かなり驚いていた。
最初は何かの冗談と思っていたようだが……、
「お兄ちゃん、なんですかあれ……え、へへ?」
から笑いをしているモニカ。
モキュは心配そうな声で鳴いていた。あの狂気の集団が怖いのだろうな。
よし、まずは何とかしてやると言った以上、上空から殲滅することにしよう。
そう思った時のことだ。
さっそく光で観測していたサーチに何かが引っかかった。
「来る……」
何かが姿を隠して接近してきている。
動きが早いな。背後か!!
俺は振り向いた。
そして、それを見た瞬間、空間転移でそれを後方500メートルの地上へと移動させた。
地面にそれが落ちた瞬間、大爆発を起こした。
「いまのは……」
確かにあの形状は、前の世界で見たことのある。
ミサイルに似ていた。
「何だったのでしょうあれは?」
「な、なんスか今の魔法? 転移っスか?」
「ん? 魔法じゃないが一応転移ではある……」
あれは、爆薬による兵器ではなく、魔法で形成しているというだけのようだった。
だが、ミサイルの発想ができる者がこの世界にはいないはずだ。
クラスの奴の誰かか。
「どいつがやりやがったんだ……」
見つけたら容赦はしないと思い、王国の城へと向けて慎重に進むことにした。
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