これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅

聖斗煉

文字の大きさ
上 下
11 / 23

9

しおりを挟む
 俺は妹になったモニカと宿に戻った。
 食事をした後、夕方になったらすぐ寝ることにした。
 妖刀はベッドのわきに置いた。
 
「じゃあ、おやすみ」

 俺は二つあるうちのベッドの一つへと入った。
 そこにモニカが何気なく入ってきた。
 
「……一緒に寝てもいいですか?」

 耳元でそう言われて、「ああ、構わない」とすぐに返す。

 ふと、思い返すと……3人いるから、ベッドが足りないのだ。
 もう一部屋借りてもいいが、ここはただでさえ危険なのに目が届かない部屋で二人を寝かせるわけにはいかなかった。

 ベッドは2つ。女の子2人で寝るだろうと最初は思ったが、
 モニカが一緒に寝たいと言うのならば構わないだろう。
 聞くところによると、兄弟姉妹はよく一緒に寝るらしいからな。
 いや……それは小さい頃だけか?
 あまりよその家庭の事情は知らないが、まあ歳を重ねてもこのくらい良くあるのだろうな。

 俺の意識が夢の中へと引き込まれると、俺は変わった夢を見た。
 中性的な顔立ちをしたショートカットの女の子。
 その子が俺に何かを話しかけてくる夢だ。
 暇だしそれに律義に答えてやる。

『主様(ぬしさま)は僕をどう使いたい?』
「どう?」
『人を殺したい? 全てを破壊したい? それとも……誰かを守りたい?』
「そうだな、昔は全てを破壊したいと思っていた。殺したい奴も大勢いた。だが……」
『守りたいんだね』
「そうだ。誰かに言われたからじゃない。俺がそうすると決めた」
「でも……今の主様(ぬしさま)では、この世界で起こる全ての災厄から誰かを守ることはできないよ?』
「ああ、気付いている……。だから、強くなる方法を考えている。能力の使い方が、これまでは雑すぎたからな……」
『そう……。でもあの赤い髪の騎士に言われたよね。魔法を舐めていないか?って』
「言われたな」
『あの騎士の度量は大したことがないから、主様(ぬしさま)は無事だったけど、あれが王クラスの人たちになってくるとあの時死んでいたかもしれない』
「そうなのか? じゃあ、お前は強くなるその答えを知っていたりするのか?」
『そうじゃないよ。ただ、主様(ぬしさま)は能力にばかり目が行ってしまっている。そして、主様(ぬしさま)が進む道には芯が見えないんだ。せっかく手にした妖刀(ぼく)もそれじゃあ使いこなせない』
「芯……精神的な支柱ってことか?

 確かに言われてみれば、自由に生きたいというのは、とてもふわふわしていている気はしていた。
 状況に振りまわされ過ぎてしまう気はする。もちろん、自由な旅を辞めるつもりはないが、これでは本当の自由であるかもわからない。

『一本筋が通ってる、と言われている人たちは、わずかな力でも強弱をひっくり返すんだ。この世界で王クラスとして頂点の座についている人のほとんどは、芯がある上に、人間の犠牲を礎(いしずえ)に圧倒的な力を保持しているんだ』
「そういうものか。芯といわれてもな……」

 俺がいまやっていることは、過去の出来事を清算するのに近いからな。
 この子は俺にどうすればいいと言っているんだろうか。

「主様(ぬしさま)は、もうこの世界で新らたな出会いを果たしたんだから。あとは……」

 夢の中が暗く幕を閉じていくようにして、意識は落ちた。
 俺が何を行動の指針にすべきか、自由という漠然なものではなくて、善悪を超越して何のためにこれから力をふるっていくのか。
 それが見つかれば、もっと自由の先へ行けるような気がした。





 次の日、俺は予定していた武器屋へと行くことにした。

 宿を出た所で、街の人たちが今日はたくさん歩いていることに気づいた。
 いままでどこにいたのか不思議に思うくらいだ。
 中には家屋の修復をしている人、買い物のために出歩く人、謎のぼろ布をかぶった謎の男女など、道行く人の目的は様々だ。
 モニカによれば、これが本来の街の姿なのだとか。

 隣を歩いているのはモニカだった。

「お兄ちゃん、これどうですか?」

 そして目を向けると、髪形がツインテールになっていた。
 頭の左右から腰くらいまで、まとまった髪が、歩くたびに二つとも背中の方で揺れている。

「ああ、似合っているよ。でもわざわざ俺が言った髪形にしなくてもよかったんだぞ?」
 単純に、ツインテールが妹のイメージだったからである。

「ううん、そうなんだけど、これは私が妹になった証だから……」
「そうか? まあ可愛いからいいんだけど。たしかに妹っぽさが増したな」

 モニカは顔が赤くなり伏せてしまった。

 ふと、昨日の夢が頭をよぎった。
 まだはっきりとは分からないが、せめて兄らしくなることはしようと思う。
 感情というのはいつ変わってしまうか分からないものだ。
 口ではいいと言っていてもいざ喧嘩してしまえば、そのままお別れということも少なくない。
 結婚した夫婦が浮気で簡単に違う人生を歩く時代に生きていたのだから間違いない。
 許したはずの墓の話を妻が掘り返して口論になると言う話もよくあるそうだしな。

 ある日突然、『あんたの妹なんてもう嫌だ』『キモイ、死んで』『兄だと周囲に思われたくない』と、頭の中でそんな状況が起きることを簡単に想像できてしまう。
 せめて、俺が兄でよかったくらいの立ち位置はキープできるようになろう。

 一つの行動指針を俺の中に決めることができた。
 そんなことでいいのか?とも思うが仕方ない。

 モニカをじっと見ていると首をかしげる。

「え~と、お兄ちゃん?」
「……なんでもないよ」

 俺は首を振った。

 たぶん、数少ない人間の中でもこんなふうに俺のそばにいようとしてくれるものはいないだろう。
 普通、利害関係でつながる人間というのは、俺でなくてもいいのだから。
 
 モニカがそうではないと感じたことこそが、この世界に来て2つ目の収穫だった。
 力とそして、そばにいようとしてくれる人。
 しばらく歩くと、小さな武器屋へと案内された。

「ここです」
「ここが……」

 古くて老舗な印象があるお店で確かに武器は揃っていそうだ。
 建物の大きさは日本の一軒家ほどだ。

 俺が要望として挙げたのは、できるかぎり武器の説明が聞けて、ちゃんと俺でも相手してくれる店の人がいるところだった。

「よく同い年くらいの子が店番をしているので、いろいろ聞きやすいかなって思って」
「そうだな……」

 下手に営利目的の商人気質のおっさんに当たると、売りたいものをお勧めされるだけで目的が果たせなくなるだろう。
 経験の浅い人なら、面倒がなくていいかもしれない。

 中に入ると、鉄の匂いとオイルのニオイが混ざり合ったような空気が鼻腔をくすぐった。
 
 大小さまざまな剣が棚に並べられていて、銃なんかも置いてある。
 異世界だよな、ここ?
 おそらく前の世界とは違う原理の銃だとは思う。魔法が主流なのだから、魔力で打ち出すのだろうか?

 店番は真面目そうな雰囲気のある、眼鏡をかけたおさげの女の子だった。
 見た目はモニカと同じくらいで12~13歳くらいか。
 
 モニカが俺にさあ聞いてみてくださいと手の平を店番の子へと向けた。

「あの、すまないが、ちょっと武器のことで聞いてもいいだろうか?」

 すると、銃の手入れをしていた店番の子が、眼鏡をクイっと持ち上げてこちらを見た。

「はい……なんでしょうか?」

 そこでまず、この武器屋で構造を知っておきたいことを踏まえ、こう切り出した。

「この武器屋で一番強力……というか、『最強の武器』はどれだろうか?」

 その質問に対して、店番の子は俺が予想したいずれの答えとも違う言葉を返してきた。

「最強……というのが、どの状況に置けるものなのか分からないので……」

 まさか、『最強』の定義を問い返してくるとは思わなかった。
 俺は驚きを隠しながら、さらに説明を加えた。

「あ、ああ……そうだな。戦闘になったときにだ」
「戦闘ですか? 具体的にどのような戦闘でしょうか?」
「……う~ん。そうだな……そこまでは考えてなかった。では、こうしよう。君がこの店で腕利きの冒険者に進める武器はどれだ?」
「腕利きとはどのような冒険者でしょうか? 魔法ですか? それとも剣技ですか? あるいは格闘スタイルの?」
「じゃあ……魔法で」
「魔法ですと、8つほど系統が分かれますが」
「……そんなに系統があるのか?」
「はい……」

 やばいぞ。なんか話が進まん。
 いや、俺がきちんと考えていなかったのもあるが。
 あれだ、この子は日本人的な『大体こんな感じ』が通用しない子だ。
 そう気付いてモニカを振り返ると、苦笑い混じりで俺の方を見た。

 すると、眼鏡の奥から俺の腰に差している刀を見て、店番の子はこう言った。

「それ、あなたの妖刀ですか?」
「これが妖刀だとわかるのか?」
「はい、この眼鏡で見たので……」

 そんな高性能眼鏡があったのか。
 ちょっと欲しくなってしまった。
 じっと眼鏡を見つめていると、店番の子はちょっと動揺していた。

「もしかして……これですか?」

 そう言って、店番の子は眼鏡を差しだしてくる。
 良くわからずも受け取ると、俺はその眼鏡をまじまじと観察した。
 普通の眼鏡みたいだけど……。

 眼鏡をかけて妖刀を見てみた。
 そこには刀から吹き出しの線が出ていて、武器の名前をを示すように『妖刀……武器ランク;伝説級 魔力:※※※※※※ 耐久度:99999』となっていた。

 ランクは国宝級・伝説級といったランクがついている。それまではG~SSまで表示されるらしい。

「すごいなこれ……」

 妖刀もだが、それがこの眼鏡一つで可視化できていることもだ。
 モニカにも見せてやるとやっぱり驚いていた。
 俺のステータスでも見ることはできるはずだが、他の人は見えないことから考えても便利だ。

「すいません。これ売りものじゃないんです」
「そうか……」

 やはり一般に普及しているものではないようだ。
 俺は眼鏡を店番の子へと返した。
 武器メンテナンス用にちょっとこの子をメガネごとお持ち帰りするのはダメだろうか?

 改めて考えると、この子の発想は通常の人が考えるものとは違っている。着眼点もぶっ飛んでいるが、鋭いものがある。

 それに、なによりこの眼鏡がすばらしい。
 いや、眼鏡フェチとかではなく。

「さっきのお話ですが、武器ランクが高い武器でいいですか?」
「助かる、そうしてくれ」

 店番の子が店の奥からとり出してきたのは、剣・ランス・槍・ハルバード・盾・銃などだ。

 どれもランクとしては上等なものらしい。
 といっても、どの辺が違うのか俺にはよくわからなかった。
 手にとって形状や銃の内部構造を除き見ようとするが、扱いがわからないために四苦八苦だ。

 それに店番の子が気づいて、武器の詳細を説明してくれた。


 一通り説明を聞きながら武器を見ていろいろと使えそうなものはないかを確認していく。
 俺が武器に求めているのは、速さ・対応力・弱点補強だ。

 どうやらこの帝国の女皇は、俺の能力を知っているらしい。
 いつどんな対策をされるかわからない。
 ならば、弱点を補って、さらに俺が強くなればよいのだ。
 強さといっても、この子が言ったように、対策されない新たな武器の力を獲得するのだ。
 武器は換装式にして転移で切り替える。これで対策もくそも無くなる。

 時間があるときは召喚でつくりだせばいいかもしれないが、武器はやはり洗練されていないと負けてしまうかもしれない。
 ならば、ランクの高い武器を選ぶほうがよさそうだ。

 説明の中でよさそうだったのは、『魔法弾』という専用の弾(たま)さえ買えれば、魔法を直接使用しなくても使える武器だった。
 他の武器はどれも魔法と併用で、使い勝手が悪いようだ。
 
「これはいくらだ?」

 古式のリボルバー銃を手にとって、値段を聞く。国宝級のランクだ。
 
「これは金貨換算で50枚となります」

 店の奥に大事にしまってあったランクが高い武器だからか、金額もそれなりか。

 村から連れてきたディビナの持っていた手持ちしかない現状、買えない。
 そのため俺はいま銀貨5枚と銅貨が30枚しかないのだ。
 適当に金塊を売って金に換えるか?
 必要性を感じればそうするつもりだった。

 それと冒険者というのも一度やってみたいが、あれは金になるのだろうか?
 とりあえず、店番の子には売らないように頼んで店を出ようとしたとき。
 
 モニカが安い棚においてあるつくりの粗いハルバードを興味ありそうに見ていた。

「欲しいのか……?」
「え? そう言うわけではないんですが……」

 顔にそのまま欲しいと書いてあった。
 店番の子にその武器を渡す。

「これをくれ」

 購入することにした。
 銀貨3枚と多めに置いて、そのまま店を二人で出た。
 出口からすぐのところで、ハルバードを手渡す。

「これ欲しかったんだろ?」
「あ……、はい!」

 嬉しそうに手にしたハルバードを眺めていた。
 もしかして俺、かなり妹には甘くなってしまう気質なのだろうか?
 こうするのが当たり前のように思えてしまった。誰かが喜ぶことを嬉しいと思うことなど一度も無かったのに、不思議な感じだ。

 次は図書館へと向かった。とても大きいところだった。
 さすが帝国の首都か。
 しかし、重大なことを忘れていた。
 俺はこの世界の文字が読めないのだ。
 本を開いてから思い出した。

 仕方なく、予定を変更して、金塊を商人へと売ることで金に換えた。
 改めてこの能力のすごさに気づかされたのは、召喚する物質にほとんど制限がないため、この国の貨幣は無理でも金になりそうなものはいくらでも出せるのだ。
 まあ、社会を壊したいわけじゃないし、この住民の者たちが社会を回してくれないと生活できないだろうから、変に社会混乱をさせるつもりはないが。
 金銀財宝は、希少だからこそ価値があるのだ。
 増え過ぎれば価値も堕ちるし、手に入れる方法が用意となれば、俺を巡って戦争が起きかねない。

 改めて銃を取りに行くのは明日にして、その日はモニカと一緒に宿へと帰ることにした。

 俺は翌日、銃を取りに行くことにした。
 モニカを連れていくのも忘れない。今日は妹の大事な家の所有権がどうなっているのかを確かめにも行くからだ。
 昨日行かなかったのは、街の兵士たちの様子を知っておきたかったのもある。
 
 もし、俺を敵対者とみなした女皇が、俺を捜索対象にしていたりするといけないからだ。
 のこのこ国の軍関係の主要施設に入っていって、対策済みの攻撃を食らってはかなわないからな。
 しかし、俺の予想は外れ、敵愾心を向ける者はいない。それどころか、平和そのものの暮らしをしていた帝国の住人たちに少し驚いたくらいだ。


「じゃあ、モキュのことを頼む」

 ディビナにモキュのことを頼んだ。

「はい、お任せください!」

 相変わらずのはきはきした返事を聞いてモキュを一目見た後、馬小屋を出ていくことにした。

 俺は隣を歩くモニカを見て質問をした。

「ハルバードか? どうして持ってきたんだ?」
「それは……いつ危険があるか分からないですし、ちょっと使えるようになりたいかなって思って」

 昨日買ってやった長い柄と先端に斧のようなものがついている武器をモニカが胸の前に抱えていたのだ。

「どこかで練習するつもりなのか?」
「そのつもりです……。でも場所は決まってて、屋外訓練所がお城の近くにあるんです。お城はもうないですけど」

 話によると、騎士や冒険者の良く使う場所らしい。一般市民はそもそも武器を使った戦闘をしないため普段は使用しないと言う。

「じゃあ、ついでにそこへ寄ってくか」
「あ……、私一人でも大丈夫ですけど……」
「いや、俺と一緒にモニカがいることは敵がすでに知っていることらしい。しかし、表立っては敵対されていないことを考えると、皇女は俺を秘密裏に消したいらしい」
「そうだったのですか……。じゃあ、お兄ちゃんも一緒に来てくれますか?」
「ああ、武器屋の後にそこへ行こう」

 俺もちょうど、そう言った場所でやりたいことがあったのだ。
 心臓に能力を使った時に気づいたのだが、身体の中を流れる血液や電流を操作することができると言うことは、あれができるかも?
 もしかするともしかするかもしれないから、試してみるのだ。


 武器屋によると、またあのおさげをした眼鏡っ子が店番をしていた。

「昨日言った武器を買いに来た」

 今日は本を読んでいたのか、顔を挙げると眼鏡をくいっと持ち上げた。

「こんにちは、昨日言っていた銃ですね。どうぞ」
「ああ、あと弾をあるだけ全部くれ。それと魔法を使わずに使える武器はとりあえず全てふぁ」
「……わかりました」

 驚いたようにこちらを見上げた店番の子は、奥からガサゴソと武器を取りだしてきた。
 一通り武器を転移で宿へと送った。

「これで全部ですか?」
「ああ。ちなみに、君は本を読めるのか?」

 置いてある分厚い本に目を向けて聞いた。

「え? はい、学院に通っているので文字くらいは普通に。といってもこの本は学院とは関係ないので趣味ですが……」
「そうか……。君は魔法や武器に詳しいのか?」
「本で知ったことはだいたい……。兵士の実践学科になると、まだまだ知らないことはありますが」
「そ、そうか……」

 俺は本が読めないから、ちょうどよさそうな感じの子なんだが。
 何とかならないか……。

「えっと……、なんでしょう?」

 俺がじろじろ見ていたことで、その視線が気になるみたいだった。

「あ、いや……ご家族とかはいるかな?」
「いないですけど……」

 聞いてはいけないことだったみたいだ。

「そうか。この店は一人でやってるのか?」
「いいえ、私の店じゃないですよ?ここで働かせてもらっているだけなので」

 そういえば高い税金を払わなくてはいけない国だったな。
 その上、学院の学費もあるだろう。

「そっか……」
「なんでそんなこと聞くんですか?」

 ちょっとだけ不審そうな目を向けてきた。
 もしかして、ナンパしていると思われているのか……?
 それは誤解だ。

「俺の……いや、なんでもない」

 俺は慌ててと答えると、そのまま店を出て行くことにした。
 もちろん、お金をカウンターに置いてだ。

 そこで、きゅっと袖をひっぱてきたのはモニカだった。

「こう言ってはあれですけど……その……」
「どうした?」
「なんていうか、あの子のことが気になっているんですか?」
「……まあな」

 俺にとって必要不可欠な子みたいになってきている。
 モニカはちょっとだけ目を伏せて低い声で唸った。

「そうですか……」



 以前、立ち寄った消失した城の跡地へと言って、そこからさらに南へと数分歩いた。
 そこには鉄の柵で敷地が囲われていて、その中央に一つの建物があった。
 冒険者ギルドだった。
 モニカによると、そこを経由して中に入ることができるらしい。

「こっちです……」

 モニカに案内されて建物の中へと入っていく。
 木のカウンターの向かいには若いお姉さん2人と上司っぽいお兄さんが1人いた。
 中には以前、山賊退治で見かけた冒険者と似たような、しっかりとした皮や鉄の防具をつける男女がいる。

「こんにちは。御用向きはなんでしょうか?」
「はい、訓練場を使用したくて」
「そうですか。では冒険者のバッジを見せてもらえますか?」
「えっと……持ってなくて」
「それではおつくりしますね。そちらの方も一緒ですか?」
「はい、よろしくお願いします」

 一連のやり取りの後、冒険者のルールが書かれた紙を手渡された。
 
 その後、お姉さんは訓練場の説明を始めた。

「訓練場の使用は、無料です。時間はギルドの閉まる日付変更までとなります」
「はい」
「それでは、こちらへどうぞ」

 俺たちが案内されたのは、ギルドの左側にある扉だった。
 そこから訓練場へとつながっている。

 土の地面と簡単な腰の高さまである鉄の柵があるだけ。
 中央に白いラインが引かれているものの、それ以外にこれといったものは見当たらなかった。
 中ではすでに訓練場を使っているグループの姿が見えた。
 あの集まりがそれぞれパーティを組んでいるのだろう。


「それで、モニカはどんな訓練をするんだ?」
「ちょっとこの武器に慣れたいので、軽い素振りと実践をしたいんです。お兄ちゃんがついてきてくれたので、後で相手をお願いできますか?」
「わかった。じゃあ俺も少しそっちでやりたいことがあるから、素振りが終わったら声かけてくれ」
「はい」

 俺は隅の方で静かに目を閉じた。
 身体の中を流れる電気信号。それが神経を介して身体の内臓や筋肉を動かしている。
 それが人間の身体が動く仕組みでもある。
 これによって、自分の体すら自分で動かすことが出来る。
 よく、人間は意志が先にあって、あとで脳が信号を届けているというが、実は嘘だ。
 日本の現代にあった新しい科学の書物にそのことが書かれていて、知ったと同時に衝撃を受けたことを覚えている。
 つまり、人は時間的に遅れた意思で体を動かしている。
 だが、俺の能力ならその影響を受けない。
 そして、それはつまり……。
 他者から体を操られることなく、己の意志だけによって自分を動かすことが出来る。そういうことなのだ。

 また、人間は普段、全力を出せないように脳が制限をかけている。
 火事場の馬鹿力みたいに全力で動き続けると、身体がぶっ壊れてしまうからと。
 今俺は勇者だ。
 その上で身体の制限がかかっていると考えると、俺はもっと速く動くことができるはずだ。
 神経伝達の最も早いタイムを維持できれば、反射神経、動体視力、思考をもっと強化することができるはずなのだ。
 反射を即座にできるよう補助してやるのも良いかもしれない。

 俺は今日取りに行ったリボルバーを手に持った。
 体は、意志によって電気信号で動かしてだ。
 この武器を一度、宿へと転移させる。弾(たま)も取り外して一緒に宿に送っておく。
 その後、俺は目の前に木のマンシルエットを出現させた。ついでに丸のマークも。

 電磁気操作から、わずかな電気信号の流れを操作して、筋肉への伝達へと変えていく。

 全ての神経を研ぎ澄まして、電気の流れを最速に。

 手に銃を転移、
 それからすぐ弾を装填、
 狙いをマンシルエットに向けて、撃ち出す!

 パンっ!

 独特のくぐもった音とともに、弾はどこかへと飛んで行った。


「想像以上に当たらん」

 次は能力を使って弾の軌道を操作しながら撃った。
 今度は真ん中へと命中した。


「よし、あらかた武器の換装と能力の使いどころを試しておこう」

 俺は能力と武器の組み合わせから、できる限り能力の対策へと対抗するような使い方を意識して試した。

 まず思いついたのは、転移させて背後から槍や弓を飛ばすことだ。
 その後、手に持った剣を伸ばしたり、盾を拡大して質量を変化させるなど、生命体の攻撃で強力な打撃でも耐えられるようにしていく。

 とはいえ、実際に魔法の多様さがどの程度か分からないから、それにも限界がある。

「やっぱあの子に相談するか」

 さっき言おうとしたが言えなかった。
 あの感じだと、明らかに断られそうだったからだ。
 ディビナの餌係の時みたいに、相談役を引き受けてくれるような上手い言い訳があるといいが。

 そこに、モニカの声がかかった。

「お兄ちゃん、終わりました。相手をお願いします」
「ああ、わかった」

 すっかり手になじんだ感じでハルバードを握っているモニカ。
 空いている場所で互いに向かい合った。

「じゃあ、始めますね?」
「ああ、いつでもいい」
「じゃあ――」

 そう言った瞬間にモニカの姿が消えて、俺の首筋にハルバードの刃先がつきつけられていた。

 あまりの出来事に俺は驚いた。

「……すごいな」

 俺は感嘆しながら、後ろでにこっと笑みを浮かべたモニカを見た。
 成功してすごく喜んでいるらしい。
 しかし、いまのはなんだ?

「実はですね……えへへ」

 嬉しそうなモニカは、刃先をどけて元の位置に歩いて戻り振り返った。

 さっきの、姿を消して一瞬でここまで走る、それから攻撃を当てた?
 と言うには、後ろに回られるのが早すぎだ。

 そう言えば、モニカがどうやって俺の通った王国から台地までの道のりをずっと見ていたのか、まったく知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スキルポイントが無限で全振りしても余るため、他に使ってみます

銀狐
ファンタジー
病気で17歳という若さで亡くなってしまった橘 勇輝。 死んだ際に3つの能力を手に入れ、別の世界に行けることになった。 そこで手に入れた能力でスキルポイントを無限にできる。 そのため、いろいろなスキルをカンストさせてみようと思いました。 ※10万文字が超えそうなので、長編にしました。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

ギフト争奪戦に乗り遅れたら、ラストワン賞で最強スキルを手に入れた

みももも
ファンタジー
異世界召喚に巻き込まれたイツキは異空間でギフトの争奪戦に巻き込まれてしまう。 争奪戦に積極的に参加できなかったイツキは最後に残された余り物の最弱ギフトを選ぶことになってしまうが、イツキがギフトを手にしたその瞬間、イツキ一人が残された異空間に謎のファンファーレが鳴り響く。 イツキが手にしたのは誰にも選ばれることのなかった最弱ギフト。 そしてそれと、もう一つ……。

外れスキル『収納』がSSS級スキル『亜空間』に成長しました~剣撃も魔法もモンスターも収納できます~

春小麦
ファンタジー
——『収納』という、ただバッグに物をたくさん入れられるだけの外れスキル。 冒険者になることを夢見ていたカイル・ファルグレッドは落胆し、冒険者になることを諦めた。 しかし、ある日ゴブリンに襲われたカイルは、無意識に自身の『収納』スキルを覚醒させる。 パンチや蹴りの衝撃、剣撃や魔法、はたまたドラゴンなど、この世のありとあらゆるものを【アイテムボックス】へ『収納』することができるようになる。 そこから郵便屋を辞めて冒険者へと転向し、もはや外れスキルどころかブッ壊れスキルとなった『収納(亜空間)』を駆使して、仲間と共に最強冒険者を目指していく。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

学校ごと異世界に召喚された俺、拾ったスキルが強すぎたので無双します

名無し
ファンタジー
 毎日のようにいじめを受けていた主人公の如月優斗は、ある日自分の学校が異世界へ転移したことを知る。召喚主によれば、生徒たちの中から救世主を探しているそうで、スマホを通してスキルをタダで配るのだという。それがきっかけで神スキルを得た如月は、あっという間に最強の男へと進化していく。

処理中です...