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俺たちは、空を飛んで帝国のある西へと向かっていた。
丘を越えて大きな川を渡ったところで、ディビナが声を上げた。
「あ! あそこに大ヒマワリがあります」
「キュッ!」
「どこだ?」
俺にはどれが大ヒマワリなのか見てもよくわからなかったが、モキュにはどこにあるのかわかったらしい。嬉しそうな声をあげていた。
ディビナの指さす方へと下降していくと、確かに黄色い花びらの大きなひまわりが咲いていた。
といっても、ほんの数本しかなく、上空からではほとんど発見できないくらいだ。
お花畑というにはあまりに寂しげだった。
「思ったよりも、少ないな……」
「そうですね。大ヒマワリはこの辺りにたくさん咲いていたのですが、かなり前からその数を減らしているそうです。もともとこの辺にビッグハムスターは群れをなして生息していたのですが、大ヒマワリの数が減少するにつれて、彼らは東部へと生存範囲を移していったと言います」
「そうなのか……」
モキュが東の森にいたのは、移住してきた先祖がいたからなのかもしれない。
とりあえず、絶滅しかねないくらい少ないので、一本だけもらっていくことにした。
また増えたら、採りにこよう。
腰に下げた麻袋へと入れておく。
それにしても、なぜモキュは王国にいたのだろうか?
人を怖がっているというわけでは決してないのだ。
襲ってくる人間から逃げたりおびえたりしていても、こうして俺たち人間がそばにいるのにすっかりと落ち着いているのだから。
野生の動物ならばこうもすんなりとはいかない。
とにかくモキュの飼い主として、きちんと世話をして守る。
そう思って背中を撫でている時だった。
ぐ~、とディビナのお腹の音が鳴ったのに気づいた。
またお腹の音がし多と思ったら、モキュの方からだった。
モキュの方を見ると、首を横に振っている。恥ずかしがっているのだろう。
「キュキュッ!」
俺は改めてディビナを見た。
「お腹すいたのか?」
「は、はい……」
「なにか食べ物は……」
そう言って辺りを見回していると、ディビナが背中の鞄から小さな袋を取り出した。
「それは?」
「これは豆ですね。一粒持っているだけでいくらでも増やせるので、旅にはちょうどいいと思って」
「そうか。じゃあそれを茹でるか」
「でも鍋がありません」
「ああ、それくらいは作れば大丈夫だ」
そう言って物質召喚で銅の塊を召喚してから、鍋の形へとつくり替えた。
ぐつぐつと豆や野菜を煮る間に、通りかかった渡り鳥を小石で撃ち落として肉も加えた。いろいろしていたら、もう陽は傾き、辺りが薄暗くなっていた。
「できました!」
俺はお玉を手に、椀によそってやることにした。
ステンレスのお椀を二つ作り、そこにスープを入れていく。
そしてそれをディビナのいる隣へと手渡す。
「ありがとうございます……」
俺の分もよそって、すぐそばの切り株に座り食べようとした時だ。
ディビナがお椀も何もない手を救う形にして、「あの……」と戸惑うように俺の方を見ていた。
「どうかしたか?」
「私の分のお椀をお願いできますか?」
「ん? ディビナの分はさっき……。それにお椀が足りないなんて、ちゃんと2つ用意していたはず……」
お椀ごとよそった分も落としてしまったのかと思い、仕方なくもう一つお椀をつくり、よそってやった。
俺はたき火を眺めながら、豆を口にする。
「うん、うまいな」
「そうですね、久しぶりにご飯食べました。すごくおいしいです」(=ディビナとは別の少女の声)
ディビナは真面目な顔でそれに同意する。
「……そうですね。私もです」
「肉はどうだ? なんの鳥かは知らないが、毒はないはずだから、後は旨いかどうかなんだが」
「お肉も美味しいですよ」(=ディビナとは別の少女の声)
その意見にディビナもそれに同意する。
「薬味を入れているので、旨く生臭さが消えてくれましたね……」
そこで俺も一口食べると、確かにスープの味が染み、それでいて生臭さもなく旨かった。
モキュの方を見ると、ディビナが役目をきちんと果たして、ヒマワリの種と野菜を餌として用意していたようだ。美味しそうにモキュはがりがり食べていた。
「明日には帝国に着けそうですね」
「ああ、空から行けば特に魔物の邪魔もないからな」
そこで、ディビナが俺の肩をたたいた。
「あの……さっきから気になっていたのですが」
ディビナを見ると、言っていいのか迷うような、微妙な顔をしていた。
「どうかしたのか?」
珍しい表情だった。説明がないことが物足りないと言った感じだ。
「さっきからそこで会話に参加している方は誰でしょうか?」
そこで俺は無意識のうちに3人と会話していることに気づいた。
そして、左にいる少女の方をもう一度見た。
そこには黒いワンピースを纏った長い黒髪の少女がいた。見た目10代前半くらいのだろうか。知らない子だ。
その少女は気まずそうな顔をした。
「あ……、ばれちゃいました。ナチュラルな感じで溶け込む作戦だったんですけど、やっぱり上手くいかなかいですね」
明らかに年下の子ども。それに敵意も感じない。
だが、突然この誰もいない場所からどうやって現れたのかがわからなかった。
「誰なんだお前は?」
ディビナがおかしなことを聞いたように問う。
「え? お連れの方ではないのですか?」
「ああ、当然だ。俺とモキュとディビナだけだ。俺はこいつが誰か知らない」
そこで初めてディビナが敵意のような視線をその少女に向けた。
俺はとりあえず、状況を把握することにした。
すると、謎の少女は持っていたお椀を切り株の上に置き、地面に膝をついた。
「おい、何を……」
地面に頭をつけて、土下座する形になった少女は、真剣な声でこういった。
「私のパンツを差し上げますから、兄を助けてください!」
丘を越えて大きな川を渡ったところで、ディビナが声を上げた。
「あ! あそこに大ヒマワリがあります」
「キュッ!」
「どこだ?」
俺にはどれが大ヒマワリなのか見てもよくわからなかったが、モキュにはどこにあるのかわかったらしい。嬉しそうな声をあげていた。
ディビナの指さす方へと下降していくと、確かに黄色い花びらの大きなひまわりが咲いていた。
といっても、ほんの数本しかなく、上空からではほとんど発見できないくらいだ。
お花畑というにはあまりに寂しげだった。
「思ったよりも、少ないな……」
「そうですね。大ヒマワリはこの辺りにたくさん咲いていたのですが、かなり前からその数を減らしているそうです。もともとこの辺にビッグハムスターは群れをなして生息していたのですが、大ヒマワリの数が減少するにつれて、彼らは東部へと生存範囲を移していったと言います」
「そうなのか……」
モキュが東の森にいたのは、移住してきた先祖がいたからなのかもしれない。
とりあえず、絶滅しかねないくらい少ないので、一本だけもらっていくことにした。
また増えたら、採りにこよう。
腰に下げた麻袋へと入れておく。
それにしても、なぜモキュは王国にいたのだろうか?
人を怖がっているというわけでは決してないのだ。
襲ってくる人間から逃げたりおびえたりしていても、こうして俺たち人間がそばにいるのにすっかりと落ち着いているのだから。
野生の動物ならばこうもすんなりとはいかない。
とにかくモキュの飼い主として、きちんと世話をして守る。
そう思って背中を撫でている時だった。
ぐ~、とディビナのお腹の音が鳴ったのに気づいた。
またお腹の音がし多と思ったら、モキュの方からだった。
モキュの方を見ると、首を横に振っている。恥ずかしがっているのだろう。
「キュキュッ!」
俺は改めてディビナを見た。
「お腹すいたのか?」
「は、はい……」
「なにか食べ物は……」
そう言って辺りを見回していると、ディビナが背中の鞄から小さな袋を取り出した。
「それは?」
「これは豆ですね。一粒持っているだけでいくらでも増やせるので、旅にはちょうどいいと思って」
「そうか。じゃあそれを茹でるか」
「でも鍋がありません」
「ああ、それくらいは作れば大丈夫だ」
そう言って物質召喚で銅の塊を召喚してから、鍋の形へとつくり替えた。
ぐつぐつと豆や野菜を煮る間に、通りかかった渡り鳥を小石で撃ち落として肉も加えた。いろいろしていたら、もう陽は傾き、辺りが薄暗くなっていた。
「できました!」
俺はお玉を手に、椀によそってやることにした。
ステンレスのお椀を二つ作り、そこにスープを入れていく。
そしてそれをディビナのいる隣へと手渡す。
「ありがとうございます……」
俺の分もよそって、すぐそばの切り株に座り食べようとした時だ。
ディビナがお椀も何もない手を救う形にして、「あの……」と戸惑うように俺の方を見ていた。
「どうかしたか?」
「私の分のお椀をお願いできますか?」
「ん? ディビナの分はさっき……。それにお椀が足りないなんて、ちゃんと2つ用意していたはず……」
お椀ごとよそった分も落としてしまったのかと思い、仕方なくもう一つお椀をつくり、よそってやった。
俺はたき火を眺めながら、豆を口にする。
「うん、うまいな」
「そうですね、久しぶりにご飯食べました。すごくおいしいです」(=ディビナとは別の少女の声)
ディビナは真面目な顔でそれに同意する。
「……そうですね。私もです」
「肉はどうだ? なんの鳥かは知らないが、毒はないはずだから、後は旨いかどうかなんだが」
「お肉も美味しいですよ」(=ディビナとは別の少女の声)
その意見にディビナもそれに同意する。
「薬味を入れているので、旨く生臭さが消えてくれましたね……」
そこで俺も一口食べると、確かにスープの味が染み、それでいて生臭さもなく旨かった。
モキュの方を見ると、ディビナが役目をきちんと果たして、ヒマワリの種と野菜を餌として用意していたようだ。美味しそうにモキュはがりがり食べていた。
「明日には帝国に着けそうですね」
「ああ、空から行けば特に魔物の邪魔もないからな」
そこで、ディビナが俺の肩をたたいた。
「あの……さっきから気になっていたのですが」
ディビナを見ると、言っていいのか迷うような、微妙な顔をしていた。
「どうかしたのか?」
珍しい表情だった。説明がないことが物足りないと言った感じだ。
「さっきからそこで会話に参加している方は誰でしょうか?」
そこで俺は無意識のうちに3人と会話していることに気づいた。
そして、左にいる少女の方をもう一度見た。
そこには黒いワンピースを纏った長い黒髪の少女がいた。見た目10代前半くらいのだろうか。知らない子だ。
その少女は気まずそうな顔をした。
「あ……、ばれちゃいました。ナチュラルな感じで溶け込む作戦だったんですけど、やっぱり上手くいかなかいですね」
明らかに年下の子ども。それに敵意も感じない。
だが、突然この誰もいない場所からどうやって現れたのかがわからなかった。
「誰なんだお前は?」
ディビナがおかしなことを聞いたように問う。
「え? お連れの方ではないのですか?」
「ああ、当然だ。俺とモキュとディビナだけだ。俺はこいつが誰か知らない」
そこで初めてディビナが敵意のような視線をその少女に向けた。
俺はとりあえず、状況を把握することにした。
すると、謎の少女は持っていたお椀を切り株の上に置き、地面に膝をついた。
「おい、何を……」
地面に頭をつけて、土下座する形になった少女は、真剣な声でこういった。
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