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朝になると俺は湖を出発した。
そして、現在、上空を一匹のハムスターと一緒に飛んでいた。
もちろん、モフモフな背中に乗って。
「キュッ、キュキュ」
空を飛んでいることに驚いたのか、鳴き声をあげているらしい。
天駆けるハムスターと一緒に、俺は西の方角へと向かう。マップから見てこっち
「そういえば、ペットにするなら名前をつけてやらないとな」
俺はこのハムスターに名前をつけてやることにした。
「ん~~~、『ハム子』とかどうだろうか? よし、今日からお前はハム子だ!」
そう告げた途端、ハムスターは身体を揺らして、首を振った。
「キュッ! キュキュッ!」
悲しそうな鳴き声と、その大きな目が涙でうるうるしているような気がした。
「駄目だったか?」
ハムスターでメス(♀)だったからと、ちょっと安直過ぎたらしい。
「じゃあ、モフモフでキュッと鳴くから『モキュ』でどうだ?」
「キューキュー」
すると、うんうんと首を振った。
気にいったらしい。
これからこいつの名前は『モキュ』だ。
木がぽつぽつと生えている場所から荒野がしばらく続くと、その先には草原地帯がありその中心には一つの村があった。
空から見る限り、そんなに規模は大きくなさそうだ。
集落が点々としていて、人がいるのがかろうじてわかるくらい。
さてまず最初はどうすればいいか……。
とりあえず、普通に挨拶するか?
よしそうしよう。
この村で、この辺のこととか国の在り処とか一通り聞いて、どこに行くのか決めたい。
あの国王軍の奴ら、俺たちを捨て駒にするつもりだったから、王国の城からダンジョンのある周辺のことしか情報を与えなかった。
確かに魔王退治に必要はなかったが、今にして思えばわざと情報を制限していたのだろう。
気流を操作して、モキュを村のそばへと着地させた。
俺はモフモフの名残惜しさを抱きつつも、背中から降りると村の近くを歩いていた一人の少女へと声をかけた。
「や、やあ、こんにちは……」
すると振り返った少女はちゃんと挨拶を返してくれた。
「はい、こんにちは……」
見た感じまだ子どもで、日本だと12~13歳くらいになるだろうか?
黒いロングの髪と陽に焼けた肌、細い体つき。
どこかのアジアン民族風衣装のような麦色のワンピースを着ていた。
手には籠を持っていて、その中には草みたいなのが入っていた。薬草かもしれない
挨拶はしたものの、少女は「誰この人?」という視線を向けている。
そして、隣に視線を向けてギョッとした。
籠を落としてしまい、ぱらぱらと草が地面に散らばる。
それを必死でかき集めて、どこかへ逃げ出そうとしていた。
モキュは、ハムスターとしては大きすぎるし、他の大型動物と比べてもデカい。
だから、見た目で本物の『魔物』と間違えてしまったのだろう。
「一応言っとくが、魔物じゃないぞ? こいつは、モキュだ」
モキュが首を縦に振った。
「そ、そうですか……」
しゃがんだ状態で、じ~、とモキュに視線を送った後、「はぁ」と息を吐き出した。
よく観察してみたら魔物じゃないことがわかって安心、といった感じだ。
てか、魔物ってみんなドス黒いから、わかると思うんだが。
どこをどうやって、魔物じゃないと判断したんだろうか?
ああ、そうか。普通はわからないのか。サイズはおかしいがただのハムスターである。
しかし、どす黒いという『色の類型』ができるのは、たくさんの魔物をダンジョンで血祭りに上げてきた俺だからわかるんだな。
それなら納得だ。
草を拾いようやく立ち上がった少女に、今回の目的を告げた。
「それでなんだけど、この辺のことをよく知っている人って村に誰かいないかな?」
「え、ええ。大人の方なら……」
「じゃあ、案内してもらってもいいかな?」
「……私がですか?」
すると少女は、嫌悪感を露わにした。
そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか……。
「モキュのことが魔物じゃないって知っているの君だけだから……と思ったんだけど、駄目か?」
「それでは……。一応、お名前をうかがっても?」
「俺はコウセイだ」
「コウセイさんですか。私はディビナといいます」
俺は横を歩いているモキュへと視線を送った。
「そうか。ちなみに改めて紹介するとこいつは俺のペット、モキュだ」
「そ、そうですか……」
なんか、ペットという説明に微妙な顔をしていた。
やっぱ、ちょっとサイズが大きすぎただろうか?
いや、モフモフなんだからオッケーだ。
そんな自己紹介を終え、俺は人のほとんどいない村の様子を眺めながら「過疎化が進んでるのかな?」とか枯れた畑を見て「村の農家はなにしてんだろう?」とか思いながら、俺たちはの村の中央へとたどり着く。
「ここは?」
木で建造さされた、いかにもな村の一軒家がそこにはあった。
「長老の住む家です」
「長老?」
「一番この辺のことを知っている方です。ちょっと事情を話してきます」
先にディビナという子がモキュの事情を説明してから、案内するということらしい。
外に置いてっても、魔物と間違えられるかもしれないし、中に入るにも長老だと『ぎっくり腰』とかになりかねないと判断したのかもな、たぶんだが。
幼そうなのに、意外にしっかりしてるようだ。
「それに、長老から何を聞くか整理しておかないとな」
そう呟いて、頭の中で質問を浮かべながら、モキュの毛並みをそっとなでた。
家の中からディビナが戻ってくると、俺は家の中に案内された。
木造建築の家は日本にもあったが、現代建築な雰囲気はなかった。いかにも昔ながらな建物だ。前の世界でいうアンティークと言ったほうがいいかもしれない。
両開きの扉もガタガタで壊れる寸前。床は土を何かで固めただけ。
入口から入ると、そのまま一軒家の中すべてが見回せる作りだ。
ベッドの上に座っていたのは、長老らしき白いひげを生やしたじいさんだった。
頭に毛はなく、ツルツルだ。
「お主か? 聞きたいことがあるというのは?」
俺は頷く。
「はい、ちょっとこの辺のことについて知りたくて」
じいさんが俺の後ろに視線を送る。
そこには入り口をその巨体で無理矢理に通ろうとして、すっぽりはまってしまったモキュがいた。
「キュ~~」
あ、結構、入口大きいからぎりぎり通れるかな?と思っていたが、あと一歩のところで駄目だったようだ。
そして、俺が手を引っ張って中に引き込むと、すぽっと家の中に入ることに成功した。壁に若干亀裂が入ったが、見なかったことにしよう。
長老はモキュの大きな姿を見て、ひげをさすった。
「大きいのう……げほげほっ!」
そして、口からドバっと血を吐きだした。
え? は?
まさかモキュの大きさにびっくりしすぎて、吐血したとかじゃないよな?
「あの……口から血が出てますけど、大丈夫ですか?」
か~ぺっ、と桶に唾を吐き出して、手を振ってきた。
「まだ大丈夫じゃ」
まだ……とか、怖いこというなよ。
ベッドに寝てたから、なんか病人っぽいし。そういう病気なのかもしれない。
ディビナは慌てて、木のコップを差し出して何かを飲ませた。
もしかして、あの集めていた草は長老のためだったのか?
まあいい。とりあえず、ここが何の村なのかを最初に聞くことにした。
「それで、この村は一体……」
「そうじゃのう……。まずわしがこの村の長老じゃ。この村はゴルボ村といってのう。すぐ近くにガーダバルン帝国という国があるのじゃが、その最東端の辺境にある村なんじゃ」
「ガーダバルン帝国……?」
名前で判断するのはどうかと思うが、響きから俺の行きたいようなまともな国なのか?と疑問を持ってしまった。
侵略戦争とかしてそう……と想像してしまうのは、漫画の読み過ぎなのだろうか。
「帝国は発達した技術と魔法戦力を保持している、世界最大の領土と兵力をもつ国家と言われておるのじゃ」
あれ? 予感が当たったのかな。
いや、まだ結論を出すには早いか。それより……、
「……そんなに規模の大きな国に属しているのに、この村はなぜこんな干からびたみたいになってるんです?」
「それは……立て続けに悪いことが起こってのう。最初、村から少し離れたところに川があったのじゃが、遥か北の上流にダンジョンが生み出されたせいで、せき止められてしまったのじゃ」
ふ~ん、ダンジョンができると、そういうこともあるのか。
「じゃが、悪い出来事はまだ続いた。水が手に入らないからと、水魔法の使える冒険者を雇って畑や生活の水を補っていたのじゃが、数日前に商人の一団が魔物に壊滅させられて、食糧が届かなかったのじゃ。物資輸送のためにつくられた街道付近に魔物の群れがすみついてしまって、物資や食糧の調達もできなくなってしまった。そのせいで、冒険者もさっさと帝国へと帰ってしまった。さらに重ねて。近くの山に山賊がすみついたのじゃ。村から、若い娘は攫われ、食糧も奪われる始末。その出来事がきっかけでほとんどの住人たちが、帝国の都市へと移って行ってしまった……のじゃ」
じいさんの長い話を聞きながら、なるほどと相槌を打った。
どうやら、そんな危険な村よりも帝国の方がはるかに安全で移住してまで住みたいと思われる場所らしい。
なら、このまま帝国へ行くのがよさそうだ。
にしても作為的な出来事が多いな。そんな悪いことばかり偶然起きるわけがない。
また、なんか政治的な争いごとかな?
なるべく関わり合いにならないほうがいいかな。
他に聞きたかったことをいくつか質問した。この世界やついでに帝国のことなどだ。
それによると、帝国はどうやら、比較的よそ者でも住みやすいことがわかった。
その後、俺は礼を言ってここを去ることにした
「話を聞かせてくれて助かった。俺はこのまま帝国へ向かうことにする」
「……そうか。気をつけてのう」
長老の家を出ようと思った時、隣にモキュがいないことに気づいて辺りを見回した。
「あ、いた」
モキュは家の隅にある何かのにおいをかいで、「キュ~」と鳴いていた。
「ん? これは?」
俺は隅の方へと歩いて行くと、モキュの視線の先には大きなヒマワリの種があった。
この柄といい、見た目といい、間違いない。
だが、知っているヒマワリの種とはサイズがケタ違いだった。
それに反応したのは長老だった。
「それは大ヒマワリの種じゃ」
「なぜこんなものが家に?」
「それは、この辺から東部周辺にかけて、そこにおるハムスターと同種の『ビッグハムスター』という種の動物が生息しているのじゃが。もともと、ビッグハムスターが生息するようになった理由こそが、この大ヒマワリが咲くポイントだからであり、この地域に餌場がいくつもあるためじゃ」
「ほうほう、なるほど……モキュのように大きいハムスターがまだたくさんいると?」
「いや、生涯の中でもここまで大きいのは、さすがに見たことないのう」
「そ……そうか」
ついモフモフ天国を想像してしまった。
このモキュは同じ種の中でも特別デカいようだ。
そこで、じいさんのすぐ横にいるディビナを見て納得した。
あの時、魔物でないことを納得したのは、よく見てビッグハムスターだとわかったから、ということらしい。
「ここにあるのは『ヒマワリ油』にして生活に使うためのものじゃが、村の技術をもった者がほとんどいなくなってしまった今、生成できないで放置しているのじゃ……」
再びじいさんからモキュへ視線を移すと、物欲しそうな目でその大ヒマワリの種を見ていた。
「欲しいのか?」
「キュ~」
「そうか……。長老、この種をくれないか? 対価はすまないが、俺にできることなら……だな」
「ん? いいが、どうするのじゃ? ああ、餌にか……」
じいさんは改めてモキュが食べたそうにしているを見て納得した。
よし、この状況で俺のしたかったことを思いついた。
前の世界では、俺はほとんど誰かに称賛されたことがなかった。
小学生の時、百点をとったから急いで学校から家へと戻ったら、母親は寝室で別の男と浮気中だったし、それならと思って父親に褒めてもらいに行ったら、「うるせー!」と蹴り飛ばされて、ビリビリに答案を破られたあげく、ゴミ箱にたたき込まれた。
その後、母親は蒸発して消え、父親は腹いせで若い女を襲い始め……。
「おい、大丈夫かの?」
知らないうちに目から涙がこぼれていたらしい。
「い、いや……」
涙を手の甲で拭った。
この程度で感情が揺らぐなんて、俺もまだまだ甘いな。ゴミはゴミ箱へ、ゴミみたいな思い出は忘却の彼方へ。
もう自由なのだ。あの日のことは忘れよう。
「そうか? ならよいのじゃが」
「よし、そういえば、さっき川がせき止められたとか魔物や山賊がどうとか言ってたな。村の障害は俺の方で排除しておく。だから、そろそろモキュに食わせてやっていいか?」
「それは……どういう? いや、種はもちろん食ってくれてかまわんが」
俺がモキュに頷いて
「よし、食っていいぞ」
「キュッ、キュ~~~」
するとモキュは、ヒマワリの種に飛びついて、殻をガリガリむき始めた。
「じゃが、本当にそんなこと、お主がたった一人で出来るのか?」
じいさんの目は疑心に満ち、隣のディビナなんて、詐欺師を見るような目で胡散臭そうな顔をしていた。
「ん? ああ、まったく問題ないぞ」
その返事にまだまだ信じられないような顔をしたままのじいさん。
まあ、川をせき止めているダンジョンを取り除いて川を復活させ、街道の魔物の群れを討伐し、山賊を排除するなんて、普通は無理だ。
俺を除けば。
「そんなこと全部、たった一人で出来るわけないです! あなた死にたいんですか!?」
ちょっと興奮した感じで、反対してきた。
なんでこの子……こんな俺に対してあからさまに否定的なんだ?
別にどうでもいいか。どう思われようと俺は自由なのだ。
自分の意志で好きなことをし、『称賛される』という一点のために行動する。いや、餌代のこともあったな。
「まあ、死ぬことはない。大丈夫だ」
と言葉を残して、ヒマワリの種を食べ終わったモキュと一緒に家の外へと出た。
最初は山賊のお掃除だ。
「覚悟しておけよ!」
俺は山の中にいるであろう、山賊たちへと吐き捨てた。
モキュの餌代と俺の大義(私欲)のために、クソ野郎どもには今から死んで頂こう。
俺はモキュの大きな背中に乗って、山へと飛んで向かうことにした。
マップを出して山賊の位置を確認し、現在(いま)はその真上で旋回している。
ステータスを出した時に、モキュのことが追加されていることに気づいた。
『所有物(ペット);
モキュ(♀)Lv.4
ビッグハムスター(種族)
固有種スキル:鳴き声
加速(ダッシュ)
噛みつき』
一応、俺の所有物(ペット)となっていた。
人間同様に動物にもステータスがあるのか……。固有種のスキルもあるらしい。
所有物(ペット)扱いなのは、一緒にいることをモキュがすでに同意してくれてるのかもしれない。
「Lv.4とか、なかなか森で大変な目にあってきたみたいだな……」
「キュ~~~」
悲しそうな鳴き声を上げるモキュ。
どうやら、村で魔物と間違えられたことといい、元いた森ですごい大変な目にあってきたみたいだ。
うんうん。もう大丈夫だぞ。その境遇に、少し仲間意識を持つのだった。
俺はモキュの頭を撫でながら(ついでにモフモフな耳も)、下の様子を観察していた。
下降気流によってゆっくりと地面に降り立った俺は、周囲を見回して洞穴を見つけた。
上から人影が見えないと思ったら、どうも洞窟の中にアジトを作っているようだ。
モキュは俺の後ろへと回り、洞窟の中をついて来る。
もちろん、洞窟のすぐ入ったところには見張り役の山賊の男がいて、俺の姿はすぐに発見された。
「おい、お前、なに勝手に入ってきてやがる!」
山賊の男は腰からサーベルを抜いた。
「まずは一人……」
身体に石をたたき込んで、「ガっ!」とうめき声を上げた後男はバタりと倒れた。
洞窟の中にはマップで確認しただけでも全部で60人近く人がいる。
まずはその中の
『山賊たちを殲滅』→『攫われた村の若い娘の救出』→『次の魔物討伐に移行』
という予定だ。
攫われた若い娘たちにはきっちりと、俺が山賊を始末したことの証人になってもらう。
出てきた先から石をたたき込んで始末した数が15人になったところで、洞窟内にある大きな広間に出た。
そこでは、盗賊たちの呻き声や悲鳴を聞いた盗賊たちが俺を囲んでいた。剣や槍などを持った盗賊がざっと15人はいる。
姿は、落ち武者みたいにボロボロの衣服を纏っている。
武器は最低限のものを用意しているのか、折れた矢ということはないようだ。
とはいえ、動揺したりはしない。
たとえ、元の世界の全ての兵力を目の前に集めてきたとしても、いまの俺が負けることはないだろう。
隅っこに数人の若い娘たちと、見えない他の娘たちはマップを見るとこの奥にいるようだ。
視線を盗賊の方へと再び向けると、ものすごい警戒されていた。
いや、俺ではなくモキュが……。
そういえば、このとこを忘れていた。
どうやらまた、魔物扱いされてるようだ。
俺が一歩だけ歩いて、それにモキュも続く。
「く、来るなっ!」
弓を持った盗賊の一人が無造作に矢をモキュに放った。
「キュッ!」
カキン。
物理操作した石で矢を砕いてやった。
だが、俺は怯えるモキュを見て、プチンと頭の中から何かがはじける音がした。
「やりやがったな……」
ドスのきいた声で俺は呟くと、召喚できるだけの小石を空中に浮かべ、すべての石をそいつへとたたきこんだ。
身体の原型が残らないほどボロボロになって、地面の赤黒いシミに変った。
「な、なんなんだテメーは!」
盗賊はわけもわからず叫んだ。
そこで中央から大柄の男が姿を現した。
一見、身なりが他の奴と違って冒険者風に見えるが、ここにいるということは山賊の仲間だろう。
スキンヘッドで筋肉質のいいガタイをしている。
「おい、あんちゃん。ずいぶんとヒドいことやってくれたみたいじゃねえか」
「ん? お前たちはすでに死刑が確定してるんだ。モキュの餌代と俺の大義のために死んでくれ」
「は? 何言ってんのかさっぱりだわ」
「わかってもらわなくていい」
「ほう、そうか。じゃあ……」
冒険者風の男は、手をこちらにかざすと、水魔法を唱えた。
「――水球!」
そして、手にした長剣で斬りかかってくる。
俺はまず水魔法を水流操作を使って、ただの水しぶきに変えて無力化した。
そして、男が斬りかかってきた剣を俺は片手でつかんだ。
「は、離しやがれ! くそっ、動かねぇ……」
物質操作・強制で、完全に『剣』の支配権を奪っているんだから当たり前だ。
「これならまだ……騎士の男の方が強かったぞ?」
俺はそのまま男へと石をたたき込んで息の根を止めた。
「おっ、お頭が……」
一人の盗賊が呟くのが聞こえた。
どうもこのスキンヘッド、山賊のボスだったらしい。
にしても水魔法を使っていたな……。
村に雇われたのは、水魔法を使える冒険者だったという。
こいつ姿も冒険者っぽいし。
もしかすると、もしかするかもしれない。
俺は改めて周囲を見回す。
モキュが涙目で俺に怖いと言っている気がした。(脳内補正)
とりあえず、囲んでいる奴らには、
「お前ら……モキュが怖がってるだろ!」
山賊たちには石をありったけぶち込んでやった。
悲鳴を残して他の残党の奴らも息絶えた。
危険がなくなって安堵したモキュの頬を俺は撫でてやった。
まったく、モキュを攻撃するとか、なんて奴らだ。
その後、地面に倒れている俺と同い年ぐらいの娘たちに声をかける。
「おい、大丈夫か?」
だが、地面で死んだような目の娘たちからは、あまりはっきりとした応答はなかった。
ああ、こりゃダメだな。精神が壊れかけてる。
こんなところに放置されているということは、何されたかは想像に難くない。
仕方なく数名の娘を一か所に座らせた。
その後、奥にいた手足を縛られた若い娘たちも、縄を切って歩かせ、先ほどの娘たちと同じ場所へ集めることにした。
「あ、あなた様は、一体……」
「助かるのね、私たち……」
「よかった……」
泣いたりはしなかったものの、精神的にはすでにギリギリだったようだ。
助けに来たと教えた途端、へたり込む者や互いに安堵の声を漏らす娘たち。
歳が一番小さい子で八歳くらい、上は二十代くらいの女性もいた。
奥で捕まっていた若い娘たちが、意思薄弱な娘たちに肩を貸して、一緒に洞窟から出ることとなった。
出口から外へ出ると、一人の20代くらいの女性が声をかけてきた。
「あの……助けていただいて、本当にありがとうございます。あなた様のお名前は?」
「俺はコウセイ、こっちがモキュだ」
初めはモキュに驚いていたが、ビッグハムスターだと知ると、皆がその大きさに珍しがっていた。
「もし村に戻ったら、必ず何かお礼を……」
「いや、お礼は別にいらない」
別に助けた出した人から何か物が欲しくてしたんじゃない。
俺が欲しいのは一つだけ。
人々の称賛だ。
いや餌代もあるから二つか。
「……なんと心の広い方なんでしょう」
なんかきらきらした目で見られるのは恥ずかしいな。
こんな風に見られたことがなかったから余計だ。変に顔がゆるんでしまうではないか。
俺は必死に平静な表情をつくった。
やっぱ不意打ちはあかんね。
それと、この女性はとてもきれいな人だった。でも、20は確実に超えてるし、夫とかいる年齢だろうな。
洞窟から帰り道はわかるということなので、俺はそのまま娘たちを見送った。
今度は魔物の群れを排除するために、街道へと向かうことにした。
そして、現在、上空を一匹のハムスターと一緒に飛んでいた。
もちろん、モフモフな背中に乗って。
「キュッ、キュキュ」
空を飛んでいることに驚いたのか、鳴き声をあげているらしい。
天駆けるハムスターと一緒に、俺は西の方角へと向かう。マップから見てこっち
「そういえば、ペットにするなら名前をつけてやらないとな」
俺はこのハムスターに名前をつけてやることにした。
「ん~~~、『ハム子』とかどうだろうか? よし、今日からお前はハム子だ!」
そう告げた途端、ハムスターは身体を揺らして、首を振った。
「キュッ! キュキュッ!」
悲しそうな鳴き声と、その大きな目が涙でうるうるしているような気がした。
「駄目だったか?」
ハムスターでメス(♀)だったからと、ちょっと安直過ぎたらしい。
「じゃあ、モフモフでキュッと鳴くから『モキュ』でどうだ?」
「キューキュー」
すると、うんうんと首を振った。
気にいったらしい。
これからこいつの名前は『モキュ』だ。
木がぽつぽつと生えている場所から荒野がしばらく続くと、その先には草原地帯がありその中心には一つの村があった。
空から見る限り、そんなに規模は大きくなさそうだ。
集落が点々としていて、人がいるのがかろうじてわかるくらい。
さてまず最初はどうすればいいか……。
とりあえず、普通に挨拶するか?
よしそうしよう。
この村で、この辺のこととか国の在り処とか一通り聞いて、どこに行くのか決めたい。
あの国王軍の奴ら、俺たちを捨て駒にするつもりだったから、王国の城からダンジョンのある周辺のことしか情報を与えなかった。
確かに魔王退治に必要はなかったが、今にして思えばわざと情報を制限していたのだろう。
気流を操作して、モキュを村のそばへと着地させた。
俺はモフモフの名残惜しさを抱きつつも、背中から降りると村の近くを歩いていた一人の少女へと声をかけた。
「や、やあ、こんにちは……」
すると振り返った少女はちゃんと挨拶を返してくれた。
「はい、こんにちは……」
見た感じまだ子どもで、日本だと12~13歳くらいになるだろうか?
黒いロングの髪と陽に焼けた肌、細い体つき。
どこかのアジアン民族風衣装のような麦色のワンピースを着ていた。
手には籠を持っていて、その中には草みたいなのが入っていた。薬草かもしれない
挨拶はしたものの、少女は「誰この人?」という視線を向けている。
そして、隣に視線を向けてギョッとした。
籠を落としてしまい、ぱらぱらと草が地面に散らばる。
それを必死でかき集めて、どこかへ逃げ出そうとしていた。
モキュは、ハムスターとしては大きすぎるし、他の大型動物と比べてもデカい。
だから、見た目で本物の『魔物』と間違えてしまったのだろう。
「一応言っとくが、魔物じゃないぞ? こいつは、モキュだ」
モキュが首を縦に振った。
「そ、そうですか……」
しゃがんだ状態で、じ~、とモキュに視線を送った後、「はぁ」と息を吐き出した。
よく観察してみたら魔物じゃないことがわかって安心、といった感じだ。
てか、魔物ってみんなドス黒いから、わかると思うんだが。
どこをどうやって、魔物じゃないと判断したんだろうか?
ああ、そうか。普通はわからないのか。サイズはおかしいがただのハムスターである。
しかし、どす黒いという『色の類型』ができるのは、たくさんの魔物をダンジョンで血祭りに上げてきた俺だからわかるんだな。
それなら納得だ。
草を拾いようやく立ち上がった少女に、今回の目的を告げた。
「それでなんだけど、この辺のことをよく知っている人って村に誰かいないかな?」
「え、ええ。大人の方なら……」
「じゃあ、案内してもらってもいいかな?」
「……私がですか?」
すると少女は、嫌悪感を露わにした。
そんな嫌そうな顔しなくてもいいじゃないか……。
「モキュのことが魔物じゃないって知っているの君だけだから……と思ったんだけど、駄目か?」
「それでは……。一応、お名前をうかがっても?」
「俺はコウセイだ」
「コウセイさんですか。私はディビナといいます」
俺は横を歩いているモキュへと視線を送った。
「そうか。ちなみに改めて紹介するとこいつは俺のペット、モキュだ」
「そ、そうですか……」
なんか、ペットという説明に微妙な顔をしていた。
やっぱ、ちょっとサイズが大きすぎただろうか?
いや、モフモフなんだからオッケーだ。
そんな自己紹介を終え、俺は人のほとんどいない村の様子を眺めながら「過疎化が進んでるのかな?」とか枯れた畑を見て「村の農家はなにしてんだろう?」とか思いながら、俺たちはの村の中央へとたどり着く。
「ここは?」
木で建造さされた、いかにもな村の一軒家がそこにはあった。
「長老の住む家です」
「長老?」
「一番この辺のことを知っている方です。ちょっと事情を話してきます」
先にディビナという子がモキュの事情を説明してから、案内するということらしい。
外に置いてっても、魔物と間違えられるかもしれないし、中に入るにも長老だと『ぎっくり腰』とかになりかねないと判断したのかもな、たぶんだが。
幼そうなのに、意外にしっかりしてるようだ。
「それに、長老から何を聞くか整理しておかないとな」
そう呟いて、頭の中で質問を浮かべながら、モキュの毛並みをそっとなでた。
家の中からディビナが戻ってくると、俺は家の中に案内された。
木造建築の家は日本にもあったが、現代建築な雰囲気はなかった。いかにも昔ながらな建物だ。前の世界でいうアンティークと言ったほうがいいかもしれない。
両開きの扉もガタガタで壊れる寸前。床は土を何かで固めただけ。
入口から入ると、そのまま一軒家の中すべてが見回せる作りだ。
ベッドの上に座っていたのは、長老らしき白いひげを生やしたじいさんだった。
頭に毛はなく、ツルツルだ。
「お主か? 聞きたいことがあるというのは?」
俺は頷く。
「はい、ちょっとこの辺のことについて知りたくて」
じいさんが俺の後ろに視線を送る。
そこには入り口をその巨体で無理矢理に通ろうとして、すっぽりはまってしまったモキュがいた。
「キュ~~」
あ、結構、入口大きいからぎりぎり通れるかな?と思っていたが、あと一歩のところで駄目だったようだ。
そして、俺が手を引っ張って中に引き込むと、すぽっと家の中に入ることに成功した。壁に若干亀裂が入ったが、見なかったことにしよう。
長老はモキュの大きな姿を見て、ひげをさすった。
「大きいのう……げほげほっ!」
そして、口からドバっと血を吐きだした。
え? は?
まさかモキュの大きさにびっくりしすぎて、吐血したとかじゃないよな?
「あの……口から血が出てますけど、大丈夫ですか?」
か~ぺっ、と桶に唾を吐き出して、手を振ってきた。
「まだ大丈夫じゃ」
まだ……とか、怖いこというなよ。
ベッドに寝てたから、なんか病人っぽいし。そういう病気なのかもしれない。
ディビナは慌てて、木のコップを差し出して何かを飲ませた。
もしかして、あの集めていた草は長老のためだったのか?
まあいい。とりあえず、ここが何の村なのかを最初に聞くことにした。
「それで、この村は一体……」
「そうじゃのう……。まずわしがこの村の長老じゃ。この村はゴルボ村といってのう。すぐ近くにガーダバルン帝国という国があるのじゃが、その最東端の辺境にある村なんじゃ」
「ガーダバルン帝国……?」
名前で判断するのはどうかと思うが、響きから俺の行きたいようなまともな国なのか?と疑問を持ってしまった。
侵略戦争とかしてそう……と想像してしまうのは、漫画の読み過ぎなのだろうか。
「帝国は発達した技術と魔法戦力を保持している、世界最大の領土と兵力をもつ国家と言われておるのじゃ」
あれ? 予感が当たったのかな。
いや、まだ結論を出すには早いか。それより……、
「……そんなに規模の大きな国に属しているのに、この村はなぜこんな干からびたみたいになってるんです?」
「それは……立て続けに悪いことが起こってのう。最初、村から少し離れたところに川があったのじゃが、遥か北の上流にダンジョンが生み出されたせいで、せき止められてしまったのじゃ」
ふ~ん、ダンジョンができると、そういうこともあるのか。
「じゃが、悪い出来事はまだ続いた。水が手に入らないからと、水魔法の使える冒険者を雇って畑や生活の水を補っていたのじゃが、数日前に商人の一団が魔物に壊滅させられて、食糧が届かなかったのじゃ。物資輸送のためにつくられた街道付近に魔物の群れがすみついてしまって、物資や食糧の調達もできなくなってしまった。そのせいで、冒険者もさっさと帝国へと帰ってしまった。さらに重ねて。近くの山に山賊がすみついたのじゃ。村から、若い娘は攫われ、食糧も奪われる始末。その出来事がきっかけでほとんどの住人たちが、帝国の都市へと移って行ってしまった……のじゃ」
じいさんの長い話を聞きながら、なるほどと相槌を打った。
どうやら、そんな危険な村よりも帝国の方がはるかに安全で移住してまで住みたいと思われる場所らしい。
なら、このまま帝国へ行くのがよさそうだ。
にしても作為的な出来事が多いな。そんな悪いことばかり偶然起きるわけがない。
また、なんか政治的な争いごとかな?
なるべく関わり合いにならないほうがいいかな。
他に聞きたかったことをいくつか質問した。この世界やついでに帝国のことなどだ。
それによると、帝国はどうやら、比較的よそ者でも住みやすいことがわかった。
その後、俺は礼を言ってここを去ることにした
「話を聞かせてくれて助かった。俺はこのまま帝国へ向かうことにする」
「……そうか。気をつけてのう」
長老の家を出ようと思った時、隣にモキュがいないことに気づいて辺りを見回した。
「あ、いた」
モキュは家の隅にある何かのにおいをかいで、「キュ~」と鳴いていた。
「ん? これは?」
俺は隅の方へと歩いて行くと、モキュの視線の先には大きなヒマワリの種があった。
この柄といい、見た目といい、間違いない。
だが、知っているヒマワリの種とはサイズがケタ違いだった。
それに反応したのは長老だった。
「それは大ヒマワリの種じゃ」
「なぜこんなものが家に?」
「それは、この辺から東部周辺にかけて、そこにおるハムスターと同種の『ビッグハムスター』という種の動物が生息しているのじゃが。もともと、ビッグハムスターが生息するようになった理由こそが、この大ヒマワリが咲くポイントだからであり、この地域に餌場がいくつもあるためじゃ」
「ほうほう、なるほど……モキュのように大きいハムスターがまだたくさんいると?」
「いや、生涯の中でもここまで大きいのは、さすがに見たことないのう」
「そ……そうか」
ついモフモフ天国を想像してしまった。
このモキュは同じ種の中でも特別デカいようだ。
そこで、じいさんのすぐ横にいるディビナを見て納得した。
あの時、魔物でないことを納得したのは、よく見てビッグハムスターだとわかったから、ということらしい。
「ここにあるのは『ヒマワリ油』にして生活に使うためのものじゃが、村の技術をもった者がほとんどいなくなってしまった今、生成できないで放置しているのじゃ……」
再びじいさんからモキュへ視線を移すと、物欲しそうな目でその大ヒマワリの種を見ていた。
「欲しいのか?」
「キュ~」
「そうか……。長老、この種をくれないか? 対価はすまないが、俺にできることなら……だな」
「ん? いいが、どうするのじゃ? ああ、餌にか……」
じいさんは改めてモキュが食べたそうにしているを見て納得した。
よし、この状況で俺のしたかったことを思いついた。
前の世界では、俺はほとんど誰かに称賛されたことがなかった。
小学生の時、百点をとったから急いで学校から家へと戻ったら、母親は寝室で別の男と浮気中だったし、それならと思って父親に褒めてもらいに行ったら、「うるせー!」と蹴り飛ばされて、ビリビリに答案を破られたあげく、ゴミ箱にたたき込まれた。
その後、母親は蒸発して消え、父親は腹いせで若い女を襲い始め……。
「おい、大丈夫かの?」
知らないうちに目から涙がこぼれていたらしい。
「い、いや……」
涙を手の甲で拭った。
この程度で感情が揺らぐなんて、俺もまだまだ甘いな。ゴミはゴミ箱へ、ゴミみたいな思い出は忘却の彼方へ。
もう自由なのだ。あの日のことは忘れよう。
「そうか? ならよいのじゃが」
「よし、そういえば、さっき川がせき止められたとか魔物や山賊がどうとか言ってたな。村の障害は俺の方で排除しておく。だから、そろそろモキュに食わせてやっていいか?」
「それは……どういう? いや、種はもちろん食ってくれてかまわんが」
俺がモキュに頷いて
「よし、食っていいぞ」
「キュッ、キュ~~~」
するとモキュは、ヒマワリの種に飛びついて、殻をガリガリむき始めた。
「じゃが、本当にそんなこと、お主がたった一人で出来るのか?」
じいさんの目は疑心に満ち、隣のディビナなんて、詐欺師を見るような目で胡散臭そうな顔をしていた。
「ん? ああ、まったく問題ないぞ」
その返事にまだまだ信じられないような顔をしたままのじいさん。
まあ、川をせき止めているダンジョンを取り除いて川を復活させ、街道の魔物の群れを討伐し、山賊を排除するなんて、普通は無理だ。
俺を除けば。
「そんなこと全部、たった一人で出来るわけないです! あなた死にたいんですか!?」
ちょっと興奮した感じで、反対してきた。
なんでこの子……こんな俺に対してあからさまに否定的なんだ?
別にどうでもいいか。どう思われようと俺は自由なのだ。
自分の意志で好きなことをし、『称賛される』という一点のために行動する。いや、餌代のこともあったな。
「まあ、死ぬことはない。大丈夫だ」
と言葉を残して、ヒマワリの種を食べ終わったモキュと一緒に家の外へと出た。
最初は山賊のお掃除だ。
「覚悟しておけよ!」
俺は山の中にいるであろう、山賊たちへと吐き捨てた。
モキュの餌代と俺の大義(私欲)のために、クソ野郎どもには今から死んで頂こう。
俺はモキュの大きな背中に乗って、山へと飛んで向かうことにした。
マップを出して山賊の位置を確認し、現在(いま)はその真上で旋回している。
ステータスを出した時に、モキュのことが追加されていることに気づいた。
『所有物(ペット);
モキュ(♀)Lv.4
ビッグハムスター(種族)
固有種スキル:鳴き声
加速(ダッシュ)
噛みつき』
一応、俺の所有物(ペット)となっていた。
人間同様に動物にもステータスがあるのか……。固有種のスキルもあるらしい。
所有物(ペット)扱いなのは、一緒にいることをモキュがすでに同意してくれてるのかもしれない。
「Lv.4とか、なかなか森で大変な目にあってきたみたいだな……」
「キュ~~~」
悲しそうな鳴き声を上げるモキュ。
どうやら、村で魔物と間違えられたことといい、元いた森ですごい大変な目にあってきたみたいだ。
うんうん。もう大丈夫だぞ。その境遇に、少し仲間意識を持つのだった。
俺はモキュの頭を撫でながら(ついでにモフモフな耳も)、下の様子を観察していた。
下降気流によってゆっくりと地面に降り立った俺は、周囲を見回して洞穴を見つけた。
上から人影が見えないと思ったら、どうも洞窟の中にアジトを作っているようだ。
モキュは俺の後ろへと回り、洞窟の中をついて来る。
もちろん、洞窟のすぐ入ったところには見張り役の山賊の男がいて、俺の姿はすぐに発見された。
「おい、お前、なに勝手に入ってきてやがる!」
山賊の男は腰からサーベルを抜いた。
「まずは一人……」
身体に石をたたき込んで、「ガっ!」とうめき声を上げた後男はバタりと倒れた。
洞窟の中にはマップで確認しただけでも全部で60人近く人がいる。
まずはその中の
『山賊たちを殲滅』→『攫われた村の若い娘の救出』→『次の魔物討伐に移行』
という予定だ。
攫われた若い娘たちにはきっちりと、俺が山賊を始末したことの証人になってもらう。
出てきた先から石をたたき込んで始末した数が15人になったところで、洞窟内にある大きな広間に出た。
そこでは、盗賊たちの呻き声や悲鳴を聞いた盗賊たちが俺を囲んでいた。剣や槍などを持った盗賊がざっと15人はいる。
姿は、落ち武者みたいにボロボロの衣服を纏っている。
武器は最低限のものを用意しているのか、折れた矢ということはないようだ。
とはいえ、動揺したりはしない。
たとえ、元の世界の全ての兵力を目の前に集めてきたとしても、いまの俺が負けることはないだろう。
隅っこに数人の若い娘たちと、見えない他の娘たちはマップを見るとこの奥にいるようだ。
視線を盗賊の方へと再び向けると、ものすごい警戒されていた。
いや、俺ではなくモキュが……。
そういえば、このとこを忘れていた。
どうやらまた、魔物扱いされてるようだ。
俺が一歩だけ歩いて、それにモキュも続く。
「く、来るなっ!」
弓を持った盗賊の一人が無造作に矢をモキュに放った。
「キュッ!」
カキン。
物理操作した石で矢を砕いてやった。
だが、俺は怯えるモキュを見て、プチンと頭の中から何かがはじける音がした。
「やりやがったな……」
ドスのきいた声で俺は呟くと、召喚できるだけの小石を空中に浮かべ、すべての石をそいつへとたたきこんだ。
身体の原型が残らないほどボロボロになって、地面の赤黒いシミに変った。
「な、なんなんだテメーは!」
盗賊はわけもわからず叫んだ。
そこで中央から大柄の男が姿を現した。
一見、身なりが他の奴と違って冒険者風に見えるが、ここにいるということは山賊の仲間だろう。
スキンヘッドで筋肉質のいいガタイをしている。
「おい、あんちゃん。ずいぶんとヒドいことやってくれたみたいじゃねえか」
「ん? お前たちはすでに死刑が確定してるんだ。モキュの餌代と俺の大義のために死んでくれ」
「は? 何言ってんのかさっぱりだわ」
「わかってもらわなくていい」
「ほう、そうか。じゃあ……」
冒険者風の男は、手をこちらにかざすと、水魔法を唱えた。
「――水球!」
そして、手にした長剣で斬りかかってくる。
俺はまず水魔法を水流操作を使って、ただの水しぶきに変えて無力化した。
そして、男が斬りかかってきた剣を俺は片手でつかんだ。
「は、離しやがれ! くそっ、動かねぇ……」
物質操作・強制で、完全に『剣』の支配権を奪っているんだから当たり前だ。
「これならまだ……騎士の男の方が強かったぞ?」
俺はそのまま男へと石をたたき込んで息の根を止めた。
「おっ、お頭が……」
一人の盗賊が呟くのが聞こえた。
どうもこのスキンヘッド、山賊のボスだったらしい。
にしても水魔法を使っていたな……。
村に雇われたのは、水魔法を使える冒険者だったという。
こいつ姿も冒険者っぽいし。
もしかすると、もしかするかもしれない。
俺は改めて周囲を見回す。
モキュが涙目で俺に怖いと言っている気がした。(脳内補正)
とりあえず、囲んでいる奴らには、
「お前ら……モキュが怖がってるだろ!」
山賊たちには石をありったけぶち込んでやった。
悲鳴を残して他の残党の奴らも息絶えた。
危険がなくなって安堵したモキュの頬を俺は撫でてやった。
まったく、モキュを攻撃するとか、なんて奴らだ。
その後、地面に倒れている俺と同い年ぐらいの娘たちに声をかける。
「おい、大丈夫か?」
だが、地面で死んだような目の娘たちからは、あまりはっきりとした応答はなかった。
ああ、こりゃダメだな。精神が壊れかけてる。
こんなところに放置されているということは、何されたかは想像に難くない。
仕方なく数名の娘を一か所に座らせた。
その後、奥にいた手足を縛られた若い娘たちも、縄を切って歩かせ、先ほどの娘たちと同じ場所へ集めることにした。
「あ、あなた様は、一体……」
「助かるのね、私たち……」
「よかった……」
泣いたりはしなかったものの、精神的にはすでにギリギリだったようだ。
助けに来たと教えた途端、へたり込む者や互いに安堵の声を漏らす娘たち。
歳が一番小さい子で八歳くらい、上は二十代くらいの女性もいた。
奥で捕まっていた若い娘たちが、意思薄弱な娘たちに肩を貸して、一緒に洞窟から出ることとなった。
出口から外へ出ると、一人の20代くらいの女性が声をかけてきた。
「あの……助けていただいて、本当にありがとうございます。あなた様のお名前は?」
「俺はコウセイ、こっちがモキュだ」
初めはモキュに驚いていたが、ビッグハムスターだと知ると、皆がその大きさに珍しがっていた。
「もし村に戻ったら、必ず何かお礼を……」
「いや、お礼は別にいらない」
別に助けた出した人から何か物が欲しくてしたんじゃない。
俺が欲しいのは一つだけ。
人々の称賛だ。
いや餌代もあるから二つか。
「……なんと心の広い方なんでしょう」
なんかきらきらした目で見られるのは恥ずかしいな。
こんな風に見られたことがなかったから余計だ。変に顔がゆるんでしまうではないか。
俺は必死に平静な表情をつくった。
やっぱ不意打ちはあかんね。
それと、この女性はとてもきれいな人だった。でも、20は確実に超えてるし、夫とかいる年齢だろうな。
洞窟から帰り道はわかるということなので、俺はそのまま娘たちを見送った。
今度は魔物の群れを排除するために、街道へと向かうことにした。
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