ヒトラー

青年時代

1．

ヒトラーが、母のクララに黙って家から風景画で稼いでいたお金を持って行き、オペラに数少ない友人と共に足げなく通って、何日か過ぎたある日の事。

ヒトラーは未だに芸術家への路を諦め切れていなかった。

だから、この日もまた芸術学校へ直談判をしに行ったある日の事。

ある芸術学校で、ヒトラーが自分の自信作の作品を芸術学校の教授に見せた時、

教授 「君は、芸術家に向いていない。君の絵は、人物が生きていない。私が、君だったら芸術家よりも建築家を目指すよ」

この一言で、ヒトラーはその気になって一時的にはあるが建築家を目指そうとした。

だが、ヒトラーにはそれは所詮叶わぬ夢だった。

何故なら、建築家になる為には建築家を目指す人が入る学校に入らなければならなかった。それでいて、高等教育を修了していなければならなかったので、中等教育すらも中退していたヒトラーは、根本的に論外であった。

その為、ヒトラーは芸術家への夢も、建築家としての夢も惜しくも潰え去ったのであった。

そんな中、母のクララが胸が痛いと医師のエドゥアルド・ブロッホ医師がヒトラーを家から連れ出して腰を下ろせる所に腰を掛けて、「もう、お母さんは永くない。お母さんは、乳がんだ」と宣告されたのでヒトラーは深く落胆した。

そんな感じで、医師が言った通り母のクララは乳がんを宣告されて、そう永い日が過ぎる事もなく、リンツの小さな家のベッドの上で、静かに息を引き取ったのであった。

ヒトラーは、この時は流石に医師から母の病を宣告された時よりも深いショックと憤りを覚えた。

そんな中、彼は就職活動を始めた。

だが、当然母の死に直面してから上手くいくはずもなく次々と不合格となった。

ヒトラーは、そんな感じで負の連鎖が続いていた。

だから、憩いの場であったオペラを気分転換の場として母が生きていた時に通った程、行く事はなくなったが、オペラを欠かす事は無かった。

この時点での彼の金銭状況を考えるなら、普通の人の場合は、進路が決まっていなくて両親が死んでお金ないという、お先真っ暗という場合でオペラは見ようと思わないであろう。

だが、ヒトラーには何故、オペラを見るだけの余裕があるのかと疑問を持つ方も多いと思う。

それは、死の直前母のクララがヒトラーの義理の姉のアンゲラに「アドルフ(ヒトラーの事)を自分が死んでからも仲良くしてやって」とお願いをしていたからお金に困ったヒトラーの為にお金を仕送りしていたのであった。