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16話 幻の校歌の謎

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ある日、みけ子たちの学校に大きなニュースが飛び込んできた。今年、創立100周年を迎える学校で、校長先生が驚くべき発言をしたのだ。
「実は、私たちの学校には本当の校歌があったようです」
校長先生のこの一言で、学校中が騒然となった。現在歌われている校歌以外に、本当の校歌があるというのだ。しかし、詳細は誰も知らないという。
この話を聞いたみけ子は、すぐに給食室に向かった。給食のおばちゃんなら何か知っているかもしれないと思ったのだ。
「おばちゃん、大変なの!」
みけ子は息を切らしながら給食室に飛び込んだ。
給食のおばちゃんは優しく微笑んで答えた。
「どうしたの、みけ子ちゃん?そんなに慌てて」
「ねえ、本当の校歌のこと知ってる?校長先生が言ってたんだけど...」
おばちゃんは少し考え込むような表情を見せた。
「そういえば...私が子供の頃、今とは違う校歌があった気がするわ」
みけ子の目が輝いた。
「本当?じゃあ、一緒に調べてみない?」
おばちゃんは嬉しそうに頷いた。
「そうね。私も気になるわ。探偵ごっこの腕前を発揮する時ね」
こうして、みけ子と給食のおばちゃんの校歌探しが始まった。
まず二人が向かったのは音楽室だ。音楽の先生なら何か知っているかもしれないと考えたのだ。
「先生、本当の校歌について何か知りませんか?」
みけ子が熱心に尋ねると、音楽の先生は首を傾げた。
「本当の校歌?申し訳ありませんが、私が知っているのは現在の校歌だけです。ただ...」
先生は少し考え込んでから続けた。
「音楽室の古い棚に、昔の楽譜らしきものがあったような気がします。探してみましょうか」
みけ子とおばちゃんは先生と一緒に古い棚を探した。残念ながら楽譜は見つからなかったが、古いアルバムが出てきた。そこには昔の音楽会の写真があり、現在とは違う歌詞の一部が写っていた。
「これ、今の校歌とは全然違うね」
みけ子がつぶやくと、おばちゃんも頷いた。
「そうね。でも、これだけじゃ全体は分からないわ」
次に二人が訪ねたのは、長年学校で働いている用務員さんだった。
「用務員さん、昔の校歌のこと覚えてませんか?」
用務員さんは懐かしそうな表情を浮かべた。
「ああ、確かに昔は違う歌を聞いた気がするなぁ。春になると桜の花びらのことを歌っていた気がするんだ。でも、詳しいことは思い出せないんだ。すまんね」
少しずつ情報が集まり始めたが、まだ決定的なものは見つからない。みけ子とおばちゃんは、地域の古い喫茶店に向かった。そこには学校の卒業生がよく集まると聞いていたのだ。
喫茶店に入ると、年配の常連客たちが談笑していた。みけ子とおばちゃんは勇気を出して話しかけた。
「すみません、学校の校歌のことで聞きたいことがあるんですが...」
常連客たちは興味深そうに二人の話を聞いた。そして、断片的ではあるが、貴重な情報を提供してくれた。
80代の常連客が懐かしそうに話し始めた。
「そうそう、昔は違う校歌があったんだよ。今の校歌になったのは私が卒業してからだな」
70代の女性客も思い出したように言った。
「私の時代の校歌には、平和についての歌詞があったわ。『世界の人々と手を取り合って』というフレーズがあったの」
60代の男性客も加わった。
「確か、川の流れのことが歌われていたような...『清き流れは未来へと』とかいう歌詞があったよ」
みけ子とおばちゃんは、聞いた情報を丁寧にメモしていった。
「おばちゃん、少しずつ形になってきたね」
みけ子が興奮気味に言うと、おばちゃんは頷いた。
「そうね。でも、まだまだ足りないわ。もっと調べてみましょう」
二人は更なる調査を続けることにした。学校の古い記録を調べたり、地域の古老に話を聞いたりしながら、少しずつ真相に近づいていった。
そして、町の古い資料館で重要な発見をする。そこには、学校の50周年記念誌が保管されていたのだ。
「みけ子ちゃん、これを見て!」
おばちゃんが興奮した様子で呼びかける。記念誌には、校歌が変更された経緯が記されていた。
それによると、学校が創立50周年を迎えた際、より現代的で生徒たちに親しみやすい校歌にするために改訂されたという。元の校歌は平和と自然を謳ったものだったが、新しい校歌では未来への希望や挑戦が強調されていた。
「なるほど...だから変わったんだね」
みけ子が納得したように言う。
しかし、まだ元の校歌の完全な歌詞やメロディーは見つかっていない。二人は更に調査を続けた。
そんな中、みけ子が突然思い出したように言った。
「そういえば...おばあちゃんが口ずさんでいた歌があったわ。子守唄みたいな感じだったんだけど...」
おばちゃんの目が輝いた。
「みけ子ちゃん、それってもしかして...」
「うん、今になって思えば、あれが校歌だったのかもしれない」
二人は興奮して、みけ子の記憶を頼りにメロディーを再現し始めた。学校の音楽室を借りて、みけ子が歌う断片的なフレーズを、おばちゃんが丁寧に書き留めていく。
何度も試行錯誤を重ねながら、少しずつメロディーが形になっていった。
「『朝日に輝く...』」
みけ子が歌い始める。最初は少し震えていた声が、徐々に安定していく。
「ちょっと待って」おばちゃんが口を挟む。「その『輝く』のところ、もう少しゆっくりじゃなかったかしら?」
みけ子は少し考え込む。「確かに」
それから何度も同じフレーズを繰り返す。おばちゃんは耳を澄まし、五線紙にメモを取っていく。
「次は『青き空...』だったかな」みけ子が続ける。
「そう、資料館で見つけた歌詞の断片にもそう書いてあったね」おばちゃんが確認する。
しかし、そこからのメロディーがうまく繋がらない。二人は顔を見合わせ、困惑の表情を浮かべる。
「ねえ、おばちゃん。ここでちょっと高い音が来なかった?」みけ子が提案する。
おばちゃんは目を閉じ、記憶を辿る。「そうかもしれないわ...こんな感じかしら」
おばちゃんが歌うメロディーを、みけ子が慎重にピアノで確認していく。音が合わないところは何度も試し、少しずつ形を整えていく。
「あ!これ、さっきの古老が言ってた『朝日に輝く』って出だしと繋がるよ!」みけ子が興奮して叫ぶ。
二人は嬉しそうに顔を見合わせる。しかし、まだ全体の半分も完成していない。
「ここからが難しいわね」おばちゃんがため息をつく。
おばちゃんは資料館で見つけた歌詞の断片を見直す。「『希望の...』って続くんだけど、ここのメロディーは?」
みけ子は眉をひそめ、必死に思い出そうとする。「待って...確かおばあちゃんが歌っていた時、ここで手を上げるしぐさをしていたような...」
「手を上げる?」おばちゃんが不思議そうに聞く。
「そう、こんな風に」みけ子が実際に手を上げながら歌ってみせる。
その仕草を見たおばちゃんの目が輝く。「わかった!ここで音が上がるんだわ!」
ピアノで音を確認すると、確かにしっくりくる。二人は喜びに満ちた表情で、さらに作業を進めていく。
時間が経つのも忘れ、二人は夢中で校歌の復元に取り組んだ。途中で行き詰まっては別の部分に移り、また戻ってくる。時には大きな声で歌い、時には小さくハミングしながら、少しずつ全体の形を整えていった。
夜も更けた頃、ついに最後の音符が書き込まれた。
「みけ子ちゃん、これで全部つながったわ!」おばちゃんが感動的な声で言う。
みけ子は五線紙を見つめ、深い満足感に包まれた。「本当だ!おばちゃん、私たち、やり遂げたんだよ!」
二人は喜びに満ちた表情で抱き合った。長い調査と試行錯誤の末、ついに本来の校歌を復元することができたのだ。
みけ子とおばちゃんは、すぐに校長先生のもとへ向かった。
「校長先生!私たち、本当の校歌を見つけました!」
校長先生は驚きと喜びの表情を浮かべた。
「本当かい?素晴らしい!どうやって見つけたんだ?」
みけ子とおばちゃんは、これまでの調査の経緯を詳しく説明した。様々な人々から話を聞き、推理を重ね、最後はみけ子とおばちゃんの記憶を頼りに復元したことを伝えた。
校長先生は深く感動した様子で言った。
「みけ子さん、そしておばさん。お二人の粘り強い調査と鋭い推理が、学校の貴重な歴史を蘇らせてくれました。本当にありがとう」
校長先生は、復元された校歌を創立100周年記念式典で披露することを提案した。みけ子とおばちゃんは喜んでこれに同意した。
式典当日、体育館には在校生や卒業生、地域の人々が大勢集まった。校長先生が壇上に立ち、みけ子とおばちゃんの活躍を紹介した後、いよいよ校歌の披露となった。
まず、現在の校歌が歌われた。力強く未来を謳う歌詞に、会場は静かに聞き入った。
そして、復元された本来の校歌の番となった。穏やかで温かいメロディーに乗せて、平和と自然を歌う歌詞が会場に響き渡る。
歌が進むにつれ、会場の空気が変わっていくのを感じた。多くの人々が涙を流し、中には懐かしさのあまり声を詰まらせる人もいた。特に年配の方々の中には、口ずさみ始める人もいた。
歌が終わると、会場は深い感動に包まれた。しばらくの沈黙の後、大きな拍手が沸き起こった。
校長先生が再び壇上に立ち、話し始めた。
「この100年の間に、私たちの学校は多くの変化を経験してきました。校歌も例外ではありません。しかし、今日のこの発見により、私たちは過去と現在をつなぐ貴重な架け橋を手に入れました。これからは、この二つの校歌を大切に歌い継いでいきましょう」
校長先生の言葉に、会場は再び大きな拍手で応えた。

式典が終わり、みけ子とおばちゃんは校庭のベンチに腰かけていた。秋の柔らかな陽射しが二人を包み込む。
「おばちゃん、私たち、すごいことをやり遂げたね」
みけ子が誇らしげに言うと、おばちゃんは優しく微笑んだ。
「そうね。みけ子ちゃん、あなたのおばあちゃんと一緒に探偵ごっこをしていた頃を思い出すわ。過去と現在をつなぐ大切さを、あの頃学んだのよ」
「へえ、そうなんだ」
「ええ、今回の調査でも、あの頃の経験が活きたわ。人の話をよく聞くこと、そして些細な証拠も見逃さないこと。これらは全て、あの探偵ごっこで学んだことなのよ」
みけ子は感慨深げに空を見上げた。
「おばあちゃんも、きっと喜んでくれてるよね」
「ええ、間違いないわ。みけ子ちゃんは、おばあちゃんの意志をしっかり受け継いでいるもの」
二人は穏やかな秋の風に吹かれながら、しばらくそこに座っていた。みけ子とおばちゃんの行動が学校の歴史に残る重要な出来事となったことで重みを、静かに噛みしめていた。
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