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10話 不思議な落書きの謎 その2

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ある日の放課後、みけ子は香川くんが図書室に向かうのを見て、こっそりと後をつけることにした。
図書室で、香川くんが点字の本を手に取る姿を目撃したみけ子は、静かに近づいていった。
「香川くん」みけ子が優しく声をかける。
香川くんは驚いて振り返る。
「み、みけ子!?どうしてここに...」
みけ子は真剣な眼差しで香川くんを見つめる。
「香川くん、点字の本を借りてるの、武田くんのため?」
香川くんの表情が一瞬こわばる。しかし、みけ子の優しい態度に、少しずつ心を開いていく。
「...うん。武田が困ってるんだ。でも、誰にも言えなくて...」
みけ子は静かに頷く。
「分かったわ。私たち、力になりたいの。武田くんのこと、一緒に考えてもいい?」
香川くんは少し迷った後、ゆっくりと頷いた。
そして、次に武田くんにも直接話しかけるためみけ子は胸の高鳴りを感じながら、武田くんに近づいた。これまでの調査で得た情報が頭の中でぐるぐると回っている。「うまく話せるかな...」と不安がよぎるが、武田くんのために、と自分に言い聞かせた。
「武田くん、ちょっといい?」みけ子が優しく声をかける。
武田くんは少し驚いた様子で振り返る。その瞬間、みけ子は武田くんの目の動きがわずかに不自然なことに気づいた。
「え?ああ、どうしたの?」
みけ子は心臓の鼓動が早くなるのを感じながら、ゆっくりと話し始めた。
「武田くん、最近、何か困ってることない?」
武田くんの表情が一瞬こわばる。「バレてしまったのか」という思いが頭をよぎったが、すぐに平静を装おうとする。
「別に...何もないよ」
しかし、みけ子の真剣な眼差しに、武田くんは少しずつ心を開いていく。みけ子の優しさが、長い間閉ざしていた心の扉を叩いているような気がした。
「実は...」武田くんは躊躇いながらも、言葉を紡ぎ始めた。「僕、目が...ちょっと見えにくいんだ」
みけ子は息を呑んだ。予想はしていたものの、武田くん自身の口から聞くと、胸が締め付けられる思いだった。
「どんなふうに見えにくいの?」みけ子は優しく尋ねた。
武田くんは深呼吸をして、自分の視界について説明し始めた。
「僕の視界は、まるで筒を通して世界を見ているみたいなんだ。真ん中はくっきり見えるんだけど、周りがぼやけていて...」
武田くんは手で円を作って、みけ子に見せた。
「こんな感じで、視野が狭いんだ。だから、人とぶつかったり、物を落としたりしてしまうんだ」
みけ子は武田くんの言葉を一つ一つ心に刻みながら、聞き続けた。武田くんの話す姿に、長い間誰にも言えずに抱え込んでいた苦しみを感じ取った。
「黒板の字を読むのも大変で...」武田くんは続けた。「でも、みんなに迷惑をかけたくなくて、何も言えなかったんだ」
みけ子は武田くんの言葉に、胸が痛くなるのを感じた。そして、勇気を出して尋ねた。
「武田くん...もしかして、壁の落書きも...?」
武田くんは驚いた表情を見せた後、肩を落として小さな声で言った。
「...うん。僕だよ」
みけ子は驚きつつも、優しく問いかけた。
「どうして...?」
武田くんは涙ぐみながら説明を始めた。
「誰かに気づいてほしかったんだ。でも、直接言い出せなくて...だから、点字で『助けて』って書いたんだ。香川くんが気づいてくれて...」
みけ子は武田くんの肩に優しく手を置いた。
「武田くん、勇気を出して話してくれてありがとう。私たち、力になりたいの。一緒に解決方法を考えよう」
武田くんの目に涙が光った。
「本当に...いいの?僕のために...」
みけ子は強く頷いた。
「もちろん。友達だもの。一人で抱え込まなくていいんだよ」
その瞬間、武田くんの表情が明るくなった。みけ子は、自分たちの行動が武田くんの人生を大きく変えるかもしれないという思いに、身が引き締まる思いがした。
「よし、まずは先生たちに相談して、学校の設備を改善する必要があるわ」みけ子が提案する。頭の中では既に具体的な計画が形作られつつあった。

みけ子は、武田くんとの会話の後、探偵団のメンバーと香川くんを空き教室に集めた。心臓がドキドキしながらも、みけ子は決意に満ちた表情で皆の前に立った。
「みんな、武田くんの話を聞いたわ。私たちにできることがたくさんあると思う」
みけ子の声には、いつもの元気さと共に、今までにない真剣さが混ざっていた。
けんたが身を乗り出して言う。
「俺たちに何ができるんだ?」
みけ子は深呼吸をして、ゆっくりと話し始めた。
「まず、学校の設備を改善する必要があるわ。例えば、教室の照明を明るくしたり、黒板の文字を大きくしたりすることで、武田くんはもっと見やすくなるはず」
ユミが眼鏡を直しながら付け加えた。
「私たちで点字ブロックの設置を提案するのはどうでしょうか」
たけるも熱心に言った。
「僕たちで、教科書や資料を大きな文字でコピーする手伝いもできるよ」
まりが明るく提案する。
「私たち、武田くんの目の代わりになれるんじゃない?校内の案内とか、困ってそうなときは声をかけるの」
香川くんは少し恥ずかしそうに、でも決意を込めて言った。
「僕は...これからも武田のサポートを続けるよ。でも今度は、みんなと一緒に」
みけ子は仲間たちの言葉に、胸が熱くなるのを感じた。一人一人の小さな提案が、大きな変化を生み出す可能性を感じたのだ。
「みんな、ありがとう。私たちの力を合わせれば、きっと武田くんの学校生活をもっと楽しいものにできるわ」
みけ子は、この瞬間に探偵団の新しい使命を見出した気がした。謎を解くだけでなく、誰かの人生をより良いものに変える力が、彼らにはあるのだと。
「それと、もう一つ大切なことがあるの」みけ子は真剣な表情で続けた。「私たちが変わることで、他の生徒たちの意識も変えていけると思う。みんなで協力して、学校全体を変えていこう」
全員が頷き、その目には決意の光が宿っていた。
その日以降、みけ子たちは行動を開始した。先生たちに相談し、学校の設備改善を提案。他の生徒たちにも武田くんの状況を説明し、協力を呼びかけた。
日々の小さな行動の積み重ねが、少しずつ学校の雰囲気を変えていった。武田くんも徐々に自信を取り戻し、クラスに溶け込んでいく姿に、みけ子は大きな喜びを感じた。
ある日の帰り道、みけ子は空を見上げながら思った。
「小さな気づきが、こんなに大きな変化を生み出せるなんて...」
そして、心の中で誓った。
「これからも、困っている人がいたら、勇気を出して声をかけよう。きっと、そうすることで、もっともっと素敵な世界を作れるはず」
みけ子の目は、未来への希望に満ちて輝いていた。
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