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9話 不思議な落書きの謎 その1

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 新学期が始まって間もない9月のある日、みけ子たちの学校に奇妙な出来事が起こった。廊下の壁に、謎めいた点状の模様が出現したのだ。
朝、いつものように猫耳フードをかぶって登校したみけ子は、校門で待っていたまりに声をかけられた。
「みけちゃん、大変!学校に変な落書きが出たんだって!」
まりの興奮した様子に、みけ子の探偵心が刺激された。
「へえ、どんな落書きなの?」
「よく分からないんだけど、点々が規則的に並んでるみたいなの」
二人は急いで教室に向かった。廊下では既に多くの生徒たちが集まり、ひそひそと話し合っている。壁には確かに、スプレーで描かれたような点状の模様が並んでいた。
教室に入ると、けんた、たける、ユミが集まって話をしていた。
「おはよう、みんな。落書きのこと、知ってる?」みけ子が声をかけた。
けんたが真剣な表情で答える。
「ああ、朝一で見てきたぜ。何かの暗号みたいだったな」
たけるも頷きながら言った。
「僕も見たよ。でも、意味は分からなかったな」
ユミは眼鏡を直しながら静かに言った。
「私も確認してきました。非常に興味深い形状です」
その時、担任の山本先生が教室に入ってきた。いつもの穏やかな表情に、少し困惑の色が混ざっている。
「みなさん、おはようございます。今朝、学校の壁に奇妙な落書きが見つかりました。現在、職員で調査中ですが、心当たりのある人は先生に教えてください」
クラス中がざわめき、みけ子たちは顔を見合わせた。
放課後、みけ子は探偵団のメンバーを集めた。
「みんな、この落書きの謎、私たちで解いてみない?」
まりが少し不安そうに言う。
「でも、先生たちが調査してるんでしょ?」
けんたが自信満々に答える。
「俺たちなら、先生たちよりうまくやれるさ」
たけるも力強く頷く。
「僕も賛成。みんなで協力すれば、きっと謎が解けるよ」
ユミは冷静に意見を述べた。
「確かに、私たちならではの視点で調査できるかもしれません」
みけ子は満足げに笑顔を見せた。
「じゃあ決まり!探偵団、謎解き開始だよ」

 5人は落書きの場所に向かった。
「よく見ると、これ単なる落書きじゃないみたいだね」みけ子が言った。
「ああ、何かルールがありそうだ。でも、何を意味してるんだ?」
たけるがそう言うと慎重に落書きを観察し、写真を撮った。みけ子は目を細めて点の並びを見つめていた。
「あれ?この点の並び方...どこかで見たことがある気がする...」
その時、みけ子の脳裏に閃きが走った。
「そうだ!おばあちゃんの家にあった本!」
けんたが不思議そうに尋ねる。
「おばあちゃんの家の本?」
みけ子は興奮気味に説明を始めた。
「うん、おばあちゃんの家に点字の本があったの。この点の並び方、あれにそっくりだよ」
たけるの目が大きく開いた。
「まさか…これ、点字なのか…」
みけ子は頷いた。
「多分そう。でも、なんで学校の壁に点字が...?」
たけるが不思議そうに尋ねる。
「ところで点字って何だ?」
みけ子はたけるにわかったふりをするなと言いながら説明を始めた。
「点字っていうのは、目の見えない人や見えにくい人が指で触って読むための文字なんだ。フランスのルイ・ブライユという人が19世紀に考案したんだって」
みけ子は空中で指を動かしながら続けた。
「6つの点を縦3つ、横2つの長方形に並べて、その点の組み合わせで文字や記号を表すんだ。例えば、左上の点が1つだけあれば『あ』になるし、左上と左中の2つの点があれば『い』になるんだよ」
たけるは感心した様子で言った。
「へえ、そうなのか。でも、なんで学校の壁に点字があるんだ?」
みけ子も首をかしげる。
「それが謎なんだよね。でも、きっと誰かが私たちに何かを伝えようとしてるんだと思う」
けんたが真剣な表情で言った。
「きっと、何か理由があるはずだ。僕たちに気づいてほしかったんじゃないかな」
みけ子が決意を込めて言う。
「よし、この点字を解読しよう。きっと大切なメッセージが隠されてるはず」
ユミがスマートフォンを取り出し、点字の翻訳アプリを起動させた。
「みんな、メッセージが解読できました」
全員がユミのスマートフォンを覗き込む。
「た...す...け...て?」まりが驚いた声で言う。
「これって...『助けて』ってこと?」けんたが眉をひそめる。
みけ子が真剣な表情で言った。
「これは、誰かからのSOSメッセージだよ。でも、なんで点字で...?」
まりが静かに言った。
「もしかして...目の見えない人からのメッセージかも」
全員が息を呑む。状況は想像以上に複雑かもしれない。
みけ子が決意を込めて言う。
「みんな、これは単なる謎解きじゃないよ。誰かが本当に困ってるかもしれない。必ず解決しよう!」
探偵団の新たな挑戦が始まった。彼らは、この点字のメッセージの背後に隠された真実を探り始めるのだった。

 みけ子たちは、謎の落書きの調査を始めることにした。
みけ子が元気よく言う。
「よし、私は生徒たちに聞き込みをしてみるね。誰か不審な人を見かけてないか聞いてみるよ」
けんたが頷いて答える。
「俺は保健室の先生に聞いてみるよ」
ユミが眼鏡を直しながら静かに言った。
「私は事務室の方々に聞いてみます」
たけるが真剣な表情で言う。
「僕は学校中を回って、他にも同じような落書きがないか探すよ」
まりが手を挙げて言った。
「私は図書室を調べてみるわ」
探偵団のメンバーは手分けして調査を始めた放課後、図書館に集合して情報を共有することにした。

放課後、みけ子が尋ねる。
「みんな、何か分かったことある?」
けんたが首を振りながら答える。
「保健室の先生は特に何も知らなかったぜ」
ユミも肩をすくめて言う。
「事務室の方々も特に変わったことは聞いていないそうです」
たけるが報告する。
「他の場所には同じような落書きは見つからなかったよ」
まりが少し興奮した様子で言った。
「私、気になる発見があるわ」
全員がまりに注目する。
「図書室の奥に、点字の本を見つけたの。それに、貸出記録を見ると、面白いパターンがあるのよ」
みけ子の目が輝いた。
「それは興味深いね!もっと詳しく教えて」
まりが説明を続ける。
「この本を頻繁に借りている人がいるの。特に隣のクラスの香川くんという名前がよく出てくるわ」
けんたが眉をひそめる。
「香川?あいつが点字の本を借りてるのか?」
まりが頷く。
「そうなの。でも、香川くんって視覚障害があるわけじゃないよね?」
みけ子が思案顔で言う。
「確かに不思議だね。香川くんがなぜ点字の本を頻繁に借りているんだろう」
その時、図書室で一人の男の子の武田くんがつまずいて転びそうになるのを目撃した。香川くんが急いで駆け寄り、武田くんを支える。
ユミが眼鏡を直しながら言う。
「あの...武田くん、何か様子がおかしくないでしょうか?」
みけ子たちは、武田くんの動きをよく観察し始めた。
けんたが気づいて言う。
「そういえば、武田くん、よく物にぶつかってるよな」
たけるが静かに言った。
「もしかして、武田くん...目が見えにくいのかな」
みけ子が決意を込めて言う。
「私、武田くんと香川くんに話を聞いてみようと思う。それと武田くんって、確か2学期から来た転校生だよね」
ユミが補足する。
「そうですね。武田くんと香川くんは、私たちの隣のクラスです」
 みけ子は深く考え込んだ。点字の落書き、頻繁に点字の本を借りる香川くん、そして転校生の武田くん。これらの間に何か関係があるのだろうか。探偵団の新たな謎解きが始まろうとしていた。
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