上 下
522 / 531
第9部 道化師と世界の声

真祖の力

しおりを挟む
確しかに、このホテルは高級らしい。
ベルを鳴らすと、すぐに従業員が飛んできた。
朝食をとりたいと、ロウがいうと、メニュー表をさっと取り出した。

メニューは、一点ごとに、簡単ながら彩色されたイラストがついて、どんなものか分かりやすく表示されている。
しかもかなり、分厚い。

ホテルの中の厨房でお作りいたしますので、出来たてをご賞味いただけます。

ロウは、自分がかなりの美人だと自負している。それが年端もいかない少年を連れ込んだのだ。興味が湧かないはずもないのだが、よく訓練された客室は、淡々とメニューを紹介した。

カザリーム名物の、煮凝りを使った料理は、短い滞在の間にも、ロウは飽き飽きしていたので、それ以外の料理を次々に注文する。

「以上は」
と、いささか顔色を変えた客室係が、オーダーを復唱したあとに尋ねた。
「ご朝食分でよろしいですか?」

「当たり前だろ。」

彼は、ほっそりしたロウと、小柄な少年を交互に見てから、頭を下げて部屋を出ていった。

振り返ると、ルウレン・アルフィートが、客室係と同じ表情を浮かべていた。

「なにか、問題ある? 2人前には少し多い量かもしれないけど。」

「多いなんてもんじゃないですよっ!」ルウレンは、叫んだ。
「十人で宴会でもやるような量ですよ。」
ロウはもう一度、ベルを鳴らした。

なんです、今度は。
との少年の問に、酒を頼み忘れた、と言って、ロウは彼を呆れさせた。


料理はほどなく、運ばれた。
本当ならば、コース料理として今日されるのが、適切な量であり、種類だったが、こんなホテルを利用する客は、頻繁に愛し合うもの同士以外が、出入りすること自体を好まないのだろう。
料理はまとめて、提供されたが、冷たい飲み物は、氷の浮いたアイスペールで冷やされ、温かいものは、温めなおせるように、小さなコンロも用意されていた。

予備の食器、グラス、取り皿などが並べられて、けっこういっぱいになったテーブルを前に二人は腰を下ろした。

「これを、どうやって食べるんですか。あなたは、古竜が人化した姿で、これをペロリとやれる訳じゃないですよね?」
「もちろん、違うぞ、少年。いや、ルウレン。
これはおまえが食べるんだ。
わたしは、実は吸血鬼でな。
メシを平らげたおまえをわたしが、食べる、という寸法だ。」

ルウレンは笑った。
「ウソですよね。」

「どうかな。嘘でないという証拠は?
陽の光を浴びても崩れない吸血鬼などいくらでもいるぞ。」

「ぼくは、魔法士の端くれなんです。」
ルウレンはむきになって言い返した。「爵位もちの吸血鬼は、吸血衝動を抑えて、ひとに混じって生活することが出来ます。でも、なにかの拍子に人間じゃないことが分かる瞬間がある。
それは、例えば公爵級でも、例外じゃないです。
あなたは、完璧に人間です。もし、あなたが人間の振りをした吸血鬼なら、それこそ、公爵級、王侯級を越えた存在。
真祖でしかない。」

「ああ。」
ロウは、ワインのコルクを指で引き抜き、深紅の液体をワイングラスに乱暴に注いだ。
「まさに、わたしがその真祖だ。
『栄光の盾トーナメント』に、参加する吸血鬼のパーティの噂をきいたことがないか?
わたしが、そのリーダーだ。」

「鶏のもも肉を、ワインで、流し込んでる姿を見ても、正直あまり、信じられませんね。」
ルウレンは冷たく言った。
「だいたい、昨日あれだけ酔ってたのに、朝から酒とは。」

「昨日はちよっと、酔っ払っていたかったんだ。わたしは、不死身なんでな。」
「だから、迎え酒にも強いと?
そんな阿呆なことをしながら、真祖を名乗ったりすると、本当に爵位持ちの吸血鬼からシメられますよ。」

ルウレンは、そう言いながら、鶏肉を丁寧に切って、口に運んだ。
「あれ? 美味しい。」

「うん、美味いよな。よく、まあ、こんなホテルを知っていたな。見かけによらず・・・・」
ロウは、端正な顔立ちにふさわしくない、いやらしい笑いを浮かべた。
「ぼくは、昨日、カザリームに着いたばかりです。」
ルウレンは、言い返した。
「ここは、ガイドブックにも載ってる名店ですよ!」
「連れ込みも大丈夫の曖昧宿が、か?」
「だから、カザリームは宿泊にもいちいち身分証明書の提示が必要で、チェックインにやたらに時間がかかるんです。何ヶ月も滞在するならともかく、旅行や商談で、数日ののみなら、こういう所を選ぶひとも多いんです。」

根菜のスープは、ロウも知らない香辛料が、効いていたが、口当たりは悪くない。
ルウレンは、甲斐甲斐しく、サラダボウルからサラダを、取り分けロウの目の前に置いた。

「今度は、ぼくのほうから何があったのか、聞いてもいいですか?」

ぐっ、とロウは、泣きそうになるのを堪えた。
「だから言っただろ?
『栄光の盾トーナメント』にエントリーしたんだ、そしたら」
ロウは皿を少年に差し出した。もうちょっとハムとチーズを取ってくれない? あ、そのカナッペも。

「食うか、飲むか、嘆くか。いっぺんにやるのは無理ですよ。」
「出来るさ! わたしは、全知全能の真祖サマなんだからな。」

ロウは、宣言した通り、オードブルとスープ、サラダを、ワインで流し込みならが、悲哀にくれるという高度な行動を達成してみせた。

「それでだな。楽勝で行けると思ってたんだけど、周りのチームがとんでもなさ過ぎてだな。」
「本当の本当に。『栄光の盾』トーナメントの出場者なんですか?」

真祖吸血鬼はともかく、そこまでは信じて貰えたようだった。

「そうだよ! ベータのヤツを公衆の面前でボコボコにぶちのめす。あわよくば優勝して、賞金もかっさらう。」
「そりゃ無理ですよ。だって、相手は本物の勇者チームですよ。」

「今となっては、そこがまだマシなくらいだ。」
ワインのボトルが空きかけている。
「せめて、ベータのチームにだけは、一泡吹かせてやりたいっ!
そうだ! いまから、ラザリムとケルトの血を吸ってあいつらを吸血鬼に・・・」
「無理です。」
ルウレンは、きっぱりと言い切った。
「なんで無理よ。少なくとも力と回復力は増すよ?」
「冒険者は、高度な魔力を駆使して、戦うんです。吸血鬼化したせいで、それが使えなくなったらどうするんです?
吸血鬼化が強化になるのは、相手がくそど素人の場合のみです。」

とうとうワインのフルボトルを、ロウは一人で空けてしまった。何本かまだワインは冷えている。適当な1本のコルクを引き抜いて、グラスにワインを注いでやった。

「と、言うわけでだ、ルウレン。ちゃんと人間みたいに愛してやるから、わたしと」
「要するに、そのベータというやつのいるパーティに勝てればいいんですか?」
「無理無理無理。だって、フィオリナまでいるんだもん!
こっちはフルメンバー固まっちゃったからこれ以上、強化はできないしっ!」

ルウレンは、少し顔を伏せるようにしながら、ロウを見て、少しだけ、笑った。
怖い。怖い笑顔だった。こんなのは、ルト以外では見たことがなかった。
「まだ、打つ手はありますよ。こんなのはどうですか・・・」


数日後。
ロウ=リンドは、「紳士と淑女の店リーデルガ」にいた。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...