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第9部 道化師と世界の声
集う凶星1
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「これ」に関しては、ロウランこと、アルセンドリック侯爵家のミイナもロゼリッタも同意見だった。
吸血鬼は、招かれないと入れない。これは、捕食というより、恋愛感情の機微に近いだろう。高位の吸血鬼、特に西域の人間が爵位をもってよぶ吸血鬼たちは、獲物を「口説く」ことを愉しみ、口説き落とすことを喜びとするところがある。
吸血鬼同士でも、いままで敵対していたものが、あらためて知己となるのなら、似たような駆け引きがあってしかるべきではないか。それこそが、吸血鬼の醍醐味なのだから。
「ロウ=リンド。あなたは吸血鬼の作法についてあまりにも非常識です。」
最初にあったときは、9つの幼女だったミイナことロウランは、冷たく厳しい家庭教師の目で、ロウを睨めつける。
「そんな妙な作法になんの意味がある。」
「作法は作法です。」
「ここ何百年にできた作法だろ。わたしは知らん。」
文句を言っても通じないと思ったのか、ロゼリッタが、口調を改めた。
「まあ、それはそれとして・・・・なんの御用でわたしのところをお尋ねいただきましたのでしょうか、真祖さま。」
あくまでも。
窓を開いて招き入れたのは、ロウ=リンドであって、ロウランではない。そこいらの矜持は、ロウにもわかるような気がした。
「ミイナ・・・・ロウランが言ってただろ? おまえを仲間にするためだ。」
「仲間・・・・ってなに?」
気がついて、ロゼリッタは驚愕のあまり、口をぽかんとあけた。
「まさか『栄光の盾トーナメント』への出場ですか?」
「当然だろう?」
ロウは、ぐっと身を乗り出して、ロゼリッタの小さな手を握りしめた。
「優勝するのは、わたしたちか、にせフィオリナのベータのパーティだ。おまえを補強すれば、きっと勝てる。優勝賞金は山分け。そして、わたしたちは晴れて『栄光の盾』を名乗って冒険者活動ができる!」
「え、え、栄光の盾って、千年前の初代勇者のパーテイ名ですよね! わたしたちが名乗っていいのですか?」
「あったりまえだ。そのためのトーナメントだろうが!」
違う違う。
この能天気な真祖を、ロゼリッタはしばきあげてやりたかった。もともと彼女たち、ドゥルノ・アゴンとその配下が、冒険者としてカザリームで活動するに当たって景気のいい、話題作りになりそうなパーティ名を名乗らせようと言いだしたのは、冒険者事務所の経営者ラザリムだった。
半年前の「踊る道化師トーナメント」がものすごく盛り上がったので、同じ手法で一儲け、というか。あまりにも商魂たくましいそのやり方に、ロゼリッタはあまり賛同していない。ただ、早く売れることで、すくなくともカザリームでの生活が楽になるのなら、それはそれでありがたかった。
「お忘れかと思いますが・・・」
ロゼリッタは、一応、まだ敬語で話してはいる。
「わたしはもともと、ドゥルノ・アゴンの四烈将のひとり。わたしはドゥルノのパーティで出ますよ!?」
「まともに戦えるのはおまえとバークレイだけだろうが!」
一応、自分は公爵級の吸血鬼なんですけど。一応「真祖にいちばん近い吸血鬼」って呼ばれてるんですけど。
しかし、この真祖にそんなことを言っても無駄そうだった。
でも、バークレイはあれは、古竜、なん、だけど?
「いいか、頼みの綱のザクレイ・トッドは、まだ嵐竜たちの躾けすらできていない。擬似的な知性をもってしまったがゆえに、誰もザクレイ・トッドの命令はきかないし、そもそも戦えるのかどうかもあやうい。」
ロウは、突き出した指を一本づつたたんでいく。
「変身術士は、体調不良を理由に入院した。ベータなんていう化け物とは戦いたくない、といってな。」
そうなのだ。戦いについても素人ではないはずのブランカだったが、決戦以降、毎晩のように浴びるように酒をのんでは、酔のちからでかろうじて睡眠をとる生活が続いていた。
とにかく、ザクレイ・トッドとベータや、リウとサノスの対決の話を聞くだに、もうなにもかも(特に戦うのが)嫌位なったらしい。
トーナメントの話が持ち上がって日から、お腹痛いとか、めまいが、といって、打ち合わせにすら参加していない。
「ドゥルノ・アゴンは、魔王の力が抜けてしまってからは、全然だめらしい。」
「・・・・」
彼女たちのリーダーであった若き天才魔導師は、完全に死にかけた所をたすけてもらった。体を百余の断片にわけられたそれぞれ違う世界に封じこまれたのだ。
これには、踊り道化師のギムリウスでさえ、「めんどくさそうにした。」。またやられた者の魂にとっては、「死」よりも思い衝撃だったらしい。
かくして、幼児帰りしてしまったドゥルノ・アゴンは、なんというか、その原因をつくったドロシーがひきとった。いまでは、ドロシーが学校や冒険者としても仕事で外出するときは、ちゃんとお留守番をして、食事を作って待っているらしい。
「どうだ? ドゥルノ・アゴンと一緒に頑張ってみるか? それともわたしとロウランに与するか?」
「そ、それは難しいですね・・・そもそも主催者のラザリムがなんというか。」
すばらしいじゃないか!
ロウは、肩をつかんで、真祖の馬鹿力でロゼリッタの小さな体を、ガクガクとゆすった。
「良し! あとのメンバーもこれで目星がついた。いくぞ、ロゼリッタ! ロウラン! まだ宵の口だ・・・・」
「どこに行くっていうんです!!」
「決まってる。わたしたちのパーティの新メンバーだ。正直、この三人がそろえば頭数合わせでも充分だと思っていたが・・・・さすがはロゼリッタだな。」
「話がぜんぜん見えないんですけど?」
「なにを言ってるんだ。ラザリム&ケルト事務所のラザリムとケルトをスカウトしようといったのは、おまえじゃないか。」
「い、いえ、違いますけど。わたしが真祖さまのパーティに参加するには、ラザリムの許可がいるって言っただけで・・・」
「ラザリムとケルトをパーティに加えてしまえば、丸く収まるだろう?」
どこから出したのか、いかにもなインバネスコートを取り出してさっと羽織ると。
さあ、付いてこい!
ロウランとロゼリッタにそう呼び掛けて、ロウは夜空へと飛び立った。
吸血鬼は、招かれないと入れない。これは、捕食というより、恋愛感情の機微に近いだろう。高位の吸血鬼、特に西域の人間が爵位をもってよぶ吸血鬼たちは、獲物を「口説く」ことを愉しみ、口説き落とすことを喜びとするところがある。
吸血鬼同士でも、いままで敵対していたものが、あらためて知己となるのなら、似たような駆け引きがあってしかるべきではないか。それこそが、吸血鬼の醍醐味なのだから。
「ロウ=リンド。あなたは吸血鬼の作法についてあまりにも非常識です。」
最初にあったときは、9つの幼女だったミイナことロウランは、冷たく厳しい家庭教師の目で、ロウを睨めつける。
「そんな妙な作法になんの意味がある。」
「作法は作法です。」
「ここ何百年にできた作法だろ。わたしは知らん。」
文句を言っても通じないと思ったのか、ロゼリッタが、口調を改めた。
「まあ、それはそれとして・・・・なんの御用でわたしのところをお尋ねいただきましたのでしょうか、真祖さま。」
あくまでも。
窓を開いて招き入れたのは、ロウ=リンドであって、ロウランではない。そこいらの矜持は、ロウにもわかるような気がした。
「ミイナ・・・・ロウランが言ってただろ? おまえを仲間にするためだ。」
「仲間・・・・ってなに?」
気がついて、ロゼリッタは驚愕のあまり、口をぽかんとあけた。
「まさか『栄光の盾トーナメント』への出場ですか?」
「当然だろう?」
ロウは、ぐっと身を乗り出して、ロゼリッタの小さな手を握りしめた。
「優勝するのは、わたしたちか、にせフィオリナのベータのパーティだ。おまえを補強すれば、きっと勝てる。優勝賞金は山分け。そして、わたしたちは晴れて『栄光の盾』を名乗って冒険者活動ができる!」
「え、え、栄光の盾って、千年前の初代勇者のパーテイ名ですよね! わたしたちが名乗っていいのですか?」
「あったりまえだ。そのためのトーナメントだろうが!」
違う違う。
この能天気な真祖を、ロゼリッタはしばきあげてやりたかった。もともと彼女たち、ドゥルノ・アゴンとその配下が、冒険者としてカザリームで活動するに当たって景気のいい、話題作りになりそうなパーティ名を名乗らせようと言いだしたのは、冒険者事務所の経営者ラザリムだった。
半年前の「踊る道化師トーナメント」がものすごく盛り上がったので、同じ手法で一儲け、というか。あまりにも商魂たくましいそのやり方に、ロゼリッタはあまり賛同していない。ただ、早く売れることで、すくなくともカザリームでの生活が楽になるのなら、それはそれでありがたかった。
「お忘れかと思いますが・・・」
ロゼリッタは、一応、まだ敬語で話してはいる。
「わたしはもともと、ドゥルノ・アゴンの四烈将のひとり。わたしはドゥルノのパーティで出ますよ!?」
「まともに戦えるのはおまえとバークレイだけだろうが!」
一応、自分は公爵級の吸血鬼なんですけど。一応「真祖にいちばん近い吸血鬼」って呼ばれてるんですけど。
しかし、この真祖にそんなことを言っても無駄そうだった。
でも、バークレイはあれは、古竜、なん、だけど?
「いいか、頼みの綱のザクレイ・トッドは、まだ嵐竜たちの躾けすらできていない。擬似的な知性をもってしまったがゆえに、誰もザクレイ・トッドの命令はきかないし、そもそも戦えるのかどうかもあやうい。」
ロウは、突き出した指を一本づつたたんでいく。
「変身術士は、体調不良を理由に入院した。ベータなんていう化け物とは戦いたくない、といってな。」
そうなのだ。戦いについても素人ではないはずのブランカだったが、決戦以降、毎晩のように浴びるように酒をのんでは、酔のちからでかろうじて睡眠をとる生活が続いていた。
とにかく、ザクレイ・トッドとベータや、リウとサノスの対決の話を聞くだに、もうなにもかも(特に戦うのが)嫌位なったらしい。
トーナメントの話が持ち上がって日から、お腹痛いとか、めまいが、といって、打ち合わせにすら参加していない。
「ドゥルノ・アゴンは、魔王の力が抜けてしまってからは、全然だめらしい。」
「・・・・」
彼女たちのリーダーであった若き天才魔導師は、完全に死にかけた所をたすけてもらった。体を百余の断片にわけられたそれぞれ違う世界に封じこまれたのだ。
これには、踊り道化師のギムリウスでさえ、「めんどくさそうにした。」。またやられた者の魂にとっては、「死」よりも思い衝撃だったらしい。
かくして、幼児帰りしてしまったドゥルノ・アゴンは、なんというか、その原因をつくったドロシーがひきとった。いまでは、ドロシーが学校や冒険者としても仕事で外出するときは、ちゃんとお留守番をして、食事を作って待っているらしい。
「どうだ? ドゥルノ・アゴンと一緒に頑張ってみるか? それともわたしとロウランに与するか?」
「そ、それは難しいですね・・・そもそも主催者のラザリムがなんというか。」
すばらしいじゃないか!
ロウは、肩をつかんで、真祖の馬鹿力でロゼリッタの小さな体を、ガクガクとゆすった。
「良し! あとのメンバーもこれで目星がついた。いくぞ、ロゼリッタ! ロウラン! まだ宵の口だ・・・・」
「どこに行くっていうんです!!」
「決まってる。わたしたちのパーティの新メンバーだ。正直、この三人がそろえば頭数合わせでも充分だと思っていたが・・・・さすがはロゼリッタだな。」
「話がぜんぜん見えないんですけど?」
「なにを言ってるんだ。ラザリム&ケルト事務所のラザリムとケルトをスカウトしようといったのは、おまえじゃないか。」
「い、いえ、違いますけど。わたしが真祖さまのパーティに参加するには、ラザリムの許可がいるって言っただけで・・・」
「ラザリムとケルトをパーティに加えてしまえば、丸く収まるだろう?」
どこから出したのか、いかにもなインバネスコートを取り出してさっと羽織ると。
さあ、付いてこい!
ロウランとロゼリッタにそう呼び掛けて、ロウは夜空へと飛び立った。
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