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第9部 道化師と世界の声

魔女の謀(はかりごと)

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ドロシーは、この後、「踊る道化師」の要として、世に知られるようになる。
清楚にして、知的。それでいて周りの男たちを魅惑してやまない美貌。
軍師として。あるいは治世者として、冴えわたる頭脳。
なので、それらの伝説に基づいて、過去、彼女が行った数々の行動も全て、計算され尽くした、その頭脳がもたらしたものと解釈されることも多い。

例えば。

もともと主家である子爵家のマシューを、実家から放逐されるように仕向け、冒険者学校へと入学させたのは、そこで「踊る道化師」たちと知り合うための策略だった、とか。
ろくな鍛錬もなしに、「神竜騎士団」との抗争に打って出たのは、自らの知力と胆力を、ルトやリウに売り込むためだったとか。
グランダ魔道院との対抗戦で、ジウル・ボルテックと戦ったのも敗れたのも、ジウルがもつ魔剣を習得するための方策であった、とか。
ルトとリウ、それにフィオリナを自在に操り、リウをカザリームへと追いやったのは、そこで、魔王候補であるドゥルノ・アゴンと出会うためであり、ドゥルノ・アゴンと恋仲になった挙句に、彼を打ち倒したのも。


全部全部ぜええええええんっぶ!


彼女の知略と計算のうちに成り立っていたのだ、とか。

「栄光の盾トーナメント」に、かこつけて、「愚者の盾」がカザリームに来るように仕向けたのも、神をも欺く、大軍師「銀雷の魔女」ドロシーの手のうちにあったのだ、と。

いやはや。

ドロシーがいくら否定しようが、その噂の一部は、紛れもなく本当のことなので、誰も信用してはくれない。

確かに「栄光の盾トーナメント」に、勇者クロノの「愚者の盾」を参加させるメリットは限りなく大きい。なにしろ、「本物」の勇者が、参加するのだ。単純に勇者と一度でも剣を交えてみたい(出来れば実戦ではなく試合形式で!)と、思うものは、いくらでもいるだろうし、何より大会の権威がグンと高まる。

聖光教会も勇者が参加してしまっているのだ。今も後からも文句はつけられまい。

だが、まずい。

ドロシーは、ルトからグランダの後継者争いと、「最強のパーティを組織せよ」という王命に従って、迷宮主たる魔王と、階層主からなる冒険者パーティ「踊る道化師」を組織した顛末はだいたいは聞いていたし、そこで、勇者クロノの率いる「愚者の盾」が活躍した話は聞いていたが・・・・。

その愚者の盾に、フィオリナがいたとは!!
フィオリナを遠ざけるために、リウはわざわざ自分の転移魔法を封じて、はるかカザリームまでやって来たのだ。
フィオリナとリウを、合わせてはいけない!

絶対に!

そして、さらにジウル・ボルテックまでが、「愚者の盾」に参加していたことは、ドロシーは、忘れていた。
愛するジウルが、アモンと迷宮内で戦い、そこで、生身の打撃に魔力を乗せる魔力撃に開眼したことは聞いていたのだが、その戦いと、「愚者の盾」は、ドロシーの中では全く結びついていなかったのだ。

ジウルとは、別れたつもりでいた。
だが、奴は平気で、魔道院の中での試合に自分を呼び、自分もそれに応じてしまった。

その夜も。

会えば、ジウルとはそうなるだろう。しかし、今のドロシーにはドゥルノ・アゴンがいる。

元「魔王」と「魔拳」が、自分をめぐって戦う!!!

ある種の女性にとっては、心踊るシュチュエーションかもしれないが、ドロシーにとっては恐怖でしかない。

その怯えの心のままに、ドロシーは、クロノに抱きついていた。

あのときは、自分でもおかしくなっていて。
のちに、ドロシーは、ルトにそう、言い訳したが、ルトは何も言わなかった。
ただ、浮かべた表情としては、カザリーム名物の煮凝り料理を3食食べた翌朝の料理に、煮凝りが出てきた時によく似ていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アライアス侯爵は、夕餉のひとときを楽しんでいた。
家族といえば、一人息子のみで、少々寂しい食卓ではあるが、今日は客人もいる。

ランゴバルド冒険者学校の制服に身を包んだ少年は、ギムリウスという。
上古の神獣ギムリウスを報じる亜人の一族で、おそらく、神獣の能力を受け継いだと思われる卓越した転移能力をもっていた。

かつて、邪神ヴァルゴールの使徒にさらわれた息子ヘルデを救出し、なぜか、その使徒を配下に加えてしまった可愛らしい少年は、甲斐甲斐しく、息子の世話をやいていた。

息子のヘルデもすっかり、ギムリウスに懐いていた。

アライアス侯爵としては、ギムリウスをこのまま、恒常的に雇い入れたかった
そのために、「護衛」と称して、ギムリウスを呼び寄せてみたのだ。

新しく買い入れた電灯は、魔道の灯りよりはるかに明るく、アライアスは、ギムリウスとヘルデが、仲良く戯れる姿を微笑ましく見守っていた。

「閣下。」

困った顔をした侍従長が、部屋に入ってきた。

「お客様が・・・・・」
「この時間にか?」

ガルフィート伯爵と並ぶ、ギウリーク聖帝国の重鎮でもあるアライアスであったが、まだ幼いといっていい息子との団らんの時間を何より、大切にしていた。
当然、屋敷のものもそれは熟知しているはずで、それを曲げて、来客をつげるとは、ろくでもない相手か、ろくでもない要件にきまっていた。

「ガルフィート伯爵家のカテリアさまです。」

取り次ぐ間も与えずに、美少女剣士は、居間に乗り込んできた。
ついさっきまで、剣の稽古でもしていたかのような男装で、まるで走ってきたかのように息をはずませていた。

「どうしたのだ、カテリア。まるで、勇者が出奔したときのような慌てようだな。」

アライアス侯爵は、もちろん、冗談でいったのだが、カテリアの表情を見て、眉間にしわを寄せた。

「クロノが出奔したのか?」



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