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第9部 道化師と世界の声

二番煎じと魔女たち1

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ラザリム&ケルト冒険者事務所は、カザリームの新市街。ガラス張りの30階建ての建物の22階と23階を貸し切りで、使用している。
冒険者事務所は、西域流に言えば、ギルド、またはクランに相当するだろう。

多ければ、百名近い冒険者を在籍させている。任務の多くは、カザリームに多数存在する地下迷宮の攻略やアイテムの獲得だが、ほかにも護衛任務や、依頼に基づいた特定の魔物の討伐や、素材の収集など、仕事はさまざまである。

ラザリム・ケルト事務所は、その中でも新進気鋭のひとつだ。いわゆる「カザリーム八極連」と称される大手からみれば、どんぐりの背比べに過ぎないと揶揄する声もあったが、やはり凡百の冒険者事務所からは、頭一つ、抜きん出た存在と言える。

このまま、順調に実績を重ねれば、「カザリーム八極連」が「九極連」になる日も近いのではないか。
そんなふうにさえ、噂されている。
受付や打ち合わせを兼ねたいわゆる「事務所」は、22階であり、23階は、特別に重要な顧客やトプの冒険者達用の応接室、ラザリム・ケルト事務所の幹部たちの私室だった。
その豪華にして、機能的な応接の一室に、三人の美女の姿があった。

まだ、昼間の時間ではあったが、部屋には窓はなく、薄暗い照明のなか、妖しげな煙を漂わせる香がたかれていた。

三人の前に置かれたグラスの液体は、燐光を放ち、尋常な酒ではないことは、明らかだった。

「ドゥルノ・アゴンたちのパーティは『栄光の盾』を名乗らせようと思う。」
三人のうちのひとり。この事務所の経営者でもあるラザリムは、「魔女」と陰で呼ばれている。幼い少女のような外見だが、これは魔力過多による老化遅延の副作用によるものらしく、実際のところは何歳かはわからない。

「また、問題の多い名前を。」
あきれたように、眉を潜めた美女は、ロウラン・アルセンドリックという。首元の詰まった淡い色のドレスは、貴族の御婦人に愛されている定番のスタイルだ。ロウランがそんな格好をしているとまるで、怖い学校教師のようにも見える。理知的だが、冷たい。凍った川面に映る月のような美貌だった。

ちなみに年齢は、たぶん300歳くらいになるはずだ。
都市国家カザリームを代表する冒険者のひとりで、二つ名は「氷の貴婦人」。

アルセンドリック侯爵ロウランが、そう言ったのは、「栄光の盾」が、ミトラの聖光教会公認の唯一の勇者が、千年前に魔王を討伐したときのパーティ名だからだ。これにあやかって「栄光の盾」を名乗るパーティは、数えきれない。教皇庁がなんど禁止のおふれをだしても、景気づけに「栄光の盾」を名乗りたがるパーティは、時代を問わず、あとをたたないのである。

ただし、そんなことをして景気をつけるのは、ど田舎のまともにギルド連盟に所属もしていないような世間知らずの連中だけだろう。


最近だと、どこぞの北のど田舎の国の王子が、じぶんのパーティにそう名乗らせたときいている。
まったくこれだから、文明圏からはずれた連中は、と、ロウランはずいぶんとやつらを軽蔑した記憶がある。

不機嫌そうなロウランと、それをからかうようなラザリムの前で、ドロシーは、体をちいさくするばかりだ。
彼女は、まだたったの18歳で、生まれも育ちもランゴバルドの下町。親は代々、さる子爵家の使用人をしていたから、まったくの庶民よりも生活は豊かだったように思う。実際にドロシーも魔法学校に通わせてもらっていたのだから。

それが、なんだっていうんだろう。
うつむき加減で体を小さくする。背は高いほうだったが、ついつい猫背になってしまう。

「銀雷の魔女殿は、どう考える?」

や、やめて! そんな二つ名で呼ばないで!
悲鳴をあげる心とは裏腹に、ドロシーの唇は笑みの形をつくる。

「『踊る道化師』にリウがいることを考えれば、なんとも皮肉な命名かと。」
「リウが、かつての魔王バズス=リウだと、おまえまで言うのか、銀雷の魔女。」

ラザリムが、笑った。

「あなたはどうです。ロウラン。あの少年が・・・・
確かに底しれない力をもっているのは、間違いないでしょうが、本当に千年前に、人類を破滅寸前にまで追い込んだ魔王そのひとだと、感じますか?」

「わたしは、かつての魔王にはあってないよ、ラザリム。」
ロウランは、答えた。
「だが、我が主たるロウ=リンドが、魔王とよび、そのように仕えている。だからわたしにとっては、リウは、魔王だ。たとえ、バズス=リウではないにしろ、それに匹敵する存在だ。」

「ならば、あなたもドゥルノ・アゴンたちに『栄光の盾』を名乗らせることについては・・・・」
「反対だな、反対。だが、理由は、『踊る道化師』に魔王がいるからではない。『栄光の盾』を名乗ることが、あまりにもバカバカしく、田舎者ぽっく見えるからだ。実際にわたしが知るだけでも、カザリームですでに3つの『栄光の盾』が活動している。」

「初耳です! どこの事務所に所属してるんですか?」

「正確に言うと、どこにも所属していない。」
ロウランはそっけなく言った。
「誰が真の『栄光の盾』か、を賭けて、夜な夜な地下闘技場で、試合をして回っている。面白いもので、三つのパーティにそれぞれ、ファンがついていて興行としてなりたっている。
どこかで、聞いたような話だな。」

ラゼリムは、ちょっと凹んだ。
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