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第9部 道化師と世界の声

壊滅に至る儀式

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1匹だけでも都市を壊滅に追い込めるであろう嵐竜が2匹。たしかにその能力は、古竜に劣るが、言語によるコミュニケーションが行えず、ひたすら暴虐と破壊を振りまく嵐竜は、ある意味、古竜よりも恐れられていたと言える。

その最大の武器であるブレスは、古竜がそうするように、目標に向かって集束することなく、だいだいの方向にきわめて大雑把に撒き散らされる。

タイミングにも、また嵐竜の個体差によって異なるだろうが、その威力は、付与魔法によって、強化された盾、魔法障壁で防げる程度にまで、劣化している。

だが、そうではないものにとっては?


「こ、こんなのってっ!」
ガゼルが喚いた。
「さわぐな、こどもじじい。」
ミルドエッジが、突っ込んだ。

どうもふたりの(見かけ)美少年は、外見相応の子どものフリをすることが、事情を知る回りのものには、すごく、気持ち悪く映ることに、気が付き始めたようだった。

彼らは、空中に避難している。
飛べないものは、飛べるものに支えてもらって。

駅舎も車両も、いや駅そのものもその前の広場も。
目に見える地面のそのすべてが、動きを止めた鬼蜂で埋め尽くされていた。

片付けるだけでも、どれほどの労力が必要か、もともと銀灰の人間であるミルドエッジなどは、暗澹するのであるが、気を抜いているヒマはない。

彼らの検証が正しければ、真の脅威はこのあとにやってくるのだ。
魔力がほぼ枯渇しているミルドエッジには、それに対処する自信がない。

両手には、アモウとクルスを抱えている。ふたりに抱っこされているように見えるのだが、実際はそういうことだ。

魔法が苦手なはずのガセルは、それでも自分で浮いている。

ルトは、ランゴバルトの姫君と冒険者学校の女生徒を連れていた。
その肩のあたりに、ポチとタマがしがみついている。

数万の鬼蜂を一掃した張本人たちは、ちょっと得意げであった。

どことなく、冴えない田舎娘は、お付きの女性二人を従えて、少し上空にいた。
そういえば、三名ともに極大魔法を使用したはずなのに、疲労の影さえ見えなかった。

「そこの娘っ!」
ミルドエッジは、彼女を呼んだ。
振り向きもせずに、ルルナは
なにか? 
と、答えた。

「なにもんじゃ、お主は!」

ちょっと、考えてから少女は答えた。
「ベルルルーナといいます。冒険者学校でルトくんの後輩です。」

なるほど、ランゴバルトの冒険者学校は、いまそういうことになっているのか。
だいたい、この乱暴者の長寿族の長老が、なにをいまさら、冒険者学校なのか。
彼らが密かに支持する『闇姫』オルガ殿下が、なぜ冒険者学校にいるのか。

冒険者育成のための組織とは、真っ赤な偽り! いまやランゴバルトは、銀灰の悪夢や、鉄道公社の絶士のような超絶な戦力をもつものを育成する特殊機関になっているのだ!

とんでもない結論に達したミルドエッジだったが、ルトがきいたら、苦笑いを浮かべたかもしれない。
冒険者学校全体はともかく、ルールス分校にとっては、当たらなくても実際、それに近い状態なのは事実だった。

「る、ルト!」
ルールスは、魔力の使いすぎで息も絶え絶えだったが、気丈に体を起こした。
「これで確かに蜂ともの上位個体を引きずりだせるだろうが…。
あの3人に対処させたら結局は、町ぐるみ崩壊するぞ。」

目付きが怪しくなってくる。自分の収納から酒瓶を取り出すのを、ルトはそっと取り上げた。

「飲ませてくれえ! シラフではやってられんのだ。」

聞き分けのない先生の頭を撫でて、やりながら、ルトは上空を見上げた。

「きますよ。」


彼らがいる空間より、さらに百メトルは上だろうか。
空中にキラキラと輝く金属の粒子が集まっていく。それは、輝く扉となった。

「なかなかいいエフェクトじゃないですか。」
と、ルトが呟いたのを、上空にいたルルナが聞きつけて、振り返った。
「転移などというものは、安全に行えればそれでいいのでは?」
「それができるなら、そうです。」

もともとの身体があまりに、膨大な質量をもっているため、古竜たちの間では、転移はあまり好まれない。

「うちのギムリウスなんかは、まったくエフェクトを使いません。それがなん理想なんでしょうけど、逆に言えばなんのエフェクトともなく、世界を騙せるのはギムリウスくらいです。
その場になんの連続性もなく、ある個体が出現することに世界が疑問をもたせないために、なにがしかの演出はするのですよ。
彼女のは、品があってシンプルですね。」
「彼女?」

ルトは目を細めた。
「外見からして蜂の魔物なので、その王となれば、女王蜂でしょう。」

トビラが開かれ、出てきたモノは、まさにそのような生き物だった。


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