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第9部 道化師と世界の声
残念姫と絶士のワインパーティー
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落ち着かない。
久しく使われていない闘技場は、円形のすり鉢状になっていて、周りは観覧席だ。
ご来賓を招いての、模範試合などに昔は使ったらしいのだが、ルールスの「修練は見世物ではない」という一声で、めっきり使用頻度は減ったらしい。
「グルジエン!!」
フィオリナは、自分の従者を呼んだ。
メイド服の「絶魔法士」は、ひょっこりとベンチの影から、姿を表した。グルジエンは細身ではあるが、そんなところに人がひとり隠れられるはずがない。
自分の「空間」で昼寝でもしていたのだろう。
「呼んだ?」
「手伝ってくれない?」
「いや。」
メイドは即座に言った。
「なぜだ? 料理以外はすべてに完璧なおまえが・・・・」
「戦闘は、メイドの仕事ではない。」
かつて、西域のオールベと言う街で、フィオリナとグルジエンは一戦をまじえている。
閉鎖空間にフィオリナを呼び込んだグルジエンは、無限長の斬撃と不死身の体質により、フィオリナを追い込んでいる。
フィオリナは、竜巻を作って、そこを逃れたが、はっきり言って、グルジエンは自分の負けだと思っていた。だから、一時「鉄道公社」をはなれて、フィオリナに仕えているのだが・・・・。
「わざわざ、あんたのメイドに、なってやってるんだ。あんたと戦いたいなら、メイド以外でも出来る。」
フィオリナは、どこからか(もちろん“収納”からだろうが)ワインを取り出した。
「わかった。じゃあ、こっちの相手をしろ。」
グルジエンの視線が、爬虫類のように感情を失ったものにかわった。
「メイドに寝やの相手をしろと?」
ひょい、とジャンプして、くるりと一回転して、フィオリナの前に降り立ったときには、もう下着姿になっていた。
「前にも話したと思うが、わたしの世界では、おまえらの性別に相当するものが17種類あって、生殖にはそのうちの3つが最低、必要だ。」
グルジエンは、フィオリナのそばに、よって肌の匂いを嗅いだ。
「だから、真似事しかできないが、それでもいいか?」
「違う違う!」
フィオリナもさすがに、顔を赤らめた。
グラスに、木の実やドライフルーツを取り出す。
「話の相手になってくれ、と言っている。」
「そうか。」
と、言ってグルジエンは、下着姿のまま、闘技場に座り込んだ。
「そう言われてみると、すこし残念だな。おそらく、おまえとおまえの番、わたしの三人なら、子どもも作れそうなのだが・・・」
「その場合、誰が産む!?」
「ひとりで、移動でき、食物を摂取できるまでは、保育用の亜空間を展開してそこで、育てるのだが。」
フィオリナは、ワインのコルクを引き抜くと、グルジエンのグラスにワインをついでやった。
「異世界人」
「異世界生物、でいいぞ。この姿はおまえらに寄せて作った仮の姿だ。」
「さっき、番という言葉を使ったが、グルジエンの世界にも、番というのはあるのか?」
「子どもが、自力で移動して食べ物を摂取できるようになっても、覚えることはたくさんあるからな。」
グルジエンは、ワイングラスを一気に空けた。
「・・・・・・美味いな。」
「その、美味いという感覚もどうせ、わたしたちとは違うのだろう?」
「さあて?」
グルジエンは、楽しそうに笑った。
「この体は、人間によせて作ったものだ。味覚も人間とも同じように感じるし、アルコールを摂取すれば酔っ払う。
これはいいワインだ。複雑な味をしている。香りのあとの、酸味、渋み、全てが一斉にではなくて、時間差で感じられる。例えば、おまえたちの世界で言うところの、オーケストラを聞いているようだ。
多数楽器が音を鳴らしても、騒音にはならず、調和をもって耳に響いてくる。」
おや、とフィオリナも笑った。
「グルジエンは、随分と雄弁になるな!
酒が好きなのか?」
「わたしたちは、個体数が少ない。」
は言った。
「多分、全体には、この世界でいうところの、古竜に、似ているのだと思う。ワガママで、享楽的で、戦いを好む。
そして、ことのほか酔うのが好きだ。」
「まあ、そのわいんが上物なのは本当にそうだ。
クローディア家の先代は、かなりの酒通でな。グランダの屋敷には秘蔵の酒蔵があって、そこからこっそり持ち出したものの、最後の一本だ。」
グルジエンは、ちょっと困った顔をした。
「いいのか? わたしと空けてしまって。」
「それはな、ルトとの特別な夜に取っておいたものだ。」
フィオリナは、肩をすくめた。
「でも、それはどうも当分ありそうもないので諦めたんだ。」
グルジエンは、困った顔をしている。
「・・・・・・それは、もう・・・このくらいにしておくから、後はルトと飲め。」
「残念だ。ワインはコルクを抜いたら、飲みきらないといけないんだ。」
フィオリナは、自分のグラスとグルシエンのグラスをワインで満たした。
「つまり、そのおまえたちに例えると、おまえは。もうコルクを抜かれて、注がれる準備が出来ているというのに、ルトが一向に口をつけようとしないと?」
フィオリナは、またワイングラスいっぱいに深紅の液体を注ぎ込んだ。
そんな継ぎ方をしては、可哀想な飲み物ではあった。
「わたしは、わたしの初めてはルトに、取っておくつもりだったけど、やめた!」
フィオリナは、空を見上げた。そろそろ、空は暗くなり始めている。
「いいさ、どこかで結婚はしよう!
でもわたしは、とりあえず恋にうつつを抜かすことにしたっ!」
爽やかなまでに、ゲスいなぁ、とグルジエンは思った。異世界の竜族であるグルジエンにも、信義とか約束に対する忠実は美徳であり、フィオリナがメイドを捕まえて、不倫宣言するのはいかがなものか、と思ったのだ。
「ルトの最初のお相手は、どうもルールスのバアサンになるみたいだ。経験豊富だろうから、ちゃんと手とり足とり教えてもらえばいいっ!
二人で長旅だぞ? 宿だって一緒になるだろうし、ねえ、ルト。寝つかれないのだけれど、眠るまで一緒にいてくれる? おふとんがつめたいわ、よこにきてあっためて」
「勝手に決めるなっ!」
久しく使われていない闘技場は、円形のすり鉢状になっていて、周りは観覧席だ。
ご来賓を招いての、模範試合などに昔は使ったらしいのだが、ルールスの「修練は見世物ではない」という一声で、めっきり使用頻度は減ったらしい。
「グルジエン!!」
フィオリナは、自分の従者を呼んだ。
メイド服の「絶魔法士」は、ひょっこりとベンチの影から、姿を表した。グルジエンは細身ではあるが、そんなところに人がひとり隠れられるはずがない。
自分の「空間」で昼寝でもしていたのだろう。
「呼んだ?」
「手伝ってくれない?」
「いや。」
メイドは即座に言った。
「なぜだ? 料理以外はすべてに完璧なおまえが・・・・」
「戦闘は、メイドの仕事ではない。」
かつて、西域のオールベと言う街で、フィオリナとグルジエンは一戦をまじえている。
閉鎖空間にフィオリナを呼び込んだグルジエンは、無限長の斬撃と不死身の体質により、フィオリナを追い込んでいる。
フィオリナは、竜巻を作って、そこを逃れたが、はっきり言って、グルジエンは自分の負けだと思っていた。だから、一時「鉄道公社」をはなれて、フィオリナに仕えているのだが・・・・。
「わざわざ、あんたのメイドに、なってやってるんだ。あんたと戦いたいなら、メイド以外でも出来る。」
フィオリナは、どこからか(もちろん“収納”からだろうが)ワインを取り出した。
「わかった。じゃあ、こっちの相手をしろ。」
グルジエンの視線が、爬虫類のように感情を失ったものにかわった。
「メイドに寝やの相手をしろと?」
ひょい、とジャンプして、くるりと一回転して、フィオリナの前に降り立ったときには、もう下着姿になっていた。
「前にも話したと思うが、わたしの世界では、おまえらの性別に相当するものが17種類あって、生殖にはそのうちの3つが最低、必要だ。」
グルジエンは、フィオリナのそばに、よって肌の匂いを嗅いだ。
「だから、真似事しかできないが、それでもいいか?」
「違う違う!」
フィオリナもさすがに、顔を赤らめた。
グラスに、木の実やドライフルーツを取り出す。
「話の相手になってくれ、と言っている。」
「そうか。」
と、言ってグルジエンは、下着姿のまま、闘技場に座り込んだ。
「そう言われてみると、すこし残念だな。おそらく、おまえとおまえの番、わたしの三人なら、子どもも作れそうなのだが・・・」
「その場合、誰が産む!?」
「ひとりで、移動でき、食物を摂取できるまでは、保育用の亜空間を展開してそこで、育てるのだが。」
フィオリナは、ワインのコルクを引き抜くと、グルジエンのグラスにワインをついでやった。
「異世界人」
「異世界生物、でいいぞ。この姿はおまえらに寄せて作った仮の姿だ。」
「さっき、番という言葉を使ったが、グルジエンの世界にも、番というのはあるのか?」
「子どもが、自力で移動して食べ物を摂取できるようになっても、覚えることはたくさんあるからな。」
グルジエンは、ワイングラスを一気に空けた。
「・・・・・・美味いな。」
「その、美味いという感覚もどうせ、わたしたちとは違うのだろう?」
「さあて?」
グルジエンは、楽しそうに笑った。
「この体は、人間によせて作ったものだ。味覚も人間とも同じように感じるし、アルコールを摂取すれば酔っ払う。
これはいいワインだ。複雑な味をしている。香りのあとの、酸味、渋み、全てが一斉にではなくて、時間差で感じられる。例えば、おまえたちの世界で言うところの、オーケストラを聞いているようだ。
多数楽器が音を鳴らしても、騒音にはならず、調和をもって耳に響いてくる。」
おや、とフィオリナも笑った。
「グルジエンは、随分と雄弁になるな!
酒が好きなのか?」
「わたしたちは、個体数が少ない。」
は言った。
「多分、全体には、この世界でいうところの、古竜に、似ているのだと思う。ワガママで、享楽的で、戦いを好む。
そして、ことのほか酔うのが好きだ。」
「まあ、そのわいんが上物なのは本当にそうだ。
クローディア家の先代は、かなりの酒通でな。グランダの屋敷には秘蔵の酒蔵があって、そこからこっそり持ち出したものの、最後の一本だ。」
グルジエンは、ちょっと困った顔をした。
「いいのか? わたしと空けてしまって。」
「それはな、ルトとの特別な夜に取っておいたものだ。」
フィオリナは、肩をすくめた。
「でも、それはどうも当分ありそうもないので諦めたんだ。」
グルジエンは、困った顔をしている。
「・・・・・・それは、もう・・・このくらいにしておくから、後はルトと飲め。」
「残念だ。ワインはコルクを抜いたら、飲みきらないといけないんだ。」
フィオリナは、自分のグラスとグルシエンのグラスをワインで満たした。
「つまり、そのおまえたちに例えると、おまえは。もうコルクを抜かれて、注がれる準備が出来ているというのに、ルトが一向に口をつけようとしないと?」
フィオリナは、またワイングラスいっぱいに深紅の液体を注ぎ込んだ。
そんな継ぎ方をしては、可哀想な飲み物ではあった。
「わたしは、わたしの初めてはルトに、取っておくつもりだったけど、やめた!」
フィオリナは、空を見上げた。そろそろ、空は暗くなり始めている。
「いいさ、どこかで結婚はしよう!
でもわたしは、とりあえず恋にうつつを抜かすことにしたっ!」
爽やかなまでに、ゲスいなぁ、とグルジエンは思った。異世界の竜族であるグルジエンにも、信義とか約束に対する忠実は美徳であり、フィオリナがメイドを捕まえて、不倫宣言するのはいかがなものか、と思ったのだ。
「ルトの最初のお相手は、どうもルールスのバアサンになるみたいだ。経験豊富だろうから、ちゃんと手とり足とり教えてもらえばいいっ!
二人で長旅だぞ? 宿だって一緒になるだろうし、ねえ、ルト。寝つかれないのだけれど、眠るまで一緒にいてくれる? おふとんがつめたいわ、よこにきてあっためて」
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