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第8部 残念姫の顛末

第394話 神獣対駆け出し冒険者

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最初の朝の光が、街を照らし始めるころ、ギムリウスはやっと、やっとルトを見つけた。
なんのことはない。彼はずっと大聖堂あとの瓦礫の山の中にいたのだ。

周りにうかぶ複数の魔法陣。それからが映し出すものは、ゴウグレの創り出したものと、寸分たがわぬ緋色の蜘蛛だった。
蜘蛛は、瓦礫を食欲旺盛に貪り食っていた。しばらくその作業を黙々と続けていた様子で、その辺は瓦礫がなくなり、平らな地面、つまりもと大聖堂の床だった部分が見えていた。

「ルト!」          

ルトは慌てたように、緋色の蜘蛛を消した。悪戯でもみつかったような表情で、ルトはギムリウムを見つめた。
「つまり、だね。理屈としては空間が覚えている情報をもとに大聖堂を食べる蜘蛛を再現したんだ。実際に創造した訳じゃないから、ものすごい魔力を消費するし、集中力もいるからあまりおすすめできない魔法だな。」           

そこで、微妙に声色をかえた。
「ところで、これはおまえの発案だよね、ギムリウス?」     
は。
ギムリウスは硬直した。
大聖堂の破壊は、たしかに集まったものたちから、非難されたがそれは、効果がないからであって、実際に大聖堂を壊したことを咎められたのではなかった…しかし。

「これは、不味い。たまたま死者が出なかったからいいようなものの。」

言われて、大聖堂の破壊そのものが良くないことだとに、やっと気がついたギムリウスであった。
「まあ。」
ルトは顔をギムリウスに、むけた。
痩せている。もともと痩せ気味で華奢な体躯が一回り縮んだようだった。
「いろいろ心配かけて」
「ルト!」
ギムリウスは、抱きついたが、これは悪手だった。徹夜の作業に疲労困憊したルトは、ギムリウスを抱きしめるような格好で、後ろにひっくり返った。

「ルト!ルト!」
慌ててギムリウスは、ルトを抱き起こしたが、ほんとにひっくり返ってだけで、彼はすぐに目を開けた。

「ギムリウスの解決案を、聞かせてくれる?」

よっこらせと、いいながら体を起こして、ルトはギムリウスを隣に座らせた。

「わたしは、この結婚には反対の立場です。」
「それはなぜ?」
「ルトと、フィオリナがそれを望んでいないからです。違いますか?」

「そうなんだ。」
ルトは素直に頷いた。
「たしかに、ぼくは焦りすぎた。ドロシーが言ってくれた、ぼくはぼくのしたいのとをすればいいっていうのは、もっと広い全番的な気持ちの持ち方であって、それをフィオリナをぼくに、つなぎとめるために直ぐに、結婚式をあげなくちゃ、なんていうことは、ぼくの、わがままだってんだよな。」
少年は、この数日ですっかり、細くなった手を広げた。
「ぼくは、魔力過多によって成長がゆっくりだ。多くの場合は、老化がゆっくりになるいわゆる不老長寿というかたちで恩恵を被ることが多いんだけどね」

ルトはちらりとギムリウスの下半身をみた。
「きみが、実験しようとしていたタイプのコミュニケーションは、ぼくにはできないんだ。少なくともそれが出来るように、なってから結婚ってすべきだよな。」

「どうも、わたしには人間というものは分からないようです。」
ギムリウスの、可愛らしい顔は歪んだでいた。
「あなた方はたかが繁殖のための、行動を神聖視し過ぎている。しかも繁殖も行わないのにその真似事をするのに快感を感じている。
生き物として欠陥品です。」
「それは、人間が“知性”をはやく獲得しすぎることにあるんだろうな。」
ルトは、軽々と相づちをうった。
「竜が知性を獲得するのは、五六百年はかかる。ギムリウスの創造する蜘蛛も知性持ちは珍しいだろ?
知性は、そのくらい希少価値のあるものなんだよ。
結果的に、生まれながらにして知性をもたせるために、人間の出産はかなり体に負担がかかるものになってしまっている!」
ルトは、おお、嫌だ、といいながら首を振った。
「行為自体が、快楽でなければだれも子作りなんてしないだろうね。
結果として、行為に伴う快楽こそが、人間の繁殖行動の根幹となってしまったわけだ。
例をあげるならば、我が婚約者と友人殿だな。」

ルトの発言は、ギムリウスが感じたそのままだったが、かえってギムリウスを苦しめただけだった。
「ルト、あなたはまだ人間です。ニンゲンのあなたが神獣のように人間を語る。健全なこととは思えません。」
「そうそう。」
ルトは、薄く笑った。さんざんフィオリナに注意されたあの、見るものをぞっとさせる笑みだった。
「ぼくはひねくれているんだよ、ギムリウス。」
「ルト。結婚式もフィオリナもリウも全部投げ出してください。今だけでいいです。
わたしとともに魔王宮へ。そして時が移るのを待ちましょう。」

ああ。
朝日と逆光になって少年の表情は、よく見えなかった。
「いや、だと言ったら?」
「力づくでそうします。」

面白いな。
と、ルトは立ち上がった。
「ぼくをしばらくの、間、隔離するのか。確かに『結婚式を挙げられない』ことに対してなら十分な理由だよ。新郎がいないっていうのは、嗚呼、確かに」
少年は手を叩いた。 
「ぼくが拉致されてしまうのは、フィオリナの責任では無いから彼女のプライドも保たれるってわけだ。いい方法だと思うよ、ギムリウス。
ただぼくが自主的に、きみと行ってしまっては、拉致されたことにはならないから、どっちみち戦わないとならない。」

「あなたと、戦うのは三度目です。」
ギムリウスも立ち上がる。白い骨剣は呪剣グリム。

「まえのときは、フィオリナに任せっきりだったから実際には初めてだよ、ギムリウス。」
ルトは優しく、そう言った。
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