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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり

第286話  どうでもよい方のお泊まり

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「ではでは!」
わたしは、全員に飲み物が行き渡ったのを確認してから、叫んだ。
場所は、ホテルの部屋だ。
普段は、ギムリウスとミランが泊まっている。寝室が四つあるので四人部屋なんだろう。洗面所がふたつに、ゆったりしたバスタブ。リビングスペースには、テーブル以外にもソファーがおかれ、快適っ!

「アキルとやら。なぜ、おまえが仕切るんだ?」
カテリアさんはご機嫌がちょっとわるい。
クローディア大公の姫君に誘惑されて、ちょっと、どきどきしながら着いてきたら、ただのお泊まり会だ。
勝負パンツで、カラオケでオールしてしまったようなもんだからなあ。

「まあまあ」
「なにがまあまあだ。」
「まずは、新人の歓迎会を兼ねておりますので」

え?
と、カテリアは怪訝な顔をした。
「わたしはなにもお前らの仲間になるとは‥」

「そっちじゃなくて、こっちです。
はいでは、まずは謎に包まれた傭兵ガルレアさんです。わたしのズッ友になりました。
試しを行ったのは、我らがリーダー、ルトくんです。
いやあ、感想をひと言。」

「どうも、アキルの友だちのオルガです。出身は銀灰皇国です。将来の夢は皇帝です。」

「これはとっても楽しみですね!
さあ、今回はもうひとり、我らのフィオリナ姐さんが試しを行ったの、グルジエンさんを紹介しますよ。
もと、鉄道公社で絶士としてバリバリ活躍中の、グルジエンさん。
ずいぶんと思い切った決断だったと思いますが。」
「別に、わたしは『踊る道化師』に参加を申し出ていないぞ。」
料理の出来ないメイドは、慌てたように言った。
「まあ、しかし。
わたしはフィオリナ付きのメイドになるわけだから、いつも一緒にいるためにはそのほうがいいと言うならそれでもいいんだけど。」
「おめでとうございます!
グルジエンさんっ。あなたの希望は叶えられました。あなたは、たった今から『踊る道化師』です。」

で、わたしちはとりあえず乾杯をした。
偉い人の集まりでもないので、そのまま、だらだらと勝手なおしゃべりに移行する。
みんなは、それぞれ適当な格好だ。
わたしは、ギムリウスの部屋のジャグジーのついたお風呂につからせてもらってから、らくな部屋着に着替えている。
ロウさまは、サングラスとストールをとって、お顔をさらしている。
コートは部屋の隅にまるめて投げられたいて、タートルネックのセーターにスラックス。
フィオリナ残念姫さんと、グルジエンさんはそれぞれ、メイド服のままだが、食べ物を配ったり、飲み物を作ったり…を全くしない。
カテリアさんは、流石に帯剣はしていなかったものの、かなり緊張している様子だった。

ギムリウスは、あのよくわからない入院着みたいな格好で、こちらもボロきれの集合体を巻き付けたミランを盛んに褒めている。
確かに、絵の中から攻撃されるとはやっかいだ。ミランの「影縫い」が聞かなかったら、まずいことになっていたかもしれない。

それにやたらに殺戮に走らなかったのは、好印象だ。うむ。神としては評価してやる。

「わたしは、ガルフィート伯爵家の令嬢で『剣聖』なんだぞ。」
カテリアさんの抗議の声はめちゃちっさい。
「そうか。わらわの本名はオルガという。」
黒の傭兵ガルレアさんこと、オルガっちは、そんなカテリアさんに気さくに話しかけたあげた。
「名前は聞いたことがおありかのう?
銀灰皇国の通称『闇姫』じゃ。」

ひっ…
と、声をあげてカテリアさんが後退りをした。
「そう、わかりやすい反応をしてくれるな。アキルよ。まあ、世間一般には闇姫といわれるとこんな感じになるのがふつうじゃ。なので、日常の、名乗りは引き続き、冒険者のガルレアを使おうと思う。」
「あれ?」
わたしはオルガっちに尋ねた。
「皇帝陛下…実の叔父さんの暗殺未遂は晴れて、時期皇帝陛下に内定したんでしょ?
世間一般の評価ってそれで、がらっと変わらない?」

「両親含む後宮のものを、皆殺しにしてしまったのは、本当じゃからのう。」
オルガっちは寂しそうに言った。
「無実の罪で登った処刑台からの、まさかの大逆転とはいえ、あまり寝覚めが良いものではないわ。」

カテリアさんは、部屋の隅で震えている。ときどき、こいつらいったい、とか、化け物とかいうつぶやきが聞こえる。
傷つくなあ。バケモノは百歩ゆずってフィオリナ残念姫さんくらいで、あとは、それぞれ畏怖とともに敬意をもって語られる存在なんだけど。

わたしは、フォークにバウンドケーキを刺して差し出した。餌付けをしようも思ったのだが、カテリアさんはいっそう怯えて、部屋の壁に身を押し付けた。
あ、ちょっと泣いてる。

ババ助けて、とか言うな。
「というか、伯爵は助けに来ない。」
わたしは、丁寧に説明してやることにした。
「ガルフィート伯爵は、このお泊まり会に参加することで、カテリアさまが、クローディア大公家および、『踊る道化師』と深いパイプを作ることを期待されている。」

「クローディアはわかるとして」
カテリアは鼻をすすりながら言う。
「『踊る道化師』とも?」

「そうだよ。さっきのパーティー会場で、わたしたちは、いかに普通じゃないかこれでもかと言わんばかんに喧伝していたんだ。
クローディア大公の嫡子フィオリナ残念姫がみずから参加し」

だれが、残念姫だ!と耳ざといフィオリナが抗議を申し立てた。却下。

「時期銀灰皇国皇帝のオルガっち。
太古の神獣ギムリウスに匹敵する転移能力をもつギムリウス、高位の力を持つ吸血鬼ロウ=リンド。
ここにはいないけど、魔王宮で育った謎の美少女リウ。
それに竜王直属の古竜たちが、土下座で迎えるアモン。」

なにものなの、あなたたち!

いや、ちゃんと自己紹介してるでしょ。
『踊る道化師』だよ。

「ということで、カテリアさま、あなたも今日からわたしたちの準構成員です。」
「なにそれっ!
どこかの犯罪組織!?」
「『踊る道化師』はちゃんとギルドで認定された銀級の冒険者パーティーですよ。」
「その準構成員に、なるとなんかあるの?」
「そうだねえ」
まだそこまで考えていなかった私は、首をひねった。
「いきなり話しかけられたも殺されない。ときどき、ああ、あんな剣聖いたなあ、と思い出してもらえる。すれ違って目が合ったら微笑んでもらえる、とか。」
「す、すごくインチキくさいっ!」
「そんなことないです。課金させてないんだからっ!」


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