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第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第244話 カテリアをねらうもの
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「ただいま」
「おかえり」
ウォルトことルトと、ミイシアことフィオリナが滞在しているホテルの一室に、ルトが戻ったのは夜半過ぎ。
フィオリナの機嫌を伺うが無表情。差し出した弁当は素直に受け取った。
ラウレスの特製弁当を黙々と平らげるフィオリナに、ルトは教皇庁のでのことを説明した。
三日後のパーティのことも。
剣聖カテリアが、ルトに興味を示していることも。
拳で解決したがる傾向は、母譲りだが、一方で政治や外交での権謀術策も心得ていたフィオリナは、しかし、露骨に疑惑の目を向けてきた。
「カテリアは王都で会っているけど」
フィオリナは、拳を額に押し当てて、ルトを睨んだ。
とっても怖いと、学院時代から評判であったが、ルトはなれたものである。単に考え事をする際の癖だ。
クローディア大公だって、同じようなものだから、まわりがなれるしかない。
「あれのどこがいいの?
完全にわたしの下位互換だと思うけど。」
確かに顔立ちなどは、少し似たところはあるのだ。
加えて、勝ち気な言動、長剣を帯びた男装スタイルなど、共通点は多い。
「ぼくは、別にいろんなタイプの女の子と付き合いたいわけじゃなくって」
「それはわかるんだけど。ルトはカテリアをどうするつもりなの?」
「適当にダンスをして、礼儀正しく蘊蓄をたれて、遅くなりすぎないように宴を退去する。」
「つまらない。」
そんなことを言われてもなあ。
と、ルトは反論する。
「これは、親父殿がガルフィート伯爵に、交渉の緒を与えるための、いや、ガルフィート伯爵に交渉の緒を得たと、錯覚させるための芝居であって。」
「そこだ!」
「どこ?」
フィオリナは胸をそびやかして、ルトを見下ろした。実際にはそこまで身長差があるわけでもないので、たぶんに心理的なものである。
「これは、あっさり父上の意向にのって、それで『終わり』にするにはあまりにも面白い案件なの!」
どこが、だ。
と言ってルトは、ふくれっつらをした。
こんな表情を見せるのは、フィオリナだけだったから、たしかに彼女は特別な存在だったのだ。
「後世の作家がルトのことを伝記に書くときに、あの程度の女を口説いたとか拐かしたとかいうページは作りたくないんだ。」
「そこは、立場を越えた悲劇のラブロマンスとして語られればいいんじゃないか?」
「あの程度の女を!?」
どうも、なんとなく外見的な共通点があると思うと、アタリが強くなるなあ、とルトは思った。
似たような立場のリアなどは、いまは向こうがクローディア大公家の猶子となっていることもあって、まるで姉妹のような関係なのだが、ドロシーについては口もロクにきかないことが多い。
「だいたいあなたみたいに八方美人をやってるやつほど、のちの歴史上では毀誉褒貶が激しくなるものよ。
その点、わたしならば」
「確かに・・・フィオリナはすでに身内からも不倫を理由に、他国に留学に出された身の上だし。
その将来執筆されるぼくの伝記のスタートをどこにとるかにもよると思うけど、たとえば、ぼくの婚約破棄を物語のスタートにしたとしても、そろそろ、こいつざまあされないとくらいのヘイトは集めてると思う。」
フィオリナは、天井を仰いだ。
「あなたの伝記なら、わたしが100パーセント、ヒロインなんだけどなあ。」
「そのヒロインがなにをしたいんだって?」
「ルトのかわりに、カテリアを誘惑してくる。」
「なぜ、そういう発想になるっ!?」
「それは愚問だ!」フィオリナは、冷たいでルトを睨んだ。「理由は、わたしがフィオリナだからだっ!」
「わかった・・・質問をかえよう。
なぜ、『あの程度』の女を?」
「面白そうな話ですね。」
声は窓の外からだった。
少年とも少女ともつかないかわいらしい顔が、逆さまに窓の外からこちらを見つめていた。
「ギムリウス!」
五階にあるフィオリナたちの部屋の窓の鍵を開けてやると、するりと神獣は、部屋にはいりこんだ。
「このところ、ずっとミランと一緒だったもので。」
言い訳をするように、ギムリウスは言った。
「夜もひとりで眠ったことがなかったのです。少し寝つかれなくって。」
「入院」という珍しい経験をしたギムリウスは、そのときに着せられていた白い上着をそのまま着込んでいた。
膝丈ほどのワンピースで、袖はなく、前はすぐにはだけられるように簡単なボタンで留まっているだけの入院着である。
「わたしはルトに相談したいことがあったのです。」
「そう言ってたよね。遅くなってすまない。」
ルトは頭をさげた。
「あやまらないでください。人間の精神に作用するような魔法がわたしにもかかったということは、このヒトガタの優秀性が証明されたということで、わたしにとっては悪いことばかりではないです。
それで・・・」
ギムリウスは、フィオリナをちらりとみた。
「フィオリナが、ルトにかわって、カテリアとの疑似恋愛をするのですか?」
「まあ、そのフリを」
「それは、雌雄をもつ多くの生き物に見られる生殖行動も含まれますか?」
ギムリウスは、入院着の裾をお腹のあたりまでもちあげた。
ルトとフィオリナは、顔を見合わせた。
ギムリウスの股間にあるのは、間違いなくP———だった!
これでは、あんまり伏せ字にならないやつである。
古来寄りの例えで天使のクッキーが女の子より男の子をもしたものが人気がある、とい理由のアレで、あった。
「実際には相手との間に子を成すことはできません。その真似事をすための器官です。」
ギムリウスは、ルトとフィオリナが、なにも言ってこないことに不安を覚えたのか、分裂した瞳をぐるぐると回した。
「わたしは、本当のところは人間のいう美醜などはわかっていないのです。」
自重気味に蜘蛛は言った。
「この体もこの顔も声も、相手から気に入られるために、私なりに工夫をこらしたものです。
この器官もそうしたつもりなのですが、資料は少なく結果としてはおかしなものになってしまっているのでしょうか。
ちなみにこれは通常時のもので、もしそういった行為の際には」
「それはいいから、しまって!ギムリウム。」
「ああ、ルト。顔が赤くなってますね。それはわたしを気に入ってくれたということですよね!」
「おかえり」
ウォルトことルトと、ミイシアことフィオリナが滞在しているホテルの一室に、ルトが戻ったのは夜半過ぎ。
フィオリナの機嫌を伺うが無表情。差し出した弁当は素直に受け取った。
ラウレスの特製弁当を黙々と平らげるフィオリナに、ルトは教皇庁のでのことを説明した。
三日後のパーティのことも。
剣聖カテリアが、ルトに興味を示していることも。
拳で解決したがる傾向は、母譲りだが、一方で政治や外交での権謀術策も心得ていたフィオリナは、しかし、露骨に疑惑の目を向けてきた。
「カテリアは王都で会っているけど」
フィオリナは、拳を額に押し当てて、ルトを睨んだ。
とっても怖いと、学院時代から評判であったが、ルトはなれたものである。単に考え事をする際の癖だ。
クローディア大公だって、同じようなものだから、まわりがなれるしかない。
「あれのどこがいいの?
完全にわたしの下位互換だと思うけど。」
確かに顔立ちなどは、少し似たところはあるのだ。
加えて、勝ち気な言動、長剣を帯びた男装スタイルなど、共通点は多い。
「ぼくは、別にいろんなタイプの女の子と付き合いたいわけじゃなくって」
「それはわかるんだけど。ルトはカテリアをどうするつもりなの?」
「適当にダンスをして、礼儀正しく蘊蓄をたれて、遅くなりすぎないように宴を退去する。」
「つまらない。」
そんなことを言われてもなあ。
と、ルトは反論する。
「これは、親父殿がガルフィート伯爵に、交渉の緒を与えるための、いや、ガルフィート伯爵に交渉の緒を得たと、錯覚させるための芝居であって。」
「そこだ!」
「どこ?」
フィオリナは胸をそびやかして、ルトを見下ろした。実際にはそこまで身長差があるわけでもないので、たぶんに心理的なものである。
「これは、あっさり父上の意向にのって、それで『終わり』にするにはあまりにも面白い案件なの!」
どこが、だ。
と言ってルトは、ふくれっつらをした。
こんな表情を見せるのは、フィオリナだけだったから、たしかに彼女は特別な存在だったのだ。
「後世の作家がルトのことを伝記に書くときに、あの程度の女を口説いたとか拐かしたとかいうページは作りたくないんだ。」
「そこは、立場を越えた悲劇のラブロマンスとして語られればいいんじゃないか?」
「あの程度の女を!?」
どうも、なんとなく外見的な共通点があると思うと、アタリが強くなるなあ、とルトは思った。
似たような立場のリアなどは、いまは向こうがクローディア大公家の猶子となっていることもあって、まるで姉妹のような関係なのだが、ドロシーについては口もロクにきかないことが多い。
「だいたいあなたみたいに八方美人をやってるやつほど、のちの歴史上では毀誉褒貶が激しくなるものよ。
その点、わたしならば」
「確かに・・・フィオリナはすでに身内からも不倫を理由に、他国に留学に出された身の上だし。
その将来執筆されるぼくの伝記のスタートをどこにとるかにもよると思うけど、たとえば、ぼくの婚約破棄を物語のスタートにしたとしても、そろそろ、こいつざまあされないとくらいのヘイトは集めてると思う。」
フィオリナは、天井を仰いだ。
「あなたの伝記なら、わたしが100パーセント、ヒロインなんだけどなあ。」
「そのヒロインがなにをしたいんだって?」
「ルトのかわりに、カテリアを誘惑してくる。」
「なぜ、そういう発想になるっ!?」
「それは愚問だ!」フィオリナは、冷たいでルトを睨んだ。「理由は、わたしがフィオリナだからだっ!」
「わかった・・・質問をかえよう。
なぜ、『あの程度』の女を?」
「面白そうな話ですね。」
声は窓の外からだった。
少年とも少女ともつかないかわいらしい顔が、逆さまに窓の外からこちらを見つめていた。
「ギムリウス!」
五階にあるフィオリナたちの部屋の窓の鍵を開けてやると、するりと神獣は、部屋にはいりこんだ。
「このところ、ずっとミランと一緒だったもので。」
言い訳をするように、ギムリウスは言った。
「夜もひとりで眠ったことがなかったのです。少し寝つかれなくって。」
「入院」という珍しい経験をしたギムリウスは、そのときに着せられていた白い上着をそのまま着込んでいた。
膝丈ほどのワンピースで、袖はなく、前はすぐにはだけられるように簡単なボタンで留まっているだけの入院着である。
「わたしはルトに相談したいことがあったのです。」
「そう言ってたよね。遅くなってすまない。」
ルトは頭をさげた。
「あやまらないでください。人間の精神に作用するような魔法がわたしにもかかったということは、このヒトガタの優秀性が証明されたということで、わたしにとっては悪いことばかりではないです。
それで・・・」
ギムリウスは、フィオリナをちらりとみた。
「フィオリナが、ルトにかわって、カテリアとの疑似恋愛をするのですか?」
「まあ、そのフリを」
「それは、雌雄をもつ多くの生き物に見られる生殖行動も含まれますか?」
ギムリウスは、入院着の裾をお腹のあたりまでもちあげた。
ルトとフィオリナは、顔を見合わせた。
ギムリウスの股間にあるのは、間違いなくP———だった!
これでは、あんまり伏せ字にならないやつである。
古来寄りの例えで天使のクッキーが女の子より男の子をもしたものが人気がある、とい理由のアレで、あった。
「実際には相手との間に子を成すことはできません。その真似事をすための器官です。」
ギムリウスは、ルトとフィオリナが、なにも言ってこないことに不安を覚えたのか、分裂した瞳をぐるぐると回した。
「わたしは、本当のところは人間のいう美醜などはわかっていないのです。」
自重気味に蜘蛛は言った。
「この体もこの顔も声も、相手から気に入られるために、私なりに工夫をこらしたものです。
この器官もそうしたつもりなのですが、資料は少なく結果としてはおかしなものになってしまっているのでしょうか。
ちなみにこれは通常時のもので、もしそういった行為の際には」
「それはいいから、しまって!ギムリウム。」
「ああ、ルト。顔が赤くなってますね。それはわたしを気に入ってくれたということですよね!」
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