262 / 531
第6部 聖帝国ギウリークの終わりの始まり
第243話 賢者は信用してもらえない
しおりを挟む「痴れ者がっ!」
狼狽したミルドエッジではあったが、それでも彼に焦りはない。
ふわりと高度をあげて、ウィルニアを上から見下ろす。
「おまえが、大した実力をもつ魔導師なのはわかるぞ。」
ミルドエッジは、冷静であった。
「しかし、なぜウィルニアを名乗る?
グランダ魔道院の妖怪ボルテックが、ウィルニアを名乗る若造に学院長を譲って、引退したのはきいたが・・・おまえのことか?」
「ご存知いただけているとは光栄だ。わたしが魔王宮にこもったころは、銀灰族は東方から流れてきたバルフェルト帝国の僻地に居をかまえる少数民族だったが。
いまでは、西域の八強国のひとつか。そして、その精鋭中の精鋭を『悪夢』と呼ぶと。
その程度の知識しかないわたしに、もっときみのことを教えてくれるかな?」
深い叡智にみちた眼差しは、しわ一つないウィルニアの顔を妙に老成させたものに見せている。
だからといって、その表情に危険なものはない。
その体、その雰囲気、そのオーラに非人間的ななにかを感じさせるものはいっさいなかった。
ではなぜ、こんなに怖いのだろう?
「銀灰皇国は、いまも僻地ではある。」
ミルドエッジもまた、なみの胆力ではない。ウィルニアを見下ろしながら傲岸不遜に言った。
「交通はバルフェルト諸国連合のせいで、不便ではあるが、別段、鎖国をとっているわけではない。文献も豊富にあろう。
好きなだけ調べるがいい。」
「まったくだ!
わたしも、別に銀灰皇国の統計数値をあれこれ探りたいわけではないのだ。」
ウィルニアはにこやかに頷いた。
「わたしは、銀灰皇国の『悪夢』とやらの実力が知りたい。それにはきみと戦ってみるのが一番手っ取り早い。」
ミルドエッジは、足元で戦う自分の愛弟子たちを見た。
アモウは、エプロンドレスの女『絶士』グルジエンをずたずたに切り裂いている。
だが、それだけだ。
切り裂かれるのは衣装だけで、メイドの体には傷ひとつない。
攻撃が届いていないわけではない。
血の噴き出る間もない超高速再生で、体を修復してしまうのだ。
そして、メイドの構える包丁は。
鮮やかにかわしてみせたアモウの背後の壁が、避けた。
刀身以上にその斬撃は延びる。
片腕を負傷した剣士アイクロフトも、クルスの鎖の動きに徐々に慣れてきた。
走り、踊り、くねる。鎖をほとんどカンだけでかわし始めた。
そして護衛士イザークは。
片腕を極められたまま、倒れ込んでいる。
打撃が通じにくいと見たシホウは、あっさりと関節技に切り替えたのだ。
明らかに三人が三人共に救援が必要だった。
だが、動けない。
いまは、全神経をこの男に・・・賢者を名乗る若造に集中させねばないない。そうしなければならない。
「こと戦いという点においては、絶士たちと『悪夢』殿の手下の手助けに、きみが介入出来なくなるというメリットもある。」
ミルドエッジを見上げたウィルニアを名乗る男は楽しげだった。
「夢を媒介に世界を作り上げるのは、盲点だったが、欠点もありそうだ。」
「どんな欠点か、言ってみろ、若僧!」
「夢に取り込んだ者に『これが夢だ』と気付かれてしまえば、世界が壊れてしまう。」
ミルドエッジは押し黙った。可愛らしい少年の顔は、土色に代わり、突然半世紀分も歳をとったかのように見えた。
「つまり」
ウィルニアは(正真正銘嘘偽りのない本物のウィルニアは)出来のよい生徒に講義を行う教育者の顔で、言った。
「本来ならば、おのれが圧倒的に優位な状況設定を作り出せるところが、それが現実でないと気が付かれてしまば、うたかたのごとく砕け散る。
安定性においては、はなはだ心もとない世界構築魔法だ。
しかしっ!」
ビシッと、ウィルニアはミルドエッジの顔を指さした。
「絶士とおのれの部下の戦いに、街を巻き込まないためにとっさに、異界を展開したその判断は見事!」
“そこ”まで見抜けるのか。
死人の顔色にかわったミルドエッジは呻いた。
「お主はなにもの、じゃ・・・」
「だから、賢者ウィルニアだと」
「ウィルニアの技を伝えるものが千年のときを経て、現代に存在しているというのかっ!」
そうではなくて、ただの本人なんだけどなあ。
ウィルニアは首を捻った。
10
お気に入りに追加
556
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
催眠術師は眠りたい ~洗脳されなかった俺は、クラスメイトを見捨ててまったりします~
山田 武
ファンタジー
テンプレのように異世界にクラスごと召喚された主人公──イム。
与えられた力は面倒臭がりな彼に合った能力──睡眠に関するもの……そして催眠魔法。
そんな力を使いこなし、のらりくらりと異世界を生きていく。
「──誰か、養ってくれない?」
この物語は催眠の力をR18指定……ではなく自身の自堕落ライフのために使う、一人の少年の引き籠もり譚。
クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります
まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。
そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。
選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。
あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。
鈴木のハーレム生活が始まる!
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話
kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。
※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。
※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異世界帰りのオッサン冒険者。
二見敬三。
彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。
彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。
彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。
そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。
S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。
オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
おっさんの神器はハズレではない
兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる