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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第216話 邪神の独り言

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わたしは、異世界人の勇者夏ノ目秋流だ。

そして、わしがっ!邪神!ヴァルゴールであるっ!

別々に名乗ってみたが、別に人格がふたつあるわけではない。
わたしたちは元々、ひとりだ。
わたしの元の世界でおきた争い。「わたし」はその犠牲となって無惨な死をとげた。
死んだわたしの思念は、呪いとなって世界を覆い、その世界を破滅に導いた。世界をまるごと滅ぼすなんてとんでもない祟り神だ。
いや、他人事のように言っているが、わたしはその後も次元をさまよい、この世界にたどりついたのだ。

祟り神としての気質を残していたためか、わたしは邪神とよばれるようになった。
人間の贄を捧げられるようになったのは、悪いけどわたしから要求したのではない。なんだか、わたしを信奉するものが勝手にはじめただけだ。言い訳がましく聞こえる?
まあ、世界をひとつ滅ぼしたあとのわたしには、別に祭壇に捧げられる命を可哀想だと思う感性もなくしてたから、ほっておいたのは事実だ。

何千年が過ぎたのか。
わたしは人間の文化における中心的な信仰の対象にこそならなかったが、わたしを信仰するものはいつの時代、どこの国にも必ず、一定数は存在した。
わたしという存在は途切れることはなかった。
だが、強くもならなかった。これは問題ではあった。「神」は存続し、己をより強大にしていくものだからだ。

「これはどうも生贄というシステムに問題があるのではないか。」

全知全能のわたしは、数千年過ぎたあとでそれに気がついた。ならば何をさせればいいのか?
そこで、気がついたのだ。
わたしは人間として十数年しか生きていない! 人間のことなんてわかってないんでは!

全知全能のわたしは、そこに気がついた。それまで気がつかなかった時点でちっとも全知全能ではないのにも気がついた。わたし、偉いぞ。
わたしはもう一度、人間として生きてみたいと考えたが、これは簡単なことではない。
あまりにも強大に成りすぎたわたしの意思は、接触するだけで人間を壊してしまう。

「生贄をやめろ」

たったこれだけの神託を下すのに何十年かかったか。
(しかも生贄の習慣は、なくならず、ひたすらに奪う命の数を競うのをやめさせたくらいだった)

そのわたしが人の世で現身を得るにはどうすればいい?
ひとつにはわたし自身の降臨に耐えられる人間をつくること。その完成形が、目の前で安酒を飲んでる美女。銀灰皇国の闇姫オルガ。
彼女の性格の悪さとか、やたらに流血と戦いを好むのはだからわたしのせいなのだ。すまないね、オルガ。

しかし、オルガの体と魂を融合させる前に、わたしはもっといい方法を思いついたのだ。ほら、だってわたし、全知全能の大邪神さまなので。

もともとのわたしでよくねっ!?

なので、わたしは、本格的な争いのはじまる前の自分。夏ノ目秋流高校一年生をこの世界に召喚したのだ。これで、その数年後の悲惨な死も回避できる。
祟り神になったわたしに世界が滅ぼされることもなくなる。
一石二鳥のぐっどあいであ!

なるほど、たしかに夏ノ目秋流が非業の死をとげて祟り神にならなければ、そもそも邪神ヴァルゴールも誕生しないわけだが、そこはそれ。
やりたい放題にやらせてもらう。
こっちの世界に馴染んだら、邪神の力を保持したまま一度元の世界に帰って、敵対勢力を根こそぎにしてやるわっ!
わたしの家族や友人までも毒牙にかけやがったP------国を世界地図から抹消する! 歴史が変わる? タイムパラドックス? 知らん!わたし邪神なので!

幸いにも。
この世界は、けっこうわたしに馴染みやすい。邪神が地上をうろうろしてたら目立ってしょうがないのが、ちょっぴり心配だったのだが、ちょうどよい冒険者パーティを見けたのだ。
ランゴバルド冒険者学校の「踊る道化師」。
メンバーが、魔王に神竜、神獣というパーティだ。魔王、神竜、神獣、邪神。うん、すごくしっくりくる。これなら正体がばれてもびくともせんだろう。わっはっは。

そして、そのパーティのリーダーが。
あそこで、フィオリナパパのクローディア大公や、ロデリウムのご隠居さんと談笑しているルトくんなのだ。

だけど、誰も彼をルトだとは気が付かない。彼にあこがれているドロシーも、義理の父になる予定のクローディア大公も、義母になる予定のアウデリアさんも。
「認識阻害」という彼のオリジナルの魔法らしい。
顔どころか、話し方も、能力も。そっくり同じでもそれが同一人物だとはわからなくしてしまう。
かくいうわたしも、ついさっき、屋敷の庭先で気がついたところだ。神をも欺く魔法の使い手。

「邪神」のわたしが心配するのもなんだけどさ。
ほんとにルトくん、フィオリナ残念姫さんと結婚するつもりなのだろうか。生まれてくる子供のこととか心配にならないのかな。
彼は「魔力過剰」による発育阻害を名目に、かたくなに、アレを拒んでるようなんだけど(ドロシー情報!)実際のところ、自分の子供が心配で子作りができないんじゃないかとわたしは踏んでいる。
だって、フィオリナとルトの子供だぞ。

その点、わたしなら安全にかわいい子を産んでやれるのだがなあ。だって神様だから。

そんなことを考えていると、空いたグラスに、オルガにお酒をがばがばと注がれてしまった。

寄ったふりして抱きつくなっ!

「アキル。あとで、ゼナス・ブォレストとキッガを殺りにいくから付き合わない?」

さすがわたしの「器」。そんな帰りにお茶してかないみたいな口調で殺人を告げられても。

「クローディア陛下は動けない。ロデリウムの紋章も使えない。だったら、殺っちゃうしかないでしょ。いつ殺るの!」

「今でしょ!」
我が使徒ミランが唱和した。え?おまえも異世界人か?

「いやいやいや」わたしは頭をぶんぶん振った。もちろん横にだよ。「お裁きはちゃんとしたルートでつけるでしょ。なにも闇から闇にばっさりは」

「甘いのお。邪神の現身。」

ミランは、そう言っているが、このとんでもない戦闘力を秘めた闇姫が、ほんとうにそう思っているかはわからない。

「こと後継が絡むと、法なんて甘いのだよ。所詮は身内の争い、ということもある。要は継承しちまったものが正義なのさ。
だが、こいつらを正義と言うには、なかなか虫唾が走るものがあってね。」

オルガは、わたしの手を握りしめた。
感触としては、夏ノ目秋流とヴァルゴール。ふたつの存在があったときのような。たよりになる邪悪なお姉さんが近くにいるような。そんな気分。

「どうせ、もう間もなく、このつまんない宴会もお開きになる。やつらの寝室はさっき、ロウ=リンドから聞いたから。」

「その話し。」
ドロシーさんが割って入った。よしっ!止めてくれ。ジウル・ボルテックの愛人。
「わたしも乗せてもらう。」

この世界はほんとに好きだ。みんな平気で全知全能のわたしの予測を超えてくる。


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