上 下
234 / 531
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第215話 偽りの言の葉

しおりを挟む

ゼナス・ブォレストはは、天井を見上げた。

「なるほど、クローディア陛下を犯人と決めつけるには、無理があったようだ。」

あまりにも他人事なその台詞に、ボイス管理官が血相を変えて詰め寄ろうとするのを、クローディアが制した。

「先ほど、キッガ殿がエステル伯爵の暗殺を要望したとおっしゃったが?」
「確かに、寝物語にそのようなことも言っていたが。」

ゼナス・ブォレストは、そっくり返って笑った。
「具体的に何かをしたということはない。」

「そうかな?」
クローディアは、皮肉に笑った。
「そちらの絶剣士どのからは、命を狙われた。アウデリアもなかなか頑丈な育ちだが、そうでなければ即死の一撃を、シホウ殿からいただいている。」

「誤解ですよ、陛下。行き違いによる不幸な事故です。」
ゼナス・ブォレストは立ち上がった。
「この妙な椅子のせいで、誤解されたようだ。これは、街の商工会からの寄贈品でしてな。座り心地を試していただけなのですよ。」

「・・・法廷でそれが通るといいな、ゼナス・ブォレストどの・・・」

「そうですな。残念ながら鉄道公社の局長ともなりますと、各国の開く裁判には出席できないのですよ。これは条約によって定められた権利となります。
まあ、もちろん、わたしの至らぬ行動によって、クローディア陛下をはじめ、お連れの皆さまに不快をお掛けしたことはお詫び申し上げます。
おそらく・・・・わたしは、鉄道公社の査問委員会にかけられて、この度の一件からは解任となるのでしょう。下手をすれば減給もあるかもしれない。
まったく厳しい世の中です。」

満面の笑みをたたえながら、ゼナス・ブォレストは、ボイス管理官に指示をした。
「集まった保安部員には解散を命じてくれ。
クローディア大公閣下の捜索、及び逮捕命令は解除。これは、冒険者ギルドに対するものも含まれる。
オールべの治安長官の指示に従い、街の治安維持に協力、並びに列車の運行再開に向けての安全確保に当たるよう。

それと、エステル伯爵の秘書官ムーガルの身柄を抑えるように。
彼が、陛下がエステル伯爵を刺したと、証言したのだ。何か事情を知っているかもしれん。」

「なあ・・・我が君」
アウデリアが囁いた。
「鉄道公社にまともな奴は一人もいないのか? 公国への鉄道の敷設は、一旦保留にしたらどうだ?」




「・・・・以上が、鉄道公社のオーベル方面責任者ゼナス・ブォレストからの指示内容となる。」

屋敷の前に出てきて、集まった保安員たちに、あるいは冒険者やオールべ治安局のものたちにそんな話をした屋敷の警護隊長は、地区監督官のボイスと名乗った。
それがどの程度の地位なのか、どのような権限を持っているのかは、さすがに事情通の前ロデニウム公爵閣下のご老公にも、妙に博識なウォルトにも検討がつかなかった。

「恐れながら、先のロデニウム公爵閣下の御一行はおられますか?」

「ああ・・・わしだが?」
心底嫌そうにご老公は手を上げた。

「これより、ご迷惑をお掛けしたことへの謝意も込めてささやかな宴を設けさせていただきたいとの事です。」
「誰が言うておる?」
「あれ、がです。」
「お主は、疑問は感じぬのか?」

ボイスは顔をしかめた。
「わたしはこれでも元は、連合王国の騎士でした。
兎にも角にも、上の言うことは絶対というのに、やりきれなくなり、鉄道公社に転属いたしましたが、正直、後悔しております。」

「わしらが出席を断ったらどうなる?」

「みなさんを逮捕、拘束、あるいは秘密裏に抹殺するのは流石に諦めたかと存じます。
御身の安全は担保されたとお考えください。
あとは、ご老公さまが宴に出席いただけないとなると」
ボイスは、軽く自分の首を手で叩いた。
「この首が飛んで、それまでです。」

「嫌みなことをするな。」
「ご老公ならご存じかとも思いますが、鉄道公社の幹部は嫌みなことしかしないのです。」


クローディアが今まで参加したパーティで、最もどうにもならないパーティはこれが初めてだった。
あの旧グランダ王国の「夜会」でさえ、もう少し、意味があった。
会うべき人物もいたし、話べき内容もあった。仕掛けるべき策もあった。

ここには何もない。

ついでに言えば、ロクな酒も食べ物もなかった。
クローディアの感想では、迷宮内でヨウィスが作った鍋料理の方がよほど美味かったのだが、これは比較が悪いだろう。
ヨウィス自身が料理本をベストセラーにするほどの、料理人であり、また彼女の「収納」の大きさを考えれば、市場を丸ごと引き連れて、探索をしているようなものだったのだから。

クローディアはそれでも我慢した。

ご老公が話しかけてくるまでの間であったが。

「よくぞ、我慢いただいた、クローディア陛下。」
「なにしろ他国の地です。」
クローディアは、ほとんど酒も食べ物も口にしていない。
一つには毒を警戒したためだが、実際のところ、楽しく飲み食いする気には、なれなかったためだ。楽しそうにする気にすらならなかった。
「ブォレスト局長やキッガ殿を処断する権利はない。」

「それで正解です。歯がゆいことに。」
ご老公は、いまいましそうに言った。
「暫定とはいえ伯爵位を継いだキッガと、鉄道公社の幹部であるゼナス・ブォレストを処罰するには、わしや陛下では無理です。それぞれの組織の持つ権力に守られていますからな。
方法として、戦いに紛れて」
ご老公は首に手刀を当てるフリをした。
「正当防衛で、バッサリやることでしたが、向こうに矛先をおさめられてしまっては、それも無理ですわい。」

「陛下、お怪我の具合はいかがです?」
そばによってきたウォルト少年が、所載なくクローディアに話しかけた。

「きみの治癒魔法のおかげだ・・・すこぶるいい。ついでにこの気分の方もなんとかしてくれるとありがたいのだが。」
「さっき、アキルと話してたのですが。」

ウォルトは、振り返った。
黒髪の少女は、ドロシーやオルガ、それにミランも一緒にいる。盛り付けられたあまり美味しくない揚げ物をパクつきながら、それなりに楽しそうだった。

「ご老公。何やら旅芸人の二人連れと、ご一緒になったとか、で。」

「ふむ。ギンとリク、と名乗っておったが。
この騒ぎで、離れ離れになっておる。」

「なら、クローディア陛下の気鬱も少し晴れるかもしれません。」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...