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第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第178話 魔拳士の復讐

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「よお、ジウルの旦那。」
そろそろ、酔いも回ってきた頃に、ジウルの目の前の席に腰を下ろしたやつがいる。

顔を上げると、見たような見ないような顔だった。大剣を背負いさらに両腰に大小の刀を刺した剣士だった。

「なんだ? おまえは。」

「白狼団のガルハスだ。おっと待て。おまえさんとやり合おうってわけじゃあない。」

「俺は機嫌が悪いぞ、ガルハス。」
ジウルは唸った。
「おまえが、白狼団だろうが、階層主だろうが、ヴァルゴールの12使徒だろうがあんまり俺の近くにはいない方がいいだろうよ。」

「そんなに冷たくするなよ、旦那。」
にやにやとガルハスは笑った。
「おまえさんの大事なドロシーとアキルを預かってるんだ。俺にもしものことがあれば、あいつらが、そりゃもう生まれてこなかったほうが良かったような目にあうんだぜ?」

「いい奴だな!おまえは!!」
ジウルは、グラスに溢れんばかりに(実際に少し溢れていた)酒を注いで、ガルハスに差し出した。

「は・・・いいやつ・・・って」
ガルハスは目を白黒させたが、彼も嫌いな方ではなかったので、酒に口をつけた。
「ドロシーとアキルなんだが」

「わかってるって。」
ジウルは、酔っ払いにだけ許されるバカ力で、ばんばんガルハスの肩を叩いた。
「本当は、奴らは俺に愛想をつかして出ていったんだ。わかってるんだけど、俺は認めたくなかった。
だから、誘拐されたなんてしょうもない嘘をついたんだよ。」

「い、いやそうじゃなくて・・・」

「まあ、飲め。」
再びグラスに注がれる液体を、困ったように見つめるガルハス。

「飲んでから喋ろうぜ。俺はあんまり素面でいたい気分じゃないんだ。」

取り敢えず、ガルハスは二杯目も飲み干した。

「いや、ジウルの旦那よ、聞いてくれ。俺たちは本当におまえの大事なドロシーとアキルを拉致ってるんだ。昨夜から二人とも戻ってないだろ。
俺たちが、吸血鬼を使って、二人を攫ったんだ。それでだな。」
「おまえは優しいなあ。」
ジウルは涙を拭った。もしくは涙を拭ったふりをした。
「でも嘘が下手だぞ。掻っ攫うんならなんで二人も攫ったんだ。一人で十分じゃないか?」

「それは、その・・・」ガルハスは言い淀んだ。「真祖の吸血鬼がそうしたんだろ・・・」

「ほらもう嘘が見え見えだぜ、ガルハスよ。」
容赦なく注がれる三杯目。
「真祖の吸血鬼なんぞ、そこらに歩いてるわけがないだろう? ありゃあ、伝説の中の代物だぞ。」

「いや、本人がそう名乗ったから・・・」
「こりゃあ、面白い冗談だ! 白狼団では吸血鬼も募集してるのか?
“即戦力の吸血鬼急募。各種手当、交通費あり、子爵級以上で割り増し手当あり。
明るく家族的な職場です”」

面白くもない自分の冗談に、ジウルは自分でゲラゲラと笑い、なおもガルハスに酒を勧めた。

「いや、本当なんだ。聞いてくれ、ジウルの旦那。
俺たちは一人でいいと言ったんだが、あのロウ=リンドとかいう吸血鬼が、どうしても初物の生き血が欲しいと言い出しやがってだな。」
「ドロシーだってそうだぞ!」

訳のわからないことをジウルが叫んだ。
何をバカな。
ギルドにいた全員がそう思った。

まあ、飲め。
と言いながら、ジウルが酒を注ぐ。
訳のわからない宴会が始まった。
ドロシーたちが出ていってしまったことを嘆くジウルと、そうではなくて自分達が誘拐したのだと、主張するガルバスの主張はついに交わることがなかった。



「誘拐したことを信じてもらえなかっただとっ!」
キッガが立ち上がって喚いた。
「何がどうなっている。」

「それが、やつは弟子どもに愛想を尽かされて逃げられたと、思い込んでおりまして。」
まともに歩くこともできないほど、酔って馬車でアジトに帰還したガルパスは、やっとのことでそれだけを言った。
「こちらが誘拐したんだと言っても、自分を慰めてくれてるのだと考えて、まったく信じてもらえないのです。」

「そ、そんな馬鹿なこと・・・」
イライラとキッガは爪を噛んだ。

「くだらぬ。」
切り捨てたのは、鉄道公団の幹部と称するゼナス・ブォストルだった。
「指でも切っておりくつけてやれ。眼球でもいい。」

「まあまあ、短慮はお待ちください。」
ロウは仲裁にはいったが、内心呆れている。
こういう嫌がらせの方法もあるのか、とジウル・ボルテックを見直してもいる。
「あれのことを、わたしも多少は知っている。できれば味方に引き入れたい。
人質を餌に、あれを単独で誘き出す。
やつとデスサイズを使う傭兵。これだけでも切り離せれば、奴らの戦力が大幅にダウンするだろう。」

「わかった。そちらは真祖殿にまかそう。」
ゼナス・ブォストルは頷いた。
「クローディア公についたは、私にも考えがある。あのじいさん達だけにしてしまえば、いくらナンバーズの腕利きがついていようが、焼くなり煮るなり思いのままだ。」
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