上 下
184 / 531
第5部 ギウリーク動乱篇~ミトラへの道

第165話 あなたの背中に呪いの蜘蛛が

しおりを挟む
「それで大丈夫なのか? ウォルトとミイシアは。」
ラウレスが心配したのは、まずそのことだった。
普通の人間は、その上位種である、例えば、神獣やら爵位持ちの吸血鬼などとは長い時間、一緒にはいられない。
例え、相手側にその意思がなくとも、本人の精神は徐々に汚染され、従属種となってしまうのが常だ。
例外が、古竜で、人化することで相手への精神的圧迫を最小限に抑えることができる。

「ギムリウスのはしゃぎようから見てると、ギムリウスたちがあの二人に依存しちゃってるみたい。」
エミリアはミイシアに付きまとわれなくなって、安心した反面、ちょっと寂しさも感じている。それはラウレスも一緒で、この二日ばかりは、貴族の邸宅への出張料理、教皇庁の晩餐会は一人で回っている。
気楽な反面、愛くるしい少年が一緒でないのが、何か物足りない。

「あのもう一人・・・ヴァルゴールの12使徒のミランの方だが。」
「まあ、仲良くやってるみたいよ。
ギムリウスに懐いてるわ。それにウォルトとミイシアにも。」


「で、ルトたちがミトラに来ているという情報は確かなのか?」
「ギムリウスがそう言ってるのならそうなのでしょう。」

二人がミトラに来ることを教えてもらっていなかったせいか、やや不機嫌な顔でエミリアがは言った。 

「ギムリウスに頼まれて探しているけど、ここは西域の中心都市の一つよ。
魔道列車だけでも何人の人が乗降するのか。
まして、列車を使ったかどうかもわからないのに。

頼みの綱は、フィオリナのあの美貌だけね。あれは印象に残るから。」

「で、何か情報はあったのかい?」
「それらしい格好の二人組が、わたしたちと同じ日にミトラに着いたことは確認できたけど・・・」
「すごい! その情報を追ってみよう。わたしも手伝う!」
「残念!!
その二人の素性は割れてるわ。ウォルトとミイシアよ。」


ルトの認識阻害の魔法は、かくも完璧なものであった。

実際に、古竜ばかりか神獣も。


「ウォルト!」

窓の外から呼ぶのはやめてほしい。ここは5階だ。
窓を開いてやると、ギムリウスは颯爽と窓から入ってきた。
これから、無理に隣の部屋を取らなくてもよかったのではないか?
ミランも一緒だったが、ギムリウスの首にしがみついて、できるだけ下を見ないようにしていた。

「今日は、何をして遊ぼうか。」
「いや、ギムリウス。」ウォルトはため息をもらした。「ぼくらは用事があってミトラに来ているのであって。」
「わかった。その用事を手伝う。」

ギムリウスのウォルトに対する態度は、「ルト」に対するそれよりもあかなり遠慮がなく、スキンシップも積極的だ。
「踊る道化師」のリーダーだということで我慢していたのなら、申し訳ないような気がするウォルトだが、一緒にお風呂に入ろうと、誘いにきた時に、その股間に見慣れたものを見てしまって、困惑もしている。
ギムリウスが、そう言ったことに興味を持ったきっかけは多分、マシューだ。

今度、ドロシー経由で締め上げようと思いながらも、何のかんのとミイシアと二人きりになる時間が減っている。

「ギムリウスはランゴバルド冒険者学校のお友だちを探しにきたのでしょう?」

ミイシアが、ウォルトの背中にへばりついたギムリウスを引き剥がしながら言った。

「そっちはエミリアに頼んでいる。ロゼル一族という怪盗一味の副頭領だから、うまくやってくれるはず。」
「そうなんだ。で、頭領はだれ?」
「ロウ=リンド。頭のおかしい吸血鬼だ。今度紹介する。わたしのお友だちなら血を吸われたりしないから大丈夫。」

何でもはきはき応えればいいというものではない。

注意したかったがウォルトとミイシアは、ぐっと堪えた。神獣を前にして平気でいることで既に人間離れしているのだ。あまり、追い討ちをかけてしまうと自分たちの異常さを、他の誰かに今のように、はきはきと答えてしまう可能性も否めない。

「今日は、わたしと遊びましょう、ギムリウス。」
ミイシアが言った。
「ミランに何か服を買ってあげないと。あなたもその侯爵閣下にもらった小姓服のままでしょう? 何か着替えはいるわ。」

「ウォルトは一緒じゃないの?」

「そうね。今日は、一日、ラウレスに付き合うことになってるの?」

ギムリウスの目の中で瞳が分裂してぐるぐると回った。
「ラウレスを締める・・・」

「物騒なことはやめてね。ラウレスは、クローディア大公とその奥様のアウデリアの結婚式でお料理を作らないといけないの。
ここで怪我をさせるわけにはいかないのよ。」

「精神的に痛めつけるのは?」
「・・・そっちもお料理に影響するかもね。」

「わかった。」
いい子のギムリウスは頷いた。
「またアウデリアさまに頭を半分吹っ飛ばされるのは困るし、今日はミイシアと一緒にいる。」

母親とこの神獣は、そういえばやり合ったことがあったんだっけとミイシアは思い出した。

「ミランのお洋服はわたしが買う。」
ギムリウスは楽しそうに言った。
「アライアス侯爵からもらったお金がまだたくさんあるから。」

「まあ、すごい。なんでお金をもらえたの? ギムリウス。」
「ミランを捕まえたから。」

そのミランを侯爵に引きわたすでもなく、子分のように従えていることに何か矛盾は感じないのだろうか、この神獣は。

“今日はどこを回ることになってるの?”
ミイシアはウォルトに、指文字でサインを送った。

“なんと! 竜人部隊の幹部会だ。ラウレスの後任も来る”
ウォルトは、ギムリウスとミランの髪を撫でてやりながら、器用に指文字を使った。
“教会での晩餐会は、今名前のでたアライアス侯爵閣下もくるぞ。いよいよ、披露宴のメニューの具体的な検討に入るらしい。”

“全く我が、父上と母上は何をしてるのかしら。
あの母のことだから、どこかで蛮勇をふるってないといいけど!”



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

キャラ交換で大商人を目指します

杵築しゅん
ファンタジー
捨て子のアコルは、元Aランク冒険者の両親にスパルタ式で育てられ、少しばかり常識外れに育ってしまった。9歳で父を亡くし商団で働くことになり、早く商売を覚えて一人前になろうと頑張る。母親の言い付けで、自分の本当の力を隠し、別人格のキャラで地味に生きていく。が、しかし、何故かぽろぽろと地が出てしまい苦労する。天才的頭脳と魔法の力で、こっそりのはずが大胆に、アコルは成り上がっていく。そして王立高学院で、運命の出会いをしてしまう。

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

処理中です...