上 下
112 / 531
第4部 グランダ魔道学院対抗戦

第98話 殺戮の荒野に

しおりを挟む
フィオリナはうつむいていた。
そのまま・・・ぽつり。と言った。

「おか、あ、さ、ま・・・」

やばい!
アウデリアはとっさに足元に刺した斧の柄をつかんだ。防御は、間に合った。
かろうじて、だが。

斧の横殴りの一撃が、フィオリナの蹴りを払った。
どうなんだろうか。
確かに、アウデリアの腕に思いしびれを残して、フィオリナの蹴りはあらぬ方向にそれた。
赤いものが飛び散る。フィオリナの血だ。

しかし、どうなのだろう。
あの角度で。
あのタイミングで切り込んだのなら、脛から先は、ばっさり切断されるはずなのだが。

我が娘ながら、まったく化け物じみている。
母親を蹴り飛ばしながら、あのヴァルゴールの匂いのする異世界人、アキルの襟首をつかんで、木の上に放り投げている。
アキルは、太い枝につかまって、かろうじて落下をふせいでから、なにやら喚いた。悲鳴だったのかもしれない。

「よく、かわした、アウデリア。」
フィオリナは、世にも恐ろしい笑みを浮かべた。

「いや、なに。その昔、お母さまと呼ばせるくらいなら殺してやる、と言われたのを思い出した。
いくら、ろくに家にもよりつかないような母親でも、そこは『お母さまと呼ぶくらいなら死んでやる』だろう。」

アウデリアは、笑った。
白い歯が覗く。猛獣が牙をむいたようだった。

「で、目的はそのヴァルゴールの『何か』を救うことか?」

「いや・・・アウデリア。あなたを対抗戦に出さないことだ。」

突きと蹴りは、神速。アウデリアは諦めた。蹴りだけは捌く。重いパンチに顔が左右に揺れた。そのまま突き入れた膝をうけて、フィオリナの細い体がくの字になって吹っ飛んだ。

“自分で飛んだ、か。”
威力が逃された。
“これで最も得意なのが、剣なのだからな。”

振りかぶった斧を振り下ろす。
衝撃波は、フィオリナの手から飛んだ光の剣とぶつかって相殺された。

爆発にまぎれて接近する。
そして。

“やはり、娘、だなあ。”

フィオリナも同じことを考えていた。
同時に二人がダッシュして接近した結果。気が付いたときには、もうそこは武器の距離ではない。
アウデリアのあごがフィオリナのパンチで突き上げられた。
意識が抜けていくのを、口の中を食いちぎって耐えた。
組みつかれながら、腹へ受けたのパンチの威力は、腹筋を突き抜けた。
魔力の循環で強化しているアウデリアの腹筋を、だ。

へどを吐きながら、背中にひじを落とす。膝をつきあげる。跳ね上げた脚が、軌道をかえてフィオリナの側頭部を叩く。ぐらっとよろめいて、フィオリナが後退する。

よし、距離がとれた・・・

いや、違う!

距離を取らされたのだ。

フィオリナは、剣の次くらいには、魔法が得意だ。
無詠唱、同時発動の光の剣は7本。

“古竜以外では見たことがないな”

アウデリアは苦笑した。たしかに本気のフィオリナは、古竜でも相手にしていると思うのが妥当かもしれない。

アウデリアは斧を振り上げる。
その背後で、巨大な影もまた斧を振り上げた。

射出された光の剣の連撃は、影の巨人が放つ斧が薙ぎ払う。そのまま、フィオリナに対して圧倒的な質量の一撃を叩きつける。

アウデリアはうめいた。
彼女が生み出した影の巨人が、受けた傷は本人にも跳ね返るのだ。

しかし。
素手のフィオリナがどうやって斬撃を?

フィオリナの手には「光の剣」が握られていた。

「それは、投射ようの魔法だぞ。」
アウデリアは苦笑いした。
「実体化させて手に握るな。」

手の斧を足元の地面に叩き込んだ。
地面が割れて、ひび割れがおきる。
フィオリナはとっさにかわしたが、アキルが避難していた背後の木がひび割れに巻き込まれた。

悲鳴をあげて落ちてくるアキルを、フィオリナがキャッチした。

「面白い!」

相手が強ければ強いほど、戦いは楽しい。
アウデリアは自分が、笑っているのが分かる。
呼び寄せた炎のヴェールから、フィオリナが逃げているのは、抱き上げたアキルを守るため。

アウデリアの前後左右に、同時に光の剣が現れた。
体を捻って急所だけは避けた。

脇腹、太腿から、おびただしい出血。
アキルを地面に下ろしたフィオリナの、頭上に石造りの門が現れた。
開いた門の中から、現れた黒く禍々しい剣を、フィオリナがつかむ。
じう。

肉が焼ける嫌な音がして、闇色の剣を握ったフィオリナの手から、血が滴りおちた。

右手に光の剣。左手に常闇の剣。

相反する力を携えて、フィオリナが笑った。

“見事じゃないか。我が娘。”
アウデリアも笑う。
“化け物め。なんのためにおまえは生まれてきた?
ルトと番になるためだろう。
一人一人では、あまりに孤独で暴走しがちなその力を制御しあうためだろう?
断じて、一時の快楽に溺れるためではない。
いやさ、溺れてもいいのだ。

だが、必ず、戻ってこい。ルトのもとへ。
世界がおまえたちを待っている。”

それを口に出して言ってやれないわたしが、母親失格なのかもしれん、な。

光の剣、常闇の剣、さらに雷雲からは、稲妻が襲いくる。
薙ぎ払って、アウデリアは歩んだ。




しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

劣等生のハイランカー

双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す! 無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。 カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。 唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。 学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。 クラスメイトは全員ライバル! 卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである! そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。 それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。 難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。 かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。 「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」 学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。 「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」 時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。 制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。 そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。 (各20話編成) 1章:ダンジョン学園【完結】 2章:ダンジョンチルドレン【完結】 3章:大罪の権能【完結】 4章:暴食の力【完結】 5章:暗躍する嫉妬【完結】 6章:奇妙な共闘【完結】 7章:最弱種族の下剋上【完結】

異世界帰りの底辺配信者のオッサンが、超人気配信者の美女達を助けたら、セレブ美女たちから大国の諜報機関まであらゆる人々から追われることになる話

kaizi
ファンタジー
※しばらくは毎日(17時)更新します。 ※この小説はカクヨム様、小説家になろう様にも掲載しております。 ※カクヨム週間総合ランキング2位、ジャンル別週間ランキング1位獲得 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 異世界帰りのオッサン冒険者。 二見敬三。 彼は異世界で英雄とまで言われた男であるが、数ヶ月前に現実世界に帰還した。 彼が異世界に行っている間に現実世界にも世界中にダンジョンが出現していた。 彼は、現実世界で生きていくために、ダンジョン配信をはじめるも、その配信は見た目が冴えないオッサンということもあり、全くバズらない。 そんなある日、超人気配信者のS級冒険者パーティを助けたことから、彼の生活は一変する。 S級冒険者の美女たちから迫られて、さらには大国の諜報機関まで彼の存在を危険視する始末……。 オッサンが無自覚に世界中を大騒ぎさせる!?

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

処理中です...