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幕間1

魔王のお見舞い 深夜編

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エミリアは、目をあけた。

病棟の消灯時間はとうにすぎている。


投げ落とされた角度が悪かったらしい。というより、わざとそういうふうに投げたのだろう。


治療には時間がかかる。治癒師と医師は難しい顔でそう言っていた。
日常生活はなんとか、武技はもう難しいかもしれない。看護の治癒士助手たちがそうささやいているのを聞いた。


部屋は個室だった。
明滅する宝玉が、彼女の生命維持の一部をつかさどっている。
たとえば・・・呼吸とか。
排泄とか。


首から下は動かない。声もでない。痛みやかゆみ・・・などはあるので、ちょっとした地獄だ。
助けをようぼうにも自由になるのは、まぶたくらい。

はあ。

ため息がもれた。

宝珠は。そのまま、脈動を続けている。
宝珠は、エミリアの肉体を維持するために、活動を続けている。そしてその報告を送り続けている。

身体に繋がれた管を、つかんでむしり取る。

身体を包むクリーム色の貫頭衣は、腰のあたりまでしかない。
治療には適しているのだろうが、出歩くには向かないだろう。

構わず、ベッドからおりたエミリアは、大きくのびをした。衣装がめくれあがり、おへそが見えた。

部屋の隅の暗がりで、影が笑い、エミリアの手に棒が現れた。

「元気そうでよかった。ルトに様子を見てくれと頼まれてな。」

級友たちから『魔王』と呼ばれることになった魔王は、笑う。
ルトたちにみせるとぼけたような笑いとは違う。
冷酷で、傲慢で。

この男がかつて世界を滅ぼしかけたと聞かされれば、誰もが首をかしげるに違いない。

なぜ、滅ぼさなかったのか、と。


「ルトは、賢い子だ。
おまえが、何者か。検討と検証をはじめている。

たとえば、おまえが、聖帝国の間諜であるとか。
たとえば、おまえが、古代魔族の王侯の転生体であるとか。
たとえば、おまえが、邪神の現身であるとか。」


ひるるるるる

回転させた棒が鳴った。

「やめておけ。」

剣を抜く手は、エミリアにもまったく見きれなかった。
剣は。

エミリアの起こした

「音」

だけを切って、ふたたび鞘におさまった。

「ちなみに、オレは、『どれでも』かまわないと思っている。」


「わたしは・・・わたしたちはそんな大層なものではありません。」
エミリアは、構えを解いて、真正面からリウを見据えた。
「遥かな昔に使えるべき主を失ったさまよい人です。
もしも再び、使える主がみつかったときのため、力は磨き続けてきましたが・・・」

自嘲の笑みが少女の口唇を彩った。

「リウさまのご指導にもかかわらず、不覚をとりました。」

「充分だな。」
あっさりとリウは言った。
「オレの訓練についてきた根性と才能。半年はかかる重傷からこの短時間で回復できるのならば、この先も鍛えてやれるだろう。」


「・・・・・」


「おまえが欲しくなった。おまえが何者でもかまわない。オレたちといっしょに来い。」

エミリアの胸は歓喜にふるえる。
そのまま、棒を背後に回し、跪いた。
ルトがここにいたら、
「いや、下半身マッパですることと違うだろ。」
と、文句の一つも言っただろうが、そんな無粋なツッコミをするものはこの場にはいなかった。

「あの・・・いまさらながらなのですが。」

エミリアは顔をあげ、おずおずと尋ねた。

「リウさまは・・・リウさまたちはいったい何者なのです?
なんの目的でランゴバルドへ。そして冒険者学校にやってきたのです?」

忠誠を誓ってから?それを聞く?
エミリアとリウの想像上のルトが突っ込んだが、二人はそれを無視した。

「うむ・・・それについては、学校への説明に嘘はないぞ。」
リウは鷹揚に頷いた。
「もともと、ルトは北のグランダで『到達級』の冒険者として活動していた。
西域でも『銀級』相当として、登録できるはずが、グランダの冒険者レベルの低下によりできないと言われた。

結果として、錆級での下働きなしに冒険者資格を得られる道として、ギルドからここを紹介された、とい言うわけだな。」

「恐れながら」
エミリアは、跪いたまま、尋ねた。
「よくご辛抱されました。」

「まあ、そうだ。」
リウは端正な顔を顰めた。
「グランダの冒険者の質の低下は、『魔王宮』の封鎖に大きな原因があり、そうするとオレにも責任がある。」

この発言はエミエアには、意味不明であったが、ここではこれ以上聞くべきではない。そう感じた。

「この先わたしはどうすれば」

「このまま、冒険者学校から逐電するつもりで、起き上がったのだろうが。」
リウは薄くわらう。
「ここは、独自の結界、言ってしまえば迷宮の中にいるのと一緒だ。
出入りは正門だた一箇所。」

「夜が明けて門が開くのを待つつもりでした。」

エミリアは、点滅を続ける宝珠を指差した。

「あれは、今もわたしの体を管理し続けている、そのつもりになって、わたしが与えた偽のデータをおそらくは看護室に送り続けています。
夜間の見回りがくるまでは気づかれることはありません。」

「そちらの能力についても今度、じっくりと聞かせてもらおう。」
リウの笑みには、もう怖さ、はなかった。
「おまえの能力は、単純な戦闘よりも、間諜、潜伏捜査に向いているように感じる。

そうだな・・・・まずはベッドに戻れ。とった管はもう一度繋ぎ直せ。」

実際問題、管のいくつかは、針がついており、血管に差し込まれていた。
それをもう一度自分でやり直せ、と?

エミエアは心の中で悲鳴を上げたが、「仰せのままに」と、にこやかに頷いてみせた。

「明日、見回りの治癒士がきたら、小さなうめき声をあげて、袖を引っ張れ。
多分、それで治癒士は驚いて上のものを呼びに行く。
責任者がきたら、『ここは、どこです? わたしはどうなったのです。』と聞け。

あまり流暢にしゃべるなよ。明後日からなら上半身は起こしてもいい。歩いてみせるのは次の休息日が過ぎてからだ。
月が変わるまではここから出られないだろう。構わん。それくらいはオレたちも待っている。」

待っている。と、モノはいいよう。実際のところは、リウは「一般常識」の科目を再履修中で、それが終わるまでは、学校から外出することもできなかったのだが、そこまでは話さなかった。
立派な王と言うものは、臣下にいらぬ心配はさせないものなのだ。

「仰せのままに。」
とエミリアは言ってから、
「リウさまへの態度はいかが致しましょう。」

「あまり、大袈裟に敬語を使われると、悪目立ちする。
いまままで通りにしろ。
別に異性として見た場合も、別におまえは不快な方ではない。」

今度こそ、エミリアは真っ赤になった。
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