水晶鏡の破片たち ある婚約破棄の裏側で

此寺 美津己

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魔道人形は恋を知る

皇女ジュリエッタ、緋色の冒険者に出会うこと

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皇女ジュリエッタは、死を覚悟していた。
供回り者はみな倒れ、生ける死者たちが周りを取り囲む。
ジュリエッタの聖剣ですら、輝きを失う闇の中、誇りだけを最後の糧として彼女は立ち尽くしていた。

赤く輝く目が、黒くとがった爪が彼女にせまったその時。
迫りくる吸血鬼の首がごろりと落ちた。
彼女の首をかけて延ばされた黒い爪がバラバラになって地に落ちる。

「腐った屍人の香りがして来てみれば低級の吸血鬼どもですよ、ドルバーザさま。」
飛び降りた勢いのまま一人の吸血鬼の首をへし折った少女がそういった。
年は14、5歳に見えるが、顔に施された妙な紋様から彼女が魔道人形と呼ばれる人造物であることが見て取れる。
「とは言え、ここは皇室に恩を売るためにも、一肌脱いでおくべきでしょう。いかがお考えでしょうかドルバーザさま。」

返答は緋色に輝く光輪だった。
一体の吸血鬼が一瞬で頸を飛ばされ、回避行動に移ったもう一体も追いすがる緋色の光輪で上半身と下半身を両断される。

「何者だ!」
吸血鬼の首魁、伯爵級の吸血鬼バヨネットと名乗った黒衣の女がそう叫ぶ。

「北方にその名も高い、冒険者“緋色の”ドルバーザさまだ!
そう名乗ったはずだが頭の中も腐って濁った吸血鬼には、この超高性能美少女魔道人形テオの言葉は理解できないのか?」
魔道人形の少女はそう叫ぶ。
皇女ジュリエッタは、闇の中の人影に向かって呼びかけた。

「もしあなた様が高名な冒険者緋色のドルバーザさまならば、お力をお貸しください。
いままでに3つの村と町がこの吸血鬼によって滅びました。皇帝陛下は西方域より冒険者を呼び寄せるおつもりですが、その到着を待ってはいかに被害が拡大するか。」

「もとより。そのつもりだぞ、皇女よ。」
魔道人形の少女はそう答えた。
「我があるじ、ドルバーザさまは、高額な報酬、もとい民草のため自ら死地に乗り込む皇女殿下には目がないのだ。
ささ、ドルバーザさま!チャチャっとやちゃってください。」

現れた男は、細身ながら革鎧のうえからでも鍛え上げた筋肉で見てとれた。端正な顔立ちは、男にしておくのが勿体無いほどであったが、今は、その顔は強張り、目は怒りに満ちていた。

「さあ! 見たか吸血鬼ども! このお方こそ吸血鬼ハンターとしても名高いあのドルバーザ様だ!きさまらに逃げ場所など」
テオの口上は、頭蓋骨に落ちた鉄拳が黙らせた。

「ぐわあ、い、痛い。わたしは伝説級の魔道人形なんですよぉ。壊れたら修理ききませんからねえ!」

「テオ…」

「はい、我があるじ、無敵の冒険者ドルバーザさま!」

「オレにも名乗らせろよ。」
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