水晶鏡の破片たち ある婚約破棄の裏側で

此寺 美津己

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ハルトの場合

それは揉めるに決まってる!

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御前会議は、当然、ぼくの婚約破棄への糾弾から始まった。
少し意外だったのだが、糾弾にたったのが、王とは必ずしもなかのよくなくない「統制派」と呼ばれる法務卿を中心とする一派だったことである。

ぼくの行為が道徳的にいかに間違っているか、はともかく、法的に間違っていることへの非難はそっちの方が、長く続いた。

要は、王家、貴族の結婚は政治であり、婚約破棄は、相手の家長に、対して文書にて申し入れをうるものである。
その書式は、もちろんのこと、紙、字体、インクまでこと細かく「法律で」決まっていた。

「統制派」は別名「正義派」とも呼ばれ、とかく取り巻き連中とともに私欲を肥やすことに熱心な王家に、対するグランダの良心ともいうべきもの達だか、貴族の間でも庶民にもまったく人気がないのは、こういうところなのだろう。

そして、本来ぼくが、婚約破棄の書類を提出すべきクローディア公爵家の家長もまた、会議の席上にあった。

実用性の、高い筋肉に包まれた堂々たる武人。
今日は略式礼服の軍装であった。

厳ついあごに、怖い顎髭をたくわえ、眼光はそれだけで相手を殺せそうである。

だがその見た目は、クローディア閣下にとっては平常運転。
ぼくの立場でこんなことを、言うのはどうかと思うのだか、内心を見抜かれないための、ポーカーフェイス程度のものでしたかない。

続いて、王はみずから立ち上がり、クローディア公爵に直接、昨晩の婚約破棄を詫びた。
なんと、フィオリナをエルマートの妃として迎えたいとまで言い出し、これは出席者から好意的に受け取られたようだった。

クローディア閣下は、恐れ多く、と頭をさげて感謝の意を現したものの、フィオリナがショックのあまり床に伏せっていることを理由に、返答を避けた。

さて。

と、王はぼくの、ほうを向き直る。

この度の、所業、赦しがたい。
立太子式は保留とし、改めて、半年以内の最強のパーティを申しつける。

それは、昨日の夜聞いたんだ。
聞いたからこうなったんだがな。

ぼくは、深く。
それはもう深く頭をさげて、かおは床のホコリがひとつひとつ見えるほど。

「父上!」

会議の席上では、へいか、だろうと思ったが、王はエルマートをなにも咎めなかった。

「その最強パーティの育成にわたしも参加させてください。」
「これはエルマート殿下、なんという覇気に満ちご発言でしょう。」

王の傍らに、控えるブラウ公爵がすかさず追証の声を上げる。

「ふむ、確かに競い合う相手がいたほうが、興も沸く。よし、エルマートよ。ハルトとともに競い、半年の後に、我が前に最強のバーディをそろえるがいい。」

しずしずと、巻物を捧げた役人が現れる。

「二人の王子が競う場所は『魔王宮』とする。
たがいにバーディを集め、その攻略を持って水からの力を証明せよ。」

王は付け加えた。

「なお、すでに卒業を控えたハルトとは違い、エルマートはまだ学生だ。
パーティ募集が不利にならないように、エルマートには王家よりパーティメンバーを紹介しようと思う。」

何人かはたしかにもやもやしたんだと思う。
競わせる、なら公平でないとまずいのではないのか?
それを片方の王子にだけ、バーディを斡旋してしまっては競走もなにも。

「パーティは、公平をきする為に、王都ではなく西域から特に呼び寄せた。」

ちなみに我がグランダは、勇者の子孫が築いた国ということになってはいるが、いわゆる北の小国。
冒険者のレベルは、西域のほうが遥かに高い。

「その名は『 燭乱天使』。」

おおっ

という声が会場からあがる。
つまりは冒険者ギルドに直接かかわっていないものにもきいたことのあるビックネームだという意味だ。

悪い意味でも。

おそらくその実力は黄金級以上。

しかし、競走相手になった同業者はもとより、依頼主やギルドに、まで、平然と牙をむく。
あくまで、ウワサではあったが。

彼らによって滅んだ国さえある、と。

「細かい日取りは追って発表会しよう。
エルマート、ハルトよ。

よく励むように。」

ぼくは再び深々と頭を下げる。
床のほこりの間をちいさなダニがはっていた。

今度はちゃんと理由がある。
それは自分の表情を他人にみせないため。

燭乱天使は、暗殺や破壊工作、後暗いことも平然とやるパーティだ。

こえた。

こえては行けない一線をこえたな。

そうか、ならぼくだってそのように対処するだけだ。




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