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第2部 迷宮研究家は招かれる

欲しいのはあなた

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用意された個室に入ったモールは、オルフェを見て表情を固くした。
それはそうだろう。
犯罪者になるところを、公爵閣下の温情で罪を免れた大罪人。冒険者としてはもう終わった男。
こんなやつと会ってるところを見られただけでも、冒険者人生に差し障るかも知れない。

モールには、これから会う相手が誰かは、話していた。
モールたち「蛙が冠を被るとき」と共に、迷宮に潜り、その能力を調査するように依頼を受けたと。

モールは(というか四人は)わたしとパーティを組みたがった。自分達の能力を引き出してくれるパーティリーダーになってほしい、と。
わたしもその提案には大いに興味があった。

これだけの能力を持つパーティ。だが、事情は事情として説明しなければならない。
とにかく、オルフェに会って話を聞いてみる。
そこまでは納得してくれた。

この前に会ったのと同じ店である。
迷宮から一歩出ると、地図は読めんわ、方向音痴だわで、優秀な斥候たるモールがいなければまた迷子になったかも知れない。

オルフェは、わたしたちを座らせて、グラスに酒を満たして進めた。

「よく来てくれた。」
愛想笑い、と言ったら可哀想だろう。一応ホストとしてこちらをもてなしてくれるつもりらしい。
「まだ、サリア・アキュロンからは、君たちの能力については、何も聞いていない。だが、うまく使えばS級も狙える逸材だと、だけ聞いている。」

モールは、上目使いに元勇者を見て、どうも、とだけ言った。

全然、信用していない。

「俺は君たちを俺のパーティに誘いたい。もし話を聞く価値もないと思うんなら、このまま立ち去ってくれて構わない。」

「そうですね・・・お断りしたいです。」

早い。

「・・・でも、サリア・アキュロン先生から、わたしたちの新しい可能性を教えてもらいました。
もし、わたしたちを指揮できる、信頼できて迷宮の知識にも詳しいリーダーがいれば・・・」

モールは若い。
まだ子供と言ってもいい年齢だ。(でも「先生」はやめていただきたい)
だが、その目は鋭い。

「蛙」たちが話題になり始めてから、1年以上は経っている。それなりに経験を積んだ冒険者に違いない。

「あなたはわたしたちのリーダーになれますか?」

オルフェは呆れたようにお手上げ、のポーズをとった。

「・・・なに言ってる? 無理に決まってるだろうが。」



・・・はあ?
飲みかけた酒が、口元からダラダラと流れた。

ここにきて何を言い出す?

そのためにモールたちに目をつけたんじゃないのか?

「俺は自慢じゃないが、あれだ。脳筋、と言うやつだ。」
オルフェは、自慢げに胸を張った。胸を張るところもおかしい。
「止めの一撃か、真っ先に突っ込んで大魔法の時間を稼ぐか。
俺にできるのはどっちかだ。
言っちゃ悪いが、モンスターの知識もないし、迷宮の中でも平気で迷子になる。

実際、ソロになってからは迷宮には一度も潜っていない。」

「じゃあ、誰がわたしたちを指揮してくれるんです?」
「全くだ。なんのためにモールたちパーティを組みたいんだ?」

再び、オルフェは、心から呆れたと言わんばかりに、大きなため息をついた。
お前がそうすると無茶苦茶、腹がたつからやめろ。

「なあ・・・オルフェ・・・」

「おまえだぞ、サリア・アキュロン。」

・・・・な・・・・

んだと?

「おまえも俺のパーティに来るんだ。おまえがパーティリーダーとして、指揮をとれ。」

はああああ!?

「き、聞いてないぞっ!」
「言ってないからな。」

こいつは・・・少なくともマイペースなところは治ってない。いやむしろひどくなってないか?


「それなら問題ありません。」

モ、モールぅ。

「サリア・アキュロン先生が指揮をとってくれるなら、わたしたちはあなたのパーティに入ってもいいです。」

「ちょっと待て!」
わたしは立ち上がった。
「わたしは迷宮研究家なんだ。ギルドからの依頼なんか受けないし、よくわからない探索で何日も拘束する。
危険だっていっぱいだ、正直、わたし一人の方がいいんじゃないか。何かあっても死ぬのはわたしだけだし。」

「しかし、名声を得られそうですね。今のわたし『たち』には一番必要なものですね。」

そう言ってオルフェを振り返った。

「わたしが確認したいのは、一つだけです。
元勇者オルフェ。

あなたはわたしたちのパーティで一体何をしてくれるんです?」


「ああ、そうだな。それはもう考えてある。」
元勇者は、当たり前のことを言うように宣言した。
「俺は、サリア・アキュロンを護る役目だ。」





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