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序の激 影王異物
第17話 決着
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凪桜花は叫んだ。
もう人間を捨てたかのように,吠えた。
そうしなければ,勝ちは拾えない。だって相手は人間では,ないのだから。
だったら,桜花も人間を超えるまで。
踏み込んだ。
冷静にその分,後退した源八の全身の毛が逆だった。これはもちろん,比喩的な表現だ。だって,源八は人間だ。逆立つような毛が全身にあるわけはない。絶対にない。
狼の顔はただの面だ。
袖口から覗く毛皮はただの腕巻きだ。
ありえない。
源八の反射神経と動体視力を持ってしても、桜花の体が分身し、同時に九つの斬撃がやってきたとしか思えなかった。
どう動いてもどこかが、切断される。
源八は、棒立ちとなった
逃げるための一切の行動を諦めた彼の体を、九つの斬撃が駆け抜けた。
「勝った。」
水琴が叫んだ。
「耐えろ!源八!」
その苦痛を自ら感じているように、歯を食いしばった空吾が、つぶやいた。
「どう見る?」
席に戻った玄朱の問いに、流斗は、苦い顔でつぶやいた。
「焦りすぎた、桜花さん。そいつはただ、切っただけじゃ不死身に近いんだ。」
今までの手応えとはまるで違う。
分身も含めた九つの体が、同時に放った斬撃に、相手はかわすことを忘れたように、棒立ちになって受けた。
いや、棒立ちではない。
切った感触は、人間の体のそれではない。
まるで、鎧の上から切ったようだった。それでも桜花の手にした呪物「カラクレナイ」は、鋼鉄製のフルアーマーでさえ、軽々と両断するのだ。
一瞬遅れて、鮮血が吹き上がった。
夜空に向けて。それはあまりにも大量で、桜花の視界すら一瞬、遮った。
「おまえはつええ。」
耳元でそのこ声が、聞こえた時、桜花は敗北を悟った。
「源ちゃん。」
親しくなったら、そう呼ぼうと決めていた言葉で、桜花は狼に、微笑みかけた。
「痛くないように、殺してね。」
次の瞬間、爪の生えた腕が、桜花の頭を鷲掴みにして、地面に叩きつけていた。
「敗北したか、槐。」
玄朱がつぶやいた。
「槐、はね。」
と、なんの変哲もない転校生(自称)が答えた。
「その言葉に、何か意味があるのかい、槇村くん?」
玄朱が、問うた。
会場では、勝負あり!の宣告を待たないままに、源八が桜花の蘇生を試みている。
白い服の生徒が、何人か走り寄る。
「勝ったのは凪さんだ。恋愛においては、惚れた方が負け、だよ。」
「命があれば、だが。」
桜花の小柄な体が、痙攣している。
首が、背骨か。人体がその活動を維持するのに重要な部分が破損していることに、間違いはなかった。
「あのくらいまで、痛めつけないと、また茨姫が、本当は決着がついてないとか、後で文句を言い出しそうです。」
槙島流斗が、ゆるりと立ち上がった。
「あれが、治療出来ないようでしたら、ぼくがお手伝いお手伝いしますけど・・・ああ、大丈夫そうですね。」
凪桜花は、タンカに載せらせて退場した。意識は戻っているようで、水琴は、それは安心してた。重要無比な「影王遺物」を失い、影王教団と全面闘争に入り、さらに将来有望な可愛い後輩を失う・・・・という悲劇から、最後の一つだけは避けられた。
これから、しばらくは、桜花は療養せざるを得ないから、今から行う全面的な殺し合いには、参加させないで済む。
水琴は、じろっと隣に控えた海堂敦を見やった。
正直、平均値をとれば、今の槐は、教団に劣っている。
デュエルに耐えるメンバーも実質、彼女と海堂敦だけだ。
だが、本気の殺し合いになれば。
彼女は、彼女と海堂敦の2人だけで、教団の全員を皆殺しにするつもりでいた。
「お待ちください、姫!」
いや、違う。彼女1人でだ。
躊躇わずに、制服のジャケットを脱ぎ捨てた。
シャツのボタンも引きちぎる。
白い肌を覆うのは、淡いブルーの下着だけだった。そのままスカートにも手をかける。
「まあ、もう少し待っててみませんか?」
視線だけで、相手を殺せそうな表情で、水琴は振り向いた。
いつ、近寄ったのか全くわからない少年の、表情は淡月に似ていた。深く、静かで、冷たく冴えている。
そう。
最初に、会った時のように。
「いつもおまえは、わたしが脱ぐと現れるな。」
「偶然ですよ、茨姫。」
流斗は、笑って答えた。
「それより、さっき、黒の審判にも伝言しましたが・・・・もう少し待ってみませんか?」
「継承が行われてしまえば、すべては終わりだ。継承者の手に握られた影王の剣をどうにかするよりも、継承者が決まらぬ前にけりをつける。」
「今まで、二回、継承は失敗してるそうじゃないですか?
なぜ、今回はうまくいくと思うんです?」
バカを言え
と、茨姫は、言葉にまで棘をまぶしながら答えた。
ならば、今回もうまくいかぬと考える根拠が何があるのか?
少年は、棘を削ぐように答えた。
今までと、まったく同じことをやってるからですよ。
もう人間を捨てたかのように,吠えた。
そうしなければ,勝ちは拾えない。だって相手は人間では,ないのだから。
だったら,桜花も人間を超えるまで。
踏み込んだ。
冷静にその分,後退した源八の全身の毛が逆だった。これはもちろん,比喩的な表現だ。だって,源八は人間だ。逆立つような毛が全身にあるわけはない。絶対にない。
狼の顔はただの面だ。
袖口から覗く毛皮はただの腕巻きだ。
ありえない。
源八の反射神経と動体視力を持ってしても、桜花の体が分身し、同時に九つの斬撃がやってきたとしか思えなかった。
どう動いてもどこかが、切断される。
源八は、棒立ちとなった
逃げるための一切の行動を諦めた彼の体を、九つの斬撃が駆け抜けた。
「勝った。」
水琴が叫んだ。
「耐えろ!源八!」
その苦痛を自ら感じているように、歯を食いしばった空吾が、つぶやいた。
「どう見る?」
席に戻った玄朱の問いに、流斗は、苦い顔でつぶやいた。
「焦りすぎた、桜花さん。そいつはただ、切っただけじゃ不死身に近いんだ。」
今までの手応えとはまるで違う。
分身も含めた九つの体が、同時に放った斬撃に、相手はかわすことを忘れたように、棒立ちになって受けた。
いや、棒立ちではない。
切った感触は、人間の体のそれではない。
まるで、鎧の上から切ったようだった。それでも桜花の手にした呪物「カラクレナイ」は、鋼鉄製のフルアーマーでさえ、軽々と両断するのだ。
一瞬遅れて、鮮血が吹き上がった。
夜空に向けて。それはあまりにも大量で、桜花の視界すら一瞬、遮った。
「おまえはつええ。」
耳元でそのこ声が、聞こえた時、桜花は敗北を悟った。
「源ちゃん。」
親しくなったら、そう呼ぼうと決めていた言葉で、桜花は狼に、微笑みかけた。
「痛くないように、殺してね。」
次の瞬間、爪の生えた腕が、桜花の頭を鷲掴みにして、地面に叩きつけていた。
「敗北したか、槐。」
玄朱がつぶやいた。
「槐、はね。」
と、なんの変哲もない転校生(自称)が答えた。
「その言葉に、何か意味があるのかい、槇村くん?」
玄朱が、問うた。
会場では、勝負あり!の宣告を待たないままに、源八が桜花の蘇生を試みている。
白い服の生徒が、何人か走り寄る。
「勝ったのは凪さんだ。恋愛においては、惚れた方が負け、だよ。」
「命があれば、だが。」
桜花の小柄な体が、痙攣している。
首が、背骨か。人体がその活動を維持するのに重要な部分が破損していることに、間違いはなかった。
「あのくらいまで、痛めつけないと、また茨姫が、本当は決着がついてないとか、後で文句を言い出しそうです。」
槙島流斗が、ゆるりと立ち上がった。
「あれが、治療出来ないようでしたら、ぼくがお手伝いお手伝いしますけど・・・ああ、大丈夫そうですね。」
凪桜花は、タンカに載せらせて退場した。意識は戻っているようで、水琴は、それは安心してた。重要無比な「影王遺物」を失い、影王教団と全面闘争に入り、さらに将来有望な可愛い後輩を失う・・・・という悲劇から、最後の一つだけは避けられた。
これから、しばらくは、桜花は療養せざるを得ないから、今から行う全面的な殺し合いには、参加させないで済む。
水琴は、じろっと隣に控えた海堂敦を見やった。
正直、平均値をとれば、今の槐は、教団に劣っている。
デュエルに耐えるメンバーも実質、彼女と海堂敦だけだ。
だが、本気の殺し合いになれば。
彼女は、彼女と海堂敦の2人だけで、教団の全員を皆殺しにするつもりでいた。
「お待ちください、姫!」
いや、違う。彼女1人でだ。
躊躇わずに、制服のジャケットを脱ぎ捨てた。
シャツのボタンも引きちぎる。
白い肌を覆うのは、淡いブルーの下着だけだった。そのままスカートにも手をかける。
「まあ、もう少し待っててみませんか?」
視線だけで、相手を殺せそうな表情で、水琴は振り向いた。
いつ、近寄ったのか全くわからない少年の、表情は淡月に似ていた。深く、静かで、冷たく冴えている。
そう。
最初に、会った時のように。
「いつもおまえは、わたしが脱ぐと現れるな。」
「偶然ですよ、茨姫。」
流斗は、笑って答えた。
「それより、さっき、黒の審判にも伝言しましたが・・・・もう少し待ってみませんか?」
「継承が行われてしまえば、すべては終わりだ。継承者の手に握られた影王の剣をどうにかするよりも、継承者が決まらぬ前にけりをつける。」
「今まで、二回、継承は失敗してるそうじゃないですか?
なぜ、今回はうまくいくと思うんです?」
バカを言え
と、茨姫は、言葉にまで棘をまぶしながら答えた。
ならば、今回もうまくいかぬと考える根拠が何があるのか?
少年は、棘を削ぐように答えた。
今までと、まったく同じことをやってるからですよ。
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