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第155話 魔王と魔女
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ドゥルノ・アゴンを助けますか?
と、そう、問われてアシットは、俯いた。
それなりに、野心家であった。
当代屈指の魔導師としての、誇りも自身もあった。
手塩にかけたベータを、あっさりリウに取られたことを、取り敢えず飲み込む度量もあった。
その彼が言った。
「助けてやってくれ。」
彼がそう言ったとき、頭上の空間がミリミリと音を立てて裂けた。
ザック。
歴戦の古強者は、右手に男の死体を下げていた。
「おいっ! だれか治癒魔法は使えるか? こいつを助けってやってくれ」
胸に向こう側がみえるほどの大穴のあいた胸のは、ぐったりと身動きもしない。
「わ、わたしが!」
慌てて駆け寄ったのは、アシットだった。
彼は、床に男を寝かせると、両の手を翳して詠唱を開始した。 みるみる男の傷がふさがり、その顔にも血の気が戻ってきた。
「大したものだ。呪文が不順だと古竜のもつ障壁が、治癒魔法もはじいてしまう。
おまえさんは上々だ。
これで、やれやれだな。まあ、よしとするか。」
ザックは、破顔した。
「あの傷は、いったいなんです?」 ギムリウスが、尋ねた。「拳でも魔法でもない。バークレイほどの古竜の竜鱗を突破できるものとなると・・・」
「きいて驚け。本気で体当たりしてやったんだ。」
「驚きました。」
素直なギムリウスは、素直におどろいてみせたが、アシットやロウランはそれどころではなかった。
「なんと無茶なことを!」
アシットはうめいた。
「人の姿をとっていても、バークレイ殿は、古竜だぞ。それを体当たり・・・・」
「まあ、たしかに質量は俺の万倍はあったかな。だが、こういったものは、気合だな、気合。」
「おそれいりますが・・・」
ロウランが恐る恐る尋ねた。
「あなたさまも『踊る道化師』のお一人なのでしょうか。」
「いや、俺は・・・客分・・・というか、『踊る道化師』のリーダーには返しきれない恩があってな。
やつにじきじきに頼まれたんで断りきれずに手を貸したんだ。」
「あなたはいったい何者なんです!」(×2)
「俺は、ただの冒険者だよ。」
「そんなわけないだろう!」(×2)
「飲んだくれでもあるし」
「それはそうだ!」リウは力強く肯定した。「まあ、アシット殿、ロウラン殿。詮索はそれくらいにして事態の収拾について話あいたいのだが・・・」
そのとき、全員の頭に声なき声が話しかけてきた。
“勇敢なるものたちよ・・・よくぞこの迷宮を制覇した。褒美をとらそう。次のうちから選ぶが良い・・・”
「飯だな! あと、テーブルと椅子もだせ!」
リウの一言は、迷宮を司るコアを黙らせるには、十分だった。
「それと酒だ。」
ザックがつけたした。
「わたしはなにか、甘いものがいいな。」ロウ=リンドがずうずうしく、要求した。「あと、ドロシーが裸同然だ。なにか着るものをだしてくれ。」
“・・・・”
迷宮を司るコアには、擬似的な知能をもっている場合も多い。そうでなければ長い年月の間に、起こりうる不足の事態に対応できないからだ。そういった疑似知能が絶句することがあるのか。
いろいろと、議論はあるが、“少なくともいま、こいつは絶句しているな”とドロシーは思った。
「言われた通りのものをだしてください。」
ギムリウスが、ダメ押しした。
すでに、コアはギムリウスによって、解析され、その機能はギムリウスの支配下におかれている。
“はい、マスター”
コアはよわよわしく答えた。
“しかし、そうなると迷宮制覇の報奨として用意した魔法具はいかがいたしましょう?”
「あとでフィオリナに分析させるから、並べておいてくれ・・・・そういえばあいつは遅いな。」
“最後のおひとりのことでしたら、興味深い事象が発生したので、もう少し観察に時間をよこせと。”
「迷宮そのものに命令したのか。さすがはフィオリナ。無茶をする。」
“いや、おまえが言うな”(×全員、コアも含む)
と、そう、問われてアシットは、俯いた。
それなりに、野心家であった。
当代屈指の魔導師としての、誇りも自身もあった。
手塩にかけたベータを、あっさりリウに取られたことを、取り敢えず飲み込む度量もあった。
その彼が言った。
「助けてやってくれ。」
彼がそう言ったとき、頭上の空間がミリミリと音を立てて裂けた。
ザック。
歴戦の古強者は、右手に男の死体を下げていた。
「おいっ! だれか治癒魔法は使えるか? こいつを助けってやってくれ」
胸に向こう側がみえるほどの大穴のあいた胸のは、ぐったりと身動きもしない。
「わ、わたしが!」
慌てて駆け寄ったのは、アシットだった。
彼は、床に男を寝かせると、両の手を翳して詠唱を開始した。 みるみる男の傷がふさがり、その顔にも血の気が戻ってきた。
「大したものだ。呪文が不順だと古竜のもつ障壁が、治癒魔法もはじいてしまう。
おまえさんは上々だ。
これで、やれやれだな。まあ、よしとするか。」
ザックは、破顔した。
「あの傷は、いったいなんです?」 ギムリウスが、尋ねた。「拳でも魔法でもない。バークレイほどの古竜の竜鱗を突破できるものとなると・・・」
「きいて驚け。本気で体当たりしてやったんだ。」
「驚きました。」
素直なギムリウスは、素直におどろいてみせたが、アシットやロウランはそれどころではなかった。
「なんと無茶なことを!」
アシットはうめいた。
「人の姿をとっていても、バークレイ殿は、古竜だぞ。それを体当たり・・・・」
「まあ、たしかに質量は俺の万倍はあったかな。だが、こういったものは、気合だな、気合。」
「おそれいりますが・・・」
ロウランが恐る恐る尋ねた。
「あなたさまも『踊る道化師』のお一人なのでしょうか。」
「いや、俺は・・・客分・・・というか、『踊る道化師』のリーダーには返しきれない恩があってな。
やつにじきじきに頼まれたんで断りきれずに手を貸したんだ。」
「あなたはいったい何者なんです!」(×2)
「俺は、ただの冒険者だよ。」
「そんなわけないだろう!」(×2)
「飲んだくれでもあるし」
「それはそうだ!」リウは力強く肯定した。「まあ、アシット殿、ロウラン殿。詮索はそれくらいにして事態の収拾について話あいたいのだが・・・」
そのとき、全員の頭に声なき声が話しかけてきた。
“勇敢なるものたちよ・・・よくぞこの迷宮を制覇した。褒美をとらそう。次のうちから選ぶが良い・・・”
「飯だな! あと、テーブルと椅子もだせ!」
リウの一言は、迷宮を司るコアを黙らせるには、十分だった。
「それと酒だ。」
ザックがつけたした。
「わたしはなにか、甘いものがいいな。」ロウ=リンドがずうずうしく、要求した。「あと、ドロシーが裸同然だ。なにか着るものをだしてくれ。」
“・・・・”
迷宮を司るコアには、擬似的な知能をもっている場合も多い。そうでなければ長い年月の間に、起こりうる不足の事態に対応できないからだ。そういった疑似知能が絶句することがあるのか。
いろいろと、議論はあるが、“少なくともいま、こいつは絶句しているな”とドロシーは思った。
「言われた通りのものをだしてください。」
ギムリウスが、ダメ押しした。
すでに、コアはギムリウスによって、解析され、その機能はギムリウスの支配下におかれている。
“はい、マスター”
コアはよわよわしく答えた。
“しかし、そうなると迷宮制覇の報奨として用意した魔法具はいかがいたしましょう?”
「あとでフィオリナに分析させるから、並べておいてくれ・・・・そういえばあいつは遅いな。」
“最後のおひとりのことでしたら、興味深い事象が発生したので、もう少し観察に時間をよこせと。”
「迷宮そのものに命令したのか。さすがはフィオリナ。無茶をする。」
“いや、おまえが言うな”(×全員、コアも含む)
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