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第153話 打ち合わせをすること

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リウの待つ迷宮入口に戻ってきた時、どういうものか、リウはあまり機嫌が良くなかった。

少し離れたところでは、『血の聖者』サイノス殿が、正座して頭を垂れている。

あれからどうなったのかは、分からないが少なくともリウは、サイノスに勝ったのだ。

「遅いぞ、ギムリウス!」
リウは、百万軍を叱咤する将軍の口調で言った。
「ほかの部屋はとっくに、勝負が決している。」

百万の軍も瞬時に蹴散らす神獣は、首を傾げた。
「そこは、抜かりはありません。この迷宮のコアは、わたしが把握しております。転移のタイミングは、わたしの制御下にあります。」


「ば、ばかな、そんなことが・・・」
サイノスが言いかけたが、そのときになって彼は、ギムリウスの異形に気がついたようだ。

額にあいた虹色に輝く目。腰の辺りから突き出した新たなる脚。

これは失礼

と軽く言って、ギムリウスは目を閉じて、脚をたたんだ。

「ギムリウスの巫女・・・」
「わたしには、巫女なんていません。」

ギムリウスは答えた。

「わたしは、神などとは違いその存続と力の維持に、信徒などという邪魔者は不要なのですよ。」
「ギ、ギムリウス! ギムリウスそのものなのか。」
「わたしはいつだって、そう名乗っています。」

不毛な会話を切り下げて、ギムリウスは、リウに向き直った。

リウの仏頂面は、治らない。
「あれは、なかなか面白そうな個体だった。
仮面騎士王、とか名乗っていたな。
人間に別の生き物の魔力を流し、融合させら強化した個体だ。」

ああ、そっちか。
と、ギムリウスは合点した。とにかく、戦闘狂のケがあるリウは、面白そうな相手をみると1戦交えてみずには、気が済まないのだ。

しかし、ボロボロになった迷宮からしても、リウもまた、充分戦えたのではないか。

「あれは、面白い。」とギムリウスは言った。「あそこまで、強化、改造されてなお、ヒトとしての理性を保っています。」
「殺したのか?」
「ダムの崩落に巻き込まれて、生死は不明です。」

なら、生きてるなっ!
と、リウは朗らかに笑った。

おそらくは、と、ギムリウスは答えた。

「ならばさらに、腕を磨いて我が前に立つこともあるだろう。いまはそれでよしとしよう。」

口調は威厳あるものの、言ってることは、そこいらの武芸者のものだ。

「こちらはどうだったんです?」

神獣は魔王に尋ねた。

「こいつは、なかなかだぞ。とんでもない奴を召喚した。」
「古竜か、大精霊でも呼びましたか?」
「そうそう、古竜だ、古竜。我らの仲間『神竜皇妃』リアモンドだ。」

それはまた。
サイノスとやらが、力のある魔導師なのかは理解していた。あの仮面騎士王だって、大した強さを持っていた。
だが、リアモンドが、召喚に応じたとしてもはたして、サイノスの要求通りに、リウと戦うだろうか。

・・・

いや、戦うな。フィオリナに、ちょっかいを出して以来、リウの評価は、階層主のあいだだは、だだ下がりなのだ。
とくに、アモンは一発ぶん殴ってと言っていたから、案外喜んで戦うかもしれない。、

「なかなか、愉しんだぞ。」

「あなたが、勝ったんですか?」

「中断だ。この阿呆が戦いの最中に、余波だけでぶっ倒れてしまってな。」

この阿呆、「血の聖者」サイノスは、身体をちぢ込めた。

「召喚者が倒れてしまったので、リアモンドは戻された。迷宮の判定は、オレの勝利だ。」
「なら、次の場所への転移は? 」

リウは腕輪を指し示した。
「転移阻害の腕輪だ。自分の転移を封じるつもりだったが、迷宮内の強制転移にも有効でな。」

ギムリウスは。腕輪を見つめた。
「なるほど。それで、転移のときは、わたしを使おうと思ったのですね?」
「そのとおり。目的地は、もともと迷宮が転移させるはずだった、最深部。
できるな?」
「できます。」

神獣は高らかにそうこたえた。

「方法は?」
「単純に腕輪の封印を超える力で転移すれば、いい。それだけです。」
「それだと、腕輪は壊れるな。」
「そうですね。」

リウは、彼なりに反省し、自分への戒めとして転移封じの腕輪を身に着けた。
たった半年でそれをなしにするのも、気がとがめたのだ。
素直で単純なギムリウスは「ああ、ちょっともったいないな。」とだけ思った。

「それなら、ここに別の空間を設置します。その空間ごと転移すれば、腕輪の『転移封じ』の効果とは矛盾いたしません。」
「なら、それで頼む。ドロシーがドゥルノ・アゴンと二人きりなので、心配なんだ。」
「なぜ、いまさら?」

リウは、くすりと笑った。この人間が大好きな神獣でさえ、ドロシーを理解していないのだ。

「二人きりで、邪魔がはいる恐れが無ければ、ドロシーはドゥルノ・アゴンを倒しにかかる。」

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